全日病ニュース

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核廃絶に向け世界の都市が連携

核廃絶に向け世界の都市が連携

夏期研修会を広島市で開催高橋教授が人口減少社会の医療介護を講演

 全日本病院協会の2017年夏期研修会が広島県支部(種村一磨支部長)の担当で7月23日、広島市のリーガロイヤルホテル広島で開催され、84人が参加した。松井一實・広島市長が「ヒロシマから核兵器のない世界へ」、高橋泰・国際医療福祉大学教授が「人口減少社会に向けて、医療・介護はどうかわるのか」をテーマに講演を行った。
平和首長会議の取組みを語る
 松井市長は、原子爆弾投下による被害の実情と戦後の復興の歩みを述べるとともに、核兵器廃絶をめぐる国際情勢について説明。広島市長を会長として世界の都市が連携して発足した平和首長会議により、核兵器廃絶に向けて国を越えた取り組みが進みつつあることを強調した。
 1945年8月6日午前8時15分に広島に原子爆弾が投下され、市の中心部は半径2kmにわたり、全面的に破壊された。爆風や熱線、放射能による急性障害で、その年の暮れまでに約14万人が亡くなり、その後も放射能が人々を苦しめた。廃墟となった広島だが、復興の努力の結果として現在の姿があり、原爆ドームと平和記念公園がかつての悲劇を記録している。
 核兵器の非人道性は明らかであるにもかかわらず、世界はいまだ核兵器を放棄するに至っていない。2017年1月時点で約1万5千発の核兵器が存在し、米国とロシアで9割以上を占める。松井市長は「核軍縮により数は減ったが一発の破壊力は過去と比べ、はるかに大きくなっている」と述べた。
 なぜ核軍縮が進まないか。松井市長は歴史的な経緯とともに、国同士が戦争を防ぐ手段として、核兵器の抑止力に頼る考えが根強いことをあげた。また、軍需産業が経済に組み込まれている国もある。米ソの核軍縮が一定程度進むと、核兵器の材料となる放射性物質の価格が下がり、インドやパキスタンのような国々が保有国になる事態を招いた。
 昨年5月27日に米国のオバマ前大統領が、現職の大統領として初めて広島を訪問し、「広島・長崎が私たちの道義的な目覚めの地となる」ことを願った。しかし、米国の核の傘に守られる日本は、核兵器禁止の交渉に参加できないでいる。
 このような状況で松井市長は、平和首長会議の取組みを紹介した。国という単位では核兵器禁止を主張できないが、都市という単位では可能だ。設立は1982年で、現在162カ国の7,392都市が加盟(日本は全自治体の96.7%に当たる1,679都市が加盟)。会長は松井市長だ。国連への働きかけを通して、各国への影響力を示した。「都市相互の連携を通じ、世界恒久平和を実現する。
 核兵器廃絶の市民意識を喚起する」ことが目的であると、松井市長は説明した。
 2020年までに核兵器廃絶を目指す2020ビジョンに沿って、加盟都市を1万都市に増やすことを目指し、青少年の交流を通して被爆の実相を継承する取組みを続けている。
人口減少社会の医療介護の未来予測
高橋教授は、75歳以上の後期高齢者が急増する人口減少社会で、現状を放置すれば、医療保険制度・介護保険制度は崩壊すると指摘するとともに、解決策として人手不足に対応するICTやハイテク機器の積極的な活用を訴えた。あわせて、死生観の変化が医療介護ニーズを減らす可能性があると指摘した。
 将来推計人口によると、今世紀末の人口は、現在の半分程度まで減少する見通しである。2040年と比べると、65歳未満は約3千万人減少、65 ~ 74歳は約100万人増でほぼ横ばい、75歳以上が約800万人の増加となる。64歳以下の減少と、団塊世代の高齢化を原因とする75歳以上の増加が社会にもたらす影響が大きい。
 人口の推移を踏まえた対策として、①後期高齢者に対する医療介護の負担を小さくする②支える側の生産性をあげる③前期高齢者に支える側に回ってもらう④外国から労働者に来てもらう─という基本的な考え方があると高橋教授は指摘。その上で、①と②をめぐる問題について、医療介護の今後の展望を示した。
 高橋教授は、政府の未来投資会議「医療・介護─生活者の暮らしを豊かに」会合の副会長を務め、未来投資戦略2017のとりまとめに尽力した。そこでの議論として、具体的な事例を交えながら、人手不足が深刻な介護施設におけるICT やハイテク機械の活用による効果を強調。「きつい・汚い・危険」といわれる介護現場の労働環境を変えないと、人手不足に拍車がかかり、「介護保険はつぶれる」と警鐘を鳴らした。
 後期高齢者の負担を小さくすることについては、「省エネ型の老い方・死に方」の考え方を示した。基本的には、「その人の人生全体の満足度を下げずに、必要とされる医療・介護資源量を現在の3分の2に減らす」。そうすれば、後期高齢者が増えても「現状の医療・介護資源量でなんとか対応できる」と訴えた。
 そこで重要になるのが、最期の迎え方である。高橋教授は「食べる元気がなくなったら自らの意思で穏やかな死を選択し、病院を含めた地域の施設が、本人が望む死に方を実現するように、家族と協力する体制が主流になるのではないか」と予測した。欧米のいくつかの国ではそうなっており、日本でも世代による死生観の違いが変化をもたらし始めていると指摘した。
 高橋教授の講演に対して、会場から多くの質問・意見があった。全日病の猪口雄二会長は、「寝たきりになった場合の患者・家族の意識は変わり始めている。むしろ、医療者の認識に遅れがあるぐらいだ」と指摘。高橋教授は、「まさに全日病に加入する病院が、患者が望む死を地域で実現するための機能を果たすことができる」と述べた。

 

全日病ニュース2017年8月15日号 HTML版