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ホーム全日病ニュース第810回/2013年10月15日号各県に医療勤務環境改善支援センター...

各県に医療勤務環境改善支援センター。医療団体に運営を委託

各県に医療勤務環境改善支援センター。医療団体に運営を委託

各県に医療勤務環境改善支援センター。
医療団体に運営を委託

【医療法等の改正】
地域医療支援病院等も「医療の確保に関する施策」への協力・努力義務の対象

 10月4日に開催された社会保障審議会医療部会は、「医師確保対策」「看護職員確保対策」と「医療機関の勤務環境改善」をテーマに議論した。
 事務局(厚労省医政局総務課)は、次の通常国会に提出する医療法等一部改正法案に盛り込む事項として、(1)都道府県における地域医療支援センター設置の義務化、(2)都道府県知事による医師派遣要請等の法令化、(3)都道府県の「医療の確保に関する施策」に対する協力義務・努力義務の対象の拡大、(4)看護師等資格所有者のナースセンターへの届出義務化、(5)勤務環境改善マネジメントシステムの創設、などを提起した。
 医療部会は全体として改正の方向性に同意したが、医療系の委員からは、各課題ごとに検討すべき課題の提起と効果ある施策に向けた提案が示された。

 

 この日の医療部会は、(1)医師確保対策、(2)看護職員確保対策、(3)医療機関の勤務環境改善の3点をテーマに取り上げ、梶尾雅宏指導課長が、各課題をめぐる現状と医療法による対応の考え方を説明した。
 「医師確保対策」に関しては、都道府県が医師確保対策に取り組む枠組みである地域医療対策協議会と地域医療支援センターのうち、法的根拠をもたない地域医療支援センターの位置づけと権限強化が検討の対象となった。
 地域医療対策協議会は2005年に設置が始まり、第5次医療法改正(07年4月施行)で各都道府県に設置が義務づけられている。協議会で決められた方針のうち、医師確保にかかわる措置は地域医療支援センターが業務を担当している。
 連絡調整機関にとどまる協議会に対して、地域医療支援センターは、国と都道府県の補助金を使って医師不足病院に医師を具体的に派遣する業務を行なっている。
 センターの設置は11年度に先行事業として取り組まれ、その後、15ヵ所(11年度予算)、20ヵ所(12年度)、30ヵ所(13年度)と政府補助による運営支援の対象が拡大されるとともに、その事業内容は13年度に始まった医療計画から記載事項となった。14年度予算では支援対象を42道府県に増やす方針で概算要求に盛り込まれた。
 支援センターには専任医師2名と専従事務職員3名が配置され、大学病院や県立病院などによる運営も認めるといった実務的体制を確保。これまでに、常勤・非常勤合わせて1,069人(常勤換算)の派遣実績をあげている。
 事務局の提案は、医療法において、①支援センターの機能を明確にし、②その機能を、都道府県以外の大学(病院)、病院等に委託することを認める、③都道府県知事は医師派遣要請等を行なうことができる旨を規定する、④医師派遣要請等に支援センターの受託機関が関与できるようにする、⑤都道府県が必要とする「医療の確保に関する施策」に対する協力義務・努力義務の対象を、特定機能病院、地域医療支援病院、大学等の医療従事者養成機関に拡大する(現在は公的病院に限定)、というもの。

未就業の看護師等にナースセンター届け出義務

 「看護職員確保対策」は、無料紹介を行なっているナースセンターの機能強化が主たるテーマとされた。
 「看護師等の人材確保の促進に関する法律」にもとづいて都道府県知事が指定するナースセンターは看護職の確保・定着に関する各種事業を行なっているが、その1つの無料職業紹介事業は、就業実績(12年度)が約1.2万人と、ハローワークの約5.1万人に比べて少ない。
 この機能を向上させることによって71万人いる潜在看護師の復職率を高めるということで事務局が提案したのが、看護師等資格所有者の「一部」についてナースセンターへの届出を義務化する、という措置。
 現在、看護職員の届出義務は就業者に限られている。それを非就業者に拡大するということだが、「一部」という意味について、事務局は「すべての資格所有者の登録を考えているわけではない。年齢、離職者あるいは新規取得者など、何らかの基準でターゲットを絞ることを検討したい」(中野医療労働企画官)と説明した。
 現在も、ハローワークに就業相談に来る看護師等の情報は、本人の同意を得てナースセンターに登録しているが、その数は少ないという。そこで、法的義務を課してはどうかというわけだ。
 医師や薬剤師等の届出義務とは異なり、復職率を高めるツールとして活用する考えであり、したがって、就業者に届出義務を課している保助看法ではなく、看護師等人材確保促進法に位置づける方針だ。

医療機関に勤務環境改善計画を要請。義務化はせず

 「医療機関の勤務環境改善」として提案されたのは、①勤務環境改善マネジメントシステムの導入を医療機関に求め、②その取り組みを支援する「医療勤務環境改善支援センター」を各都道府県に設置し、③医療機関の要請に応じて相談と専門家派遣等を行ない、さらに、④支援センターの運営を医師会、病院協会、看護協会等の医療関係団体に委託できるようにする、という内容。
 勤務環境改善マネジメントシステムは、国の指針にもとづいて、その内容と実施プロセスを計画にしてもらう。厚労省は今年度中にガイドラインを策定するとしている。
 マネジメントシステムはPDCA型サイクルとして設計され、その中の「目標・改善計画」では、労働時間の管理、労働安全衛生、働きやすさの環境整備を支えるソフト&ハードという3領域ごとに、具体的な対策と目標の明確化が求められる。
 厚労省は、勤務環境改善マネジメントシステムの導入や勤務環境改善計画の作成を義務化することは考えていないとしている。
 本紙の取材に、「あくまでも任意である。それを支援センターがコンサルティング等支援する。そのために計画をつくっていただくという仕組み」(中野医療労働企画官)であり、したがって届け出る性格のものでもないと説明した。

医療系委員は医師派遣めぐる公私格差を批判

 地域医療支援センターの医師派遣に関して、相澤委員(日病副会長)は「医師を斡旋するというが、それは公的病院対象の話。民間病院は斡旋されたことがない」と、公私格差の壁があることを指摘した。
 病院界では、民間業者が高額の斡旋手数料を得ている話がよく聞かれる。中川委員(日医副会長)がその実態調査を求めたところ、事務局は「調査を準備中である」と答えた。
 一方、荒井委員(奈良県知事)は、派遣に応じる医師と派遣を受け入れる病院のマッチング機能が必要と問題提起。
 その中で、「派遣を求める民間病院は“稼げる医者”を欲しがる」という認識を披露した。
 これに対して、西澤委員(全日病会長)は、「補助金もなく、赤字の補填もできない民間病院が良質な医療を継続して提供していくためには、黒字を確保しなければならない。そうした民間病院が必要としているのは“稼げる医者”ではない。住民・患者から信頼される“良い医者”である。認識を改めていただきたい」と苦言を呈した。
 その上で、「公的医療保険の下で医療を提供する病院は、民間病院であってもパブリックな存在だ。公私で別けるのではなく、地域に必要な医療機関すべてに同じ支援をしていただきたい」と、公私格差の解消を訴えた。

医師派遣の強制に懸念。キャリアアップ方式を望む声

 さらに、西澤委員は、「支援センターによる医師派遣は重要な機能だが、そこに強制があってはならない。大切なことは医師が行ってもいいと思えるような環境づくりである。併せて、支援センターは医師の意識改革にも取り組んでほしい」と注文した。
 白鳥委員(東京女子医大病院長)も、「今は派遣を強制しようとしても誰1人応じない。キャリアアップにつながる内容がないとうまくいかない」と提起した。
 こうした提案等を含め、部会は地域医療支援センターの機能強化策に大筋で賛成した。
 ナースセンターの機能強化について、西澤委員は、「ハローワーク並みの実績を確保するためには、現在の形態を変える必要がある。ナースセンターに病院、病院団体、医師会等の代表も参加したほうがよい」と提起した。
 ナースセンターの運営に対して、本紙の質問に、中野医療労働企画官は「現在、事業運営協議会がもたれている。そこに、医師会や病院団体が参画する方向で検討している」ことを明らかにした。
 西澤委員は勤務環境改善策についても発言。「勤務環境の改善は病院の経営が安定しないとできない。そのためには、人材供給と診療報酬の両面から対策を図る必要がある。つまり、勤務環境の改善は病院経営の改善ということである。この領域について、厚労省はかつて病院経営支援事業を行なっている。そのときの経験と実績を参考に、効果の出る取り組みを進めてほしい」と要請した。