全日病ニュース

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構想区域の設定が大きな問題。医療需要の推定方法にも疑問が

【報告地域医療構想と支部の取り組み(2)東京都支部】

構想区域の設定が大きな問題。医療需要の推定方法にも疑問が

都医・都病協と一体の取り組み。構想策定の専門委員に病院団体から多くの委員

常任理事・東京都支部幹事 猪口正孝

初めに

 地域医療構想策定の作業が各都道府県で急ピッチで進められている。東京都も今年度中の策定を目指しているが、全日病東京都支部は、東京都病院協会(都病協)と一体となって、東京都における構想策定作業に関与している。
 とくに、都病協においては、地域医療構想に対応するために二次医療圏ごとに支部長を選出して臨時に二次医療圏支部長会議を開催し、協議の場へ参画するため内部協議を重ねてきた。都医病院委員会の参加も得て、5月までに4回開催している。
 その取り組みは、我々と緊密な連携をとっている東京都医師会(都医)の対応と軌を一にしている。すなわち、東京都における地域医療構想策定に対する取り組みは、全日病支部、都病協、都医が共同歩調をとるかたちで進められている。
 本稿では、東京都所管の病院・有床診、地区医師会役員、区市町村行政担当者を対象に、7月29日から4回に渡って行われた「東京都地域医療構想策定に係る説明会」で報告された内容を紹介しつつ、私見をまじえ、策定作業の現段階と我々医療団体の構想策定に臨む考え方を報告させていただく。

東京都における構想策定の現段階

 地域医療構想の策定について、東京都は東京都保健医療計画推進協議会の下に「東京都地域医療構想策定部会」を設置した。筆者は、都医副会長という立場から構想策定部会に参画し、その部会長を務めている。
 構想策定部会のメンバーは、医療関係団体5人(都医、東京精神科病院協会、都歯科医師会、都薬剤師会、都看護協会)、保健医療を受ける立場の者2人、関係行政機関3人、学識経験者1人の計11人。ほかに専門委員が11人という構成で、専門委員には全日病支部を含む都病協から6人が参加している。
 構想策定部会は8月18日までに5回開催されたが、現在は、STEP2の「策定と実現に必要なデータの収集・分析・共有を行う」過程にあり、病床機能報告で集計された現状の機能別病床数と2013年のNDB・DPCから導いた医療資源投入量による2025年医療需要推計が示された(図1)。
 今後、STEP3として、構想区域を策定する極めて重要な段階を迎えている。

2025年の医療需要推計

 2025年の医療需要は、全国としては既存病床に比して必要病床が約20万床少なくなると推計されたが、東京都では、約7,000床(患者住所地ベース)から8,400床(医療機関所在地ベース)の不足が見込まれた(図1・表1)。全国で不足が見込まれたのは東京、千葉、埼玉、神奈川、大阪、沖縄の6都府県のみである。
 東京都は、1日当りの入院患者として、高度急性期1,156人、急性期1,686人、回復期203人が流入、慢性期は1,647人が流出、トータル1,397人の流入と推計。
 今後、この数字をもとに、都道府県間の流出入の調整を行うことになる。

医療機能報告の集計結果

 医療機能報告における2014年7月1日時点の医療機能ごとの病床分布は、高度急性期31,071床、急性期43,201床、回復期7038床、慢性期24,289床となった(表2)。
 回復期はリハビリの要件が強く出されているため、回復期リハを行っている病院中心の手上げとなったことから、回復期が少ない結果となった。
 6年後の病床予定、2025年における病床予定は2014年とほぼ同比率で、病床転換に関する意識付けは今後の課題と言える。

2025年医療需要と医療機能報告の比較

 医療機能別の医療需要推計と病床機能報告による病床数を比較する(表2)。高度急性期は報告の31,071床に対して医療需要推計(医療機関所在地ベース)は15,893床しかなく、あたかも需要が半減するようにみえる。急性期と慢性期はほぼ同数にみえ、一方、回復期は7,038床に対して34,671床と、需要が激増するようにみえる。
 医療需要の推計は1日に投入された医療資源量から求められる。
 例えば、食道がんの患者で、全麻の手術から3日間はICU管理などで1日3,000点(C1)以上の診療を行い、経口摂取のできない4日目から7日目ぐらいまでは静脈からの補液などの管理が続くために3,000点~600点(C2)となり、8日目以降14日目で退院するまでは、経口摂取ができるようになって点滴がなくなるために600点~175点(C3)となる治療経過をたどるとしよう。
 推計方法によると、最初の3日間は高度急性期、次の4日間は急性期、8日目以降は慢性期とされる。しかし、病床機能報告の定義と我々臨床家の感覚としては、14日間全部が高度急性期の患者である。
 また、高齢者の誤嚥性肺炎の患者を考えると、最初は補液、抗生剤、酸素療法などを行ってC1以上が続くが、酸素などを使う必要がなくなれば一気に600(C2)以下になる。
 このような例では、我々は日常的な急性期の患者として病床報告を行う。しかし、医療需要推計の方法に従うと、高度急性期、急性期、回復期がそれぞれあるとされる。
 要するに、現段階では、病床機能報告の病床数と医療需要推計による病床数の比較はできない。厚労省の医療構想策定ガイドライン検討会でこの差をどのように考えるかの検討が始まった。今後、この経過を見ながら議論を進めるべきである。
 さらに、医療需要推計は、病床稼働率を、高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%として計算された。
 東京都における医療需要推計では総数で7,000床から8,400床の増加が見込まれているが、これを高度急性期85%、急性期90%で計算しなおすと、医療機関所在地ベースで高度急性期は15,853床が13,210床となり2,643床の減、急性期は42,302床が36,661床となり5,641床の減、推計総数として8,284床もの減となる。
 つまり、病院稼働率を変えて計算すると東京都の病床は拡大する必要がなくなってしまう。まさに数字のマジックであるが、C1、C2、C3といった指標で導き出したものが患者数(医療需要)であるのに、それを稼働率で割り戻した病床数が医療需要であるかのように立ちはだかっている。
 必要人員の雇用確保の困難性や2045年以降の需要激減、東京の病院経営の困難性を考慮すれば、現在の既存病床の転換適応をもって対応したほうがいいのではないかとの見方もあるであろう。今後、東京の病院の病床稼働率と経営などの実態を調査した上で、構想の策定を行う必要があるであろう。

構想区域をめぐる問題点

 構想区域は、策定ガイドラインによると「現行の二次医療圏を原則としつつ、人口規模、患者の受療動向、疾病構造の変化、基幹病院までのアクセス時間の変化などを勘案」とされ、さらに、「医療介護総合確保区域との整合性」を求めている。そして、「構想区域が現行の二次医療圏と異なる場合には、平成30年度から始まる次期医療計画の策定において二次医療圏と構想区域を一致させることが適当である」としている。
 素直に解釈すれば、「2025年の医療需要と必要病床数を構想区域ごとに推計し、目指すべき医療提供体制を実現するための施策を示すために、現行の二次医療圏を検証したうえで最適な構想区域を策定し、平成30年度からはこれを新たな二次医療圏として医療計画を立てる」と読み取れる。

東京都における二次医療圏

 第3回構想策定会議では二次医療圏の患者流出入が示され、区中央部に高度急性期の流入が多いことをはじめとし、都民は二次医療圏の枠など全く意識せずに、ダイナミックな受療行動をとっていることが示された。
 東京都は都心部に特定機能病院をはじめとした高度急性期病院が集中し、多摩に療養病床が多く集まるなど、東京全体が一つの医療圏として機能している。
 しかし、今回の病床機能報告や医療需要推計が証明したように、都心部に特定機能病院などの高度急性期病院が集中する一方、多摩に療養病床が多く存在するという機能上の偏りが明らかで、現行の二次医療圏は医療圏ごとに医療が完結するとは程遠い状況にある。
 地域医療計画には病床規制以外の何かしらの医療機能が盛り込まれている。いわゆる5疾病5事業がそれにあたるが、問題はこの医療計画の多くが、機能が偏在している二次医療圏を中心に行われるようになったことである。
 医療計画が二次医療圏単位で策定されることにより、臨床現場では現実の診療連携と異なる会議が招集されたり、あまり機能しない事業が遂行されてきた。医療計画と現実との乖離は明らかである。

東京都医師会と病院団体の対応

 構想区域が将来二次医療圏になることを考えると、現行の二次医療圏に沿った医療計画の非効率性と質を改善する千載一遇のチャンスである。
 東京都医師会病院委員会は、この3月に「急性期機能と回復期機能は原則として区市町村、高度急性期機能と慢性期機能は東京都全域」とし、現行の二次医療圏を排して全都を二次医療圏とすることを提唱した。
 この提唱は都医と都病協による合同提言でもあるが、これに加え、都医師会は、将来の東京の医療のあるべき望ましい「グランドデザイン」を考え、それを実現するにふさわしい構想区域を策定すべきと方針を決めた。

おわりに

 地域医療構想に関して、我々全日病支部と都病協は都医とともに、効率的で質が高く生活者本位の医療提供体制を作り上げるためにはどのようにすれば良いのかという視点から、行政と協議を重ねている。
 そのためには、精神科医療や結核医療、地域包括ケア等多くの医療との整合性も考え、骨太の計画にしなければならないと考える。
 同時に、現在の医療提供体制を大きく変更することによって大きな混乱をきたすことがないように、今ある大切な医療を残し、将来必要な医療を作り出すという基本的な姿勢を崩すことなく、今後も真摯に協議に臨んでいく考えでいる。