全日病ニュース

全日病ニュース

医療DX の工程表などをめぐり議論

医療DX の工程表などをめぐり議論

【社保審・医療部会】医療機関への財政支援に懸念

 社会保障審議会・医療部会(遠藤久夫部会長)は7月7日、厚生労働省から、政府が決定した医療DXに関する工程表や医療機関におけるサイバーセキュリティ対策、骨太方針2023、規制改革実施計画などの報告を受けた。
 岸田文雄首相が本部長の医療DX推進本部が6月2日に、医療DXの推進に関する工程表を決定。2024年秋に健康保険証を廃止することを含め、工程表に沿って、それぞれの計画が進むことになる。具体的には、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等」、「全国医療情報プラットフォームの構築」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」の分野がある。
 全日病副会長の神野正博委員は、工程表は政府の方針としてすでに決まったものであり、それを前提にするしかないとした上で、「資料に、ライフステージに応じた国民、医療・介護事業者、保険者・ベンダー等関係者にとっての医療DXのメリットが書かれている。しかし、実はこのほかに国や行政、社会保険診療報酬支払基金などの団体にとってのメリットが隠れているのだと思う」と、国民や医療機関にメリットがうまく伝わっていない現状についての懸念を含め、説明はしていないが、そちらのメリットを政府が重視していることを暗に示した(下図参照)。
 また、政府の医療DXとは別に、病院が行わなければならない医療DXがあることを強調した。「医療従事者の働き方改革や、人手不足などそれぞれの医療機関が直面している課題に対応するための医療DXがある。政府の医療DXはさておき、こちらをやらなければならないということのメッセージを政府がきちんと出すということが、極めて大事なことだと思っている」と述べた。
 病院団体の委員からは、医療DXを推進する過程で生じる医療機関の負担が不明確であることへの不満も相次いだ。日本精神科病院協会会長の山崎學委員は、「精神科病院の電子カルテ普及率は4割程度。一度導入すると、膨大な費用がかかる。微々たる診療報酬で電子カルテを導入しろといってもそれは無理なので、財源を誰がどれだけ出してくれるのかを明確にしてほしい。国が責任を持って、中小病院に財政援助をするという方針を明確にしてほしい」と訴えた。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「標準型電子カルテの導入などにより、医療機関等の間接コストを極小化すると資料に書いてある。標準型電子カルテはクラウド型で最低限の機能を備えるというが、初期コストは低くても、運用コストが高くなれば、クラウド型が必ずしも費用が低いとは言えない。機能も後から追加されて、国がきちんと支援しないと、ベンダーが請求する費用がどんどん膨らんでいく」と費用面での懸念を示した。
 これに対し、厚生労働省担当者は、「現状で電子カルテが普及していない最大の理由として、費用の問題があると指摘されている。これを踏まえ、診療報酬改定DX では、『共通算定モジュール等を実装した標準型レセコンや標準型電子カルテの提供により、医療機関等のシステムを抜本的に改革し、医療機関等の間接コストを極小化』することを目指している。ただ、現時点で財政支援の具体的な内容を示すことはできないことをご理解願いたい。骨太方針2023では、『医療DX の推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府をあげて確実に実現する』と書かれており、その決意で取り組む」と回答した。

病院のサイバーセキュリティ対策
 医療機関におけるサイバーセキュリティ対策については、医療法施行規則14条2項を新設し、病院、診療所または助産所の管理者が遵守すべき事項として、サイバーセキュリティを確保する「必要な措置」を講じることが追加され、4月1日から施行されている。
 「必要な措置」とは、最新の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を参照の上、サイバー攻撃に対する対策を含めたセキュリティ対策全般について、適切な対応を行うということ。優先的に取り組むべき事項は、厚労省がチェックリストを作成し、各医療機関で確認できる仕組みにするとしている。
 また、医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱の項目に、サイバーセキュリティ確保のための取組み状況を位置づけることになった。
 医療機関確認用のサイバーセキュリティチェックリストや、医療機関事業者向けと立入検査担当者向けのマニュアル・手引きも示された。
 全国自治体病院協議会会長の小熊豊委員は、「行政の立入検査の対象になるということは、法的な対応があり得るということ。立入検査担当者もまだ指導内容が十分にわかっていないという状況の中で、病院に厳しい対応を求めるというのは素直に納得できない。やらないというわけではないが、丁寧な対応をお願いする」と求めた。

規制改革会議の医療関係箇所
 骨太方針2023や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改定版」、「規制改革実施計画」の概要の報告では、特に、「規制改革実施計画」の医療関係箇所をめぐって、議論があった。
 例えば、在宅医療の領域では、地域の在宅患者に対して最適なタイミングで必要な医療が提供できず、患者が不利益を被っているとの観点から、「限定された範囲で診療行為の一部を実施可能な国家資格であるナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえ」て、2024・2025年度に調査を実施し、さらなる医師、看護師間でのタスクシェアを推進するための措置を検討することを求めている。その上で、2025年度中に結論をまとめるとしている。
 また、救急救命処置の範囲の拡大について、「医師の指示の下に救急救命士が実施する救急救命処置を議論する場を2023年夏に設置し、エコー検査を含む新しい処置の要望・提案」の検討を行い、検討の結果を踏まえ、速やかに必要な措置を講じるとしている。
 これらの閣議決定事項に対し、産業医科大学教授の松田晋哉委員は、「このような提案が全体の仕組みの中で、どういう位置づけになるのか。個別に変更することが、どのような影響を全体に与えるのか。それを考えないといけない。医師と看護師のタスクシェアは在宅医療全体として、救急救命処置の範囲の拡大は救急医療全体として考えないと、実装はできない。たんなる実験になる。規制改革会議ではそういうことがわからないと思うので、厚労省はこのような提案に対しては、ちゃんと打ち返してほしい」と述べた。

 

全日病ニュース2023年8月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 産情発 0531 第 11 号 令和5年5月 31 日 公益社団法人 全日本病院 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2023/230601_2.pdf

    2023/05/31 ... また、医療等分野及び医療情報システムに対するサイバー攻撃の一層の多様 ... 50 号)第 14 条第2項において、病院、診療所又は助産所の管理者が遵守 ...

  • [2] 医療情報システムの安全管理ガイドラインを改正「第6.0版」に|第 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20230415/news05.html

    2023/04/15 ... これに伴い、医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱の項目に、サイバーセキュリティ確保のための取組み状況を位置付けることになった。一般病院に ...

  • [3] 2023.4.15 No.1030

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2023/230415.pdf

    2023/04/15 ... 究所(INES)が2021年5月に提言した. 仕組み。 ... ともに、別添でサイバーセキュリティ ... ベンダーのリソースが逼迫している.

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。