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ホーム全日病ニュース(2024年)第1047回/2024年1月1日・15日合併号医療と介護のニーズをあわせもつ高齢者の増加 ADLを高める方向での対応を診療報酬で後押し 中小民間病院が持つアドバンテージを活かし 地域の実情に応じニーズに合わせ存在を変える

医療と介護のニーズをあわせもつ高齢者の増加
ADLを高める方向での対応を診療報酬で後押し/
中小民間病院が持つアドバンテージを活かし
地域の実情に応じニーズに合わせ存在を変える

医療と介護のニーズをあわせもつ高齢者の増加
ADLを高める方向での対応を診療報酬で後押し/
中小民間病院が持つアドバンテージを活かし
地域の実情に応じニーズに合わせ存在を変える

【全日病広報委員会企画 新春対談】迫井正深医務技監と猪口雄二会長が対談

 2024年の新年号では、「2040年を見据えた病院経営」をテーマとし、厚生労働省の迫井正深医務技監(写真左)と全日病の猪口雄二会長(写真右)の対談を行った。医療を取り巻く環境が厳しさを増している中で、地域医療を守るために病院に求められているものは何かについて語ってもらった。医師の働き方改革、診療報酬改定、中小病院にとってのかかりつけ医機能、地域医療構想について具体的な議論があった(取材日は2023年12月6日)。

医師の働き方改革が始まる
2024年度は序幕との位置づけ

猪口 医師の働き方改革への対応についてから議論を始めます。
 法律上の取扱いはすでに決まっていて、2024年度から医療機関としては、それを遵守しなければなりません。特例水準であるB水準(時間外労働の上限が年間1,860時間)の申請が現状で500病院ぐらいだときいていますが、特例水準であっても、大学病院などが上限時間内に勤務医の時間外労働時間が収まるよう労務管理をした場合に、大学病院などからのアルバイトの医師に頼っている病院が、今後も医師を確保できるのかということへの心配がまだあります。
 実際に大学病院の関係者に話をきくと「難しくなるかもしれない」との声もあり、二次救急医療体制など地域医療の維持ができなくなってしまうのではないかという懸念が払拭できていません。
迫井 医師の働き方改革というのは勤務医の長時間労働の是正が直接的な目的ですが、医師をどう育てるかということを含む積年の課題です。具体的にいうと、医師は医学部を卒業して医師免許を取得し、臨床医としてスキルを磨きながら学んでいきます。成長のプロセスはOJT(On the Job Training)であり、働く部分と学ぶ部分が混然一体となり、今日に至っています。
 働き方改革に関しては、すべての職種において、日本社会として長時間労働を是正し、働き方を変えていかなければならないという基本方針が打ち出されました。それがきっかけであるとしても、やはり現場の医師の働き方というのは、限界を超えつつあるのではないか、という問題意識が現場にはずっとあって、今回の局面を迎えているのだと考えています。
 解決が難しいことは理解しています。臨床医を育てるに当たって、大学医局を中心に医師が配置され、トレーニングを積むのだけど、誰が労務管理をするのか、誰が給料を払うのか、誰が財源を工面するのかといった問題も複雑に絡まりあっています。
 そんな中で、法施行を2024年度に控え、目の前に来ているという状況ですが、施行は医師の働き方改革の序幕であると思っています。
 つまり、施行は2024年度からですが、そこで完成しているというわけではなく、実際に動かしてみて、地域医療が確保され、ちゃんと回っているかを確認していきます。実際に動かしてみないとわからないことは正直あります。何かあっても改善・修正して前に進めていくという認識です。
 施行に向けて、地域医療を確保するという難しいミッションを達成するために、みんなが努力しています。そのこと自体の認識は浸透していると考えており、それぞれの病院がご自身の状況を点検していることと思います。
猪口 全体としては仰るように理解していますが、個別では難しい状況が生じていると思います。直前にならないと派遣元の医師の確保が確認できないということも少なくないようです。
迫井 人の配置の問題ですので、すぐに決めるのが難しいことはわかります。それでも、各病院がどの時間外労働上限の水準が適用されるのかなど、全体の状況がわかれば、ここがエアポケットになりそうであるとか、ここは何とかなりそうであるとか、地域医療の状況を確認できます。これについては、都道府県の役割に期待するところです。
 厚労省としては、施行までの準備を丁寧に進めてきたつもりですが、最初は認識の違いもありました。今はかなり歩調が合ってきたと感じています。問題意識の共有もできていると思っています。
猪口 確かに懸念が強かった宿日直許可の取得も相当進み、準備としてある程度のところまで行ったことはその通りです。ただ、やはりまだ心配はいろいろとあります。
 例えば、地域の救急医療体制の変化として、夜中の救急で宿日直許可を得ていない交代勤務の病院への搬送が集中する可能性があります。そうすると、医療機関が連携し早期に転院搬送する仕組みができていないと受入れが難しくなると思います。
 また、B水準を取得しない大学病院の行動がどうなるか。大学病院では、労働時間と自己研鑽の時間をどう整理するかが難しいという課題もきいており、その整理により労働時間が相当変わることを考えると、やはり医師の働き方改革は動き出してみないとわからないことが多いと考えます。
迫井 その通りだと思います。まだ、図上訓練の段階であり、実際に動かしたときに、複数が動き相互に関係するので、何が起きるのか連鎖反応により初めてわかるということはあります。そのため、準備できることは一生懸命やりつつ、弾力的で迅速な対応をする部分も合わせて考えています。
猪口 新臨床研修制度以来、若い医師の考え方はだいぶ変わってきたという印象も持ちます。昔のようにがむしゃらに働くという感じではなくなり、その意味でも、激変は起こらないのかもしれません。ですが、2024年4月に完成形になるわけではないので、いろいろと調整しながら進めていくということは理解しました。
 ただ、もし地域医療の確保が厳しいという事態が生じれば、この部分はしばらく厳しくしないでおこうというような話は出てくるでしょうか。
迫井 そのような対応をしたとしても施行が先に延びるだけです。2024年4月というのは準備期間を考慮し施行時期を遅らせた上での期日設定であり、特例水準も設けました。基本はそれをちゃんと運用することではないでしょうか。序幕を予定通りきちんと開けることから始めるべきだと思います。

物価高騰・賃金上昇への対応必要
過去の経緯からみて特異な改定に

猪口 2024年度診療報酬改定については、物価高騰・賃金上昇への対応が急務です。岸田政権が政府をあげて賃上げ要請を行い、2023年の春闘の賃上げ率は3.58%となりました。しかし、医療従事者の賃金をその水準まで引き上げることは、現状で多くの医療機関にとっては無理な状況です。賃上げに十分に対応できないと、他産業に人材が流れていってしまいます。
迫井 医療界として、これまでも声を上げて頂いていますが、物価高騰・賃金上昇など近年生じていなかったことが起きているとの現状認識は、政治・行政としても共有していると思います。では、それにどう対処するかということは極めて難易度の高い課題であり、まさに今、関係者が努力しているところです。
 逆にいうと、これまで物価も雇用も安定し、物価や人件費の変動が一定範囲に収まっていたので、診療報酬を安定的に運用することができてきました。それが極めて難しい局面になっている。これまで当たり前だったことが今の難しさに直結している。その意味で、今回の診療報酬改定は過去の経緯からみて特異なものです。
猪口 日本では物価のデフレーションが30年続き、その前はインフレーションがあり、診療報酬がすごく上がる時期もありましたが、この30年は経済としては異常だけど、診療報酬改定としては安定的な運用ができたということですね。今回の特異な状況において、地域医療を確保できる水準の診療報酬改定が行われることを切に願います。
 また、2024年度改定については、高齢者救急への対応が大きな課題となっていますので、それについておききします。若い人であれば救急車の必要はないが高齢者であれば必要な場合があります。例えば、腰椎の圧迫骨折や尿路感染症であるとか、発熱があり歩けない状態になって、救急車を呼ぶ。その後どこに搬送するのが適切であるのかということが議論になっています。
 高齢者救急は多様です。三次救急医療機関での対応が適切な場合もあれば、そうでない場合もある。若い人であれば必要なくても、高齢者であるからこそ緊急入院しなければならない場合がありますが、その必要性を救急現場で即座に判断することは難しい。高齢者救急の増加に適切に対応するために何が求められていると考えていますか。
迫井 この問題は2024年度同時改定に向けて中医協などでかなり議論されている内容だと承知しています。
 高齢者救急の難しさとして、医療・介護のニーズをあわせ持ち、かつその状態が急激に変化し得る患者を対象としていることや、医療を充実させると介護が手薄になるといったトレードオフの関係が生じがちであるという問題があります。
 急性期医療に特化した医療機関は医療資源投入量が多く、看護力も機材も整っていますが、高齢者が入院すると、相対的に介護的なケアが行き届かず、ともすれば寝かせきりにしてしまいます。ADLを高める方向で、早期に退院や転院をさせて、リハビリテーションなど回復期にシフトさせるべきです。高齢者の入院施設では、それが求められますが、病院としては「まだ急性期病院でいたい」という気持ちがあり、ジレンマに陥っている実態があると思っています。
 病院が提供できる医療機能と必要とされる医療機能にミスマッチが生じており、そこのバランスの取り方において、非常に高度なオペレーションが求められています。言葉で「連携」というと簡単なのですが、その言葉に含まれている意味の難しさを医療・介護の関係者は抱え込んでいて、そこでどのような工夫ができるかということが問われているのだと思います。
猪口 高齢者救急において二次救急医療機関が果たす役割は大きいと思います。救急搬送を受け入れてきちんと診断し、必要に応じて、適切な医療機関に転院搬送させる機能が非常に重要になってきます。
迫井 そうですね。やはり転院搬送先の地域包括ケア病棟などは、高齢者のケアに慣れていて、経験値の高いスタッフがいて、早期離床・リハビリテーションによりADLを高める方向に動かしてくれるでしょう。一方、急性期にフォーカスを当てすぎると疾患を治療することが優先されてしまう。そのあたりのバランスは現場に委ねるしかないのですけど、そこを応援、サポートする報酬体系が必要だと感じており、そのための議論が現在行われていると理解しています。

中小病院が担うかかりつけ医機能
地域の実情によりその「形」が変化

猪口 全日病は中小病院が多いので、かかりつけ医機能をある程度備えている病院がかなりあります。
 2022年12月22日には、全日病として、かかりつけ医機能に対する考え方を示しています。具体的には、地域の診療所と協力しつつ、休日・夜間の対応、急変時の入院対応といった二次救急機能や、在宅医療の提供とその支援機能、さらには介護施設との連携において機能を発揮する「かかりつけ医機能支援病院」を位置づけています。
 ただ、その体制も地域の実情によってさまざまであると考えています。
迫井 その通りだと思います。地域医療というのは、地理的に広い平野なのか山間地域なのか、居住環境がどうなっているのか、人口構造の違いであるとか医療以外の固有性があり、そのような地政学的な状況に合わせたテーラーメイドの医療提供体制を作る必要があります。
 それに加えて、医療の提供体制は具体で有限で顔の見える世界です。類似の地域はあっても、その地域の病院、診療所の体制は唯一無二のものです。特に中小病院は診療所の機能もあわせ持っている場合があるでしょうし、在宅における連携でも幅があると思います。
 中小病院が動ける幅は広くて、その幅の中で地域のニーズに合わせて「形」を変えることができますよね。民間病院ならではの創意工夫、フットワークの軽さ、意思決定の速さに期待しています。
猪口 地域の中で、自分たちが一番役に立てることは何だろうということを考えることが大事です。ともすれば、「自分はこれを専門的にやってきたから、これを活かしたい」と考えてしまいますが、それを活かすのにどこからどのように患者を集めてくるのか。
 それは難しいし、それよりも、地域を見て何が必要とされているのかを把握して、それをできるようにすることが、今まで以上に求められています。それが、病院が生き残る上で絶対必要な発想になってきています。
迫井 私は医学生にお話をする機会が多いのですが、強調していることは、医療というのは社会インフラであり、社会が求めていることに応えることが大事だということです。やりたい医療があるという気持ちはわかるけど、みんながやりたいことだけをやったらバランスが取れない。むしろ社会の要請に応える医師がいないと医療は成り立たない。そういう目で医療を見てほしいといっています。
猪口 診療領域の専門性だけではすまない、ある程度幅広く診療できる医師の育成が求められていますね。全日病でも総合医育成事業を実施しています。まだそれほど人数が集まっているわけではなく、もっと宣伝する必要があるのですが、間違いなくニーズは大きくて、民間病院がそのニーズに対応することが求められていると強調しています。
迫井 そのような事業では、知識を得ることよりも、地域を見て自分で何が必要かを考えて、それができるようなマネジメントを重視してほしいですね。それは経営にもつながるスキルですが、何より地域にコミットすることが大事な要素なのだと思っています。その点でも民間病院にアドバンテージがあるのではないでしょうか。
猪口 これからはますます自分たちで考えて、病院を変えていかないといけないのだと感じています。

2025年以降の地域医療構想
在宅医療や介護の視点が重要

猪口 地域医療構想は2025年を目指した構想であり、2025年に一つの到達点を迎えます。その中で、うまくいかない部分がいくつか見つかり、歪みも生じました。例えば、構想区域は人口2~3万人の区域から300万人を超える区域があります。これだけの違いがある中で、同じ考え方で医療提供体制を構想することには無理があります。
 人口が20 ~ 30万人の区域であれば、病院が10程度であり、話し合いにより、医療機能の分化・連携も可能となりますが、その両端の区域では困難です。東京都だと一つの区域が大体150万人程で病院数は70~ 80施設あります。地域のニーズに応じて病院が機能分化するといっても、どうすればよいのかわからないといったことを繰り返しました。
 また、回復期機能とは何かということについて、まだ混乱が生じています。2026年以降の地域医療構想を構築するに当たって、どのように考えればよいでしょうか。
迫井 地域医療構想が、「病床削減」のイメージで報道され、注目を集めました。我々の伝え方にも課題があったとは思いますが、現場の医療関係者に対して「未来を見てほしい」という警鐘を鳴らせたことは、いろいろとご迷惑はかけましたが、第一歩として非常に意味のあることでした。
 地域医療構想は本来、病床に限った問題ではなく、入院、外来、在宅医療、それに介護を含めて地域包括ケアの体制をどう構築するかということが本来のコンセプトでした。これから、本来の地域医療のあり方を考える段階にようやく来たという思いです。
 ただ、数字を示すということはやはり重要で、病床について高度急性期、急性期、回復期、慢性期などの機能で区別して考えることは今後とも継続すると思いますが、単に数合わせをすることが目的ではなく、同じ認識の下で議論するための共通言語と捉えるべきです。この枠組みを活用することで、将来にわたって地域の人が安心できる体制を構築するという目的に向かって、時間軸を合わせて議論していくことができるようになります。
猪口 4機能について、医療関係者であれば、詳しいデータを見ることもでき、医療資源の実情も理解することができます。しかし、一般の方にとっては難しい。4機能よりも病院機能として表したほうが一般の方にはわかりやすいのではないかと個人的には思っています。
 例えば、市区町村単位で地域包括ケアを担う回復期を含めた急性期病院や、二次医療圏単位で二次救急を担う急性期病院、高度で総合的な医療を担う高度急性期病院などが考えられます。コロナであれば、高度急性期病院ではエクモやレスピレーターに対応できる病院ということになります。病院の類型として機能を示すことが必要ではないでしょうか。
迫井 この点について、3回の同時改定の議論を経て、私は少し違う考え方を持っています。
 病院の類型として機能を示すことはできなくはないかもしれません。しかし、それはどちらかというと、医療提供者側の目線だと思います。結局、同じことをいっているのかもしれませんが、見せ方が反対になっているような気がします。
 例えば、この地域で脳卒中になったら、最初は急性期の治療を受け、その後、別の病院等に転院するといった流れがあります。患者を起点にすると、一連の流れの中で、疾患や状態に応じて必要となる医療がどこでどのように提供されるのかといったことが重要になるのだと思います。一方、病院関係者にとっては、その医療をどこの施設で受けるのかという施設選択の視点が重要になるのだと思います。
猪口 病院類型がはっきりしていると、救急搬送の際にも救急隊も搬送先が明確になります。ミスマッチを防ぎ、適切な医療機関に搬送されることにつながると思います。
 また、2025年以降の地域医療構想を考えるに当たっては、入院医療だけでなく、在宅医療や介護との関係がより大事になってきます。超高齢社会で、医療と介護の両方のニーズをあわせ持つ患者が増え、在宅医療や介護施設等で受け入れることのできるサービス量の情報を同時に把握しないと、全体の需給関係を捉えられません。
迫井 全く同感です。地域包括ケアの体制をどう作るかという全体の議論が重要になります。2024年は節目の年ですが、こうした議論が行われることになると思います。
猪口 本当に、2024年は節目の年でありすぎます(笑)。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

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