全日病ニュース

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病院給食問題の解決を目指して

病院給食問題の解決を目指して

WEBセミナー 『どうする? 病院給食問題』人手不足とコストの上昇で収支が悪化、病院経営上の課題に

 全日病のWEBセミナー第6弾『どうする? 病院給食問題』が3月11日に開かれ、大幅な赤字となっている病院給食問題の解決方法をめぐって議論した。セミナーには、過去最高の132病院が参加し、関心の高さをうかがわせた。

3年前のセミナーをきっかけに病院給食問題に着手
 全日病は、2018年7月に病院給食をテーマに『2025年に生き残るための病院経営セミナー』を行い、これをきっかけに「病院給食のあり方検討特別委員会」を設置し、病院給食問題に取り組んできた。病院給食は、全部委託、一部委託、直営のいずれの形態においても収支マイナスとなり、厳しい状況が続いている。セミナーで挨拶した中村康彦副会長(医業経営・税制委員会委員長)は、「現在の診療報酬では、給食費の引上げは認められない可能性が高い。病院、給食事業者、現場の立場から様々な意見を聞いて、局面を乗り切っていきたい」と述べた。
 セミナーでは、医業経営・税制委員会副委員長の今村英仁氏(今村総合病院理事長)が座長を務め、給食事業者の立場から日本メディカル給食協会の千田隆夫専務理事、病院現場の立場から上尾中央医科グループ栄養部の渡辺正幸部長が発言した。

病院給食制度の問題
 総論を担当した今村氏は、病院給食制度の変遷や人材確保の課題を述べた。
 そもそも病院給食は診療報酬に包括されていたが、1994年に入院時食事療養費制度が創設され、診療報酬制度からはずれることになった。病気でなくても食事はするので、すべてを治療と考えるのは無理があるというのがその理由だが、保険給付の対象としては継続することになった。その後、2006年に大きな見直しがあり、1日単位から1食単位の算定となる。入院時食事療養費(Ⅰ)は1日1,920円から1食640円に、特別食加算は1日350円から1食75円に変更された。一方、自己負担は平均的な家計の食費を勘案して改定され、一般の標準負担額は2018年から460円となっている。これにより、1食当たりの保険給付は、640円−460円=180円となっている。
 2006年の見直しが影響し、病院給食の収支は大幅に悪化した。中医協の調査によると、患者1人1日当たりの収支は、2004年に168円の黒字だったが、2017年には661円の赤字となっている(全面委託の場合)。原因として、①単価減による減収、②委託費増加、③光熱費増加が考えられる。とくに委託費は、ここ数年で値上げを要求されるようになり、折り合いがつかずに給食業者が撤退する事態も生じている。
 「病院給食は黒字だと思っていたが、いつの間にか赤字になっている。現場の声をしっかり受け止めていなかったことが問題を悪化させてしまったのではないか」と今村氏。調理師の人手不足や光熱費の推移などから、ここ5~10年で赤字幅が拡大し、病院経営上無視できない問題になっていると指摘した。

介護保険における給食
 2000年にはじまった介護保険では、給食は基準食事サービス費として保険給付の対象だったが、2005年の改正で保険給付の対象外となり、低所得者に対して自己負担分を補足給付として補助する形となった。補足給付は、支払い能力に応じて第1~第3段階があり、負担限度額が定められている。第4段階は、補足給付の対象外だ。施設利用者の61%、ショートステイ利用者の29%が補足給付の対象となっている(2019年3月)。
 介護保険では、基準額が1日単位で定められ、現在1,392円となっている。病院給食に比べて単価が低く設定され、2005年以降変更がなかったが、この8月から1,445円となり、53円の引上げとなる。補足給付の変更内容は表1の通り。
 病院給食と介護給食の違いを表2に示した。病院給食の食種数は150~200食種であるのに対し、介護給食は10~ 20食種。病院給食は、介護給食に比べ食種数が多いものの、1日当たりの食費の違いは528円だ。補足給付の対象とならない利用者には、施設側で値段を設定ができる。

人材の確保
 病院給食部門が赤字になっている理由の一つに人件費の高騰がある。とくに調理師の人材不足が顕著だ。新型コロナの影響で、調理師の昨年の有効求人倍率は低下したが、調理師免許の交付数は年々減少しているため、コロナ後に再び人材不足になるのは確実だ。
 一方、管理栄養士は診療報酬における役割が変わり、高い専門性が求められるようになっている。病院において継続教育をどのように行うかが課題だ。介護報酬においても、栄養ケア・マネジメントが強化されている。栄養マネジメント強化加算では、LIFEによるデータ提出が要件となっているほか、管理栄養士・栄養士が計2名以上の場合に算定できる科学的介護推進体制加算が新設された。今後、介護事業所でも管理栄養士の獲得競争に参入することが予想され、医療系と介護系の連携が重要となる。

問題解決に向けた全日病の活動
 全日病は、2018年11月に「病院給食のあり方検討特別委員会」を設置し、入院時食事療養費制度の改善に向けて検討を重ねてきた。2019年1月には、厚生労働省に提言書を提出して制度の改善を求めた。
 2020年の診療報酬改定に当たって要望した5項目のうち3項目が改定に反映されている。内容は、働き方改革に資する規制の緩和や帳票類の整理による負担軽減などである。今村氏は、今後も病院給食制度の改善に向けて活動を続ける考えを示した。

給食事業者の課題
 日本メディカル給食協会の千田専務理事は、給食事業者が直面している厳しい経営状況を報告した。
 人手不足や人件費の高騰を理由に給食を外部委託する病院が増加。同協会加盟の227社が給食業務を受託している病院・介護施設は約1万4,200で、ベッド数では137万床に上る(2020年3月)。病院給食の市場規模は、2018年に1兆1,600億円だが、ここ数年変わっていない。そのうち44.7%が委託の市場である。
 2006年の入院時食事療養費の変更の影響を受けて、給食受託会社の経営が悪化。人件費や食材費が高騰する中で、赤字受託を回避するため値上げ要求をせざるを得ない状況にある。千田氏は「安価な受託価格は影をひそめ、受託価格は上昇傾向にある」と説明した。
 新聞折込で調理師を募集しても応募はほとんどない状況で、人材確保は厳しい。新規の募集より、離職者をなくすことを重視し、外国人技能実習生の活用にも力を入れている。

病院現場の課題
 上尾中央医科グループの渡辺部長は、病院における食事提供の現状を報告した。
 病院給食では、①栄養管理、②衛生管理、③提供食事の評価(提供状況、満足度)、④食材料費管理が求められる。特に衛生管理では、HACCPに基づく厳密な管理が要求される。入院時食事療養費の基準額は平均的な家計における食費を勘案して定められているが、「病院食の提供は家庭での食事提供とはかけ離れている」と渡辺氏。
 病院給食では、1日3食を適時・適温で配膳する必要があり、「毎日滞りなく給食を提供するのはハードルが高い仕事」と述べ、給食業務に対する理解を求めた。
 さらに多くの食種の食事を同時に提供する労力が病院における食事提供を難しくしている。患者のニーズに応えて質の高い食事提供が求められる一方で、入院時食事療養費の金額が上がらないことのギャップが病院給食部門の赤字を招いている。「このままでは委託側も受託側も共倒れになる」と渡辺氏は警鐘を鳴らす。
 「問題は個別対応だ。質を求めるだけでは、立ち行かなくなる。食種の集約は考えざるを得ない」と強調。具体的な解決策として、給食事業者との契約内容を見直し、業務分担を変えてコストダウンを図る方法や、朝食に調理済食品を取り入れることで、早番の出勤時間と人数を減らすことなどを提案した。

 

全日病ニュース2021年5月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日本病院協会 WEB セミナー

    https://www.ajha.or.jp/seminar/other/pdf/210215_1.pdf

    2021年2月10日 ... 座長:今村 英仁(公益財団法人慈愛会 今村総合病院 理事長、医業経営・. 税制
    委員会 副委員長). 18:40. 19:00. 「給食事業者が直面している厳しい経営状況
    について」. 講師:千田 隆夫(日本メディカル給食協会 専務理事).

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