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ホーム全日病ニュース(2022年)第1014回/2022年8月1日号コロナの教訓を踏まえた地域医療連携や医師の働き方の議論を「現地」で行いたい

コロナの教訓を踏まえた地域医療連携や医師の働き方の議論を「現地」で行いたい

コロナの教訓を踏まえた地域医療連携や医師の働き方の議論を「現地」で行いたい

第63回全日本病院学会 in 静岡 土田博和・学会長に聞く

 第63回全日本病院学会in静岡が10月1、2日の両日、静岡県浜松市で開催される。土田博和学会長に学会テーマに込める思いや学会の見どころ、準備状況などをきいた。

従来型の現地開催を予定最悪でもハイブリッドで
― 静岡では、初めての全日病学会ですね。
 前支部長の池田誠先生が3年前から準備を始め、2年前から私が学会長を仰せつかっています。具体的な実務は、実行委員長の甲賀啓介先生が取り仕切って進めていただいています。
 静岡県は小さな県ですが、全日病会員のみなさんにとって有意義な学会となるよう鋭意準備を進めています。
― 新型コロナウイルスの状況が心配ですが、どのような形で準備していますか。
 今回は、現地開催とWEB開催のハイブリッドではなく、従来型の現地開催を予定しています。コロナの感染拡大が予断を許さない状況となっていますが、最悪でもハイブリッドでの開催として、できれば現地でみなさんとお会いし、活発に議論ができることを楽しみにしています。
― 学会テーマについて教えてください。
 学会テーマは『ポストコロナ時代を生きる』です。新型コロナの感染拡大を経験して、見えてきたことは多いですが、ポストコロナでは地域医療連携の推進が必要だという問題意識を強く持っています。静岡でも、地域医療構想における機能分化・連携は、一向に進展してこなかった。そのことが、コロナにより露呈してしまいました。
 一方、コロナの危機を乗り越えるために、全国各地で、様々な取組みが行われています。例えば福岡県では、コロナ病床の状況を県単位で共有し、重症度に応じ、適切・迅速に搬送するシステムをつくっていると聞きます。
 みんなが助け合う地域医療連携の形を全国に広げるための起爆剤に、コロナの教訓を使えればと思っています。
 また、オンライン診療を含めたICTは、地域医療連携にとって欠かせないツールになるはずです。例えば、マイナンバーカードに健康保険証と保健医療情報を入力・活用する流れができていますが、そのために一番やってほしいことは電子カルテの統一化です。診療情報を共有すれば無駄な検査・投薬を減らし、機能的な地域連携が加速するでしょう。静岡学会では、ICT関連企業も加わり、医療とICTの関係を考える演題を用意していますので、大いに論じたいと思います。
地域医療構想やデータヘルス、タスクシフトなどテーマに議論
― 静岡学会では、シンポジウムや特別企画、市民講座などの学会企画があります。それぞれ紹介をお願いします。
 静岡学会では4つのシンポジウムを準備しています。シンポジウム1『ポストコロナ時代の病院経営』では、実行委員長を務めるコミュニティーホスピタル甲賀病院の甲賀啓介院長、石井公認会計士事務所の石井孝宜所長、株式会社メディヴァの大石佳能子代表取締役社長、相良病院の相良吉昭理事長が登壇します。
 新型コロナで病院経営は大きな打撃を受けましたが、その影響は診療科や病院の特性により様々です。政府の補助金や診療報酬の特例により、ある程度経済的に助かった病院がある一方、患者減だけが残って、経営的に苦しくなった病院もあり、二極化しているのではないでしょうか。新型コロナの病院経営への影響を議論します。
 シンポジウム2『どうする?データヘルス集中改革』では、日本経済新聞社の大林尚編集委員、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの渡辺幸子代表取締役社長が登壇します。
 ポストコロナ時代の医療を考える上で、ICTの活用は必須です。特にオンライン診療については、病院団体、医師会、厚労省で温度差はあるものの、その必要性についての認識に違いはないと思います。
 また、ICTを使って診療録をはじめレントゲンなど検査結果を情報共有することができれば、自ずと各病院の立ち位置が定まり、かかりつけ医の立ち位置も議論されると考えています。
 かかりつけ医をめぐる議論が始まっていますが、海外では制度的に位置づけている国もありますし、その役割も日本と大きく違います。私の経験したアメリカの家庭医は、朝から赤ちゃんをとりあげ、次はアキレス腱のギプスを巻いて、その後は呼吸器の診察を行うといったように広く浅く総合的な診療を行います。
 日本では、教育訓練の仕組みがないため専門医としてのかかりつけ医が育っていませんが、将来的には、受け持つ地域・人口割が決まったかかりつけ医を基本とする仕組みになると思いますので、そのあたりの議論も期待しています。
 シンポジウム3『ポストコロナ時代の地域医療構想』では、日本総合研究所の翁百合理事長、名古屋記念財団の太田圭洋理事長が登壇します。コロナの教訓を踏まえて、学会のポイントになるテーマです。
 地域医療構想がなぜ進まないかというと、公的病院と民間病院の連携が難しいことが理由の一つです。もう一つの理由は、大学医局の壁で、どこの大学から医師が派遣されるかということが連携を難しくしている。ポストコロナではこれらの障害を乗り越えて地域医療構想を進めることが必要です。
 シンポジウム4『ポストコロナ時代のタスクシフト』では、亀田総合病院の舟越亮寛・薬剤管理部薬剤管理部長、長崎医療センターの本田和也・診療看護師(NP)・副看護師長、八尾医療PFI株式会社の門井洋二代表取締役社長、コミュニティーホスピタル甲賀病院の伊藤康太郎・救急救命士科主任が登壇します。
 勤務医の負担を減らすためにタスクシフトは避けて通れません。例えば、救急救命士にもう少し医療に近づいてもらう、看護師に医師の仕事を分担してもらう、医療秘書に事務作業を担ってもらうことが重要です。
 アメリカのグループプラクティスで2か月ほど勤務したときの経験ですが、医師は自分でカルテに記載することはしません。外来、手術記載にしろ口頭で医療秘書にしゃべるだけで、次の日にはカルテに記載されていました。それが40年前の話です。日本でも医療秘書を徹底的に育てないと、医師は疲弊するなと痛感しました。
 2024年度から医師の働き方改革が始まります。労働基準法の適応で悪質な違反事例は逮捕要件になりますから、確実に医師の時間外労働を減らす必要があります。ぜひ、タスクシフト・シェアの具体的な取組みの話を聞いてほしいと思います。
静岡のまちづくりを紹介大道芸とSLを観光資源に
 特別企画『未来は今』では、浜松ホトニクス株式会社の小倉隆氏、テルモ株式会社の長谷川英司氏、ふじのくに医療城下町推進機構の植田勝智氏が登壇します。浜松ホトニクスとテルモは、静岡に拠点を持つ国際的な企業です。両社からは、最先端技術の活用について刺激的な話が聞けると思います。
 医療城下町推進機構の植田さんからは、川勝平太知事が推進する「ファルマバレープロジェクト」の話が聞けると思います。富士山麓に広がる地域に医療健康産業クラスターを形成し、「健康増進・疾病克服」と「県民の経済基盤の確立」を両輪としたまちづくりに取り組んでいます。
 市民公開講座『しぞーかルネッサンス』では、株式会社シーアイセンターの甲賀雅章氏と大井川鐵道株式会社の山本豊福氏にご登場いただき、静岡のまちづくりをテーマに話し合います。
 静岡は、大道芸や演劇を気軽に楽しめるまちづくりで全国的に有名になりましたが、甲賀さんは大道芸ワールドカップIN静岡を立ち上げた方です。また、大井川鐡道は、島田市とタイアップして、SLが走る鉄道を観光資源としてまちづくりに活かしています。
―準備状況はどうでしょうか。
 演題の数は例年の全日病学会と同じくらい集まっています。やはり、コロナ関連の演題が多いのが特徴ですね。オンライン診療を含むICTの活用や医師の働き方改革、タスクシフト・シェア関連の演題も多く寄せられています。
 参加登録が少し遅れていますので、締め切りを8月12日まで延長しました。静岡には、富士山があり、風光明媚な見どころがたくさんあります。浜松は鰻が美味しいところです。学会に参加しながら、ぜひ静岡を堪能してほしいと願っています。
― 最後に静岡学会に向けたメッセージをお願いします。
 コロナという貴重な体験を経て、ピンチをチャンスと捉え、「笛吹けど踊らない地域医療連携」を本気で進めないといけないと思います。民間も公的も頑張っている病院があるのに、相互の分担がうまくいっていない現実がある。そこに何かの気づきを与えるきっかけになるような学会にしたいです。
 病院は売上に対して経常収益は数パーセントしかないのに、人材紹介の手数料でそれが消えていく問題も何とかしたいと思っています。学会でも話をしたいと思っているのですが、マッチングが成約しても病院が支払う手数料ゼロのソフトを作りました。医師の応募が少なく、活用できていませんが、全日病として活用してもらえると、大変うれしいです。
― ありがとうございました。

 

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