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医療法等改正法案が衆院で可決、参院で審議入り
医療法等改正法案が衆院で可決、参院で審議入り
【国会】衆院の可決の際は10項目の付帯決議つける
医療法等改正案が4月8日の衆議院本会議で、与党などによる賛成多数で可決された(表参照)。前日の衆院厚生労働委員会では、法案を可決するとともに、10項目の付帯決議がついた。4月16日には、参議院で審議入りしている。
同法案では、医師の働き方改革への対応や新型コロナを踏まえた医療計画の見直し、地域医療構想を推進する取組みに対する財政支援、外来医療の機能分化を図るための報告制度の創設などを盛り込んでいる。
付帯決議では、特に、医師の働き方改革や地域医療構想の推進、新型コロナの感染拡大により病院経営が厳しい状況に置かれていることへの対応などが明記された。医師の働き方改革に対しては、改革が地域医療に与える影響を懸念し、病院に財政支援を行うことや医師の労働時間短縮が確実に進む対策を要請した。地域医療構想の推進においても、新型コロナの感染拡大を踏まえた対応が求められるとともに、医療機関の経営状況を速やかに把握し、財政上の支援など必要な支援を講じるべきとした。
一方、立憲民主党などが提出していた医療法等改正案の修正案は、衆院厚労委で否決された。修正案では、地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組みの支援に係る改正規定を削ることを求めていた。
また、立憲などが提出していた子ども・子育て支援施設の職員や、薬局を含めた医療従事者などに2度目の慰労金を支給するための「新型コロナウイルス感染症対応医療従事者等を慰労するための給付金の支給に関する法律案」の採決は行われず、廃案となった。
野党は病床削減への財政支援に反対
厚労委の採決においては、立憲の早稲田夕季議員、日本共産党の宮本徹議員、日本維新の会の青山雅幸議員が討論を行った。
立憲の早稲田議員は、政府案に反対し、修正案に賛成した。地域医療構想を推進するために、病床削減の取組みを財政支援することに反対し、「新型コロナの感染拡大により、病床確保が求められているときに、病床削減は行うべきではない」と述べた。
共産党の宮本議員も早稲田議員と同様に、「病床削減の加速化に反対」と訴え、政府案に反対し、修正案に賛成した。「新型コロナで一般医療にも深刻な影響が出ている。病床は、余力を持たせることが必要だ」と、効率化を追求することへの懸念を示した。
医師の働き方改革に対しても言及。「医師の時間外労働時間の基準は過労死レベル。長時間労働を是正するには、医師を増やすしかない。多くの病院は医師不足を実感している。需給推計をやり直し、実態を踏まえて医学部入学定員の増員を続けるべき」と主張した。維新の青山議員は、政府案に賛成したが、医師の働き方改革を実施する上での課題は多く、宮本議員と同じく、医学部の臨時定員の維持や地域・診療科の医師・偏在対策の強化を要請した。
医師の働き方改革への懸念に回答
4月16日の参議院本会議では、参院本会議で田村憲久厚労相が法案の趣旨を説明するとともに、立憲民主・社民の川田龍平議員、公明党の竹内真二議員、日本維新の会の梅村聡議員、国民民主党・新緑風会の田村まみ議員、共産党の倉林明子議員が法案の内容に対する質問を行った。
立憲の川田議員は、新型コロナの感染拡大を踏まえ、「政府は、医療崩壊が起きた理由をどう考えているのか」と問うた。これに対し田村厚労相は、「国として、医療崩壊について明快、明確な定義を示しているものではないが、年明け以降の急激な感染拡大を受けて、大変逼迫した状況が続いている」との認識を示した。
その上で、「患者を受け入れる場面で医療従事者の確保が難しい場合や、一般医療との両立を図る中で受入れが難しい場合があったこと、患者の療養先調整や症状改善後の転院、退院の調整に時間を要したことなど、医療提供体制全体の中で課題があった」と説明した。
公明党の竹内議員は、救急救命士の業務範囲拡大での具体的な業務や想定される人材について質問した。田村厚労相は、「従前の病院前に加え、新たに、医療機関の救急外来において従前と同様の救急救命処置を行うことを可能とする。医療機関が雇用する救急救命士が担うことを前提に、安全性の担保の観点から、勤務する医療機関が実施する院内研修の受講を義務づけるとしており、今後、研修の詳細を検討する」と述べた。
女性医師が働きやすい環境づくりについても質問した。田村厚労相は、「医師の約5分の1、医学生の約3分の1が女性であり、女性医師がキャリアとライフイベントを両立させ、希望に応じて働き続けられる環境を整備することは、医師の働き方改革を進める上でも必須の課題。もとより子育ては女性のみで行うものではなく、院内保育や病児保育環境整備、男性の育休所得も含め、医療機関内の意識改革等を推進することで子育て世代の医師の支援を行っていく」との姿勢を示した。
維新の会の梅村議員は、医師の働き方改革における医師の時間外労働の特例水準について、年間1,860時間まで認めるB水準や連携B水準を設けたことを評価した。その上で、「すでに医師不足が深刻な地域では、医師の時間外労働の上限規制導入によって少ない医師の奪い合いが起き、病院勤務医の確保がますます困難になったり、他病院から医師の派遣が受けられなくなったりする可能性があるのではないか」と質問した。
田村厚労相は、「特に、連携B水準は、地域医療を支える上で必要な医師の派遣が謙抑的にならないよう設定したものであり、まずは、医師の派遣を行う大学病院等に対し、連携B水準の趣旨を丁寧に説明したい」と述べた。
国民民主の田村議員は、地域医療構想の推進について、「病病連携のためにも、公立・公的病院だけでなく、民間病院も併せた病床数再編の検討が必要だ。民間病院の議論の目安はいつ出るのか」と田村厚労相にたずねた。
これに対し田村厚労相は、「地域医療構想に関しては、公立、公的、民間といった設置主体を問わず、地域における医療機能の分化・連携に向けた議論を活性化していくことが重要である。すでに民間医療機関においても、地域医療構想を踏まえた対応方針について検討を進めている」と説明。その上で、スケジュールについては、「都道府県や医療機関が、緊張感を持ってコロナ対応に取り組んでいる状況に十分配慮しながら、検討する」と述べるにとどめた。
共産党の倉林議員は、地域医療構想を推進するための財政支援制度について、「各地で入院医療体制が逼迫し、広く地域の医療連携体制の確立が求められている。入院できない患者が再びあふれる危険がある中で、稼働率の高い病床を今なくすことが、なぜ社会保障の充実なのか」と訴えた。田村厚労相は、「病床機能再編支援事業については、関係団体から本事業の継続に関する要望を頂いている中、病床機能の分化、連携に向けた取組みを進めている医療機関等に対する重要な支援として継続する必要があると考えている」と述べた。
医療法等改正案の10項目の付帯決議(衆議院)【要旨】
①医師に対する時間外労働の上限規制の適用に当たっては、大学病院等が地域の医療機関から医師を引き揚げることなどにより、地域の医療提供体制に影響を及ぼすことがないよう、特定管理対象機関の指定制度の趣旨を周知徹底するとともに、地域医療提供体制の確保のために必要な支援を行うこと。
②医師の夜間勤務、特に、第二次救急医療機関や急性期病院における夜間勤務については、通常の勤務時間と同態様の義務を行う場合には時間労働として扱うなど、労働時間の適切な管理が必要な旨を周知徹底するとともに、交代勤務を導入する等により、夜間勤務の負担軽減を図る医療機関に対し、必要な支援を行うこと。
③医師の労働時間短縮を着実に進めるために、現行制度下におけるタスクシフトやタスクシェアの普及を推進するとともに、すべての医療専門職それぞれが、自らの能力を活かし、より能動的に対応できるよう、必要な検討を行うこと。
④医師の労働時間短縮に向けた医療機関のマネジメント改革を進めるため、医療機関の管理者、中間管理職の医師等に対し、労働法制に関する研修・教育を推進すること
⑤医師の時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払状況や、健康確保措置の実施状況などの実態を踏まえ、診療報酬における対応を含め、医療機関への財政支援を講じること。
⑥医学部における共用試験の公的化を踏まえ、診療参加型臨床実習に即した技能習得状況を確認するための試験の公的化を含め、医師国家試験のあり方を迅速に見直すこと。
⑦子育て世代の医療従事者が、仕事と、出産・子育てを両立できる働きやすい環境を整備するとともに、就業の継続や復職に向けた支援策等の充実を図ること。
⑧地域医療構想については、各地域において、新型コロナの感染拡大により生じた医療提供体制に係る課題を十分に踏まえ、地域包括ケアの観点も含めた地域における病床の機能の分化及び連携の推進のあり方について検討し、必要な取組みを進めること。
⑨新型コロナの感染拡大により生じた医療提供体制に係る課題を十分に踏まえ、地域の医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携、医師の地域間及び診療科間の偏在の是正等に係る調整のあり方その他地域における良質かつ適切な医療を提供する体制の確保に関し必要な事項について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じること。
⑩医療機関の経営状況について速やかに把握し、医療機関に対し財政上の支援等必要な措置を講じること。また、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれのある感染症がまん延した場合等において、医療機関及び医療関係者に対する支援その他の必要な措置のあり方を検討すること。
全日病ニュース2021年5月1日号 HTML版