主張・要望・調査報告

病院のあり方に関する報告書

主張・要望・調査報告

  • 2011年版

第4章 医療従事者

1.チーム医療の推進

①チーム医療とは

 チーム医療とは、診療部門のみならず事務部門等さまざまな職種を含めた部門横断的な連携を言う。医療に携わる多職種の職員が、それぞれの能力・機能を発揮して患者の治療にあたる必要がある。急性期治療のみならず、回復期のリハビリテーション、慢性期の療養、予防医学、地域連携等あらゆる医療提供の場面においてこれが求められる。特に多くの職種の職員が、様々な専門資格を持って働いている病院において、チーム医療は、きわめて重要である。我が国においてチーム医療が重視されるようになったのはごく最近であるが、今後この推進が必要である。

 チーム医療推進の際には、診療において、患者の意思の尊重を基本に、各職種が常に専門的な知識と技術の向上を図りながらその専門性を発揮するとともに、カンファレンス等を通じて治療方針に従った良好なアウトカムを目指し協働する必要がある。施設特性や規模に応じて、可能な限り各専門職の採用を行うべきである。

②機能限定チーム

 最近では、多くの病院で、栄養サポートチーム(NST)、褥瘡対策チーム、緩和ケアチーム等のチームを部署横断的に作り、多職種が集まってそれぞれの目的に合わせた活動がなされるようになっている。他にも、全日病学会で示されたような感染管理チーム、創傷ケアチーム、化学療法チーム、糖尿病医療チーム、呼吸療法支援チーム(RST)等がありそれぞれ効果をあげている。

2.医師数の充足と偏在の是正

①医師数の絶対数不足の解消

 現在の医師不足の大きな原因は、厚生労働省が長期間にわたり医師養成数を抑制してきたためであり、最近増員となっているが就業医師増には時間を要し、依然として医師絶対数は不足している。2年毎の届け出による厚生労働省集計結果(2008年12月31日)では、我が国の医師数は28万6699人(男81.9%、女18.1%)であり、前回2006年調査より8772人、3.2%増加している(人口10万当たり224.5人で7.0人増加)。2008年のOECD諸国の平均値302.1人/人口10万人より少ない。平均値までには約11万人不足しており、これは15年後には達成すべき最低ラインである。しかし、医学の進歩に加え、専門分化の進展等により医師の業務量は格段に増えており、更に高齢化の進展による有病率の増加により必要医師数は上ぶれするものと思われる。

 過去の厚生労働省の医師養成に関わる施策は一貫したものではなく、最近になり大きく変更された。1970年代は現在よりも医師は圧倒的に不足していたため、厚生省(当時)は我が国の医師の必要数を150人/人口10万人と規定し医学部、医科大学の新設を促進し、いわゆる一県一医科大学を目指した。その後医師数は増加した。しかし、1982年に臨時行政調査会が「行政改革に関する第三次答申」の中で「医療従事者について、将来の需給バランスを見通しつつ、適切な養成に努める。特に医師については過剰を招かないよう合理的な医師養成計画を樹立する」と提言し、これを受けて政府は閣議で医師数抑制策を決定した。また当時の厚生省保険局長の「医療費亡国論」の提示等がありⅹⅱ、1984年以降医学部の定員が、最大時に比べ7%減らされた。その後、現場では不足しているのに、厚生労働省も日本医師会もこれを認めず、医師養成は長い間抑制されてきた。2008年になりやっと厚生労働大臣より医学部定員削減の閣議決定の見直しがなされることとなり、医学部の定員増加、新設医学部、医科大学の案が具体化してきた。

 現状の医師養成増員策が継続されるなら、15年後には医師数が増加するのは自明の理であるが、今後の医療ニーズとの対比で養成数の問題を考えるべきである。


ⅹⅱ 吉村仁:医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方.社会保険旬報 1424号 1983(昭和 58年)3月、p12 - 14

②医師偏在の現状と対策

 医師の絶対数不足もさることながら、医師の偏在も深刻な問題である。地域偏在に関しては、2004年4月から始まった新医師臨床研修制度により、大学病院の勤務医が減少したため医局の医師派遣システムが破綻し、主に地方の出張病院から指導医を引き上げたことが大きな要因の一つである。

 新制度では大学附属病院以外の病院も臨床研修病院となったために、多くの臨床志向の強い卒業生が移動し、それにつれ入局者が減少したため、今まで派遣していた一般病院からも医師を引き揚げざるを得なくなっている。その結果病院の医師数が減少し、更に残った医師も激務に耐えかね退職するという悪循環が発生しており、特に地方の医師不足偏在は深刻であり地域医療崩壊の原因となっている。

 周知のごとく外科、産婦人科、小児科、救急科、麻酔科等、偏在が顕著な診療科もあるが、職業意識の希薄な医師の増加および女医増加に対する対応の遅れ等に加え、勤務が過酷な診療科の敬遠等多くの問題が累積されておこった問題であり、多面的同時対応が必要であろう。更にこれらの診療科は、診療のリスクが高く訴訟の対象になりやすいばかりか、近年では医療の不確実性を理解しない社会の風潮を盾にした、警察の刑事事件捜査の対象となり、ますます敬遠されている。医療事故の再発防止と、当事者の再教育を主要な活動とする、医療者主導の第三者機関の設立、医療事故被害者の補償制度や裁判外紛争処理(ADR:Alternative Dispute Resolution)の確立が急がれる。

 病院を退職した医師は、都市部で診療所を開業する傾向が顕著になってきた。我が国の卒後研修はこれまでは専門医を育てることが目標であったためプライマリケア医は必ずしも確立していない。今後、プライマリケア医としての診療所開業を勧めるべきである。

 現在、大学入学における地域枠の設定、一定期間の勤務を条件に奨学金を貸与する制度が導入されており、地域の臨床研修病院における研修制度の充実により研修生の増加が認められるようになっている。地方の病院医療を守るためにも、その効果について追跡調査、検証が行われる必要がある。

③女性医師のさらなる増加

 女性医師は増加しつつあるが、現在のところこれに対応していない病院が多いため、女性医師が医師としてのキャリアを継続することが困難であるばかりか、多くの教育費用を投じた女性医師が社会で活躍の機会を得ることができず、社会的にも大きな損失となっている。医療施設においても結婚、出産、育児に配慮すべきであり、具体的には短時間勤務等、多様な就業形態の導入や保育所の整備等、勤務環境の整備が必要である。女性医師は今後ますます増えることは医学部の在学生数から確実である。15年後は更に増加しており、その処遇の改善が不可欠であるが、現実には難しい問題が山積しており、社会全体で解決すべきである。

④病理、放射線科、法医学医師の増加

 直接治療にかかわる臨床医が足りないのみでなく、放射線科医、病理医、法医学医の不足は更に深刻であるといっても過言ではない。かなりの規模の病院でも、放射線診断医や病理医の常勤医がおらず、非常勤医に頼っているところも多い。それにも拘らず病理検査、放射線診断の件数も増えており、病院として精度管理を適切に行うことは困難になりつつある。法医学医に至っては、ほぼ大学病院の本院にしかおらず司法解剖の少なさはとても先進国とは言えない様態である。これらの科の重要性に鑑み、医師確保のための対策が進められる必要がある。

⑤医師の事務作業を肩代わりする事務員

 近年、特に病院での医師の事務作業量が飛躍的に増加している。診療録記載、指示書、処方箋に始まり、入院医療計画書、患者への説明と同意、診断書、主治医の意見書等、作成する書類は多い。電子カルテ、オーダリングシステムは却って医師の作業量と時間を増やしている面がある。病院に来て、患者を診る時間より書類作成に時間を取られるようになっており、これは本末転倒である。医師は医師でなければできないこと、医師がやるべき仕事を優先して行えるようになっている必要がある。

 医師事務作業補助職制度ができたが、未だ有効な対策とはなっていない。内容が多岐にわたり、専門性が強く事務員が慣れないということもある。診療報酬では作業補助職の給料は払えず、結局医師に時間外労働をさせている実態がある。

 今後、書類量の減少が必要である。医療安全、患者の権利保護、病院のリスクを減らすためにやたら書類が増えてしまっているので、効率的に考え直し、説明と同意もできるものは医師以外の職種が行う、保険の診断書も統一した書式となっている等の対策導入が必要である。

3.看護師不足の解消

①看護師の不足

 現在、看護師の絶対数は増えているが医療介護の現場では大変不足している。2008年の就業看護師数(准看護師を含む)は約125.2万人(人口1000対9.5)であり、1996年の92.9万人に比較して32.3万人増加している。人口1,000人当たりの就業看護師数はOECD加盟諸国平均(人口1000対8.4)とほぼ同等である。病院に約83.7万人(66.8%)、診療所に23.0万人(18.4%)が働いており、その他、介護保険施設、訪問看護ステーション、社会福祉施設等でも勤務している。

 我が国では、病院の機能分化が未だ不十分であり、他のOECD諸国に比較して病床数が人口比で多い。病床100床当たりの看護職員数は50.2人(看護師39.6人、准看護師10.6人)と他のOECD諸国と比較して少ない(図1、表1)。

 

図1.医療関係職種の推移(1996年= 100として示す)

表1.日本、ドイツ、アメリカの医療従事者数の比較

 

 看護師不足は以前より言われてきていたが、近年特に病院の看護師が足りなくなり、救急医療の縮小、病棟閉鎖等の原因の一つとなっている。7対1看護基準の導入に見られるように診療報酬上の理由から看護師需要が増加した一方で、看護職養成が追い付いていないのが現状である。

 2001年に270校あった医師会立准看護師養成所は2007年には218校にまで減少し、逆に看護系大学は91校から158校に増え更に増加する傾向である。看護職の教育の高度化・多様化は、人材の活用、チーム医療を促進するために有用であり、病院として歓迎すべきである。准看護師の教育については、高校卒業を要件として、教育内容の充実を図り、国家資格への移行を目指すべきである。一方、看護師については一律の4年制への移行は、病院の看護師不足に拍車をかけることが危惧される。

 2025年における看護需要は社会保障国民会議による医療介護費用シミュレーションのいずれのシナリオにおいても看護師供給を上回ると予想されるⅹⅲ。例としてB3シナリオにおいては、看護需要が215.9万人で供給が179.9万人と推計され供給率は83%である。更に諸要件を当てはめた修正シナリオにおいても供給率は98%にとどまる。

 就業していない潜在看護師は30万人とも55万人とも言われている。この人たちの復職支援は自治体等で始まったばかりであるが、貴重な労働力であり人生経験を積んだことで更に看護能力が高まったたことも期待できるので、今後更に促進する必要がある。

 今後、看護師の養成、供給体制は医療体制の再構築に合わせて考えていく必要があり、医師同様に地域格差の是正は行政の責務である。


ⅹⅲ 伏見清秀、他:長期的看護職員需給見通しの推計(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000eydoatt/2r9852000000eyf5.pdf)

②転職・離職の理由

 日本看護協会の調査では2005年から2006年の一年間に推計10.2万人の看護師が全国9,000の医療機関から離職し、うち約8万人が別の施設に再就職している。また2004年から2008年の離職率は11~12%とほぼ横ばいである(図2)。

 転職・離職の原因は妊娠・結婚・育児を除けば、人間関係、夜勤の負担の大きさ、勤務時間の長さがトップ 3であり、続いて責任の重さ、医療事故への不安、自分の能力への不安等がアンケートの結果からあげられている。人間関係では同僚との関係、上司との関係の他に医師との関係がみられた。チーム医療促進のために、医師と看護師のパートナーシップを築いていく必要があろう。夜勤、残業の負担感が強く、勤務内容も激務と言ってよく、その割に給与は高くないと感じられ、診療報酬が抑えられている限りなかなか改善されず、転職することで給料増を図ることも少なくない。免許を持っていれば就職口は沢山あり、転職を繰り返す看護師もおり、またそれを仲介する業者がいて助長する結果になっている。結婚、出産、育児がきっかけで離職し、職場環境、就業条件により育児をしながら就業できないこと、しばらく現場を離れていたために起きる仕事に対する不安等で復職しなかったりして離職してしまう例が多く、女性医師と同じくあたら才能を埋もれさせることがないように改善して行く必要がある。

 

図2.全産業と看護職員の離職率の推移(%)

③専門看護師、認定看護師

 いずれも日本看護協会が認定する資格である。専門看護師は、看護系大学の大学院修士課程に専門の教育過程が設置され、その終了と実地経験年数を踏まえて認定している。専門分野としてはがん看護、精神看護、老人看護、小児看護、母性看護、慢性疾患看護、急性・重症者看護、感染症看護、家族支援であり、今後在宅看護も加わる予定である。その役割は実践、相談、教育、調整、研究、倫理調整である。我が国の看護界での指導的な立場の人材を育成するのが目的のようである。

 認定看護師は実務経験5年以上で600時間の認定看護師教育課程を修了し、筆記試験に合格することが必要である。救急看護、皮膚・排泄ケア、集中ケア、緩和ケア、がん化学療法看護、がん性疼痛看護、訪問看護、感染管理、糖尿病看護、不妊症看護、新生児集中ケア等 21分野があり、役割は実践、指導、相談である。現場でより高い看護実践を行い、専門領域の指導者を養成するのが目的と言える。

 しかし、全日病としては、看護師内で一部技能・知識に優れる看護師の養成ではなく、むしろ看護職全体の技能・知識向上、看護業務の拡大を図るべきであると考える。最近の教育制度変更による効果の見極めが必要である。

④PA、NP

 アメリカ合衆国ではPA(Physician Assistant)、NP(Nurse Practitioner)の制度があり、フランス、オランダの看護師の業務もこれと類似した部分がある。PAは外科系医師の助手、医師の監督下に一定の医療行為を行うことができる。また、NPは主にプライマリケアを担当し、生活習慣病の改善や予防が業務の中心となる。患者の臨床症状を判断し、症状緩和のための薬剤の投与、処置を実施できる。いずれも現在の我が国の看護業務を超えた内容であるが、看護業務の拡大と考えるか、あるいはまったく別の新規職種として考えるかを含めて、まだ議論の途に就いたばかりであり、詳しく論じることはできない。今後、状況に応じて改めて考えることとしたい。

⑤看護職と介護職の業務分担

 我が国の病院では看護師は様々な業務をこなしてきた歴史がある。医師の診療介助、看護業務に加え、臨床検査技師、放射線技師、リハビリテーション職員の業務もこなし、事務作業まで行っていた。最近はチーム医療の中でそれらの業務は他職種が行うようになっているが、昨年の全日病の調査では、病院により、まだ多く残っている場合もあり、今後、改善が必要である。

 看護師と介護職と業務分担もなかなか進まない。同じく全日病の調査では介護職、看護助手でも可能と思われる看護業務として、リネン交換、配膳下膳、おむつ交換、トイレ誘導、ナースコール対応、喀痰吸引、死後の処置等があげられている。

 2010年8月厚生労働省の「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」では老健局の事務局案を大筋で了解し「介護職員等によるたん吸引等の試行事業」を実施することで合意した。この事業では、喀痰の吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃瘻、腸瘻、経鼻)を行為範囲とし、介護福祉士、訪問介護員、保育士等介護職員を対象としている。在宅療養患者では、家族が、無資格で、系統立てた訓練もなしに、あまり問題なく行っている行為である。医師、看護師の指導、監督下に行う病院や介護施設での喀痰吸引は、介護福祉士の資格の有無にかかわらず、一定時間の研修を受けた介護職員であれば実施が可能であると考える。看護師との業務分担を進めるためにも、早急に試行事業を終了して、実施可能とすべきである。

4.その他の職種の充足

 医療の高度化、チーム医療の推進は、医師、看護師必要数増加とともに、他の医療職種の必要数増加をもたらしている。表に主な医療関係職種の入学定員の推移を示す(表2)。最近では、理学療法士595(1995年=100)、作業療法士486、視能訓練士340等のリハビリテーション関係、臨床工学技士289にみられる医療機器の管理、正看護師132、准看護師39、保健師383、助産師406等看護系業務の拡大と高度化、薬剤師172にみられる薬剤師の関与の増大等が、顕著な傾向である。医療水準の向上に合わせて、今以上に専門職の技能レベル向上と人材の充実が求められる。チーム医療の推進は必須の取り組みであり、医師や看護師のみならず薬剤師やリハビリテーションスタッフ、臨床工学士、臨床検査技師、放射線技師、社会福祉士、診療情報管理士、これらをサポートする事務職等の職種の活躍も求められ、その人材の充足も不可欠である。

 2025年労働人口の減少は医療分野にも及ぶはずであり、医療従事者が65歳以上になっても、経験を生かしながら引き続き就業を継続できるような、多様な就業形態、環境整備が必要である。

 

表2.医療関係職種の新規入学定員の推移(1995年=100として示す)