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ホーム全日病ニュース(2024年)第1048回/2024年2月1日号医療機関等の職員の賃上げ対応の方法を概ね了承

医療機関等の職員の賃上げ対応の方法を概ね了承

医療機関等の職員の賃上げ対応の方法を概ね了承

【中医協総会】病院には150通り程度の入院基本料等の上乗せ点数を設定

 中医協総会(小塩隆士会長)は1月10日、2024年度診療報酬改定の重要課題に位置付けられている医療機関等における職員の賃上げの方法を議論した。改定率の0.61%分に相当する対応として、看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の賃金を2.3%引き上げるための方法を概ね了承した。一方、改定率の0.28%分に相当する対応である「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」の方法では、診療側と支払側で意見が分かれている。

加算措置対応は2.3%分を想定
 2023年春季生活闘争の結果によると、全産業の平均賃上げ額は、1万560円、賃上げ率は3.58%だった。一方、医療・介護分野の賃上げは、公定価格の下、半分程度の水準(1%)にとどまる。高齢化などによる需要増加にもかかわらず、医療介護分野の人材確保の状況は悪化しており、有効求人倍率は全職種平均の2~3倍程度の水準で高止まりしている。労働力の流動性が高まりつつある中で、特に介護において、流出増が生じている。
 2024年度には医師の働き方改革も施行され、その影響がさまざまな分野に及ぶことも懸念されている。そうしたことを背景に、社会保障審議会の医療保険部会・医療部会がまとめた基本方針では、「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」が重要課題に位置づけられた。
 これを受け、昨年12月20日の武見敬三厚労大臣と鈴木俊一財務大臣による大臣折衝で決まった診療報酬改定率では、本体改定率0.88%のうち、賃上げ対応分を改定率で明確に示すとともに、多くの部分を医療関係職種の賃上げに使うことになった。
 1月19日には、岸田文雄首相が、全日病を含む医療・介護・障害福祉関係団体を首相官邸に招き、報酬改定と賃上げ促進税制の活用により、「物価に負けない賃上げの実現、それも現場の幅広い職種に賃上げを行き渡らせていくことをお願いしたい」と要請した。
 今回の賃上げ対応は、2024年度にベアでプラス2.5%、2025年度にベアでプラス2.0%を実現することが目標となる。そのために、医療機関等の過去の実績をベースにしつつ、報酬改定による上乗せ点数(加算措置)と賃上げ税制の活用を組み合わせる。
 目標を達成するためには、過去の実績を0.6%、賃上げ税制の効果を0.6%と見込むと、2.3%に相当する原資が必要となる。厚生労働省は、加算措置対応はベアで2.3%分であると説明した。
 なお、賃上げ税制とは、大企業・中堅企業の場合、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大35%、中小企業の場合、雇用者の給与等支給額の増加額の最大45%を税額控除できる制度で、2024年度税制改正で措置される。

報酬改定0.61%分に対応する方法
 改定率で0.61%分の賃上げの方法については、入院・外来医療等の調査・評価分科会で昨年12月21日から2回の議論を行った結果が、10日の総会に報告された。2023年10月に新設された看護職員処遇改善評価料における配分方法も参考にシンプルかつ精緻という、相反する目的を同時に満たすバランスの取れた対応が求められた。厚労省が、さまざまなシミュレーションを行い、各医療機関における過不足のばらつきをみた。
 支払側・診療側の両者が概ね賛成した方法は次のとおりである。
 賃上げ必要点数を割り出すシミュレーションでは、診療報酬項目への上乗せ点数を①初再診料等②訪問診療料③入院基本料等の順に設定。対象医療機関において、個々に「賃上げに必要な金額」を(「対象となる診療報酬の算定回数」×10円)で割ることで算出した点数の中央値を賃上げ必要点数として、過不足のばらつきを示した。
 無床診療所や歯科診療所の場合、初再診料等で必要点数を設定し、訪問診療料を算定する診療所はそれでは足りないので、訪問診療料に必要点数を上乗せした。病院については、さらに入院基本料等に必要点数を上乗せした。入院基本料等への上乗せでは、必要点数を5区分にした場合と150区分にした場合が示された。
 シミュレーションの結果をみると、無床診療所でばらつきが比較的大きく、必要点数が不足する診療所と過剰になる診療所が、両極端で一定程度生じた。人工透析や内視鏡検査専門のクリニックなど相対的に初再診料以外の診療報酬収入が多い診療所で不足し、整形外科や耳鼻咽喉科など初再診料が多い診療所で職員数が0〜1人の診療所は過剰になる傾向があった。一方、病院では、150区分にすると、ばらつきがかなり小さくできることが確認できた。
 これらの結果を踏まえ、病院への対応については、5区分の場合と150区分の場合で医療機関の事務負担は変わらないとの厚労省の説明を受け、きめ細かな対応を行うという考えで中医協委員の意見は一致した。
 診療所への対応については、日本医師会常任理事の長島公之委員が、「外来の初再診料等は患者負担に直接影響することもあり、シンプルな設計がより望ましく、一律の評価がわかりやすい。ただ、不足する診療所に対する対応が別途必要になる」と述べた。健康保険組合連合会理事の松本真人委員も「過剰になる医療機関への対応も必要」とした上で、一律の評価に賛成した。
 1月17日の入院・外来医療等の調査・評価分科会で、診療所への対応が議論された。賃金増率が目標の2.3%の半分程度である1.2%に達しない医療機関に対し、選択可能な複数の追加の上乗せ点数を初再診料等に設定する方向で、シミュレーションが行われた。
 シミュレーションにおける選択可能な初診料と再診料の組み合わせは、以下のとおり8通りとなっている。差は8対1で、「8点・1点」「16点・2点」「24点・3点」「32点・4点」「40点・5点」「48点・6点」「56点・7点」「64点・8点」である。
 これについて、全日病常任理事の津留英智委員は、「2.0%まで対応するための追加の上乗せ点数を検討してもよいのではないか」と述べた。厚労省は、1.2%に達しない医療機関を対象とした理由について、各医療機関の患者数や賃上げ対象者の変動が大きいことをあげているが、総会での議論になる。
 また、追加の上乗せ点数を「選択可能」とするのは、初再診料が高いと患者負担が増えるため、それを嫌がる診療所が出ることを想定している。

報酬改定0.28%分に対応する方法
 改定率で0.28%分の対応の対象者は、「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」となっている。
 しかし、40歳未満の勤務医師・歯科医師、事務職員、勤務薬剤師などの勤務形態、勤務状況は多様で、基本診療料等への上乗せで過不足なく必要点数を配分することが、より難しいことがわかった。また、40歳未満の勤務医師は、特定機能病院や急性期一般入院料1の病院に多いなど、勤務先に偏りがあることも示された。
 長島委員は、「特に40歳未満の勤務医の働き方は多様で、医療機関によっては賃上げモデルが成り立たず、賃上げ目標を達成できない場合が生じる。
 基本診療料を引き上げることが唯一の方法であると考える」と主張した。これに対し、松本委員は、「基本診療料に溶け込ませることは、過去の控除対象外消費税の対応を振り返ってもよくない。基本診療料で対応するとしても加算とし、きちんと基準を設けるべきだ」と反論した。
 賃上げ対応の届出と報告については、看護職員処遇改善評価料を参考に、実施計画書と実績報告書の提出内容が議論された。診療側は、0.28%分の対応においては、できるだけ簡易な報告とすることを求めている。

 

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  • [3] 2023.12.15 No.1046

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2023/231215.pdf

    2023/12/15 ... 中医協総会(小塩隆士会長)は12月. 6日、2024年度診療報酬改定に向けて、. 救急医療や高度急性期医療をテーマに. 議論を行った。救急医療については ...

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