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ホーム全日病ニュース(2023年)第1031回/2023年5月1日号新研修が6月にスタート 病院内で医療DXの戦略を考えられる人材の養成をめざす

新研修が6月にスタート
病院内で医療DXの戦略を考えられる人材の養成をめざす

新研修が6月にスタート
病院内で医療DXの戦略を考えられる人材の養成をめざす

【医療DX人材育成プログラム】全日本病院協会広報委員会・特別委員/国際医療福祉大学・大学院教授 高橋泰

 医療のDX 化の遅れが国家的課題としてクローズアップされ、2022年5月に「医療DX 令和ビジョン2030」の提言がなされ、2022年10月、官邸で医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進本部が開催された。これを受けて全日本病院協会は、医療DX推進に対応できる医療機関の人材育成事業として、自院の実状に合ったシステムやDX 戦略が考えられ、価格交渉も含めたベンダーとの折衝ができる能力を有する人材を院内に育てるといったプログラムを開講する。

日本の病院にこれから必要となる情報関連人材
 これから日本の病院の電子カルテは、電子カルテを導入していない病院では、後に説明する廉価で高性能なWEBカルテの導入が急速に普及する。一方既に電子カルテを導入した病院では、中小病院から大規模病院の順番でオンプレミスカルテからWEBカルテへの転換が進んでいくと予想される。
 日本の病院にこれから必要となる情報関連人材は、上記の電子カルテの改革の流れと自院の電子カルテの立ち位置を見定め、どのタイミングでWEBカルテの導入あるいは転換を図るかの戦略(計画等)を立てられる人であり、また戦略(計画等)を基に電子カルテベンダーやネットワークの業者やクラウドサービスと交渉する能力がある人である。
 本稿の目的は全日病の医療DX 人材養成プログラムの概要を紹介することだが、その前に、日本の病院DX 改革のゴールと、現在の病院情報システムの惨状について述べる。

日本の病院DX改革のゴール
 新型コロナにより、社会では、在宅勤務が急速に普及した。在宅勤務を可能にするには、図1に示すように、①外部接続可能で、会社の基幹システムと会社や家のパソコンとが接続できること、②強固なセキュリティーに基幹システムが守られていることが最低限必要な条件となる。更に、③モバイル端末と情報のやり取りができることと、④音声認識などのクラウド上サービスを基幹システム上で手軽に利用できることも、在宅勤務には必要な条件といえるだろう。このようなことを可能にする技術を駆使した情報システムを用いることにより、社員はインターネットを介して「いつでも、どこでも、安全に」会社のシステムとつながり、「高度なクラウドサービス」を利用することができる。
 これらを支えるのは、インターネットの利点を最大限に引き出すプラットフォーム、データベース、ブラウザなどのWEB 技術であり、WEB 技術上に構築された電子カルテを、WEBカルテと呼ぶこととする。図1の「A 株式会社→ A 病院」、クラウド内の「基幹システム→電子カルテ」と書き換えると、図1がWEBカルテの説明図になる。

日本の電子カルテの惨状
 日本の病院情報システムの多くは、図2に示すように「オンプレミス」型電子カルテと、病院情報システムをインターネットとつながない「閉域網」がセキュリティー対策の基本になっている。
 「閉域網」とは、インターネットと接続していないネットワークを意味する。21世紀初頭の電子カルテ普及期は、現在と比べインターネット接続のメリットも小さく、インターネットと接続しなければ電子カルテがウイルスに感染する可能性は限りなくゼロに近いので、セキュリティーの問題を考えずにすむ「閉域網」は悪い選択肢ではなかったように思える。しかし2010年以降、クラウドサービスを中心とするインターネットサービスが急速に発展し、インターネットと接続できないことによるデメリットが日増しに明らかになってきている。一方この間ベンダーが、(図2)右側に示すように閉域網に穴を作り、インターネットを介して病院情報システムを遠隔で管理するようになった。この穴からウイルスが病院情報システムに入り込むようになり、穴の開いた閉域網のセキュリティーレベルの低さが、近年露呈するようになってきている。「オンプレミス電子カルテ+穴の開いた閉域網」という日本の標準的な電子カルテシステムを有する病院は、「電子カルテ用端末から利用者がインターネットを利用できないにもかかわらず、病院情報システムがウイルス感染の危機に曝される」という惨状に見舞われている。

日本の病院関係者が認識しておくべき3つの事実
 我が国の病院DX の目指すべき方向は、図2に示した閉域網・オンプレミス電子カルテを、図1に示した世界標準の技術を用いたWEBカルテに移行することと言える。ここで日本の病院関係者が認識しておくべき事実が3つある。
 第1は、クリニックの電子カルテの半数以上が、既にWEB カルテになっており、わずか月数万円の利用料のみで問題なく稼働していることである。クリニックのカルテの性能(複雑な記録内容や要望に対応する能力)は病院電子カルテに劣り、値段も安いので、病院の電子カルテの廉価版と考えられている方が多いが、実はセキュリティー、多施設とのデータ交換、モバイル接続、人工知能などの先端技術との相性などは、病院の電子カルテよりWEBカルテであるクリニックの電子カルテの方が格段に優れている。
 第2は、日本のベンチャー企業の中に、中小病院用のWEBカルテを構築した企業が現れ、既に初期費用ゼロ、月数十万円の利用料のみで使い始めた病院が出始めていることである。第1の事実と合わせると、WEBカルテの波は、クリニックから中小病院レベルまで広がり始めている。
 第3は、WEBカルテに使用されているインターネットの利点を十分に引き出した技術は、在宅勤務を実現している会社や、金融、交通、物流など多くの分野で広く活用されている技術であることである。一方、それらの技術が病院用電子カルテに導入されていないことにより、日本の病院は、WEBカルテが導入された場合より相当割高な費用を支払いながら、不便でセキュリティーの脆弱な電子カルテを使わざるを得ない状況になっている。

なぜ日本の医療WEB化は、進まないのか
 21世紀初頭より他の分野では、DX、特にWEB化を進めなければ他の企業に顧客を奪われるので、WEB化の推進は、企業にとっての死活問題であった。よって他分野の多くの企業は、大量の資金を投入し、ベンダーに強い圧力をかけたので、ベンダーも死に物狂いで企業のシステムのWEB化を進めた。
 医療の分野では、DXやWEB化を行わなくとも患者は取られないので、DXは死活問題ではなく、病院にとって資金を投入して進めるような優先課題の高い問題ではなかった。よって、電子カルテベンダーもWEB 化に向けた開発を進めないうちに20年の時が流れ、電子カルテベンダーが知識のガラパゴス化を起こし、WEB 技術の対応ができなくなったのが、日本の病院の電子カルテの現状と思われる。
 今、日本の電子カルテベンダーが一番やりたくないことは、おそらくオンプレミス・閉域網の電子カルテをWEB 電子カルテに切り替えることであるだろう。なぜなら、WEB 電子カルテを実現するには、これまで育ててきた電子カルテのプログラムのほとんどを捨てて、全面的に作り直しが必要になるからである。更に、日本の電子カルテベンダーには、WEBカルテを作るのに不可欠なWEB 技術に詳しい技術者がほとんどないからである。
 しかし、日本の病院関係者が認識しておくべきことが3つの事実で述べたように、電子カルテのWEB 化の流れは、着実にしかも急速に進んできており、更に国の方針の後押しもあり、大手の電子カルテベンダーも、WEB 化カルテに舵を切らざるを得ない状況が、目の前に近づいてきている。

「医療DX人材育成プログラム」について
 6月末から始まる「医療DX人材育成プログラム」の第1の目標は、電子カルテの改革の流れと自院の電子カルテの立ち位置を見定め、どのタイミングでWEBカルテの導入あるいは転換を図るかの戦略(計画等)を立てられる病院内人材の養成である。第2は、上記の戦略や計画に基づき、電子カルテベンダーやネットワーク・クラウドサービス業者と交渉する能力がある人を養成することである。プログラムは、WEBカルテの知識や自院の情報戦略の立て方を教える構成になっており、上記の目標を目指した内容になっている。
 今回のプログラムは、Zoom を利用したオンライン形式で実施する。本プログラムの所定の課程(全受講時間の8割以上の出席、3回の確認テスト合格)を修了した受講者に対し、「全日本病院協会認定 医療DX 責任者」として認定し、「修了証」を授与する。本プログラムは国が推進する「DX 化に対応する人材育成」への研修要件を満たしており、「修了証」は研修証明となる。
 なお、本プログラムは、厚生労働省人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の支援要件を満たした場合、研修経費や研修期間中の賃金の一部等の助成を受けることが可能である。 条件を満たせば、厚⽣労働省 ⼈材開発⽀援助成⾦「事業展開等リスキリング⽀援コース」も活⽤することができ、研修費⽤を⼤幅に軽減することも可能である。

医療DX 人材育成プログラム
研修日程:2023年6月29日~11月30日(全10回)
研修方式:Zoom によるオンライン研修、1病院3人まで受講可能であり、システムの担当者、自院の業務フローを熟知した医療職、経営に関わる方のチームで参加するのが望ましい
受講料:250, 000円(会員病院)500, 000円(非会員病院)

 

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  • [1] 2023年度 医療DX人材育成プログラム 開催のご案内

    https://www.ajha.or.jp/seminar/other/pdf/230413_3.pdf

    2023/04/14 ... これを受けて全日本病院協会は、医療DX推進に対応できる医療機関の人材育成事業と. して、基幹システムや電子カルテ等について、ベンダーに依存せず、 ...

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