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ホーム全日病ニュース(2022年)第1016回/2022年9月1日号感染症に対応する医療機関への減収補償のあり方など議論

感染症に対応する医療機関への減収補償のあり方など議論

感染症に対応する医療機関への減収補償のあり方など議論

【社保審・医療部会】「診療報酬とは別の枠組みで対応すべき」神野委員

 社会保障審議会・医療部会(永井良三部会長)は8月17日、「現行の感染症法等における課題と対応等」、「遠隔医療のさらなる推進」、「医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査」をめぐり議論を行った。「感染症に対応する医療機関の抜本的拡充」に関して、協定を締結する医療機関に対する減収補償のあり方などで委員から様々な意見が出た。

感染症対応の医療機関
 「現行の感染症法等における課題と対応等」については、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」の報告書に基づき、新型コロナ感染症対策本部決定の「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染危機に備えるための対応の方向性」に沿って、課題と対応の方向性が示された。
 その中の「感染症に対応する医療機関の抜本的拡充」に関して、「都道府県が、あらかじめ医療機関との間で病床や外来医療の確保等の具体的な内容に関する協定を締結する仕組みを創設する。公立・公的医療機関等、特定機能病院などについて、その機能を踏まえた協定を締結する義務を課すとともに、その他の病院との協定締結を含めた都道府県医療協議会における調整の枠組みを設ける。…平時から必要な病床を確保できる体制を整備する」との方針が示されている。協定に沿った履行を確保するための措置としては、「一定の医療機関にかかる感染症流行初期における事業継続確保のための減収補償の仕組み」を創設するとしている。
 全日病副会長の神野正博委員は、「減収補償の仕組みの創設が記載されているが、病床、人員、PPE(個人防護服)などの確保の財政支援を診療報酬の枠組みでやるのか、それともそれとは全く違う別の仕組みでやるのかを明確にしていただきたい。例えば、自衛隊や消防組織は、非常時に備えて平時に訓練などを行っている。これに対して医療機関は、日常で一般医療を提供している。その意味では、非常時のための病床、人員、PPE(個人防護服)などは、診療報酬とは別枠で対応すべきものであると強く思う」と述べた。
 健康保険組合連合会専務理事の河本滋史委員も、「事業継続確保のための減収補償に必要な経費は、公費によって賄われるべき」と主張した。その上で、「『感染症まん延時等』とあるが、感染症まん延時以外に、減収補償を行う場合があるのか」と質問。厚生労働省は、「ここでの減収補償は『感染症流行初期』に限定される」と説明した。
 さらに、第8次医療計画の事業に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加されたことを踏まえ、今後のスケジュールについての質問があった。厚労省は、現在、第8次医療計画検討会において、各分野の議論が進められているが、新興感染症等については、秋の臨時国会で感染症法等改正を行う予定となっており、それを踏まえ、その内容が第8次医療計画に盛り込まれるよう対応するとの考えを示した。
 産業医科大学教授の松田晋哉委員は、「足りないのは、病床というよりも人員」と強調。「医師、看護師などをあらかじめ登録し、非常時に活躍してもらう仕組みが求められる」と提案した。減収補償の財源については、「広く国民一般に負担してもらう財源がよいと思う。例えば、地域医療介護総合確保基金が考えられる。保険料も使って一定程度プールする仕組みも一案だと思う」と述べた。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「特に大都会において、感染症まん延時は公的・公立病院だけではカバーできないので、民間病院が対応しなければならない。その時に、公的・公立病院に対しては、補助金はじめ平時から財政支援があるが、民間病院にはない。民間病院に対する支援をどう考えればよいか」と質問。厚労省は、「今回の減収補償の仕組みは、公立・公的病院、協定を締結した病院であれば、民間、公立・公的の別なく対応するものと考えている。民間病院であっても、減収補償の対象になる」と回答した。

オンライン診療の場所拡充の是非
 遠隔医療のさらなる推進については、規制改革実施計画(2022年6月7日閣議決定)が「通所介護事業所や公民館等の身近な場所での受診を可能とする必要がある…デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、オンライン診療を受診することが可能な場所や条件」の検討を求め、成長戦略フォローアップ(2021年6月18日)が「自動車を活用してオンライン診療を行う場合の課題や事例」の整理、普及を求めていることを踏まえ、議論が行われた。
 「医療は医療提供施設または患者の居宅等で提供されなければならない」と医療法で規定され、それは「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも適用されることになっている。
 医療提供施設は、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局、その他の医療を提供する施設と定義される。
 「居宅等」は、「老人福祉法に規定する養護老人ホーム等のほか、医療を受けるものが療養生活を営むことができる場所」を含み、療養生活を営むことができる場所としては、「患者のプライバシーが十分配慮された環境」であることや、「清潔が保持され、衛生上、防火上及び保安上安全と認められる場所」とされている。
 なお、「患者が勤務する職場等」も、療養生活を営むことができる場所として認められている。
 厚労省は、オンライン診療を可能とする場所として、「通所介護事業所や公民館等の身近な場所」、「自動車」をどう考えるかを論点とした。
 神野委員は、「85歳以上になると医療・介護を必要とする人は6割近くになる。まさに、医療機関には通えない人がどんどん増えてくることを背景に、オンライン診療を普及させる取組みには賛成する。Maas(マース:Mobilityas a Service)の話も出たが、自動車が診療所になってもよいし、Maasを使った送迎も考えられる。また、論点に、『医師と患者間のD to Pの形式や、看護師が同席するD to P with Nの形式も想定する』とあるが、withホームヘルパーも考えられる。オンライン診療の費用に、訪問看護や訪問介護の費用を勘案することも検討しなければいけない」と述べた。
 他の委員からは、「通所介護事業所や公民館では、患者の日常生活等の事情の情報を得ることは難しい。通所介護事業所や公民館に行ける人は、医療機関にも通えるはず。Maasで患家の傍らに来ることができるのであれば、自宅でオンライン診療ができるよう配慮すべき。患者を自動車で移動させることにこだわるべきではない」(角田徹委員・日本医師会副会長)、「公民館は、壁が薄いなど患者のプライバシーが確保できない可能性がある。Maasも医師不足地域に限るなど一定の範囲に抑えるべき」(佐保昌一委員・日本労働組合総連合会 総合政策推進局長)など慎重な意見も出た。
 厚労省は、オンライン診療の実施に当たっての基本理念として、◇患者の日常生活の情報も得ることにより、医療の質のさらなる向上に結びつけていくこと◇医療を必要とする患者に対して、医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすこと◇患者が治療に能動的に参画することにより、治療の効果を最大化すること─を示している。

1,860時間超は大学病院の2.4%
 医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査については、時間外・休日労働時間数が年通算1,860時間相当超の医師数が多い大学病院の診療科別の集計が示された。全体では、所属医師数(4万3,718人)のうち2.4%(1,034人)が、1,860時間を超えていた。
 2022年3・4月に実施した調査では、大学病院本院および防衛医科大学校病院のうち、副業・兼業先を含めた時間外・休日労働時間は、82病院中20病院(24%)の把握にとどまった。今回、大学病院本院等に対し、改めて調査(2022年5月25日~7月8日)を行ったところ、100%の病院から回答があり、副業・兼業先の勤務実績の把握状況は90%(2,803診療科のうち2,522診療科)まで高まった。自院の勤務実績の把握状況は100%であった。
 結果をみると、1,860時間を超えていた割合が最も高かったのは産婦人科の7.0%で、次いで、脳神経外科の5.8%、外科の5.1%、救急科の3.1%、小児科の2.8%、総合診療と整形外科の2.1%となっている。最も低いのは臨床検査の0.0%、次いで、皮膚科の0.2%、放射線科の0.3%、リハビリテーション科の0.5%、眼科の0.6%、精神科の0.8%となっている。所属医師数の多い内科(1万2,340人)は1.8%であった(下表を参照)。
 なお、現状で、時間外・休日労働が年間1,860時間を超える医師には、「(外勤先の)宿日直許可の取得」、「タスクシフト/シェア」、「外部からの医師派遣」、「院内の勤務体制の見直し」などを行い、1,860時間を超えないようにしなければならない。960時間以内であれば、医師への時間外労働規制のA水準となるが、960時間を超える場合は、B水準、連携B水準、C水準のいずれかの特例を受ける必要がある。

 

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