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ホーム全日病ニュース(2023年)第1029回/2023年4月1日号宿日直許可の取得を含め、来る医師の働き方改革の制度施行に対応

宿日直許可の取得を含め、来る医師の働き方改革の制度施行に対応


左上が吉田純一理事長、右上が全日病の大田泰正常任理事、下が厚労省の藤川葵 室長補佐

宿日直許可の取得を含め、来る医師の働き方改革の制度施行に対応

経営セミナー「医師の働き方改革」

 全日病は、2040年に生き残るための経営セミナー「医師の働き方改革」をWEB形式で2月28日に開催。全日病の大田泰正常任理事が司会を務め、藤川葵氏(厚労省医政局医事課医師等医療従事者働き方改革推進室室長補佐)と吉田純一氏(社会医療法人中央会尼崎中央病院理事長)が講演した。
 藤川氏は医師の働き方改革の制度概要について解説。吉田氏は自院の経験をもとに、労働基準監督署への対応と、二次救急医療機関の宿日直許可の申請を中心に説明した。

藤川室長補佐の講演概要
 我が国の医療体制を守り続けるためには、各地域で医療を持続的に提供できる社会の実現が必要である。そのためにはマンパワーの確保、医療機関の機能分化・地域連携を進めると同時に、様々な医療従事者が活躍し続けられる働きやすい環境づくりが求められている。また安心・安全な医療の提供が引き続き可能となる医師の働き方改革は、医師・患者の双方にとって重要である。

医師の時間外労働規制のポイント
 医師に対する時間外・休日労働の上限規制が来年4月から適用される。医師の時間外労働規制のポイントをみると、その上限が年単位で定められており、A 水準は960時間、連携B・B・C-1・C-2水準はいずれも1,860時間。医療機関は、いずれかの水準を選択しなければならない。連携B・B・C-1・C-2水準を目指す医療機関は、都道府県に指定申請を行う必要がある。
 都道府県は、その指定申請を行った医療機関に、申請水準の内容に合致する年960時間を超える時間外・休日労働を行う業務が存在するかを確認し、都道府県医療審議会での議論を経て、医療機関を指定することになっている。
 自院で働く医師が、副業・兼業先の労働時間も勘案し、全員がA水準である場合は、指定の申請は不要となる。しかし、A水準の医療機関であっても、時間外・休日労働が月100時間を超えることが見込まれる医師に対しては面接指導を実施する義務となっている点は忘れないでほしい。
 また、連携B・B・C-1・C-2水準適用の医師に対しては、勤務間インターバルの確保が管理者に義務付けられるが、勤務間インターバルは勤務シフトとして予定することが大切。勤務間インターバル中の予定外の緊急業務への対応は可能だが、その場合は必ずその緊急業務に従事した時間を記録として残し、その業務に携わった医師へ、代償休息を翌月末までに付与する必要がある。

来年4月までに取り組むこと
 医療機関は来年4月までに①勤務実態の把握②めざす水準の設定③必要な準備・取組を進めることが求められる。医療機関が、来年4月以降、A水準以外の水準を医師へ適用する必要がある場合は、2024年度以降の医師労働時間短縮計画(案)を作成し、評価センターの評価、都道府県知事の指定を受けなくてはならない。
 また、各医療機関において、面接指導の実施・勤務間インターバルの確保に向けた体制づくりを進めることになる。
 水準指定に関しては、都道府県の手続きが数か月程度、評価センターの評価は最低4か月程度かかる。多くの医療機関の評価受審申込が、ある時期に評価センターへ集中すると、評価結果を受け取るまで4か月以上の時間を要する可能性もある。評価センターの結果は、都道府県への指定申請に不可欠。その結果が各都道府県の指定申請の期限に間に合うよう、可能な範囲で、評価センターの早期受審に努めていただきたい。
 面接指導は、医師の当該月の時間外・休日労働100時間超えが見込まれる場合は、当該月に必ず面接を実施しなければならない。前月の労働時間実績で面接を行うのではない点に留意が必要。したがって、面接指導の時期は、医師の当該月の時間外・休日労働が80時間前後となる時期で設定するのが望ましい。
 長時間労働医師への面接指導に基づき、管理者は、◇面接指導実施医師の意見を聴くこと、◇労働時間の短縮など適切な措置を実施すること、◇面接指導実施医師の意見とその措置の内容を記録・保存すること、が義務付けられている。
 労働時間の上限規制の適用除外となる「宿日直許可」の取得については、申請書類の確認・準備など非常に時間がかかることもあり、各地域の労働基準監督署や都道府県医療勤務環境改善支援センターに相談しながら、準備するのが一番スムーズである。昨年4月には許可申請に関する相談窓口を厚労省に設置したが、その窓口を介して許可につながった事例もある。許可件数は2021年の233件が22年には1,369件に増加している。
 今般の改革については、医師の働き方改革特設ページ「いきいき働く医療機関サポートWeb(https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/)」でも詳しく解説し最新情報を提供している。宿日直許可に関しては行政説明動画(約30分)や許可事例、また医師の働き方改革に関するFAQ22.11(https://iryoukinmukankyou.mhlw.go.jp/pdf/outline/pdf/20221129_01.pdf)も活用してほしい。
 医師労働時間短縮計画(案)を作成したら評価センターの受審が必要になるが、同センターのホームページで詳細情報を公開している。是非活用していただきたい。
 医師の行動変容につなげるためには、医療機関での意見交換会の実施が非常に重要。その実施マニュアルも近く公表する予定だ。

吉田理事長の講演概要
 当院は309床のケアミックス型の二次救急病院で、年間の救急車の搬送件数は約2,400件。約5年前の労基署の適時調査で厳しい指導を受け、それに1年かけて対応した経験があり、働き方改革には早い段階に着手した。宿日直許可は昨年夏に申請し10月に受理された。
 全日病加盟の8~9割の病院はA水準をめざすことになるだろう。慢性期・精神科・一次救急の病院は、それなりに対応が進んでいるようだが、二次救急病院は当院を含め宿日直許可が取れたところが出始めた段階だと思う。
 これまでの当院の歩みを振り返ると、2006 ~ 08年頃に深刻な看護師不足が続いたことから主に看護部門を中心に様々な改革を進め、職員も増員して有給休暇の取得率も9割くらいに上昇。ここ10年間は紹介業者を全く使わずに口コミやホームページでの募集等で看護師を確保できている。

労働基準監督署への対応
 2018年に働き方改革関連法が成立した。当院では残業時間が900時間を超える医師はいないから大丈夫だろうと考えていたところ、同年6月に尼崎労働基準監督署の適時調査を受け、12項目の是正勧告・指導、2か月以内の改善命令が下された。
 それへの対応で一番困ったのは労基法32・34・37条違反で、医師当直、技師当直、事務当直、オンコールすべて法律違反とされた。すぐに各方面に相談したが即効策はないため、出来るところから順次改善を進めた。
 当直に関しては、医師以外を優先して対応。技師と事務は「日勤~当直(翌朝終業)」を「夜勤(翌朝終業)」に改めて連続勤務時間を短縮。また夜勤手当の増額等で従前と変わらない給与を確保できるようにした。オンコールは原則廃止したが、緊急時の呼び出しは必要なので、診療科別など個別に検討し、年間の総額給与が変わらないよう増額するなどの対応を行った。
 最後に残った医師の宿直については、当時は1949年に発出された宿日直届の規定が生きていたが、それをクリアすることは困難な状況であった。とはいえ周辺の他院も同様なので、労基署とも協議を重ね、公立公的病院などがきちんと対応するなど周辺環境が整うまでは現状のままでよいことを確認し、協議は2019年3月で一旦終了した。
 こうした経緯をふまえて2024年4月に向けてA水準を達成すべく、検討・改善を本格化させた。
 宿日直許可の申請では、2019年4月に施行された労働基準法第41条の規定をクリアすることが求められる。その中の「通常の労働の継続は認められないが、救急医療等を行うことが稀にあっても、一般的にみて睡眠が十分とりうるものであれば差し支えない」という規定への対応がポイントの一つだ。
 2019年7月に発出された「医師、看護師等の宿日直許可基準について」では、「宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得るものである場合」は、一定程度の業務は可能と解釈できる内容となっている。また「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月)も出ている。それらをしっかりと読み込んで、自院に当てはめ検討することが必要だ。
 宿日直申請に関する相談窓口が厚労省に、また都道府県別に「医療勤務環境改善支援センター」が設置されている。早めに相談して出来るところから着手するとよいだろう。また「宿日直許可申請の手引き」といったものも各支援センターから出ている。
 許可申請は具体的に、①「許可申請書の作成等」と②労働基準監督官による実地調査─の二本立てになる。

当院の実際の取組と工夫
 申請の際に一番大切なのは、当直帯の勤務実態を詳細に把握しデータ化することだ。当院は3か月分のデータが求められた。申請書類から睡眠・休憩時間が十分にとれていると読み取れることも重要になる。
 申請書類の作成では、◇病棟からの電話指示は2~3分◇病棟処置は10 ~ 20分◇救急外来での対応は問診・診察5~ 10分、処置・結果説明10 ~20分◇救急外来・病棟へ出向いている時間以外は休憩または睡眠とし、実地調査でそれを説明。そうした時間を超えて勤務することも時々あるが、労基署からは月平均ベースを見てもらった。
 受診患者が多い時間帯(日祝の内科日直)は時間外勤務扱いで申請した。ちなみに夕刻から夜の早い時間帯に外来患者が多い病院の場合は、その数時間を宿直ではなく時間外勤務とすれば、宿日直の時間帯に休暇を十分取れているというデータをつくりやすいと思う。
 具体的な時間管理では、Bluetoothのビーコンを利用して実態を把握。それを提出書類に落とし込んだ。そうした機器を用いなくても丁寧に実態把握を行えば申請書類は作成できると思う。
 実地調査では、院内の見回り、実際に当直をしている医師の聞き取りが行われたので、当該医師と事務長が事前に入念に打ち合わせをした。担当官と十分なコミュニケーションをとるとともに、ワークシェアなど当院の取組みのPRも積極的に行った。

 

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