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ホーム全日病ニュース(2023年)第1033回/2023年6月1日号地域包括ケア病棟を活用しながら病院がかかりつけ医機能を発揮して地域医療を支える 7月に地域包括ケア病棟研究大会を開催

地域包括ケア病棟を活用しながら
病院がかかりつけ医機能を発揮して地域医療を支える
7月に地域包括ケア病棟研究大会を開催

地域包括ケア病棟を活用しながら
病院がかかりつけ医機能を発揮して地域医療を支える
7月に地域包括ケア病棟研究大会を開催

【シリーズ●民間病院が取り組む地域包括ケア⑥】医療法人聖峰会 田主丸中央病院 理事長 鬼塚一郎

 地域包括ケアシステムの構築に当たり、地域包括ケア病棟をもつ病院はどのような役割を果たせるのでしょうか。福岡県久留米市で、地域の医療の中核となる田主丸中央病院を運営する鬼塚一郎理事長に、地域における役割や地域包括ケア病棟のあり方、かかりつけ医機能の発揮の仕方について、話を聞きました。


鬼塚一郎理事長

病棟再編を繰り返し地域に一番合う構成に
──田主丸中央病院がある久留米の地域について教えてください。そこで必要とされる医療は、どのようなものでしょうか。

 当院は久留米二次医療圏の東部に位置し、農村地帯で、対象人口は5万人程度です。急性期は二次救急を中心にしていて、リハビリテーションにも力を入れ、急性期から慢性期までの地域密着型医療を提供していると自負しています。
 当院から20キロほど西に行くと、久留米市の中心部になります。そこには三次救急を担う久留米大学病院や聖マリア病院など高度な医療を行う病院が集中していますので、当院としてはそれらの病院に、患者さんを的確に選別して紹介するということを行っています。
 また、それらの病院で治療を受けたのちに在宅復帰をめざす患者さんに対しては、当院でリハビリテーションを提供したり、介護保険の調整を行うことなどにより、ご自宅で暮らせるようにすることが求められているのではないかと考えています。
 あまり重症ではない患者さん、例えば肺炎や骨折など、一般的な医療で対応できる患者さんに対しては、なるべく当院で治療して医療を地域で完結できるようにしてあげることが、当法人の理念である「地域のために、地域と共に」にそうことですし、地域のためになることだと思っています。

──田主丸中央病院は地域の中核病院で、多岐に亘る医療機能をもっておられます。
 そうですね、当院には、◇一般急性期病床90床◇地域包括ケア病床34床◇回復期リハビリテーション病棟47床◇医療療養病棟25床◇緩和ケア病棟13床◇障害者施設等一般病棟41床◇精神科病棟(身体合併症病棟)47床◇精神科病棟46床―と、さまざまな病棟が少しずつあります。
 私が院長になったのは10年前のことですが、それから医療制度や地域のニーズを考慮しながら病棟再編を4、5回繰り返したのです。それにより、いまは地域に一番合う病棟構成になっているのではないかなと思います。
 地域医療構想が始まってからは、あまり病床を変えられなくなったので、あの頃に再編して地域に合わせた形にしておいて、よかったと感じますね。

地ケアのポストアキュート受入れに診療報酬改定で厳しい評価
──最近の診療報酬改定で、地域包括ケア病棟等に期待される機能のうち、ポストアキュート機能に対しては、厳しい評価が行われていると感じます。田主丸中央病院には急性期病床があり、地域包括ケア病棟はポストアキュート機能での活用が多いと思います。鬼塚先生は地域包括ケア病棟の意義をどのように考えていますか。

 2022年度診療報酬改定以前の自院の地域包括ケア病棟の使い方は、8~9割の病床がポストアキュート機能でした。
 しかし2022年度改定で、200床~400床未満の病院についても、自院の一般病棟から地域包括ケア病棟への転棟割合が6割以上になると減額される措置の対象となり、減額率も15%に拡大しました。
 そのほかの見直しもあり、ポストアキュート機能の受入れに対しては、厳しい改定が行われたと理解しています。これを受け、いわゆるサブアキュート機能での患者の受入れを一定程度は行うようになりました。
 もともと、自院は、高度急性期の大病院のように、重症患者の治療を集中的に受け入れるというよりも、地域包括ケア病棟のほうがふさわしい患者の受入れが多かったので、無理して地域包括ケア病棟で受け入れているという感じではありません。
 また、2020年度改定では、入院期間により入院料が下がるDPC/PDPSにおいて、地域包括ケア病棟の入院料が入院期間Ⅱよりも高いために、入院期間Ⅱになると、地域包括ケア病棟に転棟させる誘因が働いてしまう仕組みも見直されました。2022年度改定でもさらなる是正がありました。
 入院患者の病態に合った病棟に入院するという方向での見直しであり、それは理解します。

自由度こそが地域包括ケア病棟の醍醐味
──地域密着型の病院における地域包括ケア病棟のあり方を、どのように考えておられますか。

 地域包括ケア病棟をどのように使ったらよいかということは、病院の地政学的な状況や、周囲にどのような病院があるかといったことにより、微妙に違ってくるでしょう。
 地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長が言う「最大にして最強の」という地域包括ケア病棟は、なるべく病院側に自由度高く使わせてもらうほうがいいのではないかと個人的には思っています。
 前回の診療報酬改定で国は、地域包括ケア病棟はこうあるべきというテーゼをだされたように考えています。そうであれば、それに従って、ルールの範囲内で柔軟に使っていくしかないのではないでしょうか。
 大病院が地域包括ケア病棟をもつことにより、ポストアキュートの患者を抱え込むことになってしまった状況には、首をかしげるところがあるかもしれません。とはいえ、本来、自由度こそが地域包括ケア病棟の醍醐味だったと思うのです。
 それなのに、あまりに細かいルールを設定されると、病院側はマネジメントに無駄な労力を使わざるをえない。それは医療の本質からそれるのではないかと危惧しています。

7月に地域包括ケア病棟の研究大会を開催
──地域包括ケア病棟協会が7月8日に東京・大手町で開催する研究大会では、鬼塚先生が大会長を務められるのですね。

 地域包括ケア病棟協会に入ってまだ日が浅い自分が大会長を引き受けてよいのかという思いがありました。しかし、地域包括ケア病棟の制度がつくられた2014年から当院では地域包括ケア病棟をつくっており、私も地域包括ケア病棟に対してはそれなりの思いを持っています。その経験を多少なりとも大会運営に生かしたいと考えているところです。
 研究大会では、日本医師会の松本吉郎会長に基調講演、厚生労働省の眞鍋馨医療課長に特別講演をお願いしています。「コロナ禍の振り返りと今後の取り組み~マルチモビディティへの対応を含めて~」と題したパネルディスカッションや、「地域包括ケア病棟、あるべき姿への挑戦」をテーマにしたシンポジウムも開催します。
 地域包括ケア病棟のあるべき姿をどう捉えて、診療報酬改定をリードするのか、増え続けるマルチモビディティの患者の診療にどう挑んでいくのかといったことを議論してもらいます。
 オンラインではなく現地開催の学会を開くのは久しぶりのことですので、是非多くの方にご参加いただきたいと思っています。

地域包括ケア病棟もつ中小病院がかかりつけ医機能担うのが理想
──国の医療政策では、かかりつけ医機能の制度整備が課題となっています。地域包括ケア病棟をもつ病院は、かかりつけ医機能をどのように担っていけると思いますか。

 かかりつけ医制度を国がつくろうとしたその意図は、英国のGP制度を見習って、医師にゲートキーパー的な役割をもたせて一般の患者が安易に総合病院を受診できないようにし、医療費を抑制したいということだったのではないでしょうか。
 しかし、かかりつけ医というのは本来、そういうものではありません。現在、国会で審議されている法案に盛り込まれたかかりつけ医機能の制度整備も、そのような趣旨ではなく、かかりつけ医は患者・国民が選ぶものという原則に立ち、かかりつけ医機能を位置付けるということになりました。それに基づいて、全日病の考え方が昨年12月に示されています。
 かかりつけ医機能というのは、本来、中小病院がもつべきなのではないかと私は思っています。さまざまな疾患をもつマルチモビディティで、医療だけでなく介護保険や福祉も利用しなければいけない患者さんを、1人の医師が昼夜を問わず、診断から介護までをカバーするというのは不可能な話でしょう。
 地域包括ケア病棟を有するような中小病院が、地域包括ケア病棟をうまくつかいながら、地域でかかりつけ医機能を発揮し、診療所の先生たちとも可能なところは協力しながら、地域医療を支えるというのが理想ではないかと思います。

医療から生活支援まで一体的にサービス提供したい
──今後の展望をお聞かせください。

 わたくしどもの法人は久留米市を中心に2つの病院と訪問看護ステーション、通所リハビリ、グループホームなど計18施設を運営しています。また関連法人である社会福祉法人ひじり会が特別養護老人ホームを運営しています。今後、もし病床を増やせるのなら、介護医療院をつくりたいと思っています。
 また、調整会議に高度急性期のハイケアユニット(8床)の設置を申請し、その許可は下りています。そのため、急性期の一部を高度急性期の機能に変える予定です。ただ、マンパワーの問題から踏み出せずにいるところです。
 地域の住民の皆さんが、住み慣れたこの地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される、切れ目のない地域包括ケアシステムの構築を今後も目指していきたいと考えています。
──ありがとうございました。

【病院の概要】
所在地:福岡県久留米市田主丸町益生田892
病床数:343床(一般病床178床、精神科病床93床、療養病床72床)
開設者:医療法人聖峰会
理事長:鬼塚一郎
診療科目:一般外科、脳神経外科、整形外科、心臓血管外科、歯科・口腔外科、眼科、ペインクリニック、放射線科、精神科、リハビリテーション科、一般内科・総合診療科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、腎臓内科・透析内科、糖尿病・内分泌内科、血液内科、脳神経内科、リウマチ・膠原病科、泌尿器科、皮膚科、形成外科、耳鼻咽喉科、スキンケア外来

 

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  • [1] 2022.6.1 No.1010

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2022/220601.pdf

    2022/06/01 ... ハイケアユニット入院医療管理料1の ... 2020年初から始まったコロナ禍も3年. 目に入った。2年前の4月 ... 「DPC/PDPS、短期滞在手術等基本料」、.

  • [2] 2021.11.1 No.997

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2021/211101.pdf

    2021/11/01 ... また、新型コロナ禍で授業などがオ. ンライン化し実際に集まる場が ... グループやDPC/PDPS 等作業グルー ... や救命救急入院料、ハイケアユニット.

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