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ホーム全日病ニュース(2023年)第1024回/2023年1月1・15日合併号かかりつけ医機能は医療機関の連携で実現 病院も仕事と家庭を両立できる職場環境に

かかりつけ医機能は医療機関の連携で実現
病院も仕事と家庭を両立できる職場環境に


出席者(文中敬称略) 衆議院議員 田村憲久、参議院議員 羽生田俊、参議院議員 自見はなこ、参議院議員 星北斗、全日病副会長 織田正道、全日病副会長 安藤高夫(司会)

かかりつけ医機能は医療機関の連携で実現
病院も仕事と家庭を両立できる職場環境に

【全日病広報委員会企画 新春座談会Ⅰ】国会議員と全日病役員との座談会

 2023年の新年号では、社会保障に精力的に取り組む国会議員をお招きし、全日病役員と一緒に、これまでのコロナ対応やかかりつけ医機能、医師偏在問題など当面する課題を話し合っていただきました(取材日は2022年11月10日)。

安藤 まずは、元厚生労働大臣であり、今は自民党の社会保障制度調査会会長、全世代型社会保障に関する特命委員会委員長として、党の社会保障の議論のまとめ役となっている田村憲久先生に、医療提供体制や医療保険制度の全体像のお話をおききします。
田村 全世代型社会保障に関する特命委員会で活発に議論を行っています。社会保障全般について方向性を出すことになりますが、2022年内に結論を出す必要がある差し迫った課題と、来年の骨太方針に向け詰めていく課題があります。医療提供体制については、2025年に向けコロナの状況を踏まえた地域医療構想の推進のための議論があります。その前に、地域医療計画(第8次医療計画)の策定、また、かかりつけ医機能をどう考えるかも大きな課題です。
 かかりつけ医機能については、かかりつけ医がコロナ患者を診ない事例があったとの指摘を踏まえ、野党から法案が出ています。ただ、コロナのパンデミックに対応できる体制と、平時にかかりつけ医を持つことは違うものだと、我々は考えています。
 野党の議論では、イギリスのGP制度が念頭にあるようですが、若い方々は頻繁に移動しますし、滅多に病院にかからない方々も多い。かかりつけ医を無理やり持たせるわけにもいきません。ニーズの多くは、慢性疾患を複数抱える高齢者にあり、いまでも多くの高齢者はかかりつけ医を持っています。問題は、緊急往診など在宅での対応が不十分な場合があることです。
 ただ、医師が一人の診療所に、24時間365日の対応を求めることは無理でしょう。複数の医療機関が連携し急変時に対応する形を作っていただきたいと思います。かかりつけ医機能のあり方は、高齢者への医療をどうしていくかを中心に、考えるべきことです。もちろん、若い方々でも医療的ケア児を含めて日常的に医療を必要とする方々がいます。その場合は、当然かかりつけ医を持っていただきたい。
 しかし、日本は診療科ごとにかかりつけ医がいる状況ですから、GP制度のような制度が日本に馴染むとは思いません。日本の医療提供体制の現状を踏まえた議論が求められます。
羽生田 コロナ患者をかかりつけ医が診てくれなかったとの報道が一時期あふれました。ただ、かかりつけ医というのは人によりとらえ方が全然違います。例えば、5年に1回かかればかかりつけ医だと考える人もいます。その意味でも、かかりつけ医機能の明確化が求められます。
田村 コロナのようなパンデミックで感染者がきちんと医療を受けられる体制づくりはもちろん必要です。今般の改正感染症法等により、都道府県と協定を結ぶ医療機関には、感染症発生・まん延時に必要な医療提供をお願いすることになります。法律改正により形はできますが、医療関係者の理解を得なければ、実際は動かないので、お互いがよく話し合い対応する必要があります。
 ややもすると、日本の医療提供体制が脆弱でコロナへのパフォーマンスが非常に悪かったと公言する人がいます。私は全く違うと思っていて、確かに、欧州に比べると中小病院がとても多く、有事に全体の役割分担が難しくなる側面はあります。しかし、平時にはアクセスがよいという強みがあり、そのような特殊性のなかで、最高のパフォーマンスが発揮されました。感染者の入院率は各国中、最も高い部類であり、その結果として、死亡率が大変低いなど、数字が物語っています。
 非常に難しい状況で最大のパフォーマンスを上げたことに感謝しています。いわれのない中傷に耐えながら頑張っていただきました。次にこういうことがあったときには、そこまでのご苦労はかけずに済むように、医療提供体制の構築を図る必要があると思っています。
織田 地域密着型の中小病院は、当初「何もやらない」という中傷を受けました。実際はそうではなく、特にオミクロン株が流行してから、多くの患者を中小病院が受け入れています。一方、第1波から第3波の時は、検査が十分にできず、発熱などの症状のある患者は直接病院で受け入れるのではなく保健所に連絡し指示を待つという対応を取っていました。それも誤解を受けた理由の一つだと思います。
田村 当初は未知のウイルスで、入院できる医療機関が少なく、検査も不十分でした。ウイルスの性質がだんだんわかり、多くの医療機関に対応をお願いできる状況になりました。そこが、国民にうまく伝わらなかった。当時、厚生労働大臣(2020年9月~ 2021年10月)であったので、反省すべき点です。
織田 対応がわかってきてから、発熱外来でも入院でも多くの医療機関が積極的に新型コロナの医療に参加するようになりました。そこをみて、評価していただきたいと思います。
 それから、かかりつけ医機能の制度整備の話が出ました。やはり一人医師の診療所が、24時間365日対応するのは無理なので、医療機関が連携し、地域という面でかかりつけ医機能を発揮する体制構築が重要です。
羽生田 これまでも夜間・休日に対応できる診療所を作って、みんなで負担を分け合うというシステムで対応してきました。これを充実させるべきです。
織田 全日病の会員病院を含め在宅療養支援病院は、いま全国に1500強あります。在支病が地域の医療機関と連携体制を作り、自らも在宅医療を提供しつつ、基本は、地域の在支診などが担うという病診連携を行うことで、体制を手厚くできると思います。

医師偏在問題と医師の働き方改革
安藤 羽生田俊先生は現在、厚生労働副大臣として労働分野などを担当し、医師の働き方改革に取り組まれています。自民党の医師の働き方改革に関するプロジェクトチームの座長でもありました。元日本医師会副会長でもあります。羽生田先生には、主に医師偏在問題についておききします。
羽生田 医師の偏在問題は医学部時代の教育や医師免許取得後の研修に起因する面もあるかもしれません。例えば、我々の時代は学生の時から先輩などとの交流を通じ、診療科を選ぶ過程がありました。いまはそれが少なくなっているとききます。あそこは大変な診療科だからと、限られた情報で、避けてしまうこともあるかもしれません。
 私の地元である群馬県は医師偏在が特に大きく、群馬大学のある前橋市と他の地域との間に顕著な医師偏在があります。群馬県の取組みは、基本的には県単位の医局制度のようなものを作るということです。県の地域医療支援センターが、大学や市中病院と連携し、医師不足地域に医師を派遣できるぐらいの強い機能を持ってもらいたいと私は思っています。
織田 診療科については、我々の時代はナンバー内科、ナンバー外科で、いまの臓器別診療科と違う、割と幅のある診療領域でした。派遣先の病院でも、さまざまな経験ができました。ほとんどの医師が細分化された診療科を選択する現状を是正すべきだと思います。
羽生田 医師数については、1980年代から医師数を抑制する政策がとられ、その後、医師不足がはっきりしたので2008年以降、入学定員を臨時に増員し現在は毎年9,000人を上回っています。いつかは医師過剰になり得るので、どこかの時点で区切りをつけなければいけないでしょう。一方、医師偏在を何とかしないと、地域の医師不足は解決しませんし、医師の働き方改革を進める上でも、医師の偏在対策を併せて行うことが重要です。
田村 厚労省の調査によると、タスクシフト等の推進を含めさまざまな努力により、法律の時間外労働時間の上限に収まる病院が増えています。ただ、調査期間が2か月ほどで、年間を通して対応できているのかは疑問です。2024年度までもうすぐです。施行後に「できませんでした」では済まないので、きちんとチェックして、備える必要があります。
 ある程度柔軟に対応できるようにしないと、現場が困る。現場が困るということは、国民・患者が困ることなので、混乱が起きないように対応を考えます。
羽生田 医師の働き方改革は、コロナの感染拡大の前に決まりました。コロナ対応で予定した取組みができなかった病院への配慮が必要になります。
織田 コロナでは、職員が濃厚接触者となり出勤できず、特定の職員の業務が増大することがありました。
田村 労働基準法33条に「災害その他避けることのできない事由」があれば、労働時間を延長できる規定があり、それを使うことは考えられます。国民に安心した医療を提供するため、想定外の事態が起きたときに、何を変えられるのか、変えられないならどのような対応があり得るのかを検討します。
羽生田 タスクシフト/シェアの話に関連して、今まで一番効果があったのは医師事務作業補助者に対する診療報酬の加算ですね。ただ、算定できる病院が限られています。診療所も含め適用を拡大することによる医師の労働時間短縮への効果は大きいと思います。

子育て予算の倍増が必要
安藤 自見はなこ先生は現在、内閣府大臣政務官として、こども家庭庁の発足に邁進されています。コロナの感染拡大直後には、厚生労働大臣政務官として、感染者が出た大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号に乗り込み、感染防止対策に尽力されました。医師の働き方改革にも熱心に取り組まれています。
自見 コロナ対応はもう3年。現場のみなさんの貢献に感謝申し上げます。私はいま内閣府大臣政務官として、こども家庭庁の設置準備に取り組んでいます。また、日本医師連盟推薦の議員であり、与党でたった一人の小児科医という立場もあります。
 こども家庭庁創設に向けた活動の理念は「こどもまんなか」で、子育て支援の予算倍増が大きな目的です。厚労省の子ども家庭局では、厚労省全体の予算上限によるシーソーゲームからいつまでも抜けられません。別の省庁を作れば、従来の財源の枠から出られると期待していますし、少なくとも全世代型社会保障の構築に舵を切る方向性を見出せます。
安藤 まさに、こども家庭庁の立役者として活躍されています。
自見 本当にここまで来るとは想像できませんでした。奇跡的に、さまざまな事象が合致した、うまく働いたと思います。特に、当時の菅義偉総理が縦割り行政打破をライフワークとし、また、不妊治療の保険適用など若い方々への想いが強い政治家であったことが、実現への大きな力となりました。
羽生田 こども家庭庁創設にはみんなが賛同しました。
安藤 こども庁創設に向けた特設ホームページをみると、ものすごい数の勉強会や調査を実施していますね。
自見 自民党議員有志による特設ホームページは初の試みです。山田太郎参議院議員と私が共同事務局を務め、デジタル民主主義を心掛け、すべての活動を公開しました。ツィッターの活用などの政治手法もとても勉強になりました。
織田 時代の要請を受けた大切な取組みだと思います。医療機関の立場では、医療的ケア児への支援が気になります。医療的ケア児が家族を含め家に閉じこもりがちな状況へのさまざまな支援が必要です。全面的に協力する姿勢ですが、医療機関への要望はありますか。
自見 あります。医療従事者で女性が多数を占める職種は看護師をはじめ少なくありません。女性医師も今後は4~5割を占めていきます。こども基本法では、事業主に子育てと仕事の両立ができる職場環境の整備を求めていますので、医療機関経営者の方々にも、大変苦しい状況だと思いますが、子育て世代が家庭を大事にできる環境をぜひ作っていただきたいです。
織田 そうしないと医療機関にも人材が集まらない時代になっていますね。

病院が地域のニーズを汲み上げる
安藤 全日病理事でもある星北斗先生が先の参議院選挙で当選されました。星先生には医療機関経営や診療報酬についておききします。
 医療機関経営というと診療報酬の話になってしまいがちですが、私は、あまり診療報酬が好きではありません。というのは、医療者としてプライドを持って地域医療のために仕事をしていくときに、診療報酬に一喜一憂しすぎることは、正しくないように感じられるからです。多くの医療機関の経営状態が本当に厳しいなかで、1点でも高い診療報酬が得られる体制を整えることが、地域医療に求められることだと信じ、さまざまな取組みをしてきました。
 しかし、私は国が医療機関を誘導するそんなやり方を考え直す時期に来ていると考えています。地域医療が求めていることを行政が考え、それをやってもらうように診療報酬を決める、という「唯我独尊的」な気持ちがあるのではないかと思うのです。
 地域のニーズは地域が知っていて、それに応えることが、医療機関の役割だと思います。そのニーズを満たすために、しっかりとした背骨を与えるもの、それが診療報酬であるべきです。
 医師偏在、人材不足の話がありました。しかし、現状は、何か一つの制度を変えれば、あるいは働きやすい環境を作れば人が集まるとは必ずしも言えない状況になっています。人口がどんどん減る中山間地域で、どのようなアプローチで医療を成り立たせることができるか。
 従来の地域の枠組みをもう少し広げて、例えば、医療圏の間あるいは医療機関の間に取り残される人々がいます。そこに目を向けてその方々のニーズをしっかりと汲み取ることが、今後の医療経営を考える上で、大事です。地域医療構想や紹介受診重点医療機関の位置づけの議論もありますが、地域のニーズに即した形で実現すべきです。
 星総合病院では、保育所や児童家庭支援センター、農業にも取組んでいます。医療機関が運営しているから安心との声もいただきました。これまで医療機関の直接の対象ではなかった人々に向き合い、かかわると、信頼感が生まれ、それに応えようとすると、損得抜きでやらざるを得なくなります。医療機関が医療にとどまらない地域のニーズに応えることが、新しい姿を生み出します。ただ、そのためには、お金も含め「余裕」が必要になります。
安藤 医療・介護を介した地域づくりに加わるということですね。
 私はそれしか地方の医療機関が生き残っていく道はない気がします。
織田 今までは医療機関で待っていれば患者さんが来てくれるという時代でしたが、これからは医療機関がどんどん外に出て行かないとだめですね。

持続可能な医療保険制度に向けて
田村 地域医療構想は、急性期病床削減で財政負担を減らすという財務省的な考えが前面に出て、医療機関が警戒してしまった経緯があります。厚労省は地域で足りない医療機能を満たすための役割分担と説明してきたのですが。ただ、財政が厳しいことは事実です。
 高齢化社会の入り口に立った1970年の社会保障費は3.5兆円、GDP は73兆円です。超高齢社会になった2020年頃の社会保障費は136兆円、GDP は540兆円ぐらい。社会保障費が40倍以上伸びているのに対し、GDPは8倍弱ぐらいです。社会保障給付費が伸びてもそれに応じて経済が成長すれば問題はないのですが、これでは財政的にも動きが取れなくなります。
 いま予算編成で行っているのは、「あそこを削ってこちらに回せば3年ぐらいはつながる」という程度のことで、10年、20年先の持続可能な医療保険制度を考えたものではありません。厚労省はずっとその苦しみの中にいて、財政的な制約の中で予算を組んでいます。
 党の特命委員会では、消費税の引き上げを含めて、安定財源を求める意見が出ています。子育て対策の費用も増えるなかで、今のやり方でやれというのは無理な話です。医療保険制度を破綻させないために、国民の理解を得るため、政治家が判断しなければならない時期に来ています。
自見 低所得者対応ではこれまである程度の対応があった一方で、中間層がこの20 ~ 30年ずっと苦しんできました。中間層が子どもを二人ほしいときに、経済的な理由で躊躇してしまう現実があります。子どもがいなければ国そのものが成り立ちません。少子化対策への社会全般の理解をさらに醸成し、支援のあり方を大きく見直す必要があります。
織田 今年度の出生数が80万人を下回る見込みです。危機的な状況であり、国民に説明すれば、多くの人は理解してくれるのではないでしょうか。
田村 出生率がすぐに上昇しても、働き手になるのは20年以上かかります。それまで、どうやって社会保障制度を維持し、経済を回していくか。両者は密接に関連しており、経済が成長しないと社会保障制度を支えられません。
 この大変な時代を乗り越えるために何が必要となるか、今後もみなさんと一緒に考えていきたいと思います。


田村憲久・衆議院議員


羽生田俊・参議院議員


自見はなこ・参議院議員


星北斗・参議院議員


安藤高夫・全日病副会長


織田正道・全日病副会長


左から織田正道・全日病副会長、猪口雄二・全日病会長、自見はなこ・参議院議員、田村憲久・衆議院議員、羽生田俊・参議院議員、星北斗・参議院議員、安藤高夫・全日病副会長

 

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