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ホーム全日病ニュース(2023年)第1026回/2023年2月15日号第8次医療計画における新興感染症対応の議論を開始

第8次医療計画における新興感染症対応の議論を開始

第8次医療計画における新興感染症対応の議論を開始

【厚労省・第8次医療計画検討会】確保病床数や発熱外来の目標値の目安を見込む

 厚生労働省の第8次医療計画等に関する検討会(遠藤久夫座長)は2月2日、第8次医療計画における新興感染症対応の議論を開始した。新興感染症対応は6事業目として医療計画に含まれることになったが、改正感染症法等の成立を待って議論する必要などがあったため、他の事業等とは別にまとめることになっていた。厚労省は、新型コロナの経験を踏まえ、春をめどに指針改訂の内容を決定したい考えだ。
 検討の前提として、次のような方向性が示されている。対応する感染症は、「感染症法に定める新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症」を基本とする。まずは、現に対応しており、これまでの教訓を生かすことのできる新型コロナへの対応を念頭に取り組む。事前の想定と大きく異なる事態となった場合には、その感染症の特性に合わせて協定の内容を見直すなど、実際の状況に応じた機動的な対応を行うとしている。
 新興感染症の発生初期の段階では、都道府県知事の判断により、流行初期医療確保措置付き協定締結医療機関を中心に対応する。流行初期医療確保措置が発動され、3か月経過後は、協定の内容に沿って順次、すべての医療機関が対応することになる。
 流行初期医療確保措置とは、新興感染症に対する診療報酬の上乗せや補助金による支援が充実するまでの暫定的な支援のこと。その措置額は、感染症発生・まん延時の初期に、 特別な協定に基づいて対応を行った月の診療報酬と、感染症発生・まん延時以前の直近の同月の診療報酬の額などを勘案した額を比較し、差額分が支払われる。
 全日病会長(日本医師会副会長)の猪口雄二委員は、「今回の対応の方向性では、都道府県の判断で対応する事項がたくさんある。しかし、どのような感染症が来るのか全くわからない状況では、やはり国が中心的な考えを出す必要があると思う。新たに内閣感染症危機管理統括庁や国立健康危機管理研究機構を設置するということもあるので、国が主導して、新興感染症に対する対応方針をきちんと示し、国全体として動ける形にすべき」と述べた。

500医療機関で1.5万床を確保
 新興感染症に対応するために、事前に都道府県と医療機関が締結する協定については、①病床関係②発熱外来関係③自宅・宿泊療養者・高齢者施設等での療養者等への医療の提供関係④後方支援関係⑤人材派遣関係─が論点となった。
 病床については、新型コロナ対応の重点医療機関の施設要件も参考に確保し、都道府県からの要請後1~2週間をめどに即応病床にする。確保した病床を稼働させるためには、医療従事者の確保も重要であり、協定締結医療機関は、自院の医療従事者への訓練・研修などを通じ、対応能力を高める。数値目標は、新型コロナ対応の実績を参考に、それを上回ることを目指す。
 協定締結医療機関の中で、流行初期から対応する能力を有する医療機関は、地域の実情に応じて確保する。新型コロナ対応では、全国で重点医療機関が1,500程度(2021年11月時点)、そのうち総病床数が400床以上の重点医療機関が500程度であったことから、流行初期医療確保措置付き協定締結医療機関も500程度を目安とした。
 例えば、2020年冬の新型コロナ入院患者数は約1.5万人(うち重症者数は1,500人)であったため、500医療機関の1医療機関あたりの確保病床数は30床となる。なお、厚労省は、400床以上を流行初期医療確保措置付き協定締結医療機関の基準にしているわけではないと説明した。
 疑い患者については、その他の患者と接触しないよう、独立した動線などを確保することから、新型コロナの協力医療機関の施設要件も参考に、病床の確保を図る。協力医療機関の新型コロナの疑い患者に対する病床は、「個室であり、トイレやシャワーなど他の患者と独立した動線であることを」を求めている。
 NPO法人COML理事長の山口育子委員は、患者が他の選択肢がとれない状況で、新型コロナの協力医療機関から高額の差額ベッド代が請求される事例が出ていることから、新興感染症の疑い患者に対する差額ベッド代の取扱いの整理を求めた。
 重症者用病床の確保については、新型コロナ対応と同様に、集中治療室や人工呼吸器などとともに、感染症患者の集中治療を行う医療従事者の確保を図る。また、それに伴い、脳卒中や急性心筋梗塞など患者の生命に重大な影響が及ぶおそれがある通常医療が制限される可能性があるため、各都道府県において、そのような通常医療をどの程度確保できるかを確認する。
 全日病副会長の織田正道委員は、「待てない急性期の患者への対応では、県を越えた調整が必要になる場合がある」と指摘。柔軟な入院調整が可能となるよう、県をまたぐ患者情報の共有化が重要になると訴えた。
 また、対応方針では、「特に配慮が必要な患者」のための病床確保の必要性も指摘された。具体的には、精神疾患を有する患者、妊産婦、小児、透析患者、障害児・者、認知症患者、がん患者、外国人があがった。
 地域医療構想は人口動態の変化に対応するため、着実に推進を図っている。このため、感染拡大時の短期的な医療需要に対し、各都道府県の医療計画に基づき、機動的に対応することを前提に、地域医療構想の基本的な枠組みは維持し、PDCAサイクルに基づき、着実に取組みを進めていくとしている。

発熱外来は1,500機関を目安に
 発熱外来関係については、新型コロナ対応の診療・検査医療機関の施設要件も参考に、発熱外来等専用の診察室を設けた上で、あらかじめ発熱患者などの対応時間帯を住民に周知し、または地域の医療機関などと情報共有して、発熱患者などを受け入れる体制を構築する。数値目標について、新型コロナ対応の実績を参考に、それを上回ることを目指す。
 新型コロナ対応においては、全国で流行の初期頃(2020年5月)の帰国者・接触者外来が約1,500程度であったことを参考に、約1,500機関を目安にするとした。2020年冬の新型コロナのピーク時の外来受診者約3.3万人を1,500医療機関で割ると、1日20人強の発熱患者を診察しなければならない。発熱外来は都道府県知事からの要請後、1週間以内の開始を求める。

派遣人数一人でも協定締結可能
 自宅・宿泊療養者・高齢者施設等での療養者等への医療の提供関係については、新型コロナ対応と同様に、病院・診療所は訪問看護ステーションや薬局と連携し、往診やオンライン診療などを行う。また、自宅療養者などの症状が悪化した場合に、入院医療機関に適切につなげるようにする。数値目標について、新型コロナ対応の実績を参考に、その数値を上回ることを目指す。
 後方支援関係については、①流行初期の感染症患者以外の患者の受入れ②感染症から回復後の入院が必要な患者の受入れ─が想定される。このため、新型コロナ対応と同様に、後方支援医療機関は、自治体や都道府県医師会、都道府県病院団体・支部による協議会や、既存の関係団体と連携した上で、感染症以外の患者や、感染症から回復後の入院が必要な患者の受入れを行う。
 人材派遣関係については、人数の基準は設けないとしており、医療機関が1人の医療従事者を派遣する場合でも、協定を締結できるとした。協定締結医療機関は、自院の医療従事者への訓練・研修などを通じ、対応能力を高める。また、医療人材の身分・手当・補償など労働条件の諸条件を明確にするため、協定のモデル例を示す。
 国が直接派遣を要請できる医療機関としては、感染症法に規定する公立・公的医療機関などのほか、特定機能病院や地域医療支援病院、広域的な医療人材派遣も想定されているDMAT・DPATなどが在籍する医療機関を対象とする。なお、AMAT(全日本病院医療支援班)は対象外となっている。
 後方支援や人材派遣についても、数値目標は新型コロナ対応の実績を参考に、それを上回ることを目指す。

 

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