全日病ニュース

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看護師の特定行為実施の枠組みで報告書

▲永井良三座長(自治医科大学学長=写真中)は異例のかたちをとった報告書をとりまとめた。

看護師の特定行為実施の枠組みで報告書

【チーム医療推進会議】
反対意見を併記、「概ね妥当」とまとめる。法改正後に引き続き具体案を検討

 厚生労働省のチーム医療推進会議は3月29日の会合で、医師の包括的指示の下、条件を満たした看護師が一定の裁量をもって医療行為を行なえる仕組みを創設する「特定行為に係る看護師の研修制度案」を報告にまとめた。
 ①本文、②研修制度の骨子案、③研修制度設計上の考え方からなる報告は、新たな枠組みを「診療の補助のうち、実践的な理解力、思考力及び判断力を要し、かつ高度な専 門知識及び技能をもって行う必要のある行為(特定行為)について、保助看法において明 確化する」と定義。
 特定行為の実施条件を法的に整えるかたちで、(1)診療補助行為のうち特定行為を明確化し、(2)その実施条件と実施環境を明確にすることによって、事実上、専門・認定看 護師に代わる看護師の新たなキャリアアップ資格を創設した。
 3年近い議論であったが、回は保助看法に制度の枠組みを書き込むレベルの合意にとどめ、反対意見を併記した上で「概ね妥当」と報告をまとめた。制度の詳細内容は、法改正後、施行までに引き続き審議され、具体化される。
 当初俎上に上げられた看護師に新たな国家資格を付与する案は撤回され、研修に国が関与するものの、医療機関と看護師が医療現場のニーズに応じて自律対応できる仕組みとしてソフトランディングする方向が選択された。
 同報告は社保審医療部会に提出されるが、「報告であって承認事項ではない(」厚労省医政局医事課)ことから、今国会へ保助看法改正法案を提出することが確定した。

(報告の概要は こちら

 

 チーム医療推進会議報告書に示されている制度は、概要以下のとおりだ。
①特定行為は限定列挙とし、省令等で 定める。
②特定行為の追加・改廃は常設の審議 の場で決定する。
③医師の指示の下、プロトコールにもとづいて特定行為を実施する看護師に は、厚生労働大臣が指定する研修機関 で、厚生労働省で定める基準に適合する研修(指定研修)の受講を義務づける。
④特定行為に応じた研修の枠組みは、指定研修機関の指定基準として省令等 で定める(指定基準の内容および研修機 関の指定は審議会で検討した上で決定する)。
⑤プロトコールの内容は省令で定める。
⑥指定研修の受講が義務づけられない、特定行為を行なう看護師には、特定行為の実施に係る研修を受ける努力義務を課す。
⑦制度施行後は、既存の看護師であっても、プロトコールにもとづいて特定行為を行なう場合は指定研修を受けなければならない。そのため、一定期間内に研修を受けなければならない等の経過措置を設ける。
⑧特定行為が追加され、その内容が研修内容の変更に及ぶ場合は、追加の研修義務が生じる。
⑨厚生労働大臣は、指定研修を修了した看護師からの申請により、当該研修を修了した旨を看護師籍に登録するとともに、登録証を交付する。(看護師籍への登録は、あくまで研修を修了したことを確認するためのものであって、国家資格を新たに創設するものではない)かくて、特定行為の創設→その裁量的な実施にかかる看護師の研修等要件→指定研修の仕組み→研修修了後の看 護師籍への登録という枠組みを保助看法等で定めることが確定した。
 ただし、同報告には制度の詳しい内 容は記されてない。したがって、特定 行為のリスト、カリキュラムや単位など指定研修の内容、指定研修実施機関の基準などは引き続きの検討となるが、具体的には「保助看法改正法成立後の作業になる」。
 その検討は、法改正を受けて設置さ れる、医師、看護師等の専門家からなる審議会の手で行なわれることになる。
 とりまとめはチーム医療推進会議の全会一致とはならなかった。そのため、報告は、本文に「特定行為に係る看護師の研修制度案は概ね妥当との意見であった」と明記。反対を表わした複数委員の所属団体名と意見内容を書き込んだ上で、とくに日本医師会の意見を末尾に添付するという、異例のかたちをとった。
 こうした反対意見に配慮した結果、 報告には「特定行為に係る看護師の研 修制度の創設に当たって」と題した文 書が挟み込まれ、特定行為実施にかかわる研修制度を理解する上で留意すべき事項が整理されている。
 その中で、「指定研修を修了した看護師が、他の看護師や他の医療関係職種 に対して診療の補助に関する指示を行うことは不適切である」と記し、今回の制度化議論で、看護師以外の医療関係職種から示された懸念を払拭してみせた。

 

神野副会長(チーム医療推進のための看護業務検討WG委員)の談話

 米国にはチーム医療の役割分担を担う職能としてNP(Nurse Practitioner)やPA(Physician Assistant)がある。いずれも一般看護師とは異なる資格として確立され、いわゆる医行為の実施も一部で認められる。
 一方、わが国でもチーム医療の名の下で看護業務の拡大を目指したものの、あくまでも現行の看護師という職能の枠の中で議論することから丸3年にわたり、前に進まない議論が重ねられてきた。
 法的に、看護の業務は、①療養上の世話、②診療の補助に限定される。看護界の中でも患者に寄添う①が主であるという意見と、在宅医療、医師不足地の現場からは②を拡大せよという現実的意見が錯綜する。
 今回の報告書は、直近の議論の結果のみであり、私の参加するWGは1月から開催されていない。
 ①あくまでも医師の指示のみ、②特定行為はきわめて限定的、③特定行為を包括的指示下実施する場合のみ研修義務あり、④具体的指示下ならば研修義務はない、⑤研修の主体部分は勤務医療機関でも実施可能… このあたりが譲れぬ線となろう。

 

□チーム医療推進会議報告書(概要) 3月29日

◎特定行為に係る看護師の研修制度について

 本推進会議は、「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書(平成22年3月)を受け、平成22年5月から、看護師が医師又は歯科医師の包括的な指示の下、診療の補助を行う仕組みについて19回にわたり議論を重ねてきた。また、チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループは31回にわたり議論を重ねてきた。
 その過程で、個々の行為について絶対的医行為か診療の補助の範囲かについて委員の間でも意見の相違があることが明らかとなった。
 本推進会議の委員の大勢は、別添の「特定行為に係る看護師の研修制度(案)」について、概ね妥当との意見であった。
 日本医師会代表の委員からは、チーム医療の推進、医療安全の確保の観点から、多くの問題点があるとして、現行案に反対との意見があった。日本看護系大学協議会代表の委員からは、特定行為の内容、研修制度のあり方を十分に審議の上、制度化を判断すべきとの意見があった。
 厚生労働省においては、本報告書を踏まえ、特定行為に係る看護師の研修制度の実現に向けて、課題の更なる検討、調整を進められたい。
 また、本制度の施行までの間における具体的内容の検討に当たっては、研修を修了した看護師に対する医療現場のニーズも踏まえながら、特定行為の内容及びその領域、それに応じた研修の枠組み、実施方法等が審議会において十分に審議されるべきである。

 

別添/特定行為に係る看護師の研修制度(案)

○医師又は歯科医師の指示の下、診療の補助のうち、実践的な理解力、思考力及び判断力を要し、かつ高度な専門知識及び技能をもって行う必要のある行為(特定行為)を保助看法で明確化する。特定行為の具体的な内容は省令等で定める。
※特定行為は限定列挙とする。その追加・改廃は、医師、歯科医師、看護師等の専門家が参画する常設の審議の場で検討した上で決定する。
○医師又は歯科医師の指示の下、看護師が特定行為を実施する場合に、以下のような研修を受けることを制度化する。
・医師又は歯科医師の指示の下、プロトコール(省令で定める事項が定められているもの)に基づき、特定行為を行おうとする看護師は、厚生労働大臣が指定する研修機関において、省令で定める基準に適合する研修(指定研修)の受講を義務づける。
・指定研修受講が義務づけられない、特定行為を行う看護師については、保助看法上の資質の向上に係る努力義務として、特定行為の実施に係る研修を受けることを追加する。
※既存の看護師であっても、プロトコールに基づき特定行為を行おうとする場合は指定研修を受けなければならなくなることから、制度施行後、一定期間内に研修を受けなければならないといった経過措置を設ける。
※特定行為が追加された場合、かつ、当該内容が研修の教育内容も変更する必要がある場合には、当該内容に係る追加の研修義務が生じる。
○厚生労働大臣は、研修機関の指定を行う場合は審議会の意見を聴かなければならない。
※審議会は医師、歯科医師、看護師等の専門家により組織する。
○特定行為に応じた研修の枠組みは指定研修機関の指定基準として省令等で定める。
※指定基準の内容は審議会で検討した上で決定する。
○厚生労働大臣は、指定研修を修了した看護師からの申請により、当該研修を修了した旨を看護師籍に登録するとともに、登録証を交付する。
※看護師籍への登録は研修を修了したことを確認するためのものであり、国家資格を新たに創設するものではない。

 

別紙1/特定行為に係る看護師の研修制度の創設に当たって

 診療の補助のうち特定行為に係る研修制度の創設に当たっては、以下の考え方を基本として、その制度化が行われるべきである。
●本制度は、医師又は歯科医師の指示を受けずに医行為又は歯科医行為を行う看護師の創設に結びつけるものではない。
●本制度の指定研修を修了した看護師が、他の看護師や他の医療関係職種に診療補助に関する指示を行うことは不適切であり、指示を行うのはあくまで医師又は歯科医師である。
●本制度を導入した場合でも以下の点に変わりはない。
・看護師が絶対的医行為又は絶対的歯科医行為を行うことは違法であり、看護師が医師又は歯科医師の指示なく診療の補助(応急の手当等を除く)を行うことは違法である。
・看護師は、医師又は歯科医師の指示の下であれば、診療の補助の範囲内において医行為又は歯科医行為を行うことは可能である。
・患者の病態や看護師の能力を勘案し、①医師又は歯科医師が直接対応するか、②どのような指示により看護師に診療の補助を行わせるか、の判断は医師又は歯科医師が行う。