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ホーム全日病ニュース(2023年)第1031回/2023年5月1日号病院運営に関わる人材の育成に取り組む 2024年度から2段階の経営管理の研修をスタート

病院運営に関わる人材の育成に取り組む
2024年度から2段階の経営管理の研修をスタート

病院運営に関わる人材の育成に取り組む
2024年度から2段階の経営管理の研修をスタート

【シリーズ●全日病の委員会】第13回 医療従事者委員会 井上健一郎委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介する本シリーズの第13回は、医療従事者委員会の井上健一郎委員長にご登場いただきます。病院事務長研修と看護部門長研修、多職種リーダー研修の内容と、今後の研修再編について聞きました。

病院運営に携わる人材を協会内で育成することを目指す
──医療従事者委員会のご活動が目指すところについて教えてください。

 病院のなかには多くの専門職がいます。それぞれの専門職のスキルを高めるための教育は従来から熱心に行われてきていましたが、病院を組織として運営していくための研修は従来、あまり行われていなかったのです。組織を運営できる人材は、自分たち自身で育成しなければならないという思いで、全日病では22年前、まず病院事務長を対象にした研修を始めました。
 その後、看護部門長にも、院長の右腕となって病院運営に携わってもらいたいということで、2005年から看護部門長への研修を始めたのです。
 そうして、病院の運営管理を担える人材を育成することを目指して、当委員会では研修に取り組んできています。
 全日病の会員には、病院だけでなく介護施設を運営されている方も多いのですが、そうなると、病院だけうまく運営できればよいというわけではなく、介護事業も含めた全体最適の視点をもつことが重要になります。
 組織で働いていますと、つい自分の所属する部などの組織を守ろうとする気持ちが強くなってしまいがちです。しかし、みながそうでは病院全体はうまくまわらない。研修で、組織の『全体最適』を考えられる人材を育てていければ望ましいと思いますね。

──委員構成の特徴は。
 全日病の委員会では珍しく、当委員会では医師以外の委員が多くなっています。全日病会員の医師6名、事務長3名、看護部門長5名で構成されています。医師はどうしても、医療や医局のほうに目が向きやすいのです。しかし、当委員会には病院運営の全体がわかっている事務長と、看護管理をよく知る看護部門の委員がいるので、この委員会では医師とは別の視点からの意見も出てくるのがいいですね。
 そして、病院管理の専門家である池上直己・慶應義塾大学名誉教授が特別委員として参加されています。

事務長研修では経営計画を策定 修了者は「病院管理士」に認定
──現在実施されている、「病院事務長研修コース」について具体的に教えてください。

 病院事務長研修コースは、病院事務長または事務長を目指す方を対象に実施しており、2023年度には第21回を迎えます。カリキュラムは、医療政策の動向や経営戦略、組織管理、財務会計・管理会計、院内コミュニケーション、病院管理機能、人材マネジメント、経営計画策定、共通課題検討など多岐にわたっています。
 参加者には単元ごとに試験を受けてもらい、最終的には「自院の経営計画」を策定してもらいます。さらに、院長・理事長の意見を踏まえて、ブラッシュアップした経営計画を仕上げてもらう。そこまでで全13単位、6カ月です。最後の評価試験に合格された方を「病院管理士」として認定します。
 そして、研修を修了して6カ月後に「病院管理士・看護管理士フォローアップ研修会」を受講することができます。自院で実際に半年間、経営改革を実践してみて、どうだったかということを発表する研修会です。病院事務長研修コースから、このフォローアップ研修会までが一つのタームですね。
 病院事務長研修で大事なのは、将来を見据えた課題解決です。“自分たちの組織は5年後に、あるいは10年後にどのようにあるべきか”ということをイメージして、そこに向けて何をしていくべきかを考えてもらいます。
 各病院には基本的に、組織として目指すべき理念や考え方があるはずです。参加者には、それと現実とのギャップに目を向け、あるべき姿に近づくためにどのように経営改革を行うべきかを考えることに取り組んでもらいます。ですから、参加者の事務長さんには、自院の理事長や院長と必ずコミュニケーションをとった上で、経営計画づくりを進めていただきます。
 病院管理士の資格には更新制度を設けていまして、昨年度から知識をアップデートするための「病院管理士認定更新講座」をスタートしました。
 病院管理士の認定期間は5年間で、更新には全日本病院学会への参加などの要件を満たすことが必要なのですが、病院管理士認定更新講座の受講はその認定要件のひとつになっています。

事務長と看護部門長が一堂に会して病院経営を議論
──「看護部門長研修コース」についても教えていただけますか。

 看護部門長研修コースは、組織のトップマネジメントの一員として管理、運営に参画できる看護管理者の育成を目指す研修です。病院事務長研修と似ている部分がありますが、看護は病院のなかでも人数の多い部署なので、「離職者を減らすにはどうすべきか」「看護職にいかにスキルアップしてもらうか」といった、人材のマネジメントに関わる部分も多く学んでいただきます。病院事務長研修よりもテーマは幅広く、問題解決的な取組みも多くなっていますね。9日間で全7単位です。
 他団体でも看護管理者向けの研修は行われているのですが、全日病の研修では、『病院経営』に関与できる看護部門長を育成することを目的とするところが他団体と違います。研修では参加者が策定した経営改善計画を発表してもらいます。そして、審査に通った方を、看護管理士として認定します。
 研修修了者は、病院事務長研修修了者と同様にフォローアップ研修会を受講できます。研修を受講した病院事務長と看護部門長が、一堂に会して発表するということが非常に重要なのです。同じ課題を考えていても立場が違えば視点が異なることがありますから。相互に刺激になっていると思います。

コメディカルのリーダーにも病院運営の視点を
──「多職種リーダー研修会」はどのような研修なのでしょうか。

 病院には理学療法士や臨床検査技師、診療放射線技師など、たくさんのコメディカルの職員がいます。彼らは専門職としてのスキルを磨こうと絶えず勉強されていますが、病院の運営を学ぶという視点は少し弱かったかもしれません。ただ、多職種協働が重要になるなかで、彼らコメディカルのなかにも、その職種のリーダーとなり、病院経営を考えられる人に育ってもらいたい。目の前の業務だけでなく、組織全体を見渡し、さらには経営に参画できるような人材を育成したいという思いがありました。
 これまで病院事務長研修や看護部門長研修に、コメディカルの方が参加されたこともあるのですが、新たに研修を立ち上げようということで、2019年に多職種リーダー研修会を始めたのです。対象者は医師以外のすべての部門の管理者・リーダークラスまたはその候補者としており、1施設から複数名が同時に参加できます。一つの病院から診療放射線技師、理学療法士、管理栄養士が一緒に参加されたりしていますね。
 参加者には、グループ討議のあと、課題解決策を発表してもらうのですが、非常に有意義な議論をされていますよ。

看護補助体制充実加算の師長研修 非会員含め6千人が参加
──2022年度診療報酬改定で新設された「看護補助体制充実加算」を取得するための研修も実施されています。

 看護補助体制充実加算をとるためには病棟の看護師長、病棟の全看護職員、看護補助者のそれぞれが研修を受ける必要があるのですが、看護職員と看護補助者の研修は各医療機関で実施してかまわないことになっています。ただ、看護師長は、国、都道府県または医療関係団体等が主催する研修を受けることとされていますので、全日病として2022年2月から準備して、「看護補助者の更なる活用のための看護管理者研修」を実施しています。
 他団体も同様の研修を実施していますが、全日病の研修は全国的にも規模が大きいですね。昨年度は6,323名が修了しました。実はその半分以上が、非会員の病院からの参加者なんです。
 運営はヴェクソンインターナショナル株式会社に委託していて、全日病としては研修の中身をチェックしながら、受講者を募集するという事務的な部分を担っています。

──現在、病院団体のなかでは、病院で介護を担う看護補助者の位置づけについて、議論があります。
 病院での介護の仕事は“看護の補助”なのか、という問題がありますよね。病院での職域として「介護」というのがきちんと認められていないために、介護職が病院で働けば「看護補助者」や「看護助手」となってしまう。全日病の会員は介護施設も運営しているところが多いので、このバランスをいかにとるかは切実な問題だと思います。
 一方、介護職員処遇改善交付金は介護事業所の介護職にしか交付されないという問題もあります。本来なら、病院・介護事業所で人材をローテーションさせることも考えなければいけないのですが、それも難しくなっています。

病院長・看護部門長研修を再編 人材紹介会社の情報提供に取組む
──今後の取組みを教えてください。

 今後、病院事務長研修と看護部門長研修、多職種リーダー研修会を再編成する予定です。対象の職種を限定せずに、病院の経営管理を目指す人のための研修会とし、初級編と上級編というような2段階制にすることを考えています。
 初級編の研修は、従来の多職種リーダー研修会の構成を核とします。上級編は、従来の病院事務長研修と看護部門長研修の一部を合わせたようなものになると思います。8月までに具体的な中身を固め、2024年度から新しい研修をスタートさせる予定です。
 また、近年、人材紹介会社の存在感が増していますので、当委員会ではアンケート調査を行い、現状把握に努めています。また、人材紹介会社の団体である日本人材紹介事業協会の医療系紹介協議会とも交流して、情報収集を行っているところです。今後も、会員の皆さんが人材紹介会社を上手に利用できるよう、情報提供していきたいと思っています。
──ありがとうございました。

 

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  • [1] 高齢医療従事者の 活用ガイドライン

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/120310_1.pdf

    2011/07/24 ... また、他産業に見られる再就職支援など、中高年齢者のサ. ポート体制も不十分です。 病院における. 高齢者雇用の現状. 1. 病院業界における. 労働市場の ...

  • [2] 病院のあり方に関する報告書

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2021_arikata.pdf

    公益社団法人全日本病院協会(以下:全日病)は、「関係者との信頼関係に基づいて、. 病院経営の質の向上に努め、良質、効率的かつ組織的な医療の提供を通して、社会の健康.

  • [3] 全日病ニュース 5月1日号

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170501.pdf

    2022/05/01 ... 基づく大学医局や学会が、それぞれに. 独立した方針の下、各地域で各 ... どのコメディカル職から介護福祉士 ... また、職域におけるがん検診のガイ.

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