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ホーム全日病ニュース(2022年)第1015回/2022年8月15日号行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント
~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

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第4回 どうして若手スタッフは話が通じないのか?

 当企画は、行動経済学の視点から病院の経営マネジメントを見直し、病院のリーダーがチームメンバーを伸ばすことで、全体のパフォーマンスやクオリティを上昇させることの支援を目的としている。
 前回(第3回)は「なぜ情報伝達がうまくいかないのか?」という普遍的な悩みに対して、院内SNSを活用することでコミュニケーションに付随するストレスが軽減するなどの有用性についてディスカッションした。
 今回(第4回)のテーマは、「どうして若手スタッフは話が通じないのか?」という、人類が古くから抱えてきた大問題について取り上げる。会員の皆様の参考となれば幸いである。

江口 病院経営者に限らず、上司と部下で話が通じなくて困ることが多いと思います。これはどうして起こるのでしょうか?
平井 上司と部下、指導者と学習者がすれ違う理由は、お互いに見えている景色が異なることを理解していないからです。部下が現場の課題を見ているのに、上司は経営も考慮した俯瞰的な目線で見ている。上空の話をしていても地上にいる人は分からないのです。まずは「見えている景色が違う」ことを理解するということが解決への第一歩になります。そもそも古代の調査においても人間はかれこれ2600年にわたって「最近の若者は…」と文句を言い続けていることが判明しています。特にIT革命が起きた現代に生きる我々は、上司と部下で情報関係の環境は全く異なります。


平井 啓氏

石川 確かに、新卒で入ってくる職員達はインターネットを使いこなして効率的に勉強をしているのを目の当たりにしています。自分の感覚は古いのだと思うことがよくあります。
平井 インターネット黎明期に大人になった人と、インターネットで調べれば何でも出てくる時代に仕事を覚えた人では、仕事や学習に対する考え方は全く異なっていて当然です。しかし、教育は従来通りの方法でやっているのです。特に看護師の場合は階層構造になっていて、私たちがされてきたことをそのまま下にもしたらダメだとは理解しつつも、それに対して何となく違和感があるという面が残っているように感じています。
石川 最も変化しにくいのは看護部です。今までの教育法が「右を向けば右」のような思想が強いことがあると思います。
平井 学習法の違いも大きいですね。我々の世代を含む、ベテランの方は紙をめくっていくと時系列に知識が並んでいて、意識して調べなくても前後関係の情報が目に入る方法で学習してきています。一方で、若い人は本のように時系列に学ぶ機会が減ってきているので、文脈を理解することが難しくなってきている可能性があります。そのことを意識して指導できるかどうかがポイントになると思います。
江口 本を前提とした学習のさせ方ではなく、現代のインターネット時代に合わせた方法で教育を考え直した方がいいのですね。


江口有一郎氏

石川 若い人は何をするにも早いです。私よりも調べるのが早かったり、何かを作ったりするときもサクサクできて工夫もされているという印象があります。
平井 現代は情報の負荷が非常に大きくなったので、情報処理能力が高い人はチャキチャキとこなしてくれるのですが、それが苦手な人や不器用な人は不適応に陥りやすいかもしれません。そこは注意をして見ていった方がいいと思います。
石川 当院では新人スタッフに対してiPad mini を貸与してスキマ時間でe-learningをさせています。そして習熟度を点数化して「見える化」したうえで、自分の弱いところを上司(プリセプター)と SNSでやり取りして解決していくというシステムです。この形が若い人には合っているみたいで、以前と比べて習熟度が非常に高くなりました。
江口 それはオリジナルの仕組みですか?
石川 そうです。未履修のものについてはアラートが来るようになっていますし、点数も自動で出てくるようになっています。他者の評価と自分の評価って案外ズレていますので、点数化することによって自分に足りないものをきちんと認識できるようになります。また、以前は紙で集計して評価していたのですが、それだと評価者の時間がすごく取られるので、とても助かっています。学習者も指導者もハッピーな仕組みです。
平井 現場で最も良くない教育法は、例えば消化器の病棟だったら本を渡して胃がんについてちゃんと勉強してきてくださいという課題の出し方をして、作文させたものをチェックするというものです。これだと作文を提出することで終わってしまうので、その知識は使い物になりません。
江口 どのような教育法が望ましいのでしょうか?
平井 いま受け持っている患者さんについて調べてくるように指示すればいいのです。そうすれば生きた知識が入ります。さらにe-learningの仕組みがあって、そこで参照できるようにすればより早いかと思います。
石川 最近はもっと若い人を頼った方が良いと思っています。自分たちが最も大事にしなければいけないことを示せば、細かく指示しなくても自ら工夫して動くのではないかと。我々はこのコロナ禍で「これはおかしいのではないか」と気づくことが増えてきましたが、むしろ若い人の方が疑問を持っていると思います。若い人たちの声を聞いて、考えるきっかけを得ることが大事なのではないでしょうか。


石川賀代氏

<登場人物紹介(敬称略)>
講師:平井 啓(大阪大学大学院人間科学研究科准教授)
先輩経営者:石川賀代(社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長・病院長)
新米経営者:江口有一郎(医療法人ロコメディカル副理事長/ロコメディカル総合研究所所長)
記事作成:田中留奈(伝わるメディカル/佐賀大学大学院)

 

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