全日病ニュース

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医療部会で新専門医制度に批判相次ぐ

医療部会で新専門医制度に批判相次ぐ

病院団体の委員、「医師偏在を助長しかねない」と懸念を表明

 2月18日の社会保障審議会の医療部会は、日本専門医機構が報告した新たな専門医制度の設計内容に委員からの批判が相次いだために、専門委員会を設置して、開始時期を含め、制度設計に関する検討を開始することを決めた。(1面記事から続く)

 各学会が任意に認定してきた資格を認定された研修プログラムの修了によって認め、資格と研修プログラムの認定を第3者機関が担うという新専門医制度は、第3者機関として設立された日本専門医機構の手でその具体的設計が進められてきた。
 その骨格は、(1)基本19領域とサブスペシャリティ29領域の2段階制とする、(2)更新制とする、(3)新たな専門医として総合診療専門医を基本領域に加える、(4)基幹病院と地域の病院・診療所等が施設群を構成してプログラムを作成する、(5)研修の期間は3年間を基本とし、2017年度を目安に研修を開始する、ことなどからなる。
 新専門医制度に関しては地域医療に配慮するとの理念が打ち出されており、専門医機構は「現在以上に医師が偏在することがないよう、地域医療に十分配慮する」と言明している。
 専門医機構は14年7月に専門医制度整備指針を策定。施設群には専門研修基幹施設と専門研修連携施設を置くこと、各施設に指導医を置くなどの方針を定めた。
 整備指針にもとづいて、関係学会は各領域の専門研修プログラム整備基準の作成を開始。同機構は15年11月に各領域の専門研修プログラム整備基準の承認を終え、基幹施設を希望する医療機関に専門研修プログラムや指導医基準等の作成を求めた。
 そして、昨年12月より各基幹施設によるプログラム認定申請の受付を開始した。申請期限は領域で異なるが全体で3月末で終える予定だ。
 今後は、今年5月末までに審査・認定を終え、6月より初期臨床研修2年目の医師による専攻医登録を始め、来年4月に研修を開始、3年制の基本領域は20年度に専門医を認定するというスケジュールを描いている。
 基幹施設が研修プログラムを作成する上で準拠すべき各領域のプログラム整備基準を審査・認定する日本専門医機構の専門医委員会や研修委員会は、関係学会の役員等によって構成されている上、専門研修プログラム整備基準案自体が各領域の学会で作られるため、専門医研修には、各学会と表裏一体の大学医学部の影響が強く働いている。
 その結果、例えば、外科学会や内科学会の専門研修プログラム整備基準は基幹施設の専門研修指導医を常勤で3人以上とするなど、症例数の水準も含め、大学病院以外の病院が基幹施設になれる可能性はかなり小さなものとなった。
 さらには、連携施設にも常勤1名以上の指導医配置を求めるなど、中小病院が連携施設になれる可能性も低くなった。
 こうして、主に大学病院が基幹施設を担っていく構造の下、専門医が大学病院に集中し、医局による医師派遣が復活する可能性を生じるものともなった。
 こうしたことを懸念した四病院団体協議会は、15年の4月28日付と10月28日付の2回にわたって専門医機構に要望書を提出して再考を求めたほか、同機構の社員である日本病院会出身理事による発言等をとおして意見を表明してきた。
 要望書では、例えば、「基幹施設の多くが大学病院となる場合においても以前の医局制度に戻すのではなく、医師の偏在が解消されるような制度設計とすること」(15年4月28日付)を、また、「中小病院の切り捨てにならないような地域医療を守る配慮」(15年10月28日付=別掲)を求めた。

「このままでは2次救急が崩壊しかねない」

 2月18日の医療部会で日本専門医機構への批判が相次いだ背景には、こうした新専門医制度に対する一般病院の不安がある。
 つまり、専門医が大学病院主導で養成され、初期研修後の若手医師や指導医の基幹病院集中が進むことによって、全国の病院とくに中小病院にとどまる中堅や若手の医師が少なくなる可能性があり、今以上の医師偏在をもたらすことにならないかという懸念である。
 こうした問題意識から、医療部会のある委員は、「専門医機構の委員の多くが大学の先生であるため、一般の病院の間には不安が強い」と、全国の病院が心配する点を代弁した。
 それにとどまらず、「この制度は大学病院と都会の目線。これでは地方の病院はとどめを刺される」と強い口調の批判も出た。さらには、「専門医の研修施設は基幹病院に限られるということで、すでに中小病院では若手医師の引き上げが始まっている。このままでは2次救急が崩壊しかねない」と、強く懸念する声もあがった。
 医療部会で相次いだ意見は、「領域によっては基幹施設には6人以上の指導医が必要とする基準もある。これでは県に1つしかできない」あるいは「県境を超えた連携施設の範囲基準が不明確」「専攻医の数に影響する患者数について、県境を超えた遠方からの患者の流入に対応できていない」など、整備基準に関する具体的な疑問も次々提起された。
 また、「申請の期間が短いために各病院はプログラムを慌てて作っているのが実情ではないか」と17年4月研修開始のスケジュールを優先させることへの不満も出た。
 そうした中、「19ある基本領域のうち18の学会は機構の社員になっているのに、総合診療領域だけ関係学会が社員でないのはなぜか」と、専門医機構の組織をめぐる質問も出た。
 専門医機構の社員は、日本医学会連合、日本医師会、全国医学部長病院長会議、四病協、がん治療認定医機構と基本診療領域の18学会からなるが、このうち、四病協は日病が代表して社員となっている。
 四病協の取り扱いに関して、専門医機構の池田康夫理事長は「設立時の社員には法人格が必要であるが、四病協は法人格がないので設立後に社員になってもらった」と説明したが、西澤委員(全日病会長)は「四病協の4団体はいずれも法人格をもっているので、我々は4団体がそれぞれ社員となることを求めたが、受け入れられなかった」と、その経緯をつまびらかにした。

専門医機構「激変を避け、経年的に専攻医数を是正していく」

 領域別と地域別の専攻医数に関して、専門医機構は、地域医療体制が現状より悪化しないよう「激変を避ける」として、過去3年の募集数の平均をベースとする考えを示した。その上で、偏在の是正に向けて毎年改善を図り、「経年的に専攻医数を是正していく」としている。
 具体的には、研修プログラムの申請終了、応募者数の判明、採用試験の各段階で、公平な研修機会の確保に向けた研修プログラムの再配置を含む関係者間の協議を図るなど、専攻医ゼロの研修プログラムを出さない方針で臨む考えを明らかにしている。
 同時に、研修の基準を満たしている病院が取り残されることのないようプログラムの申請前に地域で関係者間の協議を行なう方針を明らかにしている。
 これは行政を含む関係者からなる「専門医制度地域連絡協議会」を意味しており、厚労省も1月15日付の医政局医事課長通知で、行政、病院団体、医師会、大学等からなる協議の場を設置することを都道府県に要請。同時に、①基幹施設が申請したプログラムの内容を把握すること、②プログラム認定までに、プログラム配置に偏在がないよう、また、研修施設の基準を満たしている医療機関が研修施設から外れることがないよう、協議する場で調整を図ること等を求めた。
 専門医機構は、医療部会で、地域医療への悪影響を回避するために地域連絡協議会の設置と協議を各都道府県に要望していると説明したが、委員の1人である荒井正吾奈良県知事は「私はそうした話をは聞いていない」と発言、専門医機構の動きが都道府県の長まで伝わっていないことが判明した。
 このように、新専門医研修制度に対する数多くの疑問、不明、さらには地域における関係者協議の不足などが指摘され、病院関係者などからの懸念が表明されたことを受け、医療部会は専門委員会を設置し、別途、研修の開始時期を含めて議論をつくすことが決まった。

□日本専門医機構に対する四病協の要望(2015年10月28日)より

 基幹施設の考え方等が示され、外科学会、内科学会等の考えるところが明らかになるにつけ、基幹施設になれない大規模病院だけではなく地域の医療を守っている中小規模の病院から様々な懸念が出てまいりました。また、地域の中核病院が大学病院の力が強まることに危惧の念を抱いております。
 それらの病院側の不安を払拭し、連携施設群を形成する中でも中小規模の病院の切り捨てにならないよう、より望ましい専門医制度の確立のため、下記の意見をご検討いただきたくよう要望いたします。
1. 機構は基幹となる施設に対し地域医療への配慮を求めること。
 基幹施設の相当な部分が大学医局となるために、医局の意向により専門医の派遣が決定されることになる。その際には中小病院の切り捨てにならないような地域医療を守る配慮が望まれる。
2. 連携施設の要件には地域特性に対する柔軟な配慮をすること。
 良い専門医の育成には指導医要件は必要であるが、地域によっては指導医の常勤要件等を厳しくすると専攻医を募集できなくなる。地域医療が崩壊しないような柔軟な運用が望まれる。
3. 医局から独立して運営している病院にも配慮すること。
 大学医局からではなく、独自の方法で専攻医を集め、研修を行っている病院に対して、今後も継続して運営が円滑に進むような体制が取れるような対応が望まれる。

全日病ニュース2016年3月1日号 HTML版

 

 


全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2013年10月1日号)

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2013/131001.pdf

    9月13日の医療部会に、事務局(厚労省医政局総務課)は、病床機能情報報告制度
    検. 討会がまとめた医療機能の区分案を報告 ... 制度を医療法改正成立後の2014年度.
    早々に始め、14年度中に地域医療ビジョンのガイドライン(GL)策定を終え、各都道府.

  • [2] 医師臨床研修制度の見直しについて(平成27年度研修より適用予定)

    http://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2013/131224_1.pdf

    2013年12月19日 ... 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告(概要)− ... たこと等を踏まえ、さらなる
    研修の質の向上、地域医療の安定的確保等の観点から、制度全体的に検討し、必要な
    見直しを行った .... 米国、英国、仏国の臨床研修制度においては、研修医、指導医
    研修プログラムに対 .... 平成 16 年度の臨床研修制度の必修化以降、専門医等の
    キャリアパスへの円滑な接続 ..... 新しい都道府県の募集定員の上限は、基礎.

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