全日病ニュース

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褥瘡の“川上”は在宅。入院だけの対応には限界ありと判明

事故調査制度の大枠決まる。医療法等改正に盛り込む

▲神野副会長(左から2人目)は褥瘡対策の議論に「覚悟」を提起した

褥瘡の“川上”は在宅。入院だけの対応には限界ありと判明

【入院医療等の調査・評価分科会】
褥瘡対策で議論白熱。神野委員、高齢社会に向けて「覚悟」を求める

 

 中医協・診療報酬調査専門組織の入院医療等の調査・評価分科会は6月26日の会合で、2012年度入院医療等調査結果から褥瘡患者に関する集計結果を分析、対策のあり方について議論した。
 事務局(厚労省保険局医療課)は、集計結果から、①褥瘡有病率はケアミックス型で多く、院内褥瘡発生率は療養病棟で多い、②褥瘡ハイリスク患者ケア加算を届け出ている医療機関は、届け出ていない医療機関に比べると褥瘡有病率、入院時褥瘡保有率、院内褥瘡発生率が低い、(3)入院時褥瘡保有率は増加傾向にあり、入棟前の居場所は一般病棟は自宅が多く、療養病棟は自院および他院の病床が多い、(4)ケアミックス型の療養病棟における入院時褥瘡保有患者は自院病床からの入院が高い、(5)褥瘡危険因子を保有する患者、褥瘡ハイリスク項目を保有する患者はほとんどの病院・病棟で増加傾向にあることなどを導き、分科会に検討を求めた。
 議論の冒頭、神野正博委員(恵寿総合病院理事長・全日病副会長)は、「調査結果から、在宅→救急→一般病棟→療養病棟という褥瘡患者の流れを読み取ることができる。本来川下である在宅が、褥瘡では川上になっている。在宅における褥瘡対策が重要である。一部では、これからは治す医療ではなく支える医療であるとして経管栄養や胃瘻をたしなめる論調がうかがわれる。むしろ、この2つを措置することなく在宅に戻す結果、褥瘡が生まれ、結局は入院に持ち込まれるという構図があるのではないか」と、問題の所在を明らかにした。
 他の委員からは、「深く治りにくい褥瘡は在宅で生まれる。これを何とかするにはもう少し手当て(診療報酬)をつけるしかない」「予防をもっと評価すべきではないか」など、在宅の段階で十分な対策を講じる必要とそれを診療報酬で積極的に評価するべきとの声があがった。
 その一方で、「在宅に限らない。入院時の対応ももっと充実させる必要がある」「現在の加算はアウトカム評価ではない。治癒に対するインセンティブを考えた方がよい」など、より全体的な対応を求める意見も出たが、診療報酬を積極的に動員させる必要で分科会の意見は一致した。
 その中で、筒井委員(国立保健医療科学院)は療養病棟で褥瘡がQIに採用されていることを指摘し、「全病棟で測ることも重要な対策になるのではないか」と提起した。
 こうした議論の一方、神野委員は、ケアミックス型で褥瘡有病率と入院時褥瘡保有率が高いという調査結果について、「中小病院が多いケアミックスは地域の駆け込み寺になっている。そこには、在宅で容態が悪化した高齢者が2次急を介して入り、ある程度安定してから療養に移るという流れができている。ケアミックスには、そうしたポジショニングがあるという点を理解してほしい」と現状を説明。
 その上で、「問題は、本当に褥瘡を治すというのであれば、医療界には、ターミナルを含め、お金と労力をかける覚悟が求められるという点にある」と述べた。
 「この問題を中医協で議論するのであれば、支払側を含めて覚悟が必要だ」と論じる神野委員の提起は、おざなりな対応はいたちごっこに終わること、すべての入院病床と在宅医療そして介護にいたる地域包括ケアの視点にまで立って、患者を苦痛から解放する手立てを総合的に講じなければならないこと、高齢社会になるほどそうした取り組みに「ヒト・モノ・カネ」が求められることなど、覚悟と本気を求める意味を込めて比喩したものであり、それだけに問題の深刻さを浮き彫りにする発言でもあった。
 「褥瘡対策と栄養は密接な関係にある。NSTをしっかり評価していくことも重要」「すでにある褥瘡対策チームにかかりつけ医や訪問看護師などの在宅メンバーを加えていく必要がある」「褥瘡対策の予防と管理を分離した上で、パスによって整理していく発想も大切」など、この日は具体的な対応策が飛び交い、褥瘡対策に込める各委員の意気込みがうかがわれる分科会となった。

□褥瘡対策にかかわる論点

・褥瘡有病率が増えていることから、褥瘡対策の一層の推進についてどのように考えるか。

・院内褥瘡発生率や褥瘡の危険因子等を保有している患者の割合が増えていることから、入院時のアセスメント等褥瘡対策を推進するとともに病棟横断的に褥瘡の発生状況を把握することについてどのように考えるか。

・入院時褥瘡保有率が高くなっており、自宅が入棟前の居場所として多いことから、在宅における褥瘡対策の推進についてどう考えるか。