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ホーム全日病ニュース(2022年)第1014回/2022年8月1日号行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

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第3回 なぜ情報伝達がうまくいかないのか?

 当企画は、行動経済学の視点から病院の経営マネジメントを見直し、病院のリーダーがチームメンバーを伸ばすことで、全体のパフォーマンスやクオリティを上昇させることの支援を目的としている。
 前回(第2回)は「どうしてタスクシフトが進まないのか?」と題し、責任と権限の委譲、業務の切り分け、皆が活躍できるプラットフォームづくりについて触れた。
 今回(第3回)のテーマは、「なぜ情報伝達がうまくいかないのか?」という、病院規模に関わらずどの組織でも問題となり得るテーマを取り上げる。会員の皆様の参考となれば幸いである。


江口 私はPHSが嫌いです。PHSで連絡が来るときは耳が痛い話が多いので、PHS=コストのように感じてしまっていると思います。
石川 別の業務をしているときに妨げられることが多いですからね。
平井 PHSで一対一のやり取りをする際には、受ける側は「個人の損失」と捉えがちだと思います。実際は業務連絡であって個人が責任を負ったり、責められたりするような話ではないんですけれど、何となく責める・責めないになりがちですよね。
江口 そうですね。例えば「患者さんが眠れないと言うので眠剤を出してください」と言われると、医師としては「自分が眠らせていないのが悪い」と言われているような気持ちになるかもしれません。
石川 当院では全スタッフにスマホやタブレットを支給して、業務連絡はSNS上で行うようにしました。SNSの良いところは「一対多」の配信なので、誰かが必ず見ていることです。コメントも返信も誰かが見ているので変な返し方はできません。心理的安全性が自然に担保されているのです。そうすると若いスタッフの方が何でも聞けるようになるのです。医師に厳しいことを言われることもなければ、絵文字をもらったり、ありがとうと言われたりしたら、それを見ている皆が嬉しいですよね。
平井 可視化されて共有されることによって、個人の責任感や損失感が減るのではないかと思いました。さらに、自分が答えなくても別の先生が代わって答えてくれるというメリットも生じるので、それがうまく回る秘訣なのかもしれません。
石川 今までは電話したら怒っていたような医師も、SNSなら自分のスキマ時間で見ることができます。今までは師長さんを介して電話をしてもらうとか、回りくどいことをやっていたんですけども、そもそも連絡の多くが、医師からOKをもらったら済む用事ばかりなので、SNSのやりとりだけで終わることが多いですよね。ですから緊急時以外は電話が鳴らないのです。看護師さんたちはすごく楽になったと言っています。


石川賀代氏

江口 オペ中に定期処方が切れたというSNSが入っても、オペが終わるまでは返事できないですよね?
石川 でも、スマホを持ってオペ室に入っているので、1時間くらい待てば返事が来ます。一人医長だと困るのですが、何人か医師がいれば誰かは反応しますのでそれで終わります。
江口 理事長から1年目まで、すべての職員が全部SNSでつながっているのですか?
石川 今はSNS上に1,300ぐらいのチームがあります。私も病棟のチームに入っています。
江口 そんなに!…放置されているメッセージはないのですか?
石川 病棟など業務関連のメッセージに関しては、大体誰かが反応してくれています。ただし、チームの中には活性化しないものもあるので、定期的にそういったところは消去するようにしています。
江口 SNSの導入はすんなり進んだのでしょうか? 反対意見などはありませんでしたか?


江口有一郎氏

石川 最初は懐疑的なんですけれども、実際にSNSを使ったら皆が楽になっていることを実感するのです。自分も便利になるので反対はそれほどありませんでした。実は「使いたくなければ使わなくていい」と言っていますが、忙しい先生ほどSNSを使わなければいけなくなります。やっぱり便利なので使うのです。打ち込むのが苦手なら音声入力すればいいし、デジタルに疎い人でもスマホは使っていますから、電子カルテ導入時のようなことはなかったです。ベテラン職員をコントロールしようとしても無理で、情報通信を使ってそういう状況を作ってしまえばいいのです。
江口 デジタル化によってそんなにストレスがなくなるとは…!
平井 心理的なコストがないのでしょうね。電話口でちゃんと説明しなければいけないとか、タイミングを間違うと怒られるのではないかなどと忖度することがなくなる。怒られるからといって報告が遅れるという損失回避を減らすことにもつながりそうです。


平井 啓氏

石川 SNSの書き込みの基本ルールとして、相手の中傷はやめてくれと言っています。さまざまな人が色々な意見を言い合える関係性を保つためのルールです。皆さん、他人のメッセージや返信を見て、自分の発言が人に与える影響を自然に学習しているような気がしますね。
平井 トップがまず実践すれば、スタッフもそうせざるを得ないですよね。そうやって新人さんや若い人たちが反応すれば、他の方々も巻き込まれていって、問題なく運用できるようになるのではないでしょうか。

 

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