全日病ニュース
重症度、医療・看護必要度の見直しが課題に
重症度、医療・看護必要度の見直しが課題に
【中医協・入院医療分科会】急性期、高度急性期、地ケア病棟、慢性期を議論
中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)は8月10日、次期診療報酬改定に向け、急性期入院医療(その2)、高度急性期入院医療(その1)、地域包括ケア病棟(その2)、慢性期入院医療(その1)をテーマに議論を行った。急性期入院医療や高度急性期入院医療では、適切な「重症度、医療・看護必要度」の設定をめぐって、多くの意見が出た。
急性期入院医療については、高齢者の軽症・中等症の救急搬送が増加する中で、急性期病棟で集中的な急性期医療を必要とする患者への対応を適切に評価し、機能分化を推進するとの観点で、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度等」のあり方が論点になった。
全日病会長(日本医師会副会長)の猪口雄二委員は、2022年度診療報酬改定における「重症度、医療・看護必要度」の見直しの影響についてコメントした。2022年度改定では、見直しの内容で診療側と支払側の意見が対立し、公益裁定の結果として、◇A項目(モニタリング及び処置等)の「心電図モニターの管理」の削除◇「点滴ライン同時3本以上の管理」から「注射薬剤3種類以上の管理」への変更◇「輸血や血液製剤の管理」の1点から2点への変更◇各入院料の基準値の変更─などが行われている。
猪口委員は、「『心電図モニターの管理』の廃止の影響が懸念されたが、『注射薬剤3種類以上の管理』の該当が増えたり、他の項目に振られるということがあり、影響は少なかった。しかし、スコアは下がっている。今後、見直しを行うときは、その影響をしっかりと検証した上で行うべきだ」と厚生労働省に求めた。
同日の資料では、「急性期一般病棟は集中的な急性期医療を必要とする患者への対応に重点化する」との観点で、
◇ 一般病棟に入院する75歳以上の患者で多い疾患のうち、誤嚥性肺炎や尿路感染症等は、急性期一般入院料1の場合と地域一般入院料の場合とで、医療資源投入量の差が小さい。
◇ 誤嚥性肺炎及び尿路感染症の「重症度、医療・看護必要度」の該当患者割合は、入院6日目の下がり幅が全疾患の平均よりも大きく、項目としては全疾患の平均と比べ「専門的な治療・処置」の該当割合が低く、「救急搬送後の入院/緊急に入院を必要とする状態」の該当割合が高かった。
といったデータが示された。
「重症度、医療・看護必要度」には、「救急搬送後の入院(5日間)」の項目があり「2点」である。委員からは、この項目の設定が、急性期入院医療の高齢者救急の受入れを促している側面があるとして、見直しを求める意見が出た。
猪口委員は、高齢者救急の医療が多面的であることを強調。「骨折にしろ、肺炎にしろ、その前の状態がどうであったのかを考える必要があり、それにより治療法が変わる。要介護でADLが低い状態であれば、特にそうだ。どこに入院すべきかということは、非常に多面的な要素から決まる。一概に急性期病棟から地域包括ケア病棟等(以下、地ケア病棟)に搬送先を変えるという話にはならない。急性期病棟に搬送されても、1日でも早く後方転送が行われる方向での診療報酬上の対応を考えることが、この問題の解決にかなり近づくのではないか」と主張した。
また、猪口委員は、「医療機関に勤務する看護業務補助者の従事者数が、2014年以降減少しており、看護業務補助者と介護福祉士の合計数も同様の傾向である」というデータに着目。「切実な問題であり、現場は悲鳴を上げている。しかし、日本の若年者の減少は、医療・介護の分野で解決できる話ではなく、外国人や医療DXの活用を含め、国会的な課題として考えてほしい」と政府に要望した。
全日病常任理事の津留英智委員も、「『重症度、医療・看護必要度』の見直しにより、誤嚥性肺炎や尿路感染症など医療資源投入量の低い高齢者救急を地ケア病棟に移行させることは、簡単にはできない」という観点で、特に、データの妥当性に関して指摘した。
厚労省のデータは、主に新型コロナの感染拡大が続いている2022年のものであり、DPC算定病床または地ケア病棟に入院する75歳以上の患者において、最も多い傷病は「新型コロナ」となっている。
津留委員は、「急性期一般入院料1でもゾーニングを行って、一般患者を制限した。あるいは、院内でクラスターが発生し、新型コロナであれば、診療報酬の特例が適用されるので、医療資源投入量が高くなる新型コロナが傷病名として選択されたということがあると思う。そうすると、新型コロナの傷病名であっても、さまざまな傷病がそこに含まれていた可能性がある。新型コロナの感染拡大以前のデータを調べるなど、データの再確認が必要ではないか」と指摘した。
また、75歳以上の患者に多い疾患のうち、急性期一般入院料1の医療資源投入量と、急性期一般入院料2~6や地域一般入院料2・3の医療資源投入量を比べると、「食物及び吐物による肺臓炎」や「尿路感染症、部位不明」、「肺動脈の血栓症による脳梗塞」において、その差が低く、医療資源投入量の差が小さくなっている(左下図参照)。
津留委員は、「例えば、『脳動脈の血栓症による脳梗塞』の予後でADLが低下し、リハビリテーションなどで医療資源をたくさん使うこともある。救急医療の段階で、急性期一般入院料と地域一般入院料で、医療資源に大差がないからといって、急性期入院医療をカットしてしまえば、予後にいろいろな影響が生じることが考えられる。そのことも考慮して、慎重な議論を行うべきだ」と主張した。
そのほか、急性期一般入院料1で、医療資源投入量が地域一般入院料などと大差ない高齢者救急が多いことについては、「独居や老々介護など高齢者だけの暮らしで、通院が難しい場合が増えている。そうなると、どうしても救急医療に頼ることになる。確かに、医療資源投入量は大きく変わらないので、必ずしも高度急性期である必要はない。しかし、その場合は、急性期一般入院料1未満や地ケア病棟でも受け入れることのできる診療報酬を考えないといけない」(牧野憲一委員・日本病院会常任理事)との意見が出された。
HCUの必要度の適正化が論点
高度急性期入院医療についても、「重症度、医療・看護必要度」の見直しが論点となり、特に、ハイケアユニット(HCU)用の適正化に関し、さまざまな意見が出た。
HCU用の「重症度、医療・看護必要度」については、
◇ HCUに入室した時の状態や手術実施の有無によらず、ほぼすべての患者において「心電図モニターの管理」と「輸液ポンプの管理」が該当していた。
◇ いずれの入室経路においても、A項目3点以上の割合と4点以上の割合の差が大きく、またA項目が3点以上である場合には、ほぼすべての場合でB項目4点以上に該当していた。
などのデータが示された。
2022年度改定において、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」のA項目「心電図モニターの管理」が削除された。また、特定集中治療室用の「重症度、医療・看護必要度」のB 項目(患者の状況等)も削除されレセプト電算処理システム用コードを用いた評価である「Ⅱ」を導入した。
これらを踏まえ、HCU での「心電図モニターの管理」とB 項目の削除、「Ⅱ」の導入を求める意見が、複数の委員から出た。
同分科会では以前から、HCUについて、「年々届出数が増加しており、『重症度、医療・看護必要度』の該当患者割合も増加している。どのような状態の患者にどのような医療が提供されているのかを分析した上で、『重症度、医療・看護必要度』のあり方を検討すべき」との指摘が出ており、適正化の観点で整理するとの考えで、概ね意見が一致した。
一方、特定集中治療室管理料等には、ICUにおける生理学的指標に基づく重症度スコアであるSOFAスコアが試験的に導入されている。これに関して、「入院日の『重症度、医療・看護必要度』と入室日のSOFAスコアのいずれもが、退院時の転帰と相関しているが、SOFAスコアのほうがきれいな相関で、評価軸としてこちらのほうがよい」(牧野委員)との意見が出た。
ただし、「入室日に『重症度、医療・看護必要度』が該当ありで、SOFAスコアがゼロ点の割合が18%もある。病態の急変の予兆を迅速に把握するRRS(院内迅速対応システム)の活用の影響かもしれない。そうしたことも勘案する必要がある」と、牧野委員は述べた。
名古屋大学医学部附属病院・卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授の秋山智哉委員は、「SOFAスコアは臓器の機能不全を評価したもので、手術後の患者は点数が高くならないことを含め、まだ単独の評価軸としては使えない」と指摘。SOFAスコアについては、引き続き適切な評価のための検討を継続すべきとの意見が多かった。
地ケアへの直接入棟は負荷大きい
地ケア病棟については、今回もさまざまなデータが示された(下図参照)。
入棟経路のデータでは、地ケア病棟に入棟している患者の割合は、救急搬送により入院した患者が19.5%、救急搬送後、他の病棟を経由せずに地ケア病棟に直接入棟した患者が5.7%。直接入棟した患者の主傷病は、誤嚥性肺炎が5.7%で最も高く、次いで腰椎圧迫骨折が3.9%、尿路感染症が3.4%、新型コロナが3.3%となっている。直接入棟した患者は、看護師による直接の看護提供の頻度・必要性が高い傾向にあった。入院経路別の医療資源投入量をみると、緊急搬送、直接入棟の患者は包括範囲の医療資源投入量が高い傾向がみられた(2022年度調査)。
津留委員は、「地ケア病棟に直接入棟した場合の負荷が大きいことが読み取れるデータになっている。13対1の看護配置でこのような患者に対応するのは大変だ。直接入棟では、相応の診療報酬上の評価が必要だ」と主張した。
一方、「現場では、通院歴がある患者であることを直接入棟の可否の判断に用いる場合が少なくない。通院歴があれば、家族構成を含め社会的背景も把握できる。三次救急に搬送されれば、ACPもわからず、検査も一から行うということになりがちで、高度急性期医療に負荷がかかり、無駄な医療が発生しやすくなる」と指摘。適切な下り搬送とあわせ、地域の救急医療の体制を構築することが重要であることを強調した。
地ケア病棟と短期滞在手術等基本料3との関係を分析したデータも示された。DPC対象病院は、短期滞在手術等基本料3を算定できず、DPC対象病院以外の病院が算定している。短期滞在手術等基本料3は4泊5日までで、対象手術等は57項目である。
地ケア病棟の入棟患者のうち、短期滞在手術等基本料3のみを算定する患者の割合は、多くの病棟・病室でゼロ%であったが、158施設(9.5%)は10%以上であった。短期滞在手術等基本料3の算定が多くなると、平均在院日数や患者像など一般的な地ケア病棟の各指標との乖離が大きくなることが考えられ、短期滞在手術等基本料3は各指標から除外することが望ましいとの意見が複数の委員から出た。
療養病棟の医療区分を詳細に分析
療養病棟入院基本料については、医療区分の分析結果などが示された。
2016年度改定で導入された医療区分・ADL区分は、患者特性や医療提供状況などに応じた慢性期入院医療の包括評価として導入され、医療区分の各項目で累次の見直しが行われてきた。2018年度改定で、療養病棟のデータ提出加算が必須となり、実態把握が可能となっている。
今回の分析では、◇医療区分に応じて医療資源投入量が増える◇同一の医療区分においても医療資源投入量にはばらつきがある◇医療区分によって医療資源投入量の内訳が変わる◇疾患・病態としての医療区分と、処置等としての医療区分は医療資源投入量の分布と内訳が異なる─などが確認できた。
猪口委員は、「現状の医療区分と医療資源投入量の分布をみると、バランスのとれたものになっている。疾患・状態の医療区分と処置等の医療区分の分布でも、極めてよくないという結果は出ていない。基本的には、大きく変える必要はないと思う」と述べた。
日本慢性期医療協会副会長の井川誠一郎委員は、「現状の医療区分の設定は、案外悪くないという結果だと思うが、疾患・状態の医療区分と処置等の医療区分で医療資源の分布に違いがあり、両者を掛け合わせた設定を検討する必要がある」と主張。一方で、「細分化して、整合性を高めると現場の負担が増える。療養病棟は電子カルテの普及も低く、入力に手間がかかる」と指摘し、医療DX への期待を示した。
療養病棟入院基本料に関する議論では、中心静脈栄養の適切性が課題とされた。厚労省は、「消化管が機能している場合は、中心静脈栄養ではなく、経腸栄養を選択することが基本。また、療養病棟における経腸栄養は、中心静脈栄養と比較し、生命予後が良好で、抗菌薬の使用が少ない」と指摘。中心静脈栄養の期間が長くなると、カテーテル関連血流感染症発症の発生率が高くなることや、身体的拘束の割合が高くなることもデータで示した。
中心静脈栄養は医療区分3に該当するため、その見直しを求める意見が複数の委員から出た。猪口委員は、ACPを含め、本人にとって何が最善であるかの話し合いが現場できちんと行われることの重要性を強調した。
全日病ニュース2023年9月1日号 HTML版
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