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ホーム全日病ニュース(2023年)第1037回/2023年8月1日号採用では多様性を重視し女性を起点として考える

採用では多様性を重視し女性を起点として考える


高原社長、石川理事長

採用では多様性を重視し女性を起点として考える

【シリーズ●『企業トップに聞く』②】
ユニ・チャーム株式会社 高原豪久社長
聞き手=石川賀代・社会医療法人石川記念会HITO 病院理事長

多様性を受け入れる採用方法
新たなキャリアパスも導入

──ユニ・チャームでは採用においても多様性を重視していると聞きました。具体的には、どのようなものでしょうか。

 そのご質問にお答えするまえに、入社後の一般的なキャリアについてお伝えしたいと思います。当社では、どのような職種の社員でも、新入社員は全員営業を経験してもらいます。なぜなら営業は最終顧客である「消費者」の一番近くで仕事をするからです。当社は1961年創業と日用品メーカーでは後発です。そんな当社が競合に勝つには「消費者に密着する」しかありませんでした。そんな訳で「営業」は当社の原点なのです。よって全ての社員が営業からスタートするべきだと考えています。「営業が向かない人もいるのでは?」と心配されるかたも多いと思いますが、実際にはどんなに「とんがった人」でも営業は活かすことができると思います。
 ジェンダーの観点では、全体の採用数の枠の中で、女性の比率を最初に決め、女性が多くなるようにしています。なぜなら社会が大きく変わる中で、女性の発想を軸にして考えようという方針があるからです。
 また、海外で営業する人材の世代交代を進める時期になっており、その点も踏まえて採用しています。しかしながら、最近は海外で活躍したいという日本人が少なくなっていると感じます。採用面談では「働き方」についても希望を確認しますが、その際に必ず海外で働くことについての意向を確認するようにしています。
 一時期、留学で日本を訪れたアジアの人たちを採用し、出身国で活躍してもらうことを期待したのですが、彼・彼女らは日本の社会や文化が好きで、日本で暮らし働くために来たのであって、母国に帰りたいわけではないことがわかりました。昔と違い、給料も日本と他のアジア諸国であまり変わらなくなっています。採用しない訳ではありませんが、外国人人材の特別枠は廃止しました。なお、当社は80を超える国・地域で事業を展開していますが、経済成長している国・地域で働いている人たちはエネルギーがあって、クールな日本人と違うパッションがあります。そのような社員は、やはり反応もポジティブで一緒に仕事をしているとモティベートされます。これもある意味、多様性ではないかと思います。
 ちなみに当社では日本を含め全ての現地法人で統一したマネジメントモデル「ユニ・チャームウェイ」を実践しています。グローバル企業とは進出国・地域の多寡や業容規模ではなく「統一されたマネジメントモデルで経営されているか否か」で語られるべきだと私は思います。この「ユニ・チャームウェイ」への取り組み姿勢も、やはり経済成長している国・地域の社員の方が積極的です。

──組織自体が多様性を受け入れる環境になっているというか、それが当たり前の環境であることが必要なのだと思います。また、人生100年時代において、再チャレンジする経験者も増えるでしょうから、人材確保の観点でも多様性は重要です。
 そうですね。ずっと同じ会社で働くことが当たり前ではなくなり、私の年代とはだいぶ感覚が変わってきました。やはり「この会社は私をどれだけ成長させてくれるのか?」が問われる時代になっているのだと思います。
 とはいえ「三つ子の魂百まで」と言うように、最初が肝心です。やはり、社会にでたばかりのころに当社で学んだことが、その後の人生において、ちゃんと役に立つようにしてあげたいと思います。仮にその人が他社に移ってしまうとしてもです。
 他方で当社では育てられないスキルもあります。例えば、デジタルです。また、ユニ・チャームはいわゆるハイテク企業ではありませんから、自社にはない技術を活用するための接点をどうつくるかも重要な課題です。
 デジタル人材については、知識のある人を数人雇用しても埋もれてしまうので、採用・報酬の形態が本社とは全く異なる「出島」のような組織を作ることを検討しています。それでも、ユニ・チャームの理念は注入しなければなりませんので、出島にもプロパーの社員を送り込む必要はあります。

──ユニ・チャームがもともと持っている基盤に、新しいものが融合することで、イノベーションが起きる可能性がありますね。
 イノベーションとは一過性の取り組みで何とかなるものではなく、むしろ小さな事柄をコツコツと地道に積み重ねることによって創出されるものだと思います。究極的には成長し続けることが会社には使命づけられている訳で、そのために必要なイノベーションの種を会社組織に埋め込んでいく必要があり、多様性もその一つです。

理念を示しブレない姿勢を貫き 社会に合わせて自らを変える
──私が経営する介護施設にもユニ・チャームの排泄コーディネーターの方に来てもらって、おむつの正しい当て方などを指導してもらいました。介護施設の職員には外国人が多く、利用者が不快を感じずに装着できるスキンケアの行き届いたおむつの使用方法を学ぶことは大変役立ちました。

 スキンコンディションという商品は、褥瘡ができにくいという効果を臨床データから得ており、製品化まで相当の時間と労力を費やしました。評価をいただけて大変うれしく思います。
 一方で、顧客ニーズを100%解決することは永遠のテーマであり、完成形はありません。でも、100%を追求する気持ちが強ければ、顧客に評価される商品へとつながると信じています。

──現場の声をしっかりときいて開発しないと、よい商品は生まれないということを感じます。現場の声、働く人たちの声、それらをきちんときいて対応することが、「共振の経営」の一つの現れなのですね。
 介護施設の職員の方であれば、日々の仕事で様々な知見を蓄えており、カスタマイズしたやり方にこだわりを持たれるのは至極当然のことです。その心理的な壁を越えるぐらいのエポックメイキングな商品を提供しないとダメだと思います。商品の品質や値段だけではなく、例えば、介護の場面で必要な機能は何かを考え、装着される方・装着する方双方の肉体的・心理的な負担を減らすことを目指します。それは介護する側である職員の方々の負担をも軽減することにつながるはずです。

──いろいろとお話をおききして、一番感じたのは、高原社長のブレない姿勢であり、すべてにおいて、それが一貫しているということです。環境が変わり、それに合った対応をしなければならないときに、一本筋が通っているから、自らが変わることも恐れない。成果を出すことに貪欲でありながら、すべてのステークホルダーに対して、自らのやるべきことを理念として明確に示すという姿勢にも心を動かされました。
 そして、それは病院経営にもつながります。地域の中小病院はいま大きな変革期にあり、変わらなければ今後行き詰まってしまいます。働く場としても、選ばれる病院にならなければ職員が集まりません。そういう時代だからこそ、高原社長にお話しを伺いたかった。経営者の手腕によって、変わっていけるということを伝えたいと思いました。
 最後に、病院、介護施設の経営者にメッセージをお願いします。

 我々は企業として顧客に対し積極的にアプローチします。対して、多くの病院は受け身なのでは? と思います。まだ患者ではない、いわゆる「未病」の人たちも含め、個人の違いに着目し、積極的にニーズを探す必要があるのではないかと思います。人生100年時代ですから、できるだけ病気にならずに人生を謳歌することに、病院がもっと関わることを期待します。

──おっしゃる通りで、個人の違いに着目してニーズを探すことがとても重要です。誰も寝たきりにはなりたくないし、亡くなる直前まで自立した生活を送りたい。これからの時代、それをサポートし、「求められる医療」を提供し、人に寄り添うことができる病院が本当に求められているのだと思います。

 

全日病ニュース2023年8月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2019.11.1 No.951

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/191101.pdf

    2019/11/01 ... 傷処置が多いのも褥瘡の治療などだろ. う。慢性期と急性期の違いは、急性 ... 療養でのカロリー輸液投与を調査 ... HITO病院理事長の石川賀代氏は、.

  • [2] 第 4章

    https://www.ajha.or.jp/about_us/60years/pdf/60years_04.pdf

    たが、各病院は点数の多寡だけで判断するのでは ... 講師)石川賀代(社会医療法人石川記念会 HITO 病院 理事長・院長) ... 褥瘡の持込率、8.褥瘡の発生率、.

  • [3] 公益社団法人 - 全日本病院協会 60周年記念誌

    https://www.ajha.or.jp/about_us/60years/pdf/60years.pdf

    2017/09/03 ... 安藤朗(社団法人全日本病院協会 副会長 医療法人社団永生会 永生病院 理事 ... 講師)石川賀代(社会医療法人石川記念会 HITO 病院 理事長・院長).

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