全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2022年)第1016回/2022年9月1日号第5回 適材適所に人材を配置するのは難しい!

第5回 適材適所に人材を配置するのは難しい!

第5回 適材適所に人材を配置するのは難しい!

行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント
~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

 当企画は、行動経済学の視点から病院の経営マネジメントを見直し、病院のリーダーがチームメンバーを伸ばすことで、全体のパフォーマンスやクオリティを上昇させることの支援を目的としている。
 前回(第4回)は「どうして若手スタッフは話が通じないのか?」という、はるか昔から人類が苦しんできた悩みについて、その原因をひもとき、e-learningを活用して若手を伸ばす教育法について取り上げた。
 今回(最終回)は、「適材適所に人材を配置するのは難しい!」と題して、理想の人材配置を考えていく。当企画が会員の皆様の参考となれば幸いである。

江口 病院経営者のよくある悩みとして、適材適所に人材をどう配置するかという問題があります。理想の人材配置とはどのようなものでしょうか?


江口 有一郎氏

石川 診療科や病棟を飛び越えて横断的に動ける人員を作るのがいいと思います。縦割り組織だといつまでたっても推進力が上がらないのですが、皆がより横断的に動くことで多くのチームが活性化すると感じています。
江口 それはどのようなチームなのですか?
石川 チームリーダーは医師で、そのチームがマネジメントして教育したり加算を取ったり新患数を増やすような活動を行います。経営陣は各チームが医療の質と経営の両方を成り立たせていけるように、より動きやすい環境をヒアリングして、法人としてできることをサポートするような形にしています。病院の方針とズレない内容で、リスクがあまりないなら、やりたいことを応援するという姿勢です。何事もトライ&エラーであり、ダメならすぐやめればいい、という感覚でないと提案が出てこないと思っています。
江口 その提案はどのようなプロセスで上がってくる仕組みですか?
石川 病院内のSNSに書く場合もありますが、お金がかかる場合は稟議書を提出してもらいます。チーム内でシミュレーションをしてもらって、それが良かったらOKが出るのはかなり早いです。


石川 賀代氏

江口 自ら自走してやりがいを感じられる仕組みだと思います。やりたいことがあるのに、聞く場所が分からないで保留しているうちに、人間は忘れてしまうものですよね。思いつきやアイデアをパッと出せる仕組みは大きなメリットです。
平井 シンプルで、意思決定のコストが低いと思いました。大きな組織になるほど、意思決定のコストがとても高くなります。書類を作ってこの会議に通して…などと想像するだけで多くの人は萎えますよね。
江口 このような仕組みに対して中間管理職もすぐ賛成しましたか?
石川 いや、そんなことないですよ。職種や年齢、個人の特性や性格によって反応が異なりますので、一度にすべての部署でパッとうまくいくとは言えません。そういう部署には別の仕組みを入れないとなかなか難しいです。
平井 人材の配置については「ニューロダイバーシティ」の導入を試みています。その人の特性や性格を多様性と捉え、得意なこと、不得意なことをチェックして、それに合った仕事の仕方を見つけていこうとする取り組みです。
石川 当院の事務チームを作るときに、ストレングスファインダー®(米国ギャラップ社が開発した、人の才能を見つけ出すツール)を使ってみたことがあります。私の特性を皆に開示してメンバー構成を考えることもしたのですが、まだ成果が出ているとは言えません。とはいえ、何をするにしても自分の特性を知ることで成果を上げやすくなると思うので、面白いツールだと思います。
江口 適材適所は難しいですよ。特に中間管理職は昔ながらの年功序列で決まるので、管理職が不向きの方が就くこともあり得ます。院内で人事が固定しがちなところもあって、部署によっては1+1が100になるところもあれば、1+1+1が2にしかならないところもあるのです。それは管理職のスキルなのかモチベーションなのか…スタッフは頑張っているのですが、リーダーによってその頑張りがその部署のみならず法人全体として良いアウトプットにつながっていない気がしています。
石川 企画や調整ができる人、ガンガン動ける人を組み合わせて横断的なプロジェクトチームを作ってはいかがですか。まずは絶対成果が出ることをやらせて自信を付けさせて、小さな成功体験を積み重ねていきながら、だんだん難しい課題に挑戦していくような道筋を付けてあげるといいと思います。
江口 成功体験を得られて褒められる環境ならば、次々とアイデアが出てくる和気藹々とした良いチームが育てられると思います。現場のなかでちょうどいい課題を見つけるのが悩ましいところです。
平井 以前、大学でこんな組織改革案を考えたことがあります。それは職能ごとに管理するだけの組織と、職種に関係なくプロジェクト管理をするリーダーのいる組織を別立てにするという二重構造です。職能管理は年功序列で上げていき、業務はプロジェクトで管理していくほうがスッキリすると思いました。それに加えて、給料も職能に応じて年功序列的にベースアップし、プロジェクトの成果でボーナスがもらえるようにする。そうすると、職種や年齢に関係なく、成果を上げて給料をたくさんもらう人が出てきますし、仕事への動機付けもできますよね。


平井 啓氏

江口 そのほうが働く側としても目的がはっきりして楽しそうですね。
平井 残念ながらこの案は採用されなかったのですが、参考になれば幸いです。

 

全日病ニュース2022年9月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。