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ホーム全日病ニュース(2022年)第1004回/2022年3月1日号医師の働き方改革の経緯と概要、施行に向けた取組み

医師の働き方改革の経緯と概要、施行に向けた取組み

医師の働き方改革の経緯と概要、施行に向けた取組み

シリーズ●医師の働き方改革に備える① 特定社会保険労務士 浅見 浩

 2024年度から医師に時間外労働の上限規制が適用され、「医師の働き方改革」がはじまります。これに伴い、医療機関では労働時間の短縮や健康確保措置等の準備を進めていることと思います。そこで本紙では、会員病院の参考としていただくため、シリーズ『医師の働き方改革に備える』を企画しました。第1回は、特定社会保険労務士の浅見浩さんに医師の働き方改革の経緯と概要、病院が準備するべき内容について解説していただきました。

1.医師の働き方改革の経緯
 2018年6月29日に「働き方改革」関連法が成立し、2019年4月から労働時間の上限規制が開始されました。これにより、従来は特別条項付の36協定を締結すれば時間外労働の時間数に制限はありませんでしたが、特別条項をつけても原則として年720時間以下、1か月最大100時間未満の上限が導入されました。しかし、診療に従事する勤務医(診療従事勤務医)については、時間外労働規制の対象とするものの、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であることから、医療界参加の下で検討の場を設け、質の高い新たな医療と医療現場の働き方の実現を目指し、2年後をめどに規制の具体的在り方、労働時間の短縮策等について検討し、改正法の施行期日の5年後(2024年4月)を目途に規制を適用することとし、結論を得るとされました。
 その後、厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」で議論され、2019年3月に報告書がまとめられました。2019年4月からは「医師の働き方改革の推進に関する検討会」へ引き継がれ、2020年12月に中間とりまとめを公表し、現在に至り、検討会の議論を踏まえ、診療従事勤務医に関する時間外労働の上限時間や原則的な上限時間を超える場合の追加的健康確保措置などが逐次公表されています。

2.特例水準の概要
 診療従事勤務医については、特別条項をつけない36協定の場合、一般労働者と同じ月45時間、年360時間が適用されますが、特別条項をつけますと年960時間まで延長することができます。さらに、地域医療確保に必要な場合や、研修医や高度技能の育成に必要な場合等については、都道府県の指定を受けることにより、休日、時間外労働の上限を年1,860時間まで延長することができます。これは、現場の必要に応じて36協定を年1,860時間まで協定することができることを意味します。なお、B水準、連携B水準は2035年度末までに解消する目標とされています。
 診療従事勤務医の2024年4月以降の時間外労働上限規制は、表1の通りとなります。

3.追加的健康確保措置
 診療従事勤務医は2024年4月よりA水準であっても、一般労働者の上限とされる年720時間を上回る時間外労働の上限が設定され、さらにB水準、連携B水準、C水準の場合は、A水準の約2倍となる上限が設定されることから、以下の通り診療従事勤務医の追加的健康確保措置が義務付けられます。(A水準は努力義務)
①連続勤務時間制限
 労働基準法上の宿日直許可を受けている場合を除き、28時間までとなります。
②勤務間インターバル
 当直及び当直明けの日を除き、24時間の中で通常の日勤後の次の勤務までに9時間のインターバルの確保が必要です。当直明けの日(宿日直許可がない場合)については、連続勤務時間制限を28時間とした上で、勤務間インターバルは18時間となります。当直明けの日(宿日直許可がある場合)については、通常の日勤と同様、9時間のインターバルを確保することとします。
③代償休息
 連続勤務時間制限及び勤務間インターバルを実施できなかった場合の代償休息の付与方法については、対象となった時間数について、所定労働時間中における時間休の取得又は勤務間インターバルの延長のいずれかによることとされますが、疲労回復に効果的な休息の付与の観点から以下のような点に留意する必要があります。
・ 勤務間インターバルの延長は、睡眠の量と質の向上につながる
・ 代償休息を生じさせる勤務の発生後、できる限り早く付与する
・ オンコールからの解放、シフト制の厳格化等の配慮により、仕事から切り離された状況を設定する
 また、代償休息は予定されていた休日以外で付与することが望ましく、特に面接指導の結果によって個別に必要性が認められる場合には、予定されていた休日以外に付与することとされています。
④C-1水準が適用される臨床研修医
 連続勤務時間制限及び勤務間インターバルを徹底することとし、連続勤務時間制限15時間、勤務間インターバル9時間を必ず確保することとされています。また、24時間の連続勤務が必要な場合は勤務間インターバルも24時間確保することになります。

4.医師労働時間短縮計画
 医師の労働時間短縮については、2035年度末を目標に地域医療確保暫定特例水準(B水準・連携B水準)を解消することとされています。「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」において、地域医療確保暫定特例水準の対象医療機関の実態をなるべくA水準対象医療機関に近づけていきやすくなるよう、「医師の時間外労働短縮目標ライン」を国として設定することとされており、各医療機関は、短縮目標ラインを目安にしつつ、地域医療への影響も踏まえながら労働時間短縮に取り組むことになります。
 医師労働時間短縮に向けて医療機関に推奨される事項は下記の通りとなります。(「医師の働き方改革に関する推進検討会」2021年8月4日資料より)
①適切な労務管理の実施等に関する事項
・医療機関は、雇用する医師の適切な労務管理を実施することが求められるとともに、自院における医師の働き方改革の取組内容について院内に周知を図る等、医療機関を挙げて改革に取り組む環境を整備すること。
・ 地域医療確保暫定特例水準の指定を受けた医療機関においては、36協定で定める時間外・休日労働時間数について、当該医療機関における地域医療確保暫定特例水準の対象業務に必要とされる時間数であることを合理的に説明可能な時間数を設定するとともに、当該医療機関の労働時間短縮の取組実績に応じて見直しを行うこと。
②タスク・シフト/シェアの具体的な業務内容に関する事項
・ 各医療機関の実情に合わせ、各職種の職能を活かして良質かつ適切な医療を効率的に提供するためにタスク・シフト/シェアを行う業務内容と、当該業務を推進するために実施する研修や説明会の開催等の方策を講ずること。
③医師の健康確保に関する事項
・ 医師の副業・兼業先の労働時間を把握する仕組みを設け、これに基づいて連続勤務時間制限及び勤務間インターバルを遵守できるような勤務計画を作成すること。
・ 副業・兼業先との間の往復の移動時間は、各職場に向かう通勤時間であり、通常、労働時間に該当しないが、遠距離の自動車の運転を行う場合のように休息がとれないことも想定されることから、別に休息の時間を確保するため、十分な勤務間インターバルが確保できるような勤務計画を作成すること。
・ 災害時等に、追加的健康確保措置を直ちに履行することが困難となった場合には、履行が可能となり次第速やかに、十分な休息を付与すること。
・ 面接指導において、面接指導実施医師が何らかの措置が必要と判定・報告を行った場合には、その判定・報告を最大限尊重し、面接指導対象医師の健康確保のため必要な措置を講じること。
④各診療科において取り組むべき事項
・ 各診療科の長等は、各診療科の医師の労働時間が所定時間内に収まるよう、管理責任を自覚し、必要に応じ、業務内容を見直すこと。
・ 特にタスク・シフト/シェアの観点から業務を見直し、他の医療専門職種等と協議の場を持ち、効率的な業務遂行に向けた取組を計画し、実行すること。
⑤医師労働時間短縮計画のPDCAサイクルにおける具体的な取組に関する事項
・ 医師を含む各職種が参加しながら、年1回のPDCAサイクルで、労働時間の状況、労働時間短縮に向けた計画の作成、取組状況の自己評価を行うこと。
・ 医師労働時間短縮計画については、対象となる医師に対して、時間外・休日労働の上限及び同計画の内容について十分な説明を行い、意見聴取等により十分な納得を得た上で作成すること。
・ 各医療機関の状況に応じ、当該医療機関に勤務する医師のうち、時間外・休日労働の上限が年960時間以下の水準が適用される医師についても医師労働時間短縮計画を自主的に作成し、同計画に基づいて取組を進めること。
⑥特定高度技能研修計画に関する医療機関内における相談体制の構築(C水準関係)
・ 特定高度技能研修計画と実態が乖離するような場合に対応できるよう、医療機関内において、医師からの相談に対応できる体制を構築すること。

 以上の内容を踏まえて各医療機関は医師労働時間短縮計画を作成することになりますが、B水準、連携B水準、C水準の指定を受ける場合、2024年度以降の計画の作成は評価センターの審査を受ける際に必要となります。(2023年度末までの計画は努力義務)
 医師労働時間短縮計画については、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の資料に「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(案)」(2021年8月4日)、「医師労働時間短縮計画ひな型/作成例」(2021年7月1日)が公開されていますので、これらを参考にして作成に取り組むのがよいでしょう。

5.宿日直許可の考え方
 医師の夕方から翌朝までの「当直」とされる時間帯や休日の「日直」とされる業務の実態は様々ですが、労働密度がまばらであり、労働基準監督署長の宿直許可を受けた場合には労働時間規制を適用除外されます。このため、医師の労働時間を管理するうえで宿日直許可のある時間帯と宿日直許可のない時間帯を切り分けて実態把握することが求められます。
 宿日直許可を受けるためには宿日直許可申請を行う必要がありますが、宿日直許可申請はまず「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」と添付書類を労働基準監督署へ提出します。その後、労働基準監督官による実地調査が行われ、労働基準監督署長による許可(あるいは不許可)が出される流れとなります。
 許可申請書の添付書類例は表2の通りです。

 また、実地調査では対象医師へのヒアリングも行われ、夜間外来の有無や夜間の過ごし方(睡眠時間等)、臨時で診察するときの具体的な業務内容・頻度・時間等が確認されますので、これらの内容については事前によく確認しておくとよいでしょう。
 宿日直許可は1勤務当たり何件まで外来対応が認められるのか、どれくらいの時間まで実働してもよいのかなど、分かりづらい点も多いため、事前に労働基準監督署へ相談することをおすすめします。労働基準監督署へ相談しても法違反を指摘して行政指導を行う、あるいは改善報告を求めることはありません。

6.副業・兼業の取扱い
 医師の副業・兼業は、医師労働時間短縮計画でも触れられている通り、主たる勤務先は、派遣先における勤務を含めて、時間外・休日労働の上限、連続勤務時間制限、勤務間インターバルを遵守できるようなシフトを組むとともに、主たる勤務先・副業・兼業先でのそれぞれの労働時間の上限(通算して時間外・休日労働の上限規制の範囲内)を医師との話し合い等により設定しておくとされています。
 特に2024年度以降、B水準、連携B水準、C水準の指定を受ける医療機関は、医師の副業・兼業先での労働時間を自己申告により把握し、副業・兼業先での労働時間も含めて所定の労働時間内に収める管理が求められます。派遣医師が副業・兼業先で宿日直勤務を行う場合は、副業・兼業先が宿日直の許可を得ているかどうかが非常に重要となります。これは、宿日直許可を受けている勤務は労働時間に該当しませんが、宿日直許可を受けていない勤務は労働時間として加算しなければならないためです。このため、夜間、休日診療を派遣医師に任せている医療機関で、まだ宿日直許可を受けていない場合は、早めに宿日直許可の申請を検討するのがよいでしょう。

 

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  • [2] 2019.11.1 No.951

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  • [4] 公益社団法人全日本病院協会 会長殿 医政発0423 第24号 平成27年 4 ...

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