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ホーム全日病ニュース(2023年)第1044回/2023年11月15日号相澤病院、恵寿総合病院、にいむら病院の経営戦略・戦術

相澤病院、恵寿総合病院、にいむら病院の経営戦略・戦術

続報・全日本病院学会 in 広島
相澤病院、恵寿総合病院、にいむら病院の経営戦略・戦術

【学会企画5】ヤングフォーラム・リターンズ!!


相澤氏


神野氏


新村氏

 学会企画5の「ヤングフォーラム・リターンズ!!」(雑誌『病院』×全日病学会コラボレーション企画)では、3人の若手経営者から、厳しい時代に持続可能な病院の戦略が語られた。

ビジョン推進達成制度を開始
 慈泉会相澤病院(長野県松本市)の相澤克之副院長は、相澤病院における従来の目標管理制度を強化したビジョン推進達成制度について説明した。相澤副院長は、「ビジョン推進達成制度は2022年に開始した制度で、成果が明確に見えるところまでには至っていない」としつつ、「医療を取り巻く危機的な状況を乗り越え、地域貢献・社会貢献という当院のミッションを遂行するため、未来のビジョンを重視した経営を継続していく」と強調した。
 従来の目標管理制度でも、「経営的な観点での目標」と「医療の品質の観点での目標」を設定し、各年度で管理していた。しかし、それがうまくいかなくなってきた。大きな理由は、「スーパーマンのような経営者(父の相澤孝夫氏(日本病院会会長))の不在」が増えたこと。「理事長が病院にいないので、相談の機会が少なくなり、病院のビジョンをスタッフに浸透させる管理職へのコーチングの不足が顕在化した」。
 従来の組織はいわば「文鎮型」だった。文鎮型とはピラミッド型ではないフラット型の組織で、組織を階層化せず、理事長が各部門・部署長と直接向き合う。理事長の意思決定が直接現場に伝わり、スピードも速いが、理事長がすべてを把握し、指示を出さなければならない。理事長の不在が多くなると、事業体ビジョンと部門・部署ビジョンの不整合が多くなり、ビジョンの形骸化が生じてきたという。
 こうして、ビジョンの明文化や目標管理制度の強化が必要になった。それがビジョン推進達成制度で、部門・部署長が中長期的なビジョンを認識。その実現に向け、具体的な目標とその指標を設定し、PDCA サイクルを回していく体制を目指した。そこでは、自ら考え、行動する中間層を育成するためのコーチングが重要であるとしている。相澤病院の新たな挑戦が、相澤副院長を中核とし、進行している。

医療DXで組織・仕組み改革
 董仙会恵寿総合病院(石川県七尾市)の神野正隆理事長補佐は、恵寿総合病院における医療DX を説明した。
 神野理事長補佐は、「当院は常に変化する病院を目指す。デジタル化でビジネスモデルを変革し、働き方を変える。組織・仕組み改革により、方向づけを明確にし、さまざまな課題に対応する戦略をとる」と述べ、デジタル化と組織・仕組み改革の掛け算が「DX」であるとした。医療DX により、組織・仕組み改革が実現すれば、職員満足度・患者満足度が向上し、健康経営・健全経営のモデルとなり、地域に求められる病院として持続可能性が高まる。
 医療DXの具体的な要素としては、◇データ経営◇クリニカルパス◇入院退院管理センター◇データセンター◇電子カルテのモバイル化&多職種協働セルフケア方式◇キャリアデザインプロジェクト─がある。これらを運用するため、「データ分析チーム」を編成した。神野理事長補佐は、「従来の各部署からのヒアリングは、定性的な議論が多く、定量的な議論が少なかった。現在は、先入観や思い込みを排除したファクトフルネスを重視し、データを基に分析・評価し、改善を図る」と説明した。
 例えば、クリニカルパスは、最良のアウトカムを最短の日数、最小の医療資源で出し、診療報酬の加算を漏らさない「クリティカルなパス」とし、2022年度の適用率は94.25%に達した。入院退院管理センターでは、全入院患者をリアルタイムモニターで見える化しており、ベッドコントロールの権限を一元化した。データセンターには、各部署に散在していたデータを集約。分析の上、フィードバックを図っている。
 神野理事長補佐は、医療DXによる経営の効率化が、本来大切な「人への投資」を可能にすると強調している。

専門病院のsurvival戦術
 真栄会にいむら病院(鹿児島県鹿児島市)は泌尿器科専門病院だ。新村友季子理事長は、「泌尿器科専門病院survival戦術」と題して、講演した。
 2023年現在で、泌尿器科専門病院は全国で28病院にとどまる。病床数は20~ 145床で、比較的小規模な病院が多い。にいむら病院も59床で多くはない。だが、そこで提供しているのは、最先端のロボット手術や生検システムを導入し、ネットワークによる高い診断力を誇る、「泌尿器科最強戦略」に基づいた高度で専門的な医療だ。
 手術支援ロボット「ダビンチ」は、保険収載前の2013年に導入しており、県内初であった。2023年9月までのロボット手術全症例数は1,672件。保険適用となっていない術式も含む。ロボット手術のメリットとして、新村理事長は、◇ラーニングカーブ(技術取得のための時間)が短い◇技術の均てん化が行いやすい◇患者の個体差の影響を受けにくい─をあげた。
 2017年には国内最速で、MRI‐超音波画像融合前立腺針生検システム(ウロナビ)を導入した。MRIと超音波画像を融合することによる優越性があるという。2023年10月現在で導入している医療機関は国内で11施設。にいむら病院の先進性が窺える。診断では外部の優れた病理診断医などの協力も得て、癌の診断力を向上させた。自由診療も活用し、尿漏れ治療で保険未適用の「インティマレーザー」も活用している。
 また、新村理事長は、女性の活用を含め「多様かつ柔軟な職場が成長を可能にする」と強調。ハーバード公衆衛生大学院の研究チームによる「女性内科医が担当した入院患者は、男性内科医に比べ、死亡率や再入院率が低い」との調査結果も紹介された。

 

全日病ニュース2023年11月15日号 HTML版

 

 

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  • [3] 2018.11.1 No.928

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2018/181101.pdf

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