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ホーム全日病ニュース第811回/2014年11月1日号西澤会長、3期6年の任期満了で

西澤会長、3期6年の任期満了で中医協委員を終える

西澤会長、3期6年の任期満了で中医協委員を終える

▲西澤会長(右から4人目)は診療側委員を3期6年務めあげた。

西澤会長、3期6年の任期満了で中医協委員を終える

 

 中医協診療側の西澤寛俊委員(全日病会長)は3期6年(2007年9月28日~13年10月26日)にわたる任期をまっとうし、中医協委員を退任した。
 中医協委員の任期は社会保険医療協議会法で2年とされている。再任については、閣議決定で各種審議会の委員任期が10年を超えることが禁じられている以外、社会保険医療協議会法、同令、同議事規則に明文的規定はない。
 しかし、2004年10月の全員懇談会の了解事項で「支払側委員と診療側委員の在任期間は、各関係団体で任期が6年を超えてからの新たな推薦は行わない」とされたことから、3期を超えた推薦は行なわないことになった。
 西澤会長以外に、嘉山孝正委員(全国医学部長病院長会議相談役)も10月26日に任期満了を迎え、2期4年で退任した。
 中医協委員としての西澤会長の活動にはきわだった特徴があった。
 1つは、DPC分科会や入院医療分科会など中医協の関連会議によく足を運び、中医協に諮られる前段階の議論に耳を傾けたことである。中医協委員でこうした行動をとる委員はこれまでほとんどいなかった。
 また、日病協の診療報酬実務者会議や四病協の医療保険・診療報酬委員会など病院団体の診療報酬議論にも毎回参加し、各団体委員の声に耳を傾けた。
 2つ目は、中医協に出てくる資料をよく吟味し、その不明な点や誤解を招く点を質し、ときに、誤謬を指摘することに熱心だったことだ。
 談話や演説の部分部分を切り貼りで使われるとニュアンスが変わるが、統計等のデータも、それが、1つの方向からの読み方をデフォルメして使われると、議論が誘導される危険性をはらむ。
 中医協で、しばしば、そうしたデータの使われ方をみてきた西澤会長は、議論に先立って解釈の再確認を行なうとともに、データの補足や追加提出を求めたりした。データに真摯な分、エビデンスにもとづく議論を歓迎した。
 3点目は、診療報酬の視点にとどまらず、しばしば、医療法(医政局)や介護保険法(老健局)の視点からも問題の所在と解決の方向を提起、そうした部局との連携した議論を求めたことである。
 こうした姿勢の根底には、「国民に安全かつ良質な医療を効率的に提供する」という理念と「国民のために質の高い医療経営を継続する」という命題があった。したがって、国民にプラスとなる制度変更や改定には前向きに取り組む一方、医療経営に大きな負担やいたずらな混乱を与える変更・改定には、根拠データの提示と十分な検討時間を求めた。
 こうした姿勢は、推薦団体や経営医療機関に帰属する医療人の視点を超えるものであり、中医協委員の1つのあり方を示したとえる。
 その象徴が基本診療料へのこだわりであった。
 支払側委員は、その裏に「診療報酬点数引き上げ意欲」を感じていたようだが、西澤会長を初めとする病院団体が求めてきたのは、診療報酬の「見える化」であり、医療費単価決定の合理性であった。
 支払側・診療側の議論で決する診療報酬ではあるが、その単価は、基本的に改定率で導かれる医療費総額に収めるべく、前回比増減の匙加減で調整されて決められてきた。そこに確たるエビデンスがないことは明らかであり、したがって、厚労省は、報酬決定の裁量権を守るために、診療報酬と原価の議論については封印を試みてきた。
 その論拠として「医療費の原価は解明が難しい」という神話が使われてきたが、医療機関の運営コストは企業原価と同様に解明可能であり、問題は、診療報酬各項目と対応する原価の把握が難しいという点にあった。
 しかし、そうした原価問題も、IT化の進展とともに、神学論争から経営実務論争へと変わっていく可能性がある。
 西澤会長は、退任の挨拶で「将来に向けて、この議論は本当に大切である」と訴えた。そこには、「質の高い医療を継続して提供できるために診療報酬はどうあるべきか」という問題意識がある。西澤会長の、将来を見据えた退任の弁は示唆に富むものであった。

西澤会長の中医協委員退任の挨拶(要旨)は、PDF版を参照