全日病ニュース

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将来不可避の海外からの人材招聘へ、病院団体主体の受け入れ事業を構想

【ベトナム医療事情の視察報告】

将来不可避の海外からの人材招聘へ、病院団体主体の受け入れ事業を構想

ベトナムの看護師事情と関係機関との提携可能性が根拠。具体化の可能性を検討

国際交流委員会委員長 山本 登

 将来大幅な不足が想定される介護職をいかに確保するかは喫緊の課題であり、日本のみならず海外から人材を招聘することが必須となりつつある。
 国際交流委員会は、新たな活動としてこの問題に着目し、前出の問題意識にもとづいて対象国を模索・検討した結果、ベトナムを選定。正式の委員会活動とする前に、委員会の有志で、実際の現地の状況を把握すべく視察を行った。以下に、その結果を報告したい。

□ベトナム医療事情視察の概要

●視察期間平成27年5月31日~6月5日
●視察施設栄光ベトナム(民間の日本語学校)、日本大使館、ベトナム看護協会、VIN MEC国際病院、労働・傷病兵・社会省海外労働管理局(DOLAB)、ハードン総合病院、ハードン医療短期大学、ティエン・ドゥック高齢者介護センター、SONA(社会労働省直轄の下部組織)、City International Hospital
●視察者国際交流委員会(担当副会長/織田正道、委員長/山本登、副委員長/須田雅人、委員/牟田和男、中村毅、事務局/小室隆司)

介護福祉士等候補者受け入れの現状

 今後、高齢化社会の進展により、2025年には介護人材を現在より70万人増加させる必要があるが、試算では30万人の不足が見込まれており、海外にその人材を求めざるを得ないのが現状である。
 現在、日本では経済連携協定EPA(Economic Partnership Agreement)に則った看護師候補生並びに介護福祉士候補生の受け入れを、ベトナム・フィリピン・インドネシアの三ヶ国から行っている。EPAで来日した外国人看護師は、日本において看護補助者や介護士として働きながら、日本在留中に日本の看護師国家資格の取得を目指している。
 しかし、実態は、難解な日本語の習得、文化の理解、宗教など、多くのハードルをクリアする必要がある。このため、途中でドロップアウトして母国に帰国するケースも珍しくないのが現状であり、この枠組みによる看護・介護職の実働数は僅かな実績しか得られていない。(図1、2)

 EPAの枠組みにおいて、介護福祉士候補者の受け入れに関しては、特例的に資格取得後の在留期間延長も可能とされ、インドネシア、フィリピンに続いて、2014年度からはベトナムも対象国に加わった。

新たな枠組みの検討

 現時点では未だ確定していないが、EPA以外の新たな枠組み(外国人技能実習制度に介護士を編入)も模索されている(今国会での成立が確実視されている)。そのため、国際交流委員会では、これらも含め様々な可能性を模索・検討の対象とした。(図3)

ベトナムにおける看護師養成の実状

 ベトナムにおける看護師養成の制度には、中学校卒業後及び高校卒業後のコースがあるが、今回、前者は視察の対象外とした。高校卒業後は次の3コースからなる。(図4)
①希望すれば無試験で入れる2年間の看護師養成コース(卒業試験はあり)
②入学試験がある3年間の看護師養成コース
③将来管理職や教育者になるための4年間の看護師養成コース

視察の目的

 実際に現地におもむき、関係各機関と直接面談し、看護教育や日本語教育の現場も実際に見学し、日本で就労を希望するベトナム介護人材の現地での発掘及び育成方法、さらに、二国間とはいえ海外派遣となるため、仲介システムの確立や、日本国内でのマッチングも含めた受入れ側の調整に至るまでの一連の流れを検証し、総合的な介護人材交流事業の将来性の検討も視野に入れ、視察を実施した。

総括及び問題の提起

 総合的な介護人材交流事業の将来性に関して、国際交流委員会としては、ベトナムの関係機関と直接に提携し、全日本病院協会を窓口とする受け入れ事業の可能性を模索した。
 ただし、このプロジェクトは、現段階では、全日本病院協会として海外人材の派遣→受入事業を直接手がけることの可否について、協会内で十分なコンセンサスを得るにはいたっていない。
 しかし、一委員会にすぎない国際交流委員会が本事業を手がけるには、対応すべき事項が余りにも広範多岐にわたるため、今後の活動の範囲・方向性に関して、一定の裁断を下すべき段階に来ていることが判明した。
 したがって、喫緊の課題である介護人材の不足への対処という不可避の命題に対して、国際交流委員会がまず端緒を開いたと捉え、今後の本格的な活動に関しては執行部の判断を仰ぐこととした。
 その結果、第2回理事会で視察結果を報告(7月11日)した後、会長・副会長会議及び総務・財務委員会で、プロジェクトの可能性について継続調査を行うとともにワーキンググループを設置するという方針が決定された。
 今後の活動方針としては、今回の視察により得た諸情報と所謂人脈を活用し、WGを中心に、ネガティブインフォメーションも含めたさらなる情報収集や各種データの精緻化等に基づいて、遅くとも2~3年の間には全日病として推奨もしくは実際に手がけ得る「外国人介護人材の会員病院への就労支援の枠組の構築」を可及的速やかに具現化することである。
 以下に、今回の視察を踏まえた、直近の検討すべき各項目とそれに付随する問題点等を列挙するとともに現時点で最良と思われる選択肢を示し、現段階での提言とする。

①日本語習得が最大の障壁であることから、日本語教育をN3、N4レベルまでに育て上げられる現地施設との提携の模索(N4⇒日本でN3を目指す)。日本語教育コストの現地と来日後の比較判断は必須。
②信頼できる現地の人材紹介派遣事業者(DOLABの推奨が望ましい)との連携の模索。SONAが該当か。
*DOLAB(ベトナム労働・傷病兵・社会省海外労働管理局):日本でいう厚生労働省の労働・福祉部門と経済産業省が混在したような組織である。
*SONA:国際人材派遣-貿易会社でDOLAB直属の国家企業である
 ベトナム看護協会の協力を得て、ハードン医療短期大学(日本語教育を含む)等の2~3年制看護学校、さらに国立4年制の看護大学等(次回視察予定)も含め、継続して調査・研究を進める中で、取捨選択して当協会と連携が可能な組織との提携を実現し、ベトナム看護師の中から日本で介護施設等において働くための来日希望者を募ることが、現実的で、確率も高いと思われる。(図5)
③外国人介護士を必要とする日本の施設とのマッチング(国内仲介事業)
 全日病が中心となり、要望があれば他団体のスタッフもメンバーに取り込んだ総合的機関として、全日病の外郭組織でかつ独立性を保持した『NPO法人全日病介護人材センター(仮称)』を設立し、仲介・マッチングの実務に当たることも検討する。
④『ベトナム介護人材育成及び受入事業等WG』の立上げ
 国際交流委員会の下にWGを立上げ(随時必要な外部人材も招聘し)、ベトナム介護人材の育成・受入のあらゆる段階での調査・検討・実証及び提言を担当する。
⑤「日本介護人材開発センター(仮称)設立に関する意見交換会」が本年初めに開かれ、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本慢性期医療協会、全国老人保健施設協会、日本精神科病院協会が参加した。したがって、他団体の動向も視野に入れた活動姿勢は必須である。
⑥日本看護協会との意見交換も重要な課題である。また、介護士の職務内容理解及び社会的地位向上をサポートすることは本事業の根幹に係るものと認識すべきである。