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ホーム全日病ニュース(2022年)第1014回/2022年8月1日号AMATと他のチームとの連携や派遣病院への支援が課題

AMATと他のチームとの連携や派遣病院への支援が課題

AMATと他のチームとの連携や派遣病院への支援が課題

【厚労省・救急災害医療WG】地震、水害、新興感染症に対応する災害医療体制を議論

 厚生労働省の「救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」(遠藤久夫座長)は7月8日、第8次医療計画の策定に向け、地震や水害の被災地や新興感染症の感染拡大が生じている地域に、専門的な研修・訓練を受けた災害医療チームを派遣する体制などをめぐり議論を行った。
 全日病常任理事の猪口正孝委員は、AMAT(全日本病院災害時医療支援活動班)の活動を説明するとともに、都道府県保健医療調整本部でのDMAT(災害派遣医療チーム)など他の医療チームとの連携や、職員を派遣する医療機関への支援が今後の課題であることを指摘した。
 医療計画における災害医療への対応は、地震を想定したものから、豪雨災害や新興感染症を含めたものに広がっている。阪神・淡路大震災での反省から、災害医療体制の議論が始まり、2011年3月11日に東日本大震災が起きた。2016年には熊本地震、2018年には北海道胆振東部地震が発生し、その都度、災害医療体制の見直しを行っている。その間、豪雨災害も何度かあった。2020年に入ってからは、新型コロナのまん延が続いている。
 DMATは、大地震などの災害時に、地域に必要な医療提供体制を支援し、傷病者の生命を守ることを目的とする厚労省が認めた専門的な研修・訓練を受けた医療チームである。2022年4月時点で、1万5,862人が研修済みで、2,040チームが指定医療機関に登録されている。
 発足以来、DMATは地震災害を中心に活躍してきたが、最近の豪雨災害では、被災地でDMATに求められている活動が、必ずしも活動要領の記載にそぐわない場面がみられた。
 このため、活動要領の改正を2019年度に行う予定であったが、新型コロナの感染拡大を受けて延期となった。その間に感染症対応のチームも形成され、2022年2月に、新興感染症に関連する位置づけを含め、DMATの活動要領を改正している。
 一方、政府の「新型コロナ感染症対応に関する有識者会議」(永井良三座長)は6月15日の報告書で、法令上の位置づけがないために、「既存の都道府県DMAT調整本部の機能が十分に活用されないなど、非効率な対応がなされるケースがあった」と指摘した。
 厚労省はこれらを踏まえ、DMATを法令で位置付けることを含め、円滑な活動を可能とするための対応を論点とした。
 DMATを法的に位置づけることに関しては、DMATでは医療機関の職員が、都道府県の指揮命令の下で災害医療に従事することから、事故時の補償や派遣時の待遇など「身分保障」の取扱いを確立するためにも、賛意を示す意見が複数の委員から出た。一方、DMAT活動の柔軟性を担保するため、現状通りを求める意見もあった。

調整本部へのAMAT参加を想定
 その他の災害医療チームとして、AMAT、DPAT(災害派遣精神医療チーム)、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、都道府県看護協会に登録する災害支援ナースが議題に上った。
 AMATについては猪口委員が説明。「大規模災害では、中小病院は支援を受けにくい状況があり、互助的な組織として始まった。会員病院への支援物資の移送も行う。都道府県保健医療調整本部においては、公的な災害医療チームに加わり、より柔軟に、必要性に応じ長期間滞在することができる。DMATなどの機能を補完する」などAMATの特徴をあげた。
 概要は以下のとおり。◇全日病を中心に、四病院団体協議会の加盟医療機関で組織◇医師1名、看護師1名、業務調整員1名の3名が基本◇災害の急性期から亜急性期において、災害時要援護者にも配慮した医療支援活動を行う◇研修は、日本医療法人協会と協働で開催。日本病院会からも研修生を受け入れる─というものだ。
 主な実績としては、◇平成28年熊本地震(活動期間:2016年4月15日~4月28日、活動隊員数:延べ11チーム43名)◇令和元年台風15号(活動期間:2019年9月10日~9月23日、活動隊員数:延べ52チーム170名)◇クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号における活動(活動期間:2020年2月11日~2月16日、活動退隊員数:延べ13名)などがある。
 これらの活動を紹介した上で、調整本部での指揮命令系統に関し、要望を行った。具体的には、AMATが調整本部に参加する場合、調整本部の指揮命令系統の中で、AMATが考慮されていない場合があるので、災害医療の計画や研修において、AMATを含めた様々な災害医療チームが調整本部に参加することを想定することを求めた(下図参照)。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「AMATについても身分保障のために、DMATと同様に、派遣医療機関と都道府県が協定を結ぶことが望ましい」と主張した。また、「AMATを派遣する医療機関に対して、例えば、DPC制度の機能評価係数の上乗せがあれば、負担の大きい民間病院からの参加が増えると思う」と述べた。
 災害発生時の精神保健医療ニーズに対応する災害医療チームであるDPATについては、未だに新興感染症への対応が活動要領に明確化されていないことを踏まえ、活動要領の改正が課題とされた。
 JMATについては、「主に、災害急性期以降における避難所・救護所等での医療や健康管理」を担い、被災地の医師会と被災地以外の医師会が協働し、地域医療を取り戻すことが目的であると説明された。
 新型コロナ対応では、宿泊療養施設やPCR外来などに合計で10万8,604人を派遣した。医師は3万8,888人、歯科医師は81名、薬剤師は2,334名、看護職は4万1,980人、その他の医療関係職種は4,101人、事務職は2万897人が参加した(2022年3月31日時点)。
 災害支援ナースは1万251人が都道府県看護協会に登録されており、広域では日本看護協会が派遣調整を行っている。より安全を担保した位置づけとするため、事故補償や活動の対価が必要との訴えがあった。

病院単独での対策の実施難しい
 豪雨災害が毎年のように発生していることを踏まえた医療機関の浸水対策については、災害拠点病院などに対し、電気設備などの高所移設や止水板の設置など具体的な対応を求めることが論点となった。
 災害拠点病院であっても、浸水想定区域内に立地しているにもかかわらず、浸水対策を実施していない病院がある。浸水想定区域にある災害拠点病院は38%で、そのうち、浸水対策を実施していない災害拠点病院は22%、70病院ほどあった。災害拠点病院以外の民間病院では、浸水対策が不十分な病院がさらに多いと見込まれる。
 猪口委員は、「病院単独で浸水対策を考慮したBCP(事業継続計画)を作るのは難しい。地域で病院の災害対策を支援するため、災害対策の達成度を診断し支援する公的な仕組みを整備してほしい」と求めた。

 

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全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2018.8.1 No.922

    2018/08/01 ...DMAT、JMAT、AMAT、DPAT、. JRATなどを含めた対策チームの迅速. な対応により、各部署・地域へ適切な. 医療提供が行われたが、様々な課題も.

  • [2] 2020.4.1 No.960

    2020/04/01 ...そ の 際 に は、DMAT・. DPAT・JMAT・AMATなどが医療. 的支援を行うとした。 全日病HPに特設サイトを開設. 全日病はホームページに「新型コロ.

  • [3] 2019.10.1 No.949

    2019/10/01 ...DMATが組織され、広域災害・救急 ... 認識から、全日本病院協会はAMAT. を、日本精神科病院協会はDPATを. 組織し、JMATも強化された。さら.

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