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ホーム全日病ニュース(2019年)第948回/2019年9月15日号医療ITの今後に関する提言 ~ 特に相互運用性に関して ~...

医療ITの今後に関する提言 ~ 特に相互運用性に関して ~

医療ITの今後に関する提言 ~ 特に相互運用性に関して ~

【公益社団法人全日本病院協会 医療の質向上委員会】医療ITの今後検討プロジェクト

はじめに
 医療ITの今後に関する重要な政策が決定され、運用されようとしている。2019年10月には、予算措置がついた具体的な事業として発足する。しかし、その意義とおおよその内容を理解している人は医療界の一部にすぎない。その具体的な内容は不明確である。
 本提言の目的は、一部の専門家・医療界だけでなく、国を挙げて「医療ITの今後」を考え、実運用する上の論点を明らかにすることである。本提言がその契機になることを期待する。

全日本病院協会 医療の質向上委員会の研究の経緯
 公益社団法人全日本病院協会 医療の質向上委員会では、2003年頃から医療ITの要求仕様、相互運用性、業務フローに基づく多職種協働の医療、データマネジメント等に関して研究を継続している。
 現状のままでは、我が国の医療ITは、諸外国の動向から取り残されると認識した。2018年から医療ITの今後検討プロジェクトを医療の質向上委員会に設置し、医療ITの今後に関して検討している。2019年7月30日には、検討の一部を、『2019年度 医療IT の今後 ー特にFHIRの動向についてー』研修会で公開した。

医療情報化支援基金
 医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律が2019年4月発布され、2020年4月1日に施行される。改正の概要は、①オンライン資格確認の導入、② 医療情報化支援基金の創設、③NDB と介護DB等の連結解析等、④高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施等、⑤被扶養者等の要件の見直し、⑥審査支払機関の機能強化、⑦その他、の7項目である。
 この制度は2019年10月創設される予定で、2019年度予算で、医療情報化支援基金として300億円が確保された。対象事業は、以下の2つである。
①  オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備の支援(150億円)
②  電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入の支援(150億円)
具体的には、後者は
1 )医療情報化支援基金を創設し、医療機関に対して電子カルテ導入の財政支援を行う。
2 )支援基金の対象は「国の指定する標準規格」を実装する電子カルテとし、医療機関間の情報連携等の医療分野のデータ利活用に資するものとする、と説明されている。

医療情報化支援基金の問題点
1.事業の詳細に関しては、未定である、あるいは、公表されていない。
 2019年5月以降に有識者会議を開催し、具体的な補助要件を決定予定とある。例えば保健医療情報標準化会議の活用が考えられるが、2018年以降開催された形跡がない。
2.目的・方策が不明確である、あるいは、公表されていない。
 目的は、電子カルテ導入医療機関増と医療機関間の情報交換円滑化の基盤構築と説明されているが、多額の資金を導入した相互運用(情報交換)が円滑にいっていない現状をどのように変革するか方策が明らかでない。想定している電子カルテはEHRを意味するのか、EMRを意味するのか不明であることも、この目的、方策が不明確な理由でもある。医療分野のデータ利活用が単に医療機関間の情報連携だけを意味するのか、あるいは、PHRなど患者による医療情報活用までも視野に入れたものなのかも不明である。
3.前項の②電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入の支援に関して
① 「電子カルテの標準化」と「電子カルテシステム等」を使い分ける意味が分からない。明確にしていただきたい。
・ 電子カルテは、EMR(ElectronicMedical Record)を意味するのか。
・ 電子カルテシステム等は、EHR(Electronic Health Record)、PHR(Personal Health Record)のいずれか、あるいは両者を指すのか。EMRも含むのか。
・ PHR・EHR・EMRを区別せず議論している。明確に定義して議論すべきである。
② 電子カルテ(EMR)に関しては、データ交換の相互運用性確保が最重要である。データ交換可能な標準的なデータの定義、種類、型を制定することが必須である。要素毎・分野毎の標準化・規格が制定されてはいるものの、診療・健康維持等に必要なデータの相互運用性に関するデファクトスタンダードがない。喫緊に、国家プロジェクトとして標準を制定する必要がある。目的に応じてデータの種類と型が決まる。標準の作成とともに、相互運用の実装をモニタリング・監査する国家組織が必要である。規定された標準が不完全であることの他、標準を導入してもその実装を標準化しなければ相互運用に不都合を生じる。標準化といっても、電子カルテ導入時か、情報交換か、あるいは両者かが不明確である。
4.過去の失敗の繰り返しを危惧する。
① 医療情報システムの相互運用性確保を目的に、厚生科研費研究を開始したが、政策変更により中断した経緯がある。
② クリニカルパス等に基づいた試みはあったが、研究段階、あるいは、一部の分野で運用されたが、病院全体の運用には至らなかった。現在、HELICS(医療情報標準化推進協議会)標準規格としてBOM(ベーシックアウトカムマスター)を審査中であり、日本医療情報学会と日本クリニカルパス学会でパスの標準データモデルを検討中である。
③ 業務フロー分析に基づく継続的な研究開発は、我々の活動以外にはなかった。研究、あるいは、一部の分野での運用はあったが、病院全体での実運用を考慮していなかった。
④ 標準といいながら、標準化されていない部分が多くある。
 たとえば、厚労省の電子カルテ補助金の要件であった、SS-MIX2(Standardized Structured MedicalInformation eXchange 2)は、標準化されていない拡張ストレージが問題である。
 EMRの標準化は必要ない、また、しようとしてもできない。
5.データの利活用、公益目的を前面にし、個人の権利(個人情報保護)が軽視されがちである。この傾向は、EHR、PHRの議論で顕著である。
6.相互運用性
① EMR・EHR・PHRのいずれにおいても、相互運用性が必須である。目的に応じて、要求事項・仕様が異なる。
② システムの統一ではなく、データの有効利活用のためのデータの相互運用性の確保が必要である。
 医療ITの相互運用性、携帯性、2次利用には標準化が必要である。
③ 米国のHL7協会は、電子保健医療情報の相互運用性の標準規格「FHIR(Fast Healthcare InteroperabilityResources)」を進めており、我が国でも、FHIRを基盤とした検討がされている。
7.FHIR
① FHIR は、HL-7(Health Level 7)で蓄積された標準規格である。
② 世界標準となりつつあるが、標準化されたリソースは一部でありまだ不完全である。また、80%ルール等については、我が国におけるリソース策定に関する標準化等、検討の余地がある。
③ EHR、PHRの基盤として、SSMIX2とは異なる意義がある。
④  J S O N ( J a v a S c r i p t O b j e c tN o t a t i o n )、X M L ( E x t e n s i b l eMarkup Language)等の汎用的な様式で表記できるので、汎用性・相互運用性が高い。
⑤ アプリケーション間の連携に、Web API(Application ProgrammingInterface) のREST(REpresentationState Transfer)を使えるので、汎用性・相互運用性が高い。XMLもしくはJSON で操作結果を戻す。

結 論
 医療ITの今後の最大の課題は、標準化に基づく相互運用性の確保である。過去に、電子カルテに代表される、相互運用性確保の研究と試みがなされたが、標準制定には至らなかった。
 国家レベルでの継続的取り組みが欠如していたからである。また、相互運用性の目的、対象、範囲が明確でなかったからである。
 EMR、EHR、PHRを明確に区別した議論が必要である。それぞれの目的に応じた対応を検討するべきである。
 まず、標準化するべきは、相互運用に必須の、用語の定義、分類、データの様式、データ交換手順等である。
 まだ、改良の余地があるものの、世界標準となりつつあるFHIRが最有力であると考える。
 今後の議論はFHIRを中心に進めるできである。
 なお、医療ITの相互運用性においては、情報セキュリティに関する検討が必須であるが、論点を絞るために、本提言では触れず、別の枠組みで検討することとした。

 

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  • [1] 医療ITの今後に関する提言 ~ 特に相互運用性に関して ~

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/190829_3.pdf

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