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ホーム全日病ニュース第810回/2013年10月15日号プライマリ・ケア検討委員会の報告

プライマリ・ケア検討委員会の報告―「プライマリ・ケア宣言2013」と今後の活動
認知症研修会でユマニチュードを紹介。MSWの研修を検討

プライマリ・ケア検討委員会の報告―「プライマリ・ケア宣言2013」と今後の活動
認知症研修会でユマニチュードを紹介。MSWの研修を検討

「守るべき対象はすべての国民」。宣言の背景に、この思いと喫緊の課題に対する危機感が

常任理事 プライマリ・ケア検討委員会委員長 丸山 泉 

 

 全日本病院協会は8月7日に、その基本理念のもと、「プライマリ・ケア宣言2013」(別掲)を発表した。プライマリ・ケアという言葉はたぶんに一人歩きしている。日本プライマリ・ケア連合学会は明確にこう示している。
 「人々が健康な生活を営むことができるように、地域住民とのつながりを大切にした、継続的で包括的な保健・医療・福祉の実践及び学術活動を行うことを目的とする」プライマリ・ケアの定義は幅広く使われており、その一つに、1996年の米国国立科学アカデミーが定義したものがある。その中では、『プライマリ・ケアとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』と説明され、Ⅰ. 近接性、Ⅱ. 包括性、Ⅲ. 協調性、Ⅳ. 継続性、Ⅴ. 責任性の五つの概念にまとめられている。
 各国はそれぞれに独自の医療制度を持ち、おのずとその解釈は多様化し、その幅は広くなっている。このような定義からも、本協会会員施設は、かなりの比率で軸足をプライマリ・ケアに置いている。
 ではなぜ今、プライマリ・ケア宣言なのか。これには共有すべき日本医療の喫緊の課題がある。それは以下である。
 1. 日本の減少する人口、人口構成の変化、つまり高齢化と少子化による担い手不足、人口の偏在、それにともなう医療施設の偏在2. 東京に代表される大都市において想定しうる医療の問題3. 多疾病罹患高齢者の増加4. 認知症の増加5. 高度化する医療と国民の期待値6. 医療財源の確保7. 貧富の格差と世代間の格差これらの共有を前提にお話しすれば、これからの10年、そして次の10年は、私どもにとってかつてない激動のディケイドとなることは間違いない。従来の発想や成功してきたビジネスモデルが根底からくつがえされる大きな転換点に立っているのだ。そして、この国に住む全ての人々が、私どもが守るべき対象である。それが宣言の理由だ。
 独立行政法人国立長寿医療研究センター総長の大島伸一先生にご教示いただきながら、前身のプロジェクト時代を含むプライマリ・ケア検討委員会でアクションプランを検討し、認知症の研修会から始めることにした。
 去る9月11日、12日に第一回目の研修会を実施。予備軍まで含めると800万人以上となる認知症の高齢の方々が、多疾病罹患の一つとして認知症を煩っており、会員施設が認知症対応力をより高める必要があると考えたからだ。
 ただし、従来のように認知症の病理、治療、対応困難事例の精神科への紹介、そこに派生する抑制や人権の問題など、私どもが教科書的な正論を掲げれば掲げるほど現場のスタッフは苦しい立場に置かれるのである。
 何か方法論はないのか、現場の苦労を軽減する方法はないのか、そして、ユマニチュードというメソッドにたどり着いた。幸い、出席した看護師等の諸君からは大変好意的な感想が寄せられている。ユマニチュードについては提唱者のジネスト先生をフランスからお呼びすることも検討中である。
 基調講演をしていただいた大島先生、国立病院機構東京医療センター本田美和子先生、海上寮療養所の上野秀樹先生など、多くの先生にご支援をいただいている。
 プライマリ・ケア検討委員会は今後、新機構に移行中である日本専門医機構(仮称)に置かれた総合医の委員会(本協会より神野正博副会長が委員として参加)での進捗状況を注視しながら、総合診療専門医と病院医療とのあり方についても協議していく。
 また、メディカルソーシャルワーカーに、会員施設がそれぞれの地域でのプライマリ・ケアのコアとなるべく、病院の一部門として責任ある成長を促すための研修会を検討している。医療従事者委員会など本協会の各委員会との密な意見交換が必要だ。
 付け加えておかなければならないことがある。本協会各委員会の質や的確性は長い歴史の中で確実に継承され、進化し、十分にその機能を果たしている。ただ、外部発信の力についてあえて言う。医療界のことは医療界のみでという時代から、メディアを含めた国民の目を意識して進まなくてはならない現実がある。プロフェッショナル・オートノミーという言葉が使われるが、その意味も時代とともに変容していかざるを得ない。
 あえて宣言としたため、これまで地道に一個一個のレンガを積み上げ、堅牢な建築物を建てようと努力され結果を出してきた協会の真摯な方法論からは、パフォーマンスにすぎるという言葉も聞こえてきそうであるが、しっかり自戒しながら、ご理解をお願いしたい。

□全日本病院協会 プライマリ・ケア宣言2013

 全日本病院協会(全日病)は、関係者との信頼関係に基づいて、病院経営の質の向上に努め、良質、効率的かつ組織的な医療の提供を通して、社会の健康および福祉の増進を図ることを使命とする。
 上記理念に則り、これまで『医療は、患者(国民)と医療人が協力して整備を図るべき公共財であり、国民の健康・生活に直接関係する点で極めて重要である。』との認識のもとで、医療関係者ばかりではなく、患者、家族、地域住民などのすべてのステークホルダーとの協働を図ってきた。
 2013年、われわれはプライマリ・ケアの重要性を認識し、新たな行動目標として以下を宣言する。
1. 在宅医療・介護対応宣言
 全日本病院協会は、少子・高齢・人口減社会の医療・介護のあり方を直視し、すべての会員施設が地域におけるそれぞれの役割を確認し、診療所をはじめ医療・介護・福祉施設との連携を進め、さらなる在宅医療・介護の充実に協働することを宣言します。
2. 認知症対応宣言
 全日本病院協会は、国民的な課題である「認知症」に、個別的に、かつ包括的に対応ができるよう、さまざまな具体的方策を提言・実行することを宣言します。

平成25年8月7日 公益社団法人全日本病院協会