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ホーム全日病ニュース(2022年)第1014回/2022年8月1日号我が国の医療DXに向けた取組について

我が国の医療DXに向けた取組について

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シリーズ●医療におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX) 第1回 厚生労働省保険局医療介護連携政策課長 水谷 忠由

 本号から、『医療におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)』のシリーズ企画がはじまります。第1回は、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長にご執筆いただきました。

【はじめに】
 我が国では、健康・医療・介護分野のデータが分散し、相互に繋がってないために、必ずしも医療現場や産官学の力を引き出し、患者・国民がメリットを実感できる形となっていなかったとの指摘があります。このため厚生労働省では、これらのデータの有機的連結やICT等の技術革新により、健康寿命の更なる延伸や効果的・効率的な医療・介護サービスの提供を目指すデータヘルス改革を推進しています。
 データヘルス改革が目指す未来は、四つの柱から成ります。一つ目は「ゲノム医療・AI 活用の推進」です。二つ目は「自身のデータを日常生活改善等に繋げるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の推進」で、こうした患者の医療情報など「医療・介護現場の情報利活用の推進」を進め、より質の高いサービスの提供を可能にすることが三つ目の柱です。そして四つ目は、「データベースの効果的な利活用の推進」です。

【マイナンバーカードの保険証利用(オンライン資格確認)】
 昨年10月から、オンライン資格確認等システムの本格運用が開始されました。医療機関等の窓口に顔認証付きカードリーダーを置いていただき、マイナンバーカードの顔写真データと窓口で撮影した本人の顔写真とを照合するなどして本人確認が行われます。これにより、保険者からシステムに事前に登録された患者の直近の医療保険の資格情報が確認でき、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力による手間などの事務コストが削減されます。
 オンライン資格確認のメリットはこれだけではありません。カードリーダーには情報閲覧の同意画面があり、ここで患者から電子的に同意がなされれば、保険者からシステムに事前に登録された特定健診結果や薬剤情報も、医療機関等で閲覧できるようになります。これらの情報は、本人がマイナポータルを通じて確認できる情報です。オンライン資格確認の仕組みは、データヘルス改革の二つ目の柱のPHRの仕組みを基本に、三つ目の柱の医療現場での利活用を具現化したシステムと言えます。
 薬剤情報等の閲覧にはマイナンバーカードによる本人確認が必要ですが、災害時には氏名・性別・生年月日・住所の4情報等による本人確認で閲覧を可能とする機能も備えています。この機能は、3月の福島沖を震源とする地震の際に、災害救助法が適用された宮城県・福島県を対象に、一定期間アクティブ化されました。

【オンライン資格確認の導入促進に向けて】
 三師会では、医療機関間での情報共有を進め、安心・安全で質の高い医療を提供していくデータヘルスの基盤としてオンライン資格確認の導入を推進していく必要があるとして、2月に推進協議会を立ち上げていただきました。この協議会には、厚労省やオンライン資格確認の実施機関である社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会、システム事業者の団体である保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)がオブザーバーとして参加し、導入に当たって現場から提起された課題への対応等に取り組んでいます。
 また、この4月から電子的保健医療情報活用加算が設けられました。外来でオンライン資格確認の仕組みを通じて過去の薬剤情報や特定健診結果等の情報を活用して診療等が行われた場合に、より多くの種類の正確な情報に基づいた総合的な診断や、重複する投薬を回避した適切な処方が行われることを評価して、初診料等に設けられた加算です。患者が従来の保険証で受診した場合等においても、オンライン資格確認を導入している医療機関等ではこうした体制が整えられていることを評価し、令和5年度末まで一定の点数を算定できることになっています。
 さらに、システムの導入に向けて、様々なルートを通じて個別の医療機関等への働きかけを行っています。医療機関等からの改修ニーズが増加し、これがシステム事業者の営業強化・体制強化に繋がっていくような好循環を創り出していきたいと考えています。

【オンライン資格確認の導入加速化に向けた「更なる対策」】
 オンライン資格確認の導入状況を見ると、カードリーダーを申込済みの医療機関等は約6割、院内のシステム改修等が終了して実際に運用を開始した施設は約4分の1となっています(病院や薬局では約4割の施設で運用が開始されています)。こうした中で、厚労省では5月の医療保険部会に、来年3月末までに概ね全ての医療機関等での導入を目指すという目標達成のための3つの「更なる対策」を提案しました。
 一つ目は、来年4月から、保険医療機関等におけるシステム導入について原則として義務化することです。保険医療機関及び保険医療養担当規則等の改正を考えており、具体的な内容は中医協で御議論いただきます。
 二つ目は、医療機関等でのシステム導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する財政措置を見直すことです。現在、カードリーダーの無償配布のほか、院内のシステム改修等の費用について医療機関等への補助を行っており、この見直しを財政当局と議論します。また、電子的保健医療情報活用加算には様々な指摘がなされており、その取扱については中医協で検討します。
 三つ目は、令和6年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指すこと、そして医療機関・薬局以外で保険証を利用している訪問看護や柔整あはき等のオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指すことです。マイナンバーカードの取得はあくまで任意ですから、加入者から申請があれば保険証が交付される仕組みとすることは大前提となります。
 こうした「更なる対策」は、去る6月に閣議決定されたいわゆる骨太方針2022に盛り込まれ、政府の方針となりました。今後、現場の声もよくお伺いしながら、具体的な内容を決定してまいります。

【医療DXが目指す姿】
 オンライン資格確認には、①全国の医療機関・薬局が安全かつ常時接続されている、②医療情報を個人ごとに把握し、本人の情報を確実に提供することが可能、③患者の同意を確実にかつ電子的に得ることが可能という特徴があり、今後のデータヘルスの基盤になると考えています。現在、医療機関等で確認できる情報は特定健診結果や薬剤情報のみですが、9月から透析や医療機関名等の項目が、来年5月から手術情報が追加される予定です。また、来年1月からはこの基盤の上に電子処方箋の仕組みを構築し、薬剤情報のリアルタイムでの共有を可能とする予定です。閲覧・活用できる情報は、さらに拡大を検討していきます。
 ところで、5月に自民党の社会保障制度調査会とデジタル社会推進本部の合同PTにおいて、「医療DX令和ビジョン2030」が取りまとめられました。電子カルテの一次利用(PHR)も二次利用も十分とは言えず、患者が自らの健康・治療状況の把握が自由に行える状況になく、医療機関間での活用も極めて限定的、また新型コロナ危機においても医療情報収集が全く不十分であったとの現状認識の下、①「全国医療情報プラットフォーム」の創設、②電子カルテ情報の標準化、③「診療報酬改定DX」の三本柱で提言がなされています。
 「全国医療情報プラットフォーム」は、オンライン資格確認等システムのネットワークを発展的に拡充し、レセプトや特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームとされています。オンライン資格確認等システムをデータヘルス基盤としていく考え方と軌を一にするものです。
 電子カルテ情報の標準化については、HL7 FHIRの規格を活用して共有すべき項目の電子的な記述仕様や交換手順を策定し、まずは診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書の3文書等を対象として、順次拡大していくとされています。また、電子カルテ普及率の目標を2026年までに80%、2030年までに100%に設定し、未導入の一般診療所や非DPC病院向けに、官民協力により低廉で安全なHL7 FHIR準拠の標準クラウドベース電子カルテが開発・活用されるための施策の推進も盛り込まれています。
 「診療報酬改定DX」としては、各ベンダー共通のものとして活用できる診療報酬に係る「共通算定モジュール」を作成することや、改定の施行日を4月から後ろ倒ししてシステムベンダーの作業集中月を解消することなどで、医療機関等の業務システムのDXを通じて医療保険制度全体の運営コスト削減や保険者負担の軽減に繋げることが提言されています。
 これらを強固なガバナンス体制を構築して推進していくため、総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置することも謳われています。これらも、骨太方針2022に盛り込まれ、政府の方針となりました。

【終わりに】
 今後のデジタル社会においては、医療機関等が患者の医療情報を有効に活用して、安心・安全でより良い医療を提供していくことが重要と考えます。オンライン資格確認等システムはこうしたデータヘルスの基盤となるものであり、その構築に向けて、医療現場の皆様の御協力を是非よろしくお願い申し上げます。
 最後に私見を申し上げれば、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指すためには、国民一人一人が、自身の健康・医療情報に対するオーナーシップの意識を高めていただくことが重要ではないかと考えています。医療機関・薬局や保険者、民間事業者も含めた多様な主体が、こうした健康・医療情報を本人の同意の下に適切に活用することで、個人の予防・健康づくりを支援し、より効果的なものにしていけると期待しています。

 

全日病ニュース2022年8月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 事 務 連 絡 令和4年2月 25日 (別紙 関係団体) 御中 厚生労働省 ...

    2022/02/25 ...JAHISとの連携について ... から、一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)を通 ... レセコンベンダー等とも調整を進める。

  • [2] NEWS 10/15 - 全日本病院協会

    2021/07/03 ...のITシステムや意識の問題もあったが、 ... DPC決定ソフトでベンダー業界からヒアリング ... JAHIS加盟のITシステム設計企業を起. 用している。

  • [3] Untitled - 全日本病院協会

    院を、 DPC対象病院と準備病院の2類型 報システムほかを提起 それら基準の. に大別すること等を提起、 DPC分科 ... 成松亮(JAHIS 医療システム部会診療システム委員長).

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