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ホーム全日病ニュース(2024年)第1048回/2024年2月1日号医療・介護・福祉のプラス改定を行いつつ社会保障費抑制

医療・介護・福祉のプラス改定を行いつつ社会保障費抑制

医療・介護・福祉のプラス改定を行いつつ社会保障費抑制

【政府】2024年度予算案を閣議決定

 政府は昨年12月22日に2024年度予算案を閣議決定した。厚生労働省の一般会計は33兆8,191億円で過去最高を更新した。大部分を占める社会保障関係費は33兆5,046億円で6,734億円(2.1%)の増加となっている。これは年金・医療・介護・雇用・福祉等の経費であり、義務的経費以外の裁量的経費も含まれる。年金スライド分を除いた高齢化による社会保障関係費の伸びは3,700億円程度。薬価引下げや前期高齢者の納付金の報酬調整で国費の縮減を図る一方で、診療報酬・介護報酬・障害福祉等サービス報酬をプラス改定とするなど必要な対応も行い、結果として、高齢化による自然増を1,400億円程度圧縮する形となった。

薬価改定などで1,400億円圧縮
 12月20日に行われた武見敬三厚労大臣と鈴木俊一財務大臣の大臣折衝により、同時改定の改定率など予算関連の主要事項が決定した。政府全体の社会保障関係費を前年度(36.9兆円)からプラス8,500億円程度の37.7兆円に収めることで、社会保障関係費の伸びを高齢化による増加分の範囲内にするという夏の段階で決定した政府の当初の方針を達成した。
 いわゆる自然増は8,700億円であったが、制度改革・効率化により1,400億円を圧縮。年金スライド分(3,500億円)を除くと、実質的な増加分は3,700億円程度となる。これに消費税財源を活用した「社会保障の充実等」が1,200億円加わり、政府全体の社会保障関係費の増加は、年金スライド分を含め、8,500億円程度となる。なお、高齢化による増加分には、65歳未満の人口の減少に伴う社会保障関係費の700億円の減少(医療が200億円減、保育給付等が500億円減)は含めない取扱いとなっている。
 1,400億円を圧縮した制度改革・効率化の内訳をみると、◇薬価等改定・薬価制度改革(1,300億円減)◇前期高齢者の納付金の報酬調整(1,300億円減)◇被用者保険の適用拡大(100億円減)が費用減の効果である。費用増の項目には、◇診療報酬改定(600億円増)◇介護報酬改定(200億円増)◇障害福祉サービス等報酬改定(200億円増)◇健康保険組合支援(200億円増)がある。
 医療・介護・福祉の報酬改定は「社会保障の充実等」の財源も活用している。それを含めると、診療報酬改定の財源は800億円、介護報酬改定は400億円、健保組合支援は400億円である。「社会保障の充実」の他の施策では、費用減の項目もあり、具体的には、介護の低所得者保険料軽減(200億円減)や地域医療介護総合確保基金(100億円減)などがある。
 消費税財源を活用して医療提供体制の効率化と充実を行うことは、社会保障・税一体改革で決定された。消費税率1%分相当を活用することになっており、2024年度は公費2兆7,987億円が措置されている。

プラス改定の財源で処遇改善図る
 2024年度は6年に1度の医療・介護・福祉の同時報酬改定のタイミングであり、予算編成過程において、厳しい折衝が政府・与党内で行われた。
 特に、今回は物価高騰・賃金上昇への対応が焦点となった。日本経済は長きにわたり、物価・賃金が伸び悩むデフレーションの状況が続いた。しかし、最近になってそれが一変。通常の改定とは異なる対応が必要になった。全日病も日本医師会など他団体と一致団結して、物価の高騰や賃金改善に十分な対応ができない医療機関経営の窮状を訴えた。
 一方、財務省などは新型コロナの診療報酬特例や補助金などが内部留保となり、医療機関などの経営は比較的安定していると指摘。特に診療所の経営状態が良好であるとし、全体の配分見直しで対応することを主張した。
 このような状況のなかで、薬価改定を除き6月実施となる2024年度診療報酬改定の改定率は、本体プラス0.88%(国費800億円)となった。
 武見厚労相は大臣折衝後の記者会見で、「大変厳しい交渉であったが、医療・介護・福祉分野の賃上げを行うための水準が確保できたと思う。この改定率を前提に、処遇改善につながる仕組みの構築に向けて、関係審議会で具体的な議論を深めてもらいたい」と語った。武見大臣が目指した水準との比較では、「賃上げが経済の好循環をもたらすドライビングフォースであるとの考え方があり、それを踏まえ、できるだけ財源を取ろうと頑張った。目標はもう少し高い数字だったが、最終的に、財政当局などとの調整でこのような形となった。結果としては満足している」との感想を述べている。
 本体改定率のプラス0.88%は①看護職員、リハビリ専門職等の医療機関関係職種の賃上げ(プラス0.61%)②入院時の食費の見直し(プラス0.06%)③効率化・適正化(マイナス0.25%)④その他本体改定率(プラス0.46%)で構成される(下図表参照)。
 「看護職員、リハビリ専門職等の医療機関関係職種の賃上げ」については、プラス0.61%で実施する特例的な対応により、2024年度にベアでプラス2.5%、2025年度にベアでプラス2.0%の賃上げの実現を図る対応である。診療報酬による対応で対象職種への確実な賃上げに結びつけるための技術的な課題が残っており、12月21日から、中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会で議論が始まった。
 プラス0.06%で実施するのは入院時の食費基準額の引上げだ。30年近く、入院時食事療養費の金額は同額の水準に据え置かれており、病院からは給食費の赤字が常態化する現状に悲鳴が上がっている。今回の引上げは、原則1食あたり患者負担の30円引上げが原則だが、所得区分に応じて10~ 20円の引上げとなる。
 「効率化・適正化」としてのマイナス0.25%は「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等」を手段とする。これは財務省などが診療所の経営が良好であると主張していることが背景にあり、中医協においては、生活習慣病管理料や特定疾患療養管理料、外来管理加算などの適正化の是非が、長期処方のあり方を含め、議論されている。
 その他本体改定率(プラス0.46%)の各科改定率をみると、医科がプラス0.52%、歯科がプラス0.57%、調剤がプラス0.16%である。これらに「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」のプラス0.28%程度が含まれるとしている。
 診療報酬に関する制度改革事項にも言及している。具体的には、◇医療DXの推進による医療情報の有効活用等◇調剤基本料等の適正化─に加え、「2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップへと確実につながるよう、配分方法の工夫を行う。あわせて、今回の改定による医療従事者の賃上げの状況、食費を含む物価の動向、経済状況等について、実態を把握する」ことを求めた。
 医療機関の経営状況を「見える化」するための制度的な整備も進んでいる。具体的には、医療法人の経営情報に関するデータベースについて、医療法人の会計年度が原則4月から翌年3月までとされており、2024年3月に決算を迎える医療法人からの報告状況などを踏まえ、さらなる「見える化」に向けた必要な対応の検討を行うことを求めている。
 また、薬価はマイナス0.97%(国費マイナス1,179億円)、材料価格はマイナス0.02%(マイナス23億円)で、合わせてマイナス1.00%(マイナス1,202億円)。政府はネット改定率という考え方は示していないが、本体改定率と差し引きすると、マイナス0.12%となる。
 薬価制度改革では、◇イノベーションのさらなる評価等として、革新的新薬の薬価維持、有用性系評価の充実等への対応◇急激な原材料費の高騰、後発医薬品等の安定的な供給確保への対応として、不採算品算定に係る特例的な対応(約2千品目を対象)を図る。また、長期収載品に選定療養の仕組みを導入する。
 選定療養の仕組みでは、「後発医薬品の上市後5年以上経過したものまたは後発医薬品の置換率が50%以上となったものを対象に、後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象」とし、2024年10月に施行する。2024年度の財政効果は180億円、2025年度は420億円が見込まれている。

介護報酬の改定率は1.59%
 2024年度介護報酬の改定率はプラス1.59%(国費432億円)となった。介護報酬改定についても、介護職員の処遇改善分の改定率を区分している。1.59%のうち、0.98%を2024年6月施行の介護職員の処遇改善分とした。その上で、賃上げ税制を活用しつつ、介護職員以外の処遇改善を実現できる水準として0.61%を措置する。
 このほか、改定率の外枠として、処遇改善加算の一本化による賃上げ効果や、光熱水費の基準費用額の増額による介護施設との増収効果が見込まれ、これらを加えると0.45%相当の改定になるとしている。既存の加算の一本化による新たな処遇改善加算の創設に当たっては、今回の処遇改善分を活用し、介護現場で働く方々にとって、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップへと確実につながる配分方法の工夫を行う。
 2024年度障害福祉サービス等報酬の改定率はプラス1.12%(国費162億円)となった。介護並びの処遇改善を行うとともに、経営実態を踏まえたサービスの質などに応じたメリハリのある報酬改定を行う。なお、改定率の外枠で処遇改善加算の一本化の効果等があり、それを合わせれば改定率は1.5%を上回る水準になるとしている。

介護保険の2割負担の対象者が課題
 大臣折衝事項では、全世代型社会保障の実現に向けた対応でも合意がなされた。
 医療制度改革については、今回、長期収載品に選定療養の仕組みが導入されたが、引き続き、薬剤自己負担の見直し項目である「薬剤定額一部負担」、「薬剤の種類に応じた自己負担の設定」、「市販品類似の医薬品の保険給付のあり方の見直し」の検討を行うことが求められた。
 概ねすべての地方自治体で実施されているこども医療費助成については、2024年度から、国民健康保険の国庫負担の減額調整措置を廃止する。
 介護保険制度改革については、保険料や利用者負担の見直しについて、言及している。
 65歳以上の第1号被保険者については、被保険者間の所得再分配機能を強化するため、国の定める標準段階の多段階化、高所得者の標準乗率の引上げ、低所得者の標準乗率の引下げを行うとしている。その際、制度内での所得再分配機能が強まることにより、低所得者の負担軽減に活用されている公費の一部(200億円)を社会保障の充実として、現場の従事者の処遇改善のために活用することにした。
 利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直しは、見直し案の決定が先送りされており、「引き続き早急に」、「改めて総合的かつ多角的に検討を行う」課題に位置付けられた。2027年度からの第10期介護保険事業計画期間の開始までに結論を得るとした。その際には所得状況だけでなく、金融資産の保有状況の反映のあり方なども検討する。
 介護老人保健施設と介護医療院の多床室の室料負担の見直しについては、一部の施設に対し、新たに室料負担(月額8千円相当)を導入する(2025年8月)。老健施設では「その他型」「療養型」、介護医療院では「Ⅱ型」が対象となる。

「こども未来戦略」に伴う歳出改革
 今後の社会保障関係費にとって、影響が大きいと考えられるのが、「こども未来戦略」への対応である。加速化プランにより3.6兆円という規模の予算を確保しつつ、国民の実質的な負担を増やさないようにするため、「こども未来戦略」では、2028年度までに徹底した歳出改革等を行う方針が示されている。
 その際、「歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築する」。そのため、毎年度の予算編成・制度改正による社会保険負担の増減効果を算定することになった。政府が総力をあげて取り組む物価上昇を上回る賃上げにより、雇用者報酬の増加率が上昇すれば、そこから生まれる社会保険料は追加的な社会保険負担額にはならないという理屈だ。
 2023・2024年度においては、①報酬改定のうち、医療介護の現場従事者の賃上げに確実に充当される加算措置であって、政府経済見通し等に照らして合理的に見込まれる一人当たり雇用者の報酬の増加率の範囲内で措置されるものによって生じる追加的な社会保険負担②前期財政調整における報酬調整(3分の1)の導入と介護の第1号保険料の見直しの結果として生じる追加的な社会保険負担─は社会保険負担額から控除する。
 その結果、2023・2024年度の「実質的な社会保険負担軽減効果」は0.33兆円程度(2023年度が0.15兆円、2024年度が0.17兆円)と見込んだ。

医療は12兆3,532億円で1%増
 次に厚労省予算案をみていく。2024年度の社会保障関係費は33兆5,046億円で対前年度比6,734億円増である。これにこども家庭庁などの所管分を含めると8,506億円増となる。内訳は、年金が13兆3,237億円で最も多く、対前年度比で3,160億円増(2.4%増)。次いで医療が12兆3,532億円で同1,175億円増(1.0%増)、福祉等が3兆9,484億円で同1,104億円増(2.9%増)、介護が3兆7,288億円で同329億円増(0.9%増)、雇用が1,505億円で同967億円増(179.4%増)となっている。医療・介護の費用の伸びはプラス改定があっても低く抑えられている。
 医療を制度別にみると、全国健康保険協会(協会けんぽ)が1兆1,403億円で対前年度比1,285億円減、国民健康保険が3兆978億円で188億円減、後期高齢者医療が5兆9,217億円で2,423億円増、生活保護の医療扶助など公費負担医療が1兆8,520億円で66億円増となっている。

厚労省予算案の重点事項は3本柱
 2024年度厚労省予算案の重点事項は、「Ⅰ・今後の人口動態・経済社会の変化を見据えた保健・医療・介護の構築」、「Ⅱ・構造的人手不足に対応した労働市場改革の推進と多様な人材の活躍促進」、「Ⅲ・包摂社会の実現」の3本の柱からなる。
 医療・介護関連は主に「Ⅰ」の中にある。項目として第一に掲げられたのは、「医薬品・医療機器等の実用化促進、安定供給、安全・信頼性の確保」で、対前年度比4億円増の19億円となっている。後発医薬品の信頼確保のための体制・取組みの強化やプログラム医療機器の早期実用化の促進がある。医薬品等のイノベーションの基盤構築の推進も617億円で同24億円の予算増である。
 医療・介護のイノベーションに向けたDXの推進は、同14億円減の30億円だが、医療情報の活用促進のための情報の標準化の推進や科学的介護推進のためのデータベースの機能拡充などに取り組む。
 地域医療・介護の基盤強化の推進等は、主に地域医療介護総合確保基金により、地域医療構想の推進や医師偏在対策を図る。医療情報化支援金の減額などで、同16億円減の884億円となっている。地域包括ケアシステムの構築は511億円から372億円への大幅減。地域医療介護総合確保基金の介護分が減少した。
 救急・災害医療体制等の充実は103億円から110億円への増加。災害医療における情報収集機能等の強化やDMAT・DPAT体制の整備・強化、ドクターヘリ・ドクターカーの活用による救急医療体制の強化などがある。
 認知症施策の総合的な推進は128億円から134億円への増額。認知症疾患医療センターにおけるアルツハイマー病の新規治療薬の適正な使用体制の整備の推進を含め、共生社会の実現の観点から総合的な対応を図る。
 次なる感染症に備えた体制強化は26億円から77億円の大幅増となっており、保健所や衛生研究所等の体制整備や臨床研究ネットワーク体制を構築するとしている。

 

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  • [1] 2023.6.15 No.1034

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2023/230615.pdf

    2023/06/15 ... しかし医療機関は、それら. を価格に転嫁することができないため、. 「物価高騰と賃上げへの対応には十分 ... 養病床の地域差縮減が行われることな. ど ...

  • [2] 2022.11.1 No.1020

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2022/221101.pdf

    2022/11/01 ... 対象に、賃上げ効果が継続される取組. を行うことを前提として、収入を1 ... 差縮減の是非をめぐり賛否があった。 医療計画の医療圏は二次医療圏だが ...

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