全日病ニュース

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厚労省 紹介なき大病院受診に新たな自己負担を提案

厚労省 紹介なき大病院受診に新たな自己負担を提案

【医療保険部会】
部会は初診への導入で合意。再診には慎重論も。入院食費の自己負担も引き上げへ

 7月7日の社会保障審議会医療保険部会に、事務局(厚労省保険局総務課)は、紹介状なく大病院を受診する患者の自己負担額を引き上げる方法として複数案を提示。部会は、少なくとも初診について、新たな自己負担を課すことで合意した。
 事務局は、また、療養病床に入院する65歳未満患者と療養病床以外の病床に入院する全患者の入院食費の標準負担額を引き上げる考えを提起、部会は、その方向で議論を進めることで概ね一致した。
 これらの見直しはプログラム法にもとづくもの。厚労省は次期通常国会に改正法の提出を予定しており、医療保険部会は年内に具体案をまとめることになる。(2面に関連記事)  

 昨年12月に成立したいわゆるプログラム法に書き込まれたうち、「療養の範囲適正化・負担の公平確保」にかかわる課題として、事務局はこの日の医療保険部会に次の4点を提示し、検討を求めた。
①紹介状なしで大病院を受診する患者の新たな自己負担の新設
②入院時食事療養費・生活療養費の見直し
③国保保険料の賦課限度額と被用者保険における標準報酬月額上限の引き上げ
④国民健康保険組合に対する国庫補助の見直し
 プログラム法で、①に関しては「機能分担を推進する観点から」と、②については「在宅療養との公平を確保する観点から」と、説明されている。
 現在、200床以上の病院を紹介状なく受診する初再診の患者からは、初再診料の定率自己負担以外に、当該病院は届出の上で特別料金を徴収することができる。いわゆる選定療養の適用である。
 この制度の活用は任意であるため、実施している病院は、初診でも、200床以上が全国に2,657ある(2012年医療施設調査)うちの1,204施設(200~8,400円。平均2,085円)にとどまり、再診になると111施設(300~8,000円。平均981円)ときわめて少ない上、額もまちまちだ(12年7月1日現在)。
 一方、この制度の活用を推進するために、対象病院の初再診料を低めに設定するという診療報酬の上でも誘導措置がとられている。
 この両面からの方策によっても大病院には紹介状をもたない患者が後を絶たないということで、厚労省は、この日の部会に、かなり思い切った高額負担の導入を提案した。
 提案は次の3案からなり、いずれかをベースに具体案に絞り込まれる。
(1)初再診の一部負担金に定額を上乗せし、当該患者は初再診料相当額を負担する(10割負担とする)
(2)初再診の一部負担金に定額を上乗せし、当該患者は初再診料相当額を上回る額を負担する(10割を超える負担とする)
(3)初再診の一部負担金に加えて、別途、保険給付の枠外で定額を負担してもらう
 しかも、各案とも、現在の選定療養による自己負担制度は継続するという考え方にたっている。
 「考え方の方向性はよいが、今改定で対象が拡大された措置の効果の検証を進めながら慎重に議論すべきだ」と述べた鈴木委員(日医常任理事)は、「対象は特定機能病院を中心に見直しを進めてはどうか」と注文。
 さらに、「初再診の両方に導入した方がよい」とした上で、「初再診料相当分プラスアルファでどうか」と10割を超える自己負担となることを容認。「高額療養費の対象とはしない」ことを求めた。
 一方、白川委員(健保連副会長)は、提案の主旨に賛成を表明しつつも、選定療養適用による変化の検証を基に検討すべきとした。
 その上で、「新たな負担は(選定療養の平均額の)2,085円以下ということはないだろう」と一定水準の額となることを認めたが、他方で、「再診については慎重に考えるべきだ」と発言。当面は初診を対象に導入するという見解を表わした。
 再診も対象とすべきかについては、他の委員からも「もっと議論されるべきである」とする慎重論が出た。
 対象病院に関して、一部の委員からは「200床以上でよい」という声があがった。同時に、「機能分化がより求められる500床以上は1万円の定額負担にしてはどうか」と、中規模と大規模の間で線引きするという案も示された。
 他方で、「対象病院を病床数で決めるのか、機能で考えるのか。2つのケースを試しながら議論を進めてはどうか」と、これまでの病床規模主義に異論を唱える声もでた。
 事務局が示した“定額負担”設定に関する3案に対しては、少なからぬ委員が、一部負担金と合わせて初再診料相当額を上回る水準とする第2の案を支持。保険給付の枠外で別途定額を課すという第3の案に対しては、「大病院の医療費を増やす結果になるだけだ」(小林委員=全国健康保険協会理事長)など、支持する声は出なかった。
 この第3の案に関連して、堀委員(日歯常務理事)は「定額負担という言い方が気になる。表現を変えてはどうか」と注文をつけた。
 コスト等診療実態と関係なく患者負担額を設定する方法が給付と受診の抑制につながることを懸念したものと思われるが、事務局は「この案は定額負担を前提としたものではない。あくまでも、紹介状をもたない患者への対応をどうするかという問題に限定した提案である」と釈明した。

一般病床等患者の居住費は検討の対象外か?

 入院時の食事については、現在、食材料費相当額について標準負担額(1食640円のうちの260円)を徴収しているが、療養病床に入院する65歳以上の患者からは食費と居住費を合わせた標準負担額を徴収。うち、食費は、材料費と調理費の計554円のうち460円(医療区分1の場合)が自己負担となっている。
 したがって、療養病床の65歳未満と他の一般・精神等病床の入院患者には、調理費相当の食費と居住費の負担が課せられていない。
 事務局は論点で「現行の入院時食事療養費」を取り上げ、「調理費相当分等についても今後自己負担を求めていくべきかどうか」と提起した。一見すると、入院時食事の標準負担額260円を460円に引き上げる案とも思われるが、「調理費相当分等についても」と表記されており、見直しの対象が、療養病床の65歳以上患者が負担している居住費に及ぶ可能性もある。
 議論の中で、複数の委員が、療養病床における標準負担額を65歳で線引きして負担の内容を分けていることに強い疑問を唱えたが、入院時食事の自己負担を調理費相当分を含めたものに見直す方向は概ね支持した。

【医療保険部会に事務局が提示した論点】

□紹介状なしで大病院を受診する場合の患者負担のあり方
●定額負担を求める保険医療機関(大病院)の範囲をどうするか。
●現行の選定療養の取扱いや、大病院の外来診療の在り方をどう考えるかという視点等を踏まえ、
①初診について、定額負担を求める(求めない)患者・ケースはどういうものか(例/救急搬送患者等)。
②再診について、定額負担を求める(求めない)患者・ケースはどういうものか(例/病状が安定した後の再診等)。
●定額負担の額をどうするか。また、療養の給付に要する費用の額と定額負担との関係をどうするか。
●新たな定額負担は高額療養費の対象とするか。


□入院時食事療養費(入院時生活療養費)の見直し
●国民会議の報告書やプログラム法の規定を踏まえ、在宅療養との公平を確保する観点から入院時食事療養費(入院時生活療養費)をどのように見直すか。
●具体的には、現行の入院時食事療養費においては、食材費相当分を自己負担として求めているが、調理費相当分等についても、今後自己負担を求めていくべきかどうか。
●自己負担を引き上げる場合、どのような者に配慮すべきか。