全日病ニュース

地域枠違反の医師採用の臨床研修病院にペナルティ

【厚労省・臨床研修部会】『被害者』の臨床研修病院への配慮も

　医道審議会・医師臨床研修部会（桐野高明部会長）は７月26日、医学部入学時の取り決めに違反した地域枠卒業の医師を採用した臨床研修病院にペナルティを科すことを決めた。具体的には、臨床研修部会でヒアリングを行った上で、補助金の減額や採用人数の減員、臨床研修病院の指定の取消しを検討する。
　地域枠では、地域医療に従事する強い意志を持った学生に奨学金を貸与し、へき地など特定地域や特定診療科で一定期間従事することを条件に、奨学金の返済を免除している。政府は医師偏在に対応するため、大学医学部の地域枠拡大を進めてきた。今後の対策でも、地域枠は重要な位置づけにある。
　しかし、地域枠で入学したにもかかわらず、卒業後に研修する際に、奨学金を返し、取り決めを破棄する医師がいる。地域枠の契約は民法に基づく金銭賃借契約であるため、奨学金返還の意思があれば、契約の破棄は可能である。しかし地域枠の趣旨を考えれば、道義的責任はあるというのが、関係者の一致した意見。

　条件に合致しない医師が９人
　現状で厚生労働省は、臨床研修病院に地域医療への従事要件が課されている医師のリストを送付し、従事要件と研修プログラムに齟齬がある医師は採用しないよう通知している。それでも2017年度で、齟齬がある医師が９人確認された。９人はマッチング採用希望順位の登録時や採用試験を行った時点では、奨学金を完遂せず、従事要件がかかっていたが、採用決定前後に奨学金を返済するなどし、契約を破棄していた。
　９人は、地域枠利用者805人のうち、臨床研修中に何らかの従事要件のある764人の1.2％に当たる。この数字に対し、委員からは「まだ少ない」という意見と、「厳しい対応を取らないと今後増える」との意見が出ている。分科会では同日、９人を採用した臨床研修病院からヒアリングを行った。対象病院は、いわき市立総合磐城共立病院、愛媛生協病院、太田記念病院、近畿大学医学部奈良病院、熊谷総合病院、神戸掖済会病院、国立病院機構京都医療センター、昭和大学藤が丘病院、日野市立病院。
　ヒアリングでは、委員から厳しい指摘が相次いだ。一方で、「特別な理由がある人もいる。100％駄目というのではなく、総合的に判断すべき」との意見もあった。これらを踏まえ、厚労省は、地域枠の趣旨を再度周知するとともに、それでも趣旨に反した採用をした臨床研修病院に対して、「臨床研修部会でヒアリングを行った上で、必要に応じて、補助金の減額、採用人数の減員または指定の取消しを検討する」と提案。概ね了承を得た。
　ただ、全日病副会長の神野正博委員は、「優秀な医師で本人が大丈夫と言っていれば、臨床研修病院が断るのは難しい。都道府県や大学での話が伝わらずに、結果的にだまされる形で『被害者』となりかねない臨床研修病院が、一方的にペナルティを受けるのはおかしい。そうならない仕組みにすべきだ。都道府県や大学にはしっかりとした対応を求める」と配慮を求めた。
　また、臨床研修病院が地域枠の医師を誤って採用しないよう、マッチングの希望順位登録に関して、システムの改修を行う。
　そのほか、2016年の熊本地震の被災地にある基幹型臨床研修病院の指定に関し、熊本市民病院が今回更新時期を迎え、基準を満たせないことがわかったことから、特例を設けて、指定継続が受けられることにした。