全日病ニュース

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病院が取組む在宅医療

病院が取組む在宅医療

【プライマリ・ケア検討委員会】後期高齢者の急増に備え、在宅医療への準備が必要

 現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴う入院抑制などで在宅医療のニーズは高まっている。外来医療需要は、2020~ 2025年にはピークアウトが予想されており、益々、医療経営の観点からも在宅医療への取り組みが重要となる。一方で、全日病会員病院が取り組む、望ましい在宅医療を考えたときに、その姿は地域の実情により異なっている。すなわち、大都市、地方都市、県庁所在地、医療資源の少ない地域等、それぞれに独自の在宅医療の姿が存在しうる。
 今回の委員会企画では、在宅医療の現状と今後についてと病院の行う在宅医療の意義等について検討の後、大都市での在宅医療の事例、地方都市でICT を活用した在宅医療の事例発表を基に、病院が行う在宅医療がどのようにあるべきかの検討を行った。
 全日本病院協会の猪口雄二会長からは、病院の行う在宅医療についての医療政策上の位置づけや診療報酬体系と算定状況等について説明が行われた。現状の利用状況の推移にも触れながら、今後の病院としての取組みとして、訪問看護ステーションや地域の他施設との医療・介護連携の強化を図りつつ、現行の制度上は同じ扱いとなっている、いわゆる在宅患者と有料老人ホームや小規模多機能施設に入居している施設療養者について、切り分けた対応を行っていく必要が今後の課題として挙がった。
 医療法人社団東山会調布東山病院の小川聡子理事長からは、大都市である東京における在宅医療について、病院の取組みの紹介があった。人口流入と高齢者人口の増加が見込まれ、人口密度の非常に高い東京において、在宅医療の必要性が高い一方、調布市内でも在宅医療に取組む医療機関がこの5年で11施設増え、24時間体制在宅医療の過当競争が起きている、いわゆる「レッドオーシャン化」の状況について説明があった。今後は強化型訪問診療と24時間訪問看護体制の機能分化・役割分担の検討が必要となる可能性に言及した。
 全日本病院協会の織田正道副会長からは、自身が理事長を務める社会医療法人祐愛会織田病院で取組んでいる在宅医療について紹介があった。織田病院が属する佐賀県南部医療圏では在宅医療を必要とする85歳以上人口が急増している状況にある。病院独自の取組みとして、Medical Base Camp と呼ばれる、ICT を活用しての在宅支援チームの動態管理、退院患者の自宅テレビを利用してのビデオ通話やベッドスキャン等により見守りを行う仕組みを用い、診療の効率化を図っている。
 また、地域では60歳以上の年代のオンライン診療のニーズも増していることに触れ、限られた医療資源の中で地域医療をバックアップする仕組みとして、ICT の活用を一つの解として示した。
 ディスカッションでは、在宅医療における地域差、在宅専門診療所の拡大、医療資源の枯渇に伴う効率化の必要、在宅医療導入における“ 仲間作り” の難しさ、在宅における総合診療の必要等、現行の医療体制が抱える課題への言及があった。
 また、在宅医療において、病院には自らが行う在宅医療と、在宅医療を行っているかかりつけ医の後方支援という役割が求められる中、多職種で連携しながら途切れない医療・介護を提供できるという利点があり、その円滑な運営には、地域のケアマネージャーや施設との顔の見える関係性が重要であるとの議論がなされた。
 最後に、座長を務めた全日本病院協会プライマリ・ケア検討委員会の牧角寛郎委員長から、新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う受診控え、外来控えが続く情勢下、医療・介護両面のサービスを必要とする後期高齢者が急増する中で、経営の観点からも在宅医療にどのように向き合うか、あるいはその準備をしておくことが病院にとって肝要であり、本セッションが会員病院にとってその一歩を踏み出す一助となることを祈念し、本委員会企画を締めくくった。

 

全日病ニュース2021年10月15日号 HTML版