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ホーム全日病ニュース(2022年)第1019回/2022年10月15日号患者がかかりつけ医を選び、医療機関は機能を提示

患者がかかりつけ医を選び、医療機関は機能を提示

患者がかかりつけ医を選び、医療機関は機能を提示

【社保審・医療部会】イギリスのNHSのような制度には多くの委員が反対を表明

 社会保障審議会・医療部会(永井良三部会長)は9月29日、かかりつけ医機能をめぐり自由討議を行った。この議論は、同じく厚生労働省医政局所管の第8次医療計画等検討会(遠藤久夫座長)で行われていたが、意見の幅が広がったため、医療部会で議論を行うことになった。議論では、かかりつけ医機能は、かかりつけ医個人が備えるものではなく、医療機関として備えるべきものとの考えに、多くの委員が賛同した。イギリスのNHSのような制度で、患者の医療機関・医師へのアクセスを制限する方法には、多くの委員が反対を表明した。

患者が自ら信頼できる医師を選ぶ
 全日病副会長の神野正博委員は、「病院団体でも、かかりつけ医機能をめぐり議論を行っているが、さまざまな意見がある。それを前提に、私見として、第8次医療計画検討会で出されなかった意見を述べる」とし、説明した。 
 最初に、「かかりつけ医は患者が選ぶもので、かかりつけ医機能は医療機関が提示するものであることが大原則」であるとした。そして、「例えば、高血圧と白内障の病気がある場合、高血圧を診る医師は、白内障の治療はできなくても、適切な相談・紹介を行うことはできる。あるいは、過疎地の医師が都会の専門医に相談するような形も考えられる。そのような対応を行える信頼できる医師を患者が選べばよい」と述べた。
 ただ、診療報酬は「療養の給付」であるため、いわゆる相談料として支払うことはできない。このため、神野委員は、「相談」に対する医療費の整理が必要と指摘した。
 また、「医療機関が提供するかかりつけ医機能」は、入院・在宅医療を含めた地域包括ケアとしての機能であり、自身の医療機関で提供できないサービスは、「連携」により提供することを示すべきであるとした。
 ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子委員も、「現状の医療提供体制でより切迫した課題は、急性期病院を退院した後の転院先の確保や在宅に戻れる環境整備であり、医療界から、かかりつけ医制度の設計を求める意見が出ていない以上、優先順位を考える必要がある」と主張した。
 また、かかりつけ医機能については、「日本では患者が医療機関を自由に選ぶことが当たり前になっている。また、紹介状なし受診時の定額負担により、すでに制限されたフリーアクセスになっており、イギリスのNHSを参考にするよりも、必要な時に必要な機能にアクセスできる体制が重要。そして、患者・国民がそれを知ることのできる情報提供の仕組みが求められる」と述べた。その上で、「日本医師会のかかりつけ医機能研修制度や全日病の総合医育成プログラムを修了した医師がどこにいるのかがわかる仕組みにしてほしい」と要望した。
 日本医師会常任理事の釜萢敏委員も、「患者がかかりつけ医を選ぶというのは、まさにその通りで、他から強制的に決められるものではない。かかりつけ医機能が何かは、今後改めて整理されると思うが、一人の医師がすべての機能を備えるのではなく、地域としてその機能を確保することが必要になる。ただ、これまでの新型コロナ対応で、患者がかかりつけ医だと思っていたのに、かかりつけの患者ではないという理由で、対応を拒絶された患者がいたことは由々しき事態で、改善が図られなければならない」と述べた。

一般医と専門医を区別しない
 日本病院会会長の相澤孝夫委員は、「かかりつけ医機能を、医療機関が担う地域包括ケアの機能にまで広げてしまうと議論が複雑になってしまうので、外来に関してだけの意見を述べる」とした上で、日病としての考え方を説明した。最初に、「イギリスのNHSのような制度にするべきではない。プライマリケアを担う一般医と専門医を制度で区別しないということを前提にする」と述べた。
 その上で、「かかりつけ医機能を担う医療機関とは、受診時に門戸を開いている医療機関であり、幅広くどんな患者も受け入れる。自院で診療する場合と紹介する場合があるが、自院で診療する場合は病状の急変時も対応する。これは他院と連携する形でもよい。また、継続して診療する機能も重要であり、紹介した場合には逆紹介を受ける。かかりつけ医を患者が選ぶ場合に、かかりつけ医であるのか特定の疾患の主治医であるかは極めてあいまいで、一定の整理が必要になる」とした。
 健康保険組合連合会専務理事の河本滋史委員は、「かかりつけ医は患者が選ぶ」ことには同意しつつ、かかりつけ医機能を担う医療機関等を登録し、国民・患者に情報提供をすることの必要性を強調した。その場合に、「健保組合としても協力する」と述べた。
 また、「かかりつけ医機能の強化には2つの意義があり、一つは少子高齢化社会で、医療提供体制を最適化・効率化する必要があること、もう一つは国民目線での安全・安心な医療提供体制を確保すること」であるとした。
 全国市長会(岐阜県飛騨市長)の都竹淳也委員は、「かかりつけ医という名称が古臭くなっている。現状のライフスタイルに合っていない」と指摘。「例えば、マイドクターや担当医という名称にすれば、あの先生、この先生ということが出てくる。『かかりつけ』という言葉に付着する意味の呪縛から逃れることも必要ではないか」と問題提起した。「高齢化が進む中で、かかりつけ医機能は絶対に必要なので、現実に即した形での制度整備を考えてほしい」と要望した。
 国際医療福祉大学大学院教授の島崎謙治委員は、「厚労省は、かかりつけ医機能をめぐる課題への解決に向け、何度かチャレンジしながら失敗してきた歴史を持っている。その教訓をきちんと踏まえて対応しないと同じことになる」との懸念を示した。「このような自由討議を今後も繰り返すのか。論点を明確にしていくことを考えてほしい」と厚労省に苦言を呈した。
 なお、5月17日の全世代型社会保障構築会議において岸田文雄首相は、「地域完結型の医療・介護サービス提供体制の構築に向けて、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行い、機能分化と連携を一層重視した国民目線での医療・介護提供体制改革を進める」と発言している。また、骨太方針2022では、「今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記している。

 

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