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ホーム全日病ニュース(2023年)第1024回/2023年1月1・15日合併号新興感染症対応の医療計画への記載に向けて議論

新興感染症対応の医療計画への記載に向けて議論

新興感染症対応の医療計画への記載に向けて議論

【厚労省・第8次医療計画検討会】新型コロナの実績踏まえ数値目標を設定

 厚生労働省の第8次医療計画に関する検討会(遠藤久夫座長)は12月9日、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」が成立したことを受け、第8次医療計画に盛り込む新興感染症対応の記載に向けて議論を行った。基本的には、改正感染症法等の内容や予防計画の記載予定事項の整合性などを踏まえた記載とし、新型コロナ対応の実績を参考に、医療提供体制の数値目標などを設定する。
 平時からの医療計画における都道府県の取組みとしては、感染症発生・まん延時の地域における医療機関の役割を明らかにしながら、「感染症医療提供体制」の確保と「通常医療提供体制」の維持を図る。予防計画では、感染症医療提供体制に加え、検査・保健体制の確保なども記載する。感染症発生・まん延時における5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)などについては別途、とりまとめが行われているが、共通となる考え方は、新興感染症等対応における医療の項目に適宜記載するとしている。
 計画の策定にあたっては、「まずは現に対応しており、これまでの対応の教訓を生かすことのできる新型コロナへの対応を念頭に取り組む」。その際、新型コロナ対応において、感染状況のフェーズを設定していることを踏まえ、フェーズに応じた取組みとする。事前の想定と大きく異なる場合は、その感染症の特性に合わせて、都道府県と医療機関との協定を見直すなど、実際の状況に応じた機動的な対応を行う。
 全日病副会長の織田正道委員は、「フェーズに応じた取組みとすることなど、感染症の特性に合わせて柔軟に対応し、機動的に行動することが極めて重要だ。新型コロナでも、アルファ株、デルタ株、オミクロン株とそれぞれ感染力、病原性、毒性が異なり、違う対応が必要になった。やはり発生直後は、病棟単位でゾーニングができる大病院が役割を担い、感染症の性質がある程度わかった段階で、地域に根差した病院が対応する体制が望ましい」と発言した。

ストラクチャー中心に目標設定
 厚労省は、医療計画への記載事項のイメージとして、以下の項目を示した。
(平時からの取組み)
◇都道府県と医療機関との協定の締結による対応可能な医療機関・病床等の確保◇感染状況のフェーズに応じた病床の必要数や人材派遣の可能人数の設定など準備体制の構築◇専門人材の確保◇感染症患者入院医療機関と感染症患者以外に対応する医療機関の役割分担◇院内感染対策の徹底、クラスター発生時の対応方針の共有
(感染症発生・まん延時の取組み)
◇協定締結医療機関・流行初期確保措置付き協定締結医療機関における協定の履行◇感染状況のフェーズに応じた準備体制の迅速かつ確実な稼働◇感染症医療と通常医療に対応する医療機関間の連携・役割分担の実施
 医療計画に記載する数値目標案については、新型コロナ対応の実績を参考にした。具体的には、◇流行初期医療確保措置による病床数◇流行初期医療確保措置で発熱外来に対応する医療機関数◇自宅療養者等に医療を提供する医療機関数◇後方支援を行う医療機関数◇医療人材の派遣可能人数◇個人防護具の備蓄量・医療機関数─などがある。
 委員からは、「医療計画の数値目標はストラクチャー・プロセス・アウトカムの3つに分類されるが、今回の案はストラクチャーが中心となっている」(今村知明委員・奈良県立医科大学教授)との指摘があった。厚労省担当官は、「改正感染症法等の法定事項も踏まえ、まずはストラクチャーの数値目標が中心になると考えている。予防計画での記載も関係するが、将来的には、さらなる数値目標を検討したい」と回答した。
 また、健康保険組合連合会専務理事の河本滋史委員は、「感染症発生・まん延時の医療提供体制の数値目標は、新型コロナの実績が参考にならざるを得ないと理解する。しかし、新型コロナ対応での病床逼迫は、全体の病床が足りなかったから生じたわけではない。人口減少、少子化も進行している。病床数の目標については、基準病床数を基本に考えるべき」と病床が増えることに警戒感を示した。
 医療計画における新興感染症対応の記載については、今後、予防計画の基本方針などとの整合性を図りながら、議論をまとめる。改正感染症法等の2024年4月施行に向け、都道府県は2023年度中に予防計画・医療計画を策定する必要があることから、できる限り早く議論をまとめるとの考えが示された。

第8次医療計画の意見まとめる
 第8次医療計画の意見のとりまとめ案については、新興感染症対応と地域医療構想関連(12月14日「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」で議論。上記記事を参照)を除いた内容について、概ね了承した。
 前回の委員の意見を反映させた意見のとりまとめ案となっており、全日病会長(日本医師会副会長)の猪口雄二委員が指摘した有床診療所に関する文言などが追加された。
 例えば、周産期医療では、「ハイリスク分娩を取り扱う周産期母子医療センター等に負担を集中させないよう、ハイリスクでない分娩は、その他の産科病院や産科有床診療所等で取り扱う」との文言修正を行った。在宅医療の「急変時・看取りの体制」では、対応する入院医療機関に、「有床診療所」を追記した。
 一方、冒頭の「医療計画全体に関する事項」では、質の高い医療の提供や効率化を図る観点から、「情報通信技術(ICT)の活用や、医療分野のデジタル化を推進していくことが求められている」との文言が明記されている。
 これに関し、織田委員や日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、互換性のない電子カルテが出回ってしまったことにより、医療機関の負担が大きくなってしまっている状況を踏まえ、デジタル化を図る上での基盤整備において、標準化されたシステムを導入する取組みが必要であることを強調した。
 二次医療圏の設定については、「実務上の課題」から、「隣接する都道府県の区域を含めた医療圏が設定されていない」と書いてある。織田委員は、「実務上の課題とは何か」と質問。厚労省担当官は、「隣接する都道府県のそれぞれの関係団体との調整やデータ調整の作業などにおいて、ハードルがあると都道県からきいている」との回答があった。織田委員は、「隣接する都道府県との話し合いの場を広げてほしい」と求めた。

 

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