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ホーム全日病ニュース(2021年)第996回/2021年10月15日号医療事故調査制度への医療機関の対応と課題

医療事故調査制度への医療機関の対応と課題

医療事故調査制度への医療機関の対応と課題

【医療事故調査等支援担当委員会】医療事故調査等支援担当委員会委員長 細川吉博

 開催の挨拶を細川が行った後、当委員会委員の飯田修平氏(練馬総合病院理事長)から医療事故調査制度の現状について説明した。自身の豊富な経験と多くの執筆の中から制度の本来の趣旨を述べ、特に病院管理者である院長は全死亡例を把握する義務があるにもかかわらず、十分になされていない現状を指摘した。この原因は制度に対しての理解不足と、事例発生後の対応が十分にできないことである。
 大きな要因は、事故の報告書が裁判に利用されるのではないかとの危惧が医療者の根底にあり、また報道機関も報告が少ないことを報道していることが挙げられた。医療事故調査と事故対応は本来違うものであり、事故調査は原因究明が目的であり過失の有無を問うものではなく、特に医療事故対象事例の判断の間違いが多いことを強調した。
 続いて当委員会副委員長の永井庸次氏(ひたちなか総合病院前院長)からは、病院長としての対象事例の判断について一連の流れを話した。医療に起因したもの、予期しなかった死亡、死産について解説。予期していたとしたら、あらかじめ対策が必要とのこと。報告に対しての取り扱いに院内の統一見解を持たせるためには、医療事故に対しての定義の解釈など職員教育が必須であるとのこと。院内医療事故調査委員会を発足した際には、人選・開催日程・報告書の注意点などについて指摘した。最近、保健所の立ち入り検査においても管理者のチェックがされているかが確認されているとのことである。
 当委員会特別委員の長谷川友紀氏(東邦大学医学部教授)は、院外医療事故調査委員の役割として、自身の外部委員としての経験を踏まえて話した。調査委員会においては、その目的を明確化する必要があり、あくまでも目的は医療安全の確保であることから匿名性が必要とのこと。調査が円滑にいかない原因についても指摘し、この調査の意義は事例から学び医療の改善につなげることと結論付けた。
 同じく当委員会特別委員である宮澤潤氏(宮澤潤弁護士事務所所長)は、法律家の立場から医療事故調査制度の目的について話した。制度として、この法律の目的は事故の原因分析と再発防止による医療安全の向上であり、何よりもこのことは患者家族との信頼関係の向上にも繋がるとのこと。医療事故の際、遺族は本当は何が起こったのかを知りたい。だが家族側から事故調査の申し立てができない状況ではどうしても裁判(刑事訴追、民事裁判)に頼る方向に進む。それは報道などを通じて病院のダメージにもなり得るため、それを避けるためにもこの制度を利活用する意義があり、事故調査では医学的に問題があるかについても明確になる可能性があると話した。
 最後に4名の演者により総合討議が行われ、医療事故に対しての報告件数が少ない点を指摘され、それを改善する工夫として、病院として職員を守るという立場を管理者はしっかりと示すことが基本であると結論付けられた。
 コロナ禍において完全WEB配信での企画となったが、多くの皆様にお聞きいただき、医療事故対応に対しての関心の高さが窺えた。しかし、十分に活用されていない現状を見ると決して事故がないわけではなく、多くの病院においては報告する事例の判断に迷われているのかと推測する。
 多くの演者の皆様が言われたように、この制度は職員を守り、病院を守ることにもつながり、結果的に患者家族との信頼関係を構築すると考える。皆様の病院でも今後さらにこの制度を利用され、生かしていかれることを祈念致します。その際、当委員会を積極的に活用されますことをお願いしまして報告と致します。

 

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