全日病ニュース

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内閣官房専門調査会 2025年の必要病床数を推定

内閣官房専門調査会 2025年の必要病床数を推定

病棟ベースの病床数とは異なる、患者数を病床稼働率で割り戻した参考値

 政府の社会保障制度改革推進本部の下に設置された「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」は6月15日に、2025年の医療機能別必要病床数の推計を含む第1次報告をまとめた。
 第1次報告は、2025年の全国の医療機能別必要病床数を、高度急性期13.0万程度、急性期40.1万程度、回復期37.5万程度、その合計は90.6万床程度と推定。慢性期は療養病床の入院受療率目標値の違いに応じて24.2万~28.5万床程度と予測。その結果、4医療機能の合計を114.9万~119.1万床と推計した。
 この推計値に対して、2013年医療施設調査の病床数と比較して、「2025年に病床が○○床削減される」といった解釈が報道等で流布されている。
 しかし、2013年の病床数は現にある許可病床の数であり、医療需要(患者数)から導かれた病床数とは異なる。もう1つ比較対象とされている2014年7月時点の病床機能報告も、医療機能別ではあるものの、病棟単位の病床数を報告したものに過ぎず、各病棟に入院している機能別の患者数(医療需要)を反映したものではない。
 したがって、2025年の推計数と2013年あるいは2014年の病床数は概念が異なるものであり、両者を比較することに意味はないといえる。
 今回の推計は、あくまでも2025年の医療需要(患者数)の予測が1義的な目的であり、その患者数を病床稼働率で病床数に割り戻したものであり、異なる病期の患者が混在する病棟単位の病床数とは違う。したがって参考値に過ぎない。
 必要なことは、こういう推計結果がどういう仮定と考え方の下で出てきたかを地域医療構想策定GLから理解し、各地域の機能別の医療需要を受け止め、それに対応すべき地域と各医療機関の課題を把握し、それぞれのニーズをもつ患者に適した医療提供が可能となる提供体制はどうあるべきかという視点から、地域医療構想の策定と調整会議の話し合いに臨むことではないか-。
 西澤寛俊会長は、推計結果を踏まえたメッセージ(別掲)で、上記の考え方を明らかにした。(3面に関連記事、4~5面に第1次報告の要旨)

 専門調査会による病床推計値は、今後、医療費適正化計画に記載される医療費目標を算定する方法に使われるが、地域医療構想に書き込まれる医療需要と病床数の具体的推計は、各都道府県の手に委ねられる。
 この推計結果に関して、厚労省は6月18日に医政局地域医療計画課長名の文書を各都道府県に送付、「今回の推計値は参考値の位置づけである」として、「単純に『我が県は○○床削減しなければならない』といった誤った理解とならないよう」留意を求めた。
 具体的な推計値は構想区域の設定いかんで変動が生じるなど、不確定要素に満ちている。したがって、厚労省は「今回の推計と各都道府県の推計が異なることはあり得る」(北波地域医療計画課長)としている。
 厚労省は推計値などのデータセットを6月10日に各都道府県に手渡した。6月16日には1回目の都道府県研修会を開催、推定ツールを活用できる人材の育成を開始した。研修会は7月、10月とつごう3回開催される。したがって、本格的な策定作業は夏以降になるとみられる。
 6月15日の専門調査会に、厚労省は「地域医療構想の実現に向けた今後の対応」として、(1)回復期の充実(急性期からの病床転換)、(2)医療従事者の需給見通しと養成数の検討、(3)慢性期の医療ニーズに対応する医療・介護サービスの確保の3点を示した。
 その中で、「(病床)転換の妨げとならないような適切な診療報酬の設定が必要」とした上で、リハ関係職種の確保を進めるなど「病床の機能分化・連携に対応して医療従事者の需給の見直しを検討」する考えを提示。
 病床転換に合わせて医学部入学定員等についても検討するとし、「この夏以降にも検討会を設置して検討を開始する」ことを明らかにした。
 慢性期に関しては、7月に、医政、保険、老健3局合同で療養病床をテーマとした現場中心の検討会を立ち上げ、介護療養病床を含む療養病床の今後のあり方など、医療(在宅)と介護サービスの整備をめぐる検討を開始する方針だ。
 都道府県は、こうした議論も見据えながら病床推定の具体的作業を進めることになるが、地域医療構想の策定を外部に丸投げする県がある一方、地域医療構想調整会議に準じた場を設けて関係者にデータを公開しつつ、議論の共有を図る考えの県もある。
 区域や県をまたぐ患者の出入にどう対応するか、療養病床以外の慢性期患者を受け入れる在宅医療・介護の整備は可能かなど、構想作業の中で各都道府県は難題への回答を迫られる。
 そうした中、病院団体は都道府県と積極的な連絡をとりながら、データの閲覧を求めつつ、より望ましい医療提供体制の構築に向けて2025年までの課題の所在と解決方向の提案をするべき立場にあり、支部組織には大いなる自覚が求められている。

回復期の定義、地域包括ケア病棟の位置づけを明確化

 2025年の医療機能別必要病床数の推計を中心的にまとめた専門調査会「医療・介護情報の分析・検討WG」主査の松田晋哉産業医大教授は、6月15日の専門調査会後の記者会見( 写真)で、「これはあくまでも病床数の推計であって患者数の推計ではない」と語った。
 高度急性期から慢性期にいたる4区分に該当する患者以外にも、療養病床には、医療区分1の7割および入院受療率の地域差解消分に該当する患者がいる。この患者を在宅等でみるという例をあげつつ、いくつかの仮定を経て推計された医療需要(患者数)を最後は病床稼働率で割り戻し、「病床数はこのぐらいだろうという目安を出したに過ぎない」と説明した。
 一方、全日病における講演(6月20日)で、厚労省医政局地域医療計画課の北波孝課長は、「病床機能報告は定義を踏まえて医療機関によって表示された機能であり、当然ながら、需要という形であれば(それと)ずれが出てくる。
 病棟にはいろいろな病期の方がいるのをみて(病棟の機能を)判断したのだろう。一方で、医療需要の推計は各病期の患者発生量をみており、(両者は)概念的に違う」と述べた。
 その上で必要病床数を導いた病床稼働率に触れ、「基本的に病床稼働率というものをどんなふうに設定すれば、(病床が)多くなるか、少なくなるかは、いかようにも調整できる。前の一体改革のときのように70%という設定をすれば病床数は多く出てくる」と述べ、一見中立的な推計方法であるが、そこに政策的な判断が働く余地があったことを示唆した。
 北波課長は、また、都道府県知事の権限に言及。「地域で不足している機能を充足させることが地域医療構想の目的であり、知事の権限もその範囲にとどめている」とし、遊休ベッドを除くと「現に稼働している病床を削減させる権限はない」と述べた。
 さらに、「回復期を限定的に考えている人が多い。GLの病床概念も若干限定的だ。精緻化していく必要がある。地域包括ケア病棟をどこに分類するか、まだ未整理の部分がある。議論をしていきたい」との考えを明らかにした。7月にも再開される地域医療構想策定GL検討会で議論していくものとみられる(北波課長の講演要旨は次号に掲載)。

2025年の必要病床推定結果に対する西澤会長の談話

 2025年の全国ベースの積上げによる必要病床数が115~119万床程度と発表された。
 この数字は地域医療構想策定ガイドライン等に基づき、一定の仮定を置いて推計した値を積上げたものである。
 即ち、医療機能(高度急性期機能・急性期機能及び回復期機能)ごとに医療需要(1日あたりの入院患者延数)を算出し、それを病床稼働率で割り戻して病床必要量を推計したものである。
 一方、現状(2013年)として出された、134.7万床(医療施設調査)は許可病床数であり、病床機能報告の123.4万床は各医療機関が病棟単位で報告した各病期の総病床数である。
 即ち、今回示された現状(2013年)の病床数と、2025年の必要病床数は、定義が異なるものであり、単に数字を比較することは意味がないと考えるべきである。
 大事なことは、どの地域の患者もその状態像に即した適切な医療を適切な場所で受けられることを目指した医療提供体制を構築することであり、そのために、今回の推計の考え方や方法を充分理解し、各構想区域における調整会議の協議において活用することである。