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ホーム全日病ニュース(2023年)第1039回/2023年9月1日号新創加算や市場拡大再算定の見直しを検討

新創加算や市場拡大再算定の見直しを検討

新創加算や市場拡大再算定の見直しを検討

【中医協・薬価専門部会】薬価算定組織が次期薬価改定に向けた意見を提示

 中医協の薬価専門部会(安川文朗部会長)は8月23日、2024年度薬価改定に向け、薬価算定組織(前田愼委員長)の意見を聴取した。「薬価算定の基準に関する意見」として、①イノベーションの評価②薬価算定の妥当性・透明性の向上③状況の変化に応じた薬価の適正化④その他─について、具体的な対応策が提案されている。
 イノベーションの評価では、新薬創出・適応外薬解消等促進加算(以下、新創加算)の見直しが課題とされた。新創加算では、小児用医薬品であることは対象要件にならない。小児加算はあるが、比較薬が小児加算の適用を受けていると対象外になる。小児への医薬品開発を評価するため、有用性系加算に該当しない場合でも、小児の効能・効果または用法・用量で、特に評価すべき品目であれば、同加算の対象とすることが1つ目の提案となった。
 2つ目は、新創加算の品目要件について。薬理作用が異なる品目を比較薬として、類似薬効比較方式により算定するケースが増えることが想定されることから、薬理作用を厳しく限定する品目要件を緩和する案が提示された。
 3つ目は、薬価収載後に「小児の効能・効果の追加」、「希少疾病の効能・効果の追加」、「市販後に真の臨床的有用性が検証された品目」であれば、薬価改定時に加算が行われる仕組みに関して、併算定を認めるべきとした。
 4つ目として、薬価算定時点において、国内のガイドラインに記載されていない場合でも、薬価収載後は日本で標準的治療法となることが明らかであると見込まれれば、評価の対象として取り扱うことが提案された。
 薬価算定の妥当性・透明性の向上では、原価計算方式の課題を取り上げた。2022年度改定以降、2023年5月までに原価計算方式で薬価収載された18成分のうち、89%にあたる16成分が開示度50%未満となっている。このため、◇営業利益率を平均的な営業利益率より限定的な範囲で適応する◇開示度が相当程度高い品目については、インセンティブとなる評価を検討する◇類似薬効比較方式による算定を一層進めるため、比較薬の選定をこれまでより柔軟に行う─などの案が示された。
 また、長期収載品の薬価引下げの対象品目であるG1・G2品目を新薬の類似薬として比較薬にできるルールの緩和◇類似薬効比較方式(Ⅰ)の薬価の適正化◇剤型追加等の取扱いの変更─の提案があった。
 状況の変化に応じた薬価の適正化では、市場拡大再算定において、製薬業界が強く求めている、いわゆる「共連れルール」の見直しがある。「共連れルール」とは、再算定の対象となった医薬品と主たる効能・効果が類似している医薬品も薬価引下げの再算定の対象になる仕組み。日本製薬団体連合会などは、「抗がん剤など複数の効能を有する品目は、類似薬としての再算定を受けるリスクが高く、効能追加がマイナスのインセンティブになってしまう。薬価に対する予見可能性を下げる」と主張し、廃止を求めている。
 このような意見を踏まえ、薬価算定組織では、「市場拡大再算定について、企業の予見性への配慮や近年の競合性の複雑さを踏まえ、類似品の取扱いを見直す」との考えなどを示した。
 類似薬効比較方式で算定された品目に対し、市場規模の変化にきめ細かく対応する見直しも提案された。
 その他では、「新薬が長期間収載されていない領域において開発された新薬の評価」、「有用性系加算の定量的評価」、「新たな評価を行う上での留意点」、「再生医療等製品のイノベーション評価」、「開発段階からの薬価相談」に関して、さまざまな提案があった。

バランスの取れた見直しを求める
 薬価算定組織の報告を受け、薬価専門部会の委員から、見直し全体に関する意見が出された。
 日本医師会常任理事の長島公之委員は、「製薬企業の予見性の確保に配慮し、場当たり的に対応するのではなく、薬価制度改革の趣旨が骨抜きになってしまわないように、慎重な議論を行うべき」と述べ、薬剤費が増える方向での見直しに関して、警戒感を示した。
 一方、日本薬剤師会副会長の森昌平委員は、制度の持続可能性とともに、イノベーションの促進の観点を強調。「バランスの取れた見直し」が必要と指摘するとともに、薬価算定組織の見直しを実施した場合の財政的な影響の明示を求めた。
 健康保険組合連合会理事の松本真人委員も、評価の充実と適正化の「バランスの取れた見直し」の必要性を強調。見直しの各項目の財政的な影響を把握した上での具体的な検討が必要とした。

高額薬剤の影響を踏まえた議論も
 厚生労働省は同日の薬価専門部会に、最新の薬剤費の年次推移を示した。年度では2020年度が加わったが、2020年度は新型コロナの感染拡大が始まった年度であるため、他の年度が6月単月の審査分から薬剤費比率を推計しているのに対し、通年分のデータを活用した。国民医療費42.966兆円に対し、薬剤費は9.56兆円で、薬剤費比率は22.3%、推定乖離率8.0%となっている。国民医療費に占める薬剤比率はこの20年程度の間、20~22%台で概ね横ばいで推移している。
 全国健康保険協会理事長の安藤伸樹委員は、アルツハイマー病による軽度認知障害に効果のあるレケンビ点滴静注(エーザイ)が薬事承認される見通しであることも踏まえ、長期的な視点で、医療費における薬剤費の問題を検討できる資料の提供を求めた。
 一方、同日の中医協総会では、再生医療等製品で効能・効果が遺伝性網膜ジストロフィーであるルクスターナ注(ノバルティスファーマ)の薬価収載が了承された。算定薬価は0.5mL1瓶で4,960万円。年間1人1億円の薬剤費となる。高額薬剤を多くの患者が使うようになれば、医療費に与える影響は大きくなる。次期薬価制度改革に向けては、こうした観点も考慮した議論が行われると予想される。

 

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