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ホーム全日病ニュース(2023年)第1037回/2023年8月1日号高齢者救急の受け入れ先としての地ケア病棟を議論

高齢者救急の受け入れ先としての地ケア病棟を議論

高齢者救急の受け入れ先としての地ケア病棟を議論

【中医協・入院医療等分科会】急性期入院医療、地域包括ケア病棟、身体的拘束をテーマに議論

 中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)は7月6日、急性期入院医療(その1)、地域包括ケア病棟(その1)、横断的事項等(その1)として身体的拘束をテーマに議論を行った。地域包括ケア病棟(地ケア病棟)については、2024年度診療報酬改定に向け焦点の一つとなっている高齢者救急の受け入れ先としての役割をめぐり、さまざまな意見が出た。
 全日病会長の猪口雄二委員(日本医師会副会長)や全日病常任理事の津留英智委員は、高齢者の救急搬送の受け入れ先を地ケア病棟中心とすることに対し、慎重に対応すべきとの意見を述べた。厚生労働省担当者は、リハビリテーション、栄養、口腔のケアの観点を含め、高齢者の療養環境として地域包括ケアが望ましいとの考えを示しつつ、直接入棟であるかは別として、高齢者救急をどう支えるかという課題に対応しなければならないと強調した。

総合入院体制加算から急性期
充実体制加算への移行で懸念

 急性期入院医療(その1)では、急性期充実体制加算と総合入院体制加算の関係が論点となった。
 急性期充実体制加算は、2022年度改定で、「地域において高度急性期・急性期医療を集中的・効率的に提供する体制を確保する観点から、手術や救急医療等の高度かつ専門的な医療に係る実績を一定程度有した上で、急性期入院医療を実施するための体制を確保している医療機関に対する評価」として、新設された。点数は1日につき、7日以内の期間は460点、8日以上11日以内の期間は120点、12日以上14日以内の期間は180点となっており、かなり高い評価と言える。
 2022年9 月時点(DPCデータ)において、全国1,506の急性期一般入院料1を届け出ている医療機関のうち、165施設が急性期充実体制加算の届出を行っている。
 一方、同じく、急性期の入院基本料の加算として、「十分な人員配置及び設備等を備え総合的かつ専門的な急性期医療を24時間提供できる体制及び医療従事者の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制等を評価」する総合入院体制加算がある。点数は1日につき14日までで、加算1が240点、加算2が180点、加算3が120点となっている。急性期充実体制加算とは併算定できないため、どちらかを選ぶことになる。
 両者の機能には違いがある。急性期充実体制加算には、高度急性期・急性期医療を集中的・効率的に提供する機能を求め、24時間の救急医療提供や手術などで、高い実績の要件が設定されている。特に、全身麻酔による手術などの実績は、総合入院体制よりも厳しい基準が置かれている。
 一方、総合入院体制加算には、総合的かつ専門的な急性期医療の機能として、小児科、産科または産婦人科を含む主要な診療科の標榜を求めており、総合病院の機能に重きを置いている。加算1では「精神科患者の入院受入体制」が要件となっている。
 このため、総合入院体制加算から急性期充実体制加算に変更する病院が、特定の診療科を廃止してしまう懸念があった。
 2021年の総合入院体制加算の届出は395施設で、急性期充実体制加算が新設された2022年に257施設に減った。これに対し、急性期充実体制加算は157施設となっている(左上図参照)。
 厚生労働省は、2022年9月時点で、許可病床数が200床以上であって、急性期充実体制加算を算定する医療機関のうち、2020年9月時点で総合入院体制加算を算定していた施設は90.9%であることも示した。
 猪口委員は、「(精神患者の入院受入体制がある)総合入院体制加算1の届出が、急性期充実体制加算の新設により減っている。精神疾患患者の重度合併症を診る病棟が減ってしまうと、非常に大きな問題になる。すぐに問題が生じるということではないかもしれないが、数年の間に影響が出てくる可能性がある」との懸念を示した。その上で、「精神疾患の合併症を診ることのできる基幹病院や特定機能病院におけるDPC/PDPSや平均在院日数の評価のあり方を考える必要が出てくる」と述べた。
 厚労省は、急性期充実体制加算の新設による影響を把握するため、様々な視点で調査を行っている。例えば、産科、小児科、精神科の標榜については、「小児入院医療管理料の算定」、「帝王切開の実施」、「精神科入院料の算定」を指標とし、その有無の割合をみた。急性期充実体制加算を算定する急性期一般入院料1かつ許可病床数200床以上の医療機関で、2018年、2020年、2022年で算定の有無の割合は、ほとんど変化していないとの結果だった。
 また、急性期充実体制加算を算定している9施設にヒアリング調査を行ったところ、2022年4月以前と2023年1月1日時点の状況において、大きく体制を変更した施設はなかった。総合入院体制加算2の届出施設が、加算1を取得することを目指し、精神科病床の準備を検討していたが、急性期充実体制加算が新設されたために、精神科病床を持たない決断をした病院があることはわかった。
 委員間では、現状では大きな問題は発生していないと判断しつつ、状況を注視していくことが必要との考えで一致した。
 津留委員は、急性期充実体制加算の都道府県偏在に言及した。「大都市のある都道府県では、半径10キロメートル以内に申請病院がひしめき合っているかもしれない。一方で、申請がない県が5つある。手術などの実績要件が厳しいということもあり、未申請の県でも手上げができるよう、例えば加算2を作るなど要件緩和の選択肢もあると思う。だが、そうすると、ますます大都市の申請病院が増えることになり、結局都道府県の格差が拡大してしまう」と述べた。
 その上で、「急性期充実体制加算における高度急性期医療の評価も大事だが、やはり、今後増加する高齢者救急をしっかりと支える医療提供体制を構築するための評価として、地域の2次救急などに重きを置いた議論が大事であると思う」と次期改定の優先順位に関し要望した。

直接入棟かは別に地ケア病棟は高齢者の療養環境に適している
 地域包括ケア病棟(その1)に関しては、さまざまなデータが示され、意見が交わされた。
 猪口委員は、まず、「(自院一般病棟からの転棟割合が6割以上である場合に、入院料が減算されるなど)2022年度改定で様々な減算規定が導入され、地ケア病棟に対しては、大きな見直しが行われた」との認識を示した。
 その上で、地ケア病棟・病室における患者の流れのデータなどを踏まえ、「明らかに、自宅からの受入れが増加し、自院からの転棟が減る傾向にある。地ケア病棟は多様であり、受入患者に要介護が非常に多いことが、他のデータからも、みて取れる。(急性期病棟からの受入れ、在宅等からの受入れ、在宅復帰支援という)地ケア病棟の3つの機能を現状の地ケア病棟はそれなりに果たしていると言えるのではないか」との認識を示した。
 また、厚労省は、地ケア病棟の入院患者のうち、救急搬送後、他の病棟を経由せずに、地ケア病棟に直接入棟した患者は、他病棟経由に比べ、リハビリテーション実施頻度、リハビリ実施単位数が低い傾向にあるとのデータも示した。さらに、急性期病棟に入院した誤嚥性肺炎患者に対し、早期にリハビリを実施することが、死亡率の低下やADLの改善につながるという実証データも紹介した。
 これに対して猪口委員は、「それはその通りなのだが、地ケア病棟に救急搬送されて、すぐにリハビリを始められるかというと、そうではないので、やむを得ないところもある。誤嚥性肺炎の患者にリハビリが効果的であることを現場は当然わかっており、行われている」と指摘。「地ケア病棟は完成されてきており、前回改定のような大きな変更を次期改定で行うべきではないというのが私の考えだ」と強調した。
 次期改定に向けた地ケア病棟をめぐる議論では、高齢者救急が増大する中で、「要介護の高齢者に対する急性期医療は、介護保険施設の医師や地域包括ケア病棟が中心的に担い、急性期一般病棟は急性期医療に重点化することで、限られた医療資源を有効活用すべき」(同日の資料で示された同時報酬改定に向けた意見交換会における主な意見)との考えが背景にある。
 津留委員は、「消防庁のデータによると、高齢者救急の疾病分類で『症状・徴候・診断名不明確』が最も多く、増加している。だが、これは症状が軽いということではなく、何となく元気が無い、ぼーっとして普段と様子が違うという状態で搬送され、診断にも時間がかかるが、検査などを行った後に、重症であることが判明することも少なくない」と述べ、高齢者救急であるから、地ケア病棟に搬送するという考えに対して、改めて慎重な対応を求めた。
 また、厚労省の資料では、「自院の一般病床からの転棟割合が8割以上の病棟」を抽出して、ポストアキュート中心の病棟であると区分けしていることに対し、6割以上で減算措置が適用されることから、6割で区切って、地ケア病棟の機能の違いを判断するべきと指摘し、資料の作成を要望した。その上で、「ポストアキュート中心の地ケア病棟を悪者扱いしているような印象もあるが、決してそういうことではなく、地ケア病棟が果たす機能の一つとしてポストアキュートもきちんと評価すべき」と述べた。
 厚労省は、地ケア病棟に直接入棟する患者の特徴として、◇誤嚥性肺炎や尿路感染症が多い◇医療的な状態が不安定な傾向◇医師による診察の頻度、必要性が高い傾向にある◇看護師による直接の看護提供の頻度・必要性が高い傾向にある◇リハビリ実施頻度、リハビリ実施単位数は低い傾向にある─といった特徴を示した(6面左下図参照)。
 これらに対しても、津留委員は、「地ケア病棟は看護配置が13対1で少なく、急性期病棟ほど状態が不安定な患者を診る体制がないので、地ケア病棟に直接入棟するメリットがみえない。急性期病棟から地ケア病棟に適切に転棟するという機能について、もっと考えていくべきである」と述べた。
 さまざまな委員の意見を受け、厚労省担当者は、「85歳以上高齢者の増加など人口動態が変化し、救急搬送される高齢者が増えている。地ケア病棟を含め医療全体としてこれをどう支えていくかという課題がある。在宅医療が今後増えることも踏まえると、在宅からの受け皿も考えないといけない。高齢者救急の受け入れ先としては、リハビリテーション、栄養、口腔の観点でのケアが充実している場所が望ましい。直接入棟であるかは別として、高齢者救急を地ケア病棟で受け入れるにあたって、何が必要であるかを議論して頂きたい」と述べた。

身体的拘束の医療の実態
治療室や療養病棟で多い

 横断的事項等(その1)では、「身体的拘束」が取り上げられた。
 身体拘束ゼロに向けた取組みは介護保険で進んでいる。介護保険では、介護保険施設等の運営基準において、緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束を行ってはならない。「緊急やむを得ない場合」とは、「切迫性」、「非代替性」、「一時性」の3つの要件すべてを満たし、手続きが極めて慎重に実施されている場合である。
 医療機関における身体的拘束の実施状況をみると、ほとんどの病棟・病室において、入院患者に対する身体的拘束の実施率は0%~ 10%未満(0%を含む)であるが、実施率が50%を超える病棟・病室も一定程度あった。
 身体的拘束が実施された患者の状態や実施理由では以下のようなものがあった。
 ◇認知症やBPSD、せん妄のある患者で実施率が高い◇認知症ありの場合、約2~4割で実施◇認知症なしの場合、治療室、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料を算定する患者を除き、実施率は1割以内◇実施理由としては、「ライン・チューブ類の自己抜去防止」または「転棟・転落防止」が多く、合わせて9割◇身体的拘束を行った日の一日の拘束時間は、約7割が常時(24時間)拘束─。
 認知症なしの場合でも、治療室や療養病棟入院基本料において比較的、身体的拘束が多いことについては、理由が異なると考えられ、さらに詳細な分析が必要との意見が出た。
 筑波大学医学医療系教授の田宮菜奈子委員は、特に、療養病棟での身体的拘束が少なくないことを問題視しつつ、身体的拘束の最小化を行っている施設の取組みが他の施設にも広がることを求めた。また、「介護の現場では身体的拘束をしないという取組みが進み、それはよいことなのだが、逆に、栄養チューブを入れる必要が生じ、身体的拘束は介護ではできないので療養病棟に行ってくださいと言われるとの現場の話をきく。それでは本末転倒」と訴えた。
 名古屋大学医学部附属病院教授の秋山智弥委員は、「拘束を行った日は、約7割が常時(24時間)拘束」していることに対し、「にわかに信じがたい」と述べ、離床センサーの取扱いなど身体的拘束の定義が回答者で一致していないのではないかと指摘した。
 津留委員は、認知症ありの場合に身体的拘束が多い傾向があることを踏まえ、認知症ケア加算に伴う取組みにより、身体的拘束が減ることが期待されるが、加算1、2で身体的拘束を実施した割合が変わらず、「加算1、2では、要件がかなり異なるにもかかわらず、身体的拘束について変わりがないことは気になる」と、さらなる分析を求めた。
 その上で、「ガイドラインなどを踏まえ、身体的拘束を予防・最小化する取組みを、病院長が認識を高めて、施設としてしっかりと取り組むことは重要。その一方で、マンパワーが限られ、今後、病院の介護人材の増加も期待できない。離床センサーやAI、介護ロボットなどテクノロジーの活用が望まれる。ただ、それには設備投資が必要になるので、これらを導入することの評価が必要になる」と主張した。

 

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