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ホーム全日病ニュース(2023年)第1036回/2023年7月15日号地ケア病棟での高齢者救急をめぐり議論

地ケア病棟での高齢者救急をめぐり議論

地ケア病棟での高齢者救急をめぐり議論

【中医協総会】2024年度診療報酬改定に向け入院医療全般がテーマ

 中医協総会(小塩隆士会長)は7月5日、2024年度診療報酬改定に向け、入院(その1)をテーマに議論を行った。入院医療全般を取り巻く状況をはじめ、急性期から回復期、慢性期まで幅広い領域が取り上げられた。
 その中で、委員から最も多くの発言があったのが、増加する救急搬送への対応であった。特に、地域包括ケア病棟等(地ケア病棟)のある病院での高齢者の救急搬送の受入れをどのように評価するかということをめぐり、診療側から、「強引な診療報酬による誘導」(長島公之委員・日本医師会常任理事)を懸念する様々な指摘があった。
 長島委員は、救急医療の診療報酬の評価について、「これまでの改定では、高度急性期に対する評価を重視してきたため、二次救急を担う医療機関への評価が不十分な状況になっている。医療計画がテーマとなった総会でも議論したように、三次救急からの下り搬送や出口問題に対応することへの評価を含め、二次救急の評価の充実を検討すること」を求めた。
 その上で、「高度急性期、急性期病棟と地域包括ケア病棟の機能分化を推進するための手段として、診療報酬で強引に誘導するやり方は現場に混乱を招きかねない」との懸念を示した。
 日医常任理事の江澤和彦委員は現場の実態から、高齢者救急搬送に対する考え方を示した。
 まず、原則として、「在宅や介護施設からの入院患者は、病態にふさわしい場所に入院することが望ましく、例えば、脳梗塞や心筋梗塞で、ご自身が治療を望まれる場合は、高度急性期、急性期病棟で治療すべき。一方、誤嚥性肺炎や尿路感染症の場合は、対応可能な地ケア病棟で受け入れることを考える場合が出てくる。ただし、地ケア病棟は看護配置が13対1で、救急医療管理加算も算定できない。対応できる救急医療には限界があることを認識すべきだ」と強調した。
 その上で、「大切なことは、介護施設や高齢者向け住宅と、地ケア病棟のある在宅療養支援病院など中小病院が、顔の見える良好な連携体制を構築すること。平素から連携が取れていれば、救急車による救急搬送よりも、介護施設などの職員の付き添い、あるいは医療機関が患者を迎えに行く緊急入院が多くなる」と述べ、救急医療における現場の実態を踏まえた評価を行うことを主張した。
 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員も、地ケア病棟が担う高齢者救急について発言した。「2024年度の同時報酬改定に向けた意見交換会でも、高齢者救急を地ケア病棟で受け入れることが論点になった。だが、高齢者救急を一括りで語るのは非常に危険。緊急手術で治した後に自宅に戻るような場合もたくさんある。現場でも、地ケア病棟が中心の病院は、身の丈に合った救急医療を行っているのが実態であって、地域の関係者の間で、それぞれの判断基準を持っている」と述べた。
 また、江澤委員と同様に、関係機関が顔の見える医療介護連携体制を構築していれば、患者の病態に応じて、介護施設職員の付き添いなどさまざまな手段を通じた適切な救急搬送が行われることになるため、地域の柔軟な取り組みに対応した診療報酬の設定をすべきであるとした。
 一方、健康保険組合連合会理事の松本真人委員は、「急性期一般入院料1でも65歳以上で要介護、ADLが低い患者が増えている。リハビリ職員の数は急性期病棟よりも地ケア病棟のほうが多く、地ケア病棟のほうが望ましい患者も、急性期病棟に入院していると思われる」と述べつつ、「診療側から現場の実態を踏まえた意見が出たので、それはしっかりと頭に入れて、下り搬送や出口問題に対応することの議論を進めたい」と一定の理解を示した。

急性期一般入院料1が微増
 入院医療全般に対して、支払側が求めたのは、政府の骨太方針にも明記され、長年の課題とされる医療機能の分化・連携であった。
 全国健康保険協会理事長の安藤伸樹委員は、「次期改定は、団塊世代がすべて75歳以上になる2025年の前の最後のタイミングである。超高齢社会でも持続可能な医療提供体制とするために、医療機能の分化・連携を進めなければならない。しかし、(看護配置が7対1の)急性期一般入院料1をみると、2020年から2022年にかけて、わずかに増加している。高度急性期、急性期の病棟が、重点的な医療を必要とする患者が入院する病棟にふさわしいものとなるため、機能分化を図ってほしい」と求めた(下図参照)。
 松本委員も、急性期一般入院料1が2020年から2022年にかけて、わずかに増加していることを問題視。「2022年度改定の効果を検証した上で、かなり踏み込んだ対応が必要」と語気を強めた。2022年度改定での「重症度、医療・看護必要度」(必要度)の見直しについて、「A項目の心電図モニターが廃止となったが、(200床未満の)基準値が下がり、影響が相殺されてしまっている。まだまだ急性期病床が過剰である可能性は残っている」と指摘した。
 急性期については、2022年度改定で導入した急性期充実体制加算が議論になった。同加算は、「コロナに対応した医療機関の役割等を踏まえ、手術や救急医療等の高度かつ専門的な医療及び高度急性期医療の提供に係る体制を十分に確保している体制」を評価する点数となっている。
 長島委員は、同加算が総合入院体制加算と併算定できないことから、「両点数は役割が違うはずであり、地域医療への影響を検証する必要がある」との懸念を示した。松本委員は、算定しない理由として、手術や全身麻酔の実績など施設基準が満たせないとの回答が多かったことから、「加算の趣旨を踏まえると、要件緩和はあり得ない」とけん制した。
 また、日本病院会副会長の島弘志委員は、「2022年度改定で、特定集中治療室用の『必要度』にも『Ⅱ』が導入され、看護職員の負担軽減が図られた」と述べた上で、ハイケアユニット用の『必要度』を用いる救命救急入院料1・3やハイケアユニットにも『Ⅱ』を導入すべきと主張した。

FIMの評価は出口が大事
 回復期リハビリテーション病棟入院料については、リハビリテーションの効果を測定するために導入したFIM(日常生活動作の指標)をめぐり議論が行われた。
 2022年度改定で、入棟時・退棟時FIMの値の経年変化をみると、入棟時FIMが明らかに低下しており、FIM利得を上げるための操作であることが疑われ、第三者評価が努力義務となった。議論では、複数の支払側の委員が、第三者評価の状況を把握して示すことを求めた。
 一方、池端委員は、「入口よりも出口のほうが大事で、FIM利得が上がるリハビリテーションを施設内で行って、運動・認知機能が改善した後に、自宅等に戻ったら、また急激に落ちてしまっているかもしれない。継続して把握しFIMがよくなっているかを確認していくことが大事だ」と主張した。
 療養病棟入院基本料については、経過措置の取扱いが議論になった。
 療養病床の医療法施行規則における人員配置基準では、一定の要件を満たす医療機関に対して経過措置が認められているが、その期限が2024年3月31日となっている。診療報酬においては、2022年度改定で、療養病棟入院基本料の注11に規定する経過措置が2年間延長された。
 注11では、療養病棟入院基本料2の基準を満たせず、一定の基準を満たす場合に、25%の減算を受けた上で、入院基本料を算定できることが規定されている。長島委員は、「丁寧に対応し、入院患者に混乱を招かないようお願いする」と求めた。松本委員は、「経過措置が残ることはあり得ないので、きちんと廃止して、療養病棟のあり方を議論したい」と述べた。

 

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