巻末 2025年に向けた今後の病院経営-各施設が取るべき対応 ―医療基本法案(全日病版)提案の経緯―:「病院のあり方に関する報告書」(2015-2016年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

巻末 2025年に向けた今後の病院経営―各施設が取るべき対応

 経営の原則は、「質の高い医療提供と継続」であり、このためには「明確な理念、運営方針の存在」のもとに「十分な集客」「費用対効果を意識した運営」そして「優秀な職員の養成」を行い、内部・外部の「顧客満足」を獲得して一定の利益を確保し、職員・社会へ還元すると共に再生産資金を留保し、制度の変更や環境の変化も勘案して事業を継続する必要がある(図1)。

図1 経営の原則

 最近の医療政策決定プロセスの特徴は、政府方針と2011 年「医療介護将来推計」に示された基本的な厚生労働省の考え方を中心に、ビッグデータが利用されていることであり16、「医療ニーズと資源配分の適切性の検証」の視点が大きくなっていることである。
 検討に利用されているデータには、その他、人口動態推計、全国がん登録、副作用報告、介護保険を含むデータベースなどがあり今後も定量的なデータをもとに議論が進むことは間違いないが、現状では恣意的にデータ利用も行われるきらいがあり注意を要する。
 全日病としても、データの開示を今後とも求め対案作成に使用すべきである。

16 ビッグデータ:レセプトデータ―2009 年4 月~ 2014 年7月約83.5 億件 約18 億件/年、
         DPC データ―1860 病院 2011 年度約878 万件等

 図2 は、「病院のあり方に関する報告書」2007 年版から示してきた、「医療経営の構造」である。理念/方針ビジョン・戦略・中長期計画のもとに必要な診療・管理体制の詳細が示され、日常のこれらの業務を通じて組織風土や文化を醸成すべきこと、多くの内外顧客がいること、顧客や関係者の期待が多岐にわたること、そして、満足を得るための諸業務の成果結果がそれぞれの満足度につながることを示したので、各項目に関して自施設の取り組みを評価し改善につなげて欲しい。

図3 医療機関の運営に必要な取り組み

 過去の「病院のあり方に関する報告書」に示してきた医療機関の運営に必要な取り組みは図3の通りであり、改めて各会員病院における対応を望むところである。
 より具体的には、

1. 地域で求められている機能の実践

 人口動態や医療・介護需要には大きな地域差が存在する。重要なのは自院の立ち位置の客観的再評価である。外来・入院患者のケースミックス(疾患名と患者数)や患者住所マップの経年推移と提供してきた医療内容の照合を基本に、競合施設の動向や疾病構造の変化、地域医療計画で重視されている5 疾病5 事業との対比などから運営環境の再確認を行うことが必要で、国の施策の動向(地域医療構想策定に関連する4 機能への分化の推進―高度急性期・急性期・回復期・慢性期―診療報酬での誘導等)も踏まえ「現在提供している医療を継続するのか、変更するのか」目指すべき機能の決断の時期であろう。
 このためには、広範な経営分析に資するデータ作成を行う部門の設置は必須であり、今後利用可能となるであろうNDB、DPC 研究班データなどを利用すると近隣施設のケースミックス、救急車使用の入院患者数なども容易に手に入れることが出来るはずである。
 多くの人口減少圏域においては、将来の需要予測を基に早急に集約化・連携を求めるべきであろう。その際、自らは徹底的な効率化により収益確保を目指すことが肝要であり、必要に応じダウンサイジングによる減収増益経営も考慮すべきである。

内部要因:自院ケースミックスの経年変化
     各職種マンパワーと質の評価―職員満足度による確認
     施設・設備の現状確認
外部要因:顧客(患者等)満足度
     人口動態と疾病調査予測による地域の医療・介護ニーズの把握
     他の医療機関や施設とのベンチマーク・競合状況の把握
     + 人口構成および異なる生活観をもつ団塊世代への調査による医療介護ニーズの把握

2. 幅広い知識と実務経験を持つ病院経営専門家の養成・確保と費用の管理

 組織体制(診療体制・人事管理等)の見直しを図り、院内外情報の検証による適時、的確、迅速な経営判断を行いつつ、開設以来の医療の継続という王道を進むのか、供給が不十分な領域への参入など隙間をつく取り組みへ変更するのか、事業拡大を図るのか、縮小させるのか、独立独歩で運営するのか、地域の中で意識的に連携するのか、合併・吸収などの統合を行うのか真剣に検討すべきと考える。
 今後の病院経営では、診療報酬改定に合わせた姑息的な提供のあり方の変更では立ちいかなくなるのは明白であり、トップマネジャーは経営に特化するか専門家を配して運営に当たるべきである。
 消費税再引き上げに関して、原則課税議論はその経過をみると実現は難しいので、従って、厳密なコスト管理が求められる。大規模病院では各科間連携で、単科病院では専門性の更なる追求などそれぞれの特性の強化により一層の効果・効率性を追及すべきである。

3. 将来に向けたマンパワーの確保

 第1 章の冒頭で示したように、医療従事者の不足はより深刻になり、特に若年者の採用はより厳しくなることが予測される。
 医師・看護師・薬剤師・リハ職員等の確保は養成機関の有無が関係した地域差もあり各施設の努力のみでは達成できないが、専門職も含めアクティブシニアの登用が必須となるとの認識に立ち、今から再雇用制度等を整え積極的に対応を始めるべきである。
 就業人口の減少も踏まえ生産性向上も図るべきであり、可能な限り業務の簡素化を図ると共に、ICT やロボットなどの積極的な利用によりこれを実現すべきである。

4. 人口減少が明らかな地域における他産業との協調による地域活性化・街づくりへの参加および
  「地域包括ケアシステム」への積極的関与

 人口減少圏域では確実に医療需要が減少するのみならず、圏域全体の経済活動も縮小することから無策のままなら経営への影響は免れず、他産業と協調した地域活性化・街づくりへの参加は欠かせない。市町村単位で構築される「地域包括ケアシステム」は、高齢者の自立支援システム構築のために予防・健康増進・住まい・食・見守りなどが必要となるが、医療という安心を提供してきた会員病院の積極的な関与が可能であるので、地域性を考慮し生活関連サービスへの参入も検討すべきである。