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ホーム全日病ニュース(2023年)第1039回/2023年9月1日号つながり・支え合いのある地域共生社会に

つながり・支え合いのある地域共生社会に

つながり・支え合いのある地域共生社会に

【政府】2023年版の厚生労働白書を公表

 政府は8月1日の閣議で、2023年版厚生労働白書を決定した。厚生労働白書は「テーマ編」と「年次行政報告」の2部構成となっており、第1部は厚生労働行政分野から特定のテーマを設けている。今回のテーマは「つながり・支え合いのある地域共生社会」。すべての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高めあうことができる社会の実現に向けた展望を論じている。特に、単身世帯の増加やコロナ禍で顕在化した課題に対する支援の必要性を強調している(下図参照)。
 少子高齢化・人口減少に伴い、1世帯当たり人員は1990年の2.99人から2040年の推計は2.08人と縮小する一方、単身世帯割合は1990年の23.1%から2020年の38.1%に増加している。これらのデータを踏まえ、「家族や地域における支え合いの機能の低下」や「人間関係が希薄化する中で孤独・孤立の問題の顕在化」を指摘した。
 その上で、高齢の親と独身50代が同居する「8050問題」、「ひきこもり」、「ヤングケアラー」、「セルフネグレクト」、「様々な困難を抱える女性」、「ひとり親」といった介護・生活困窮・子育てなど分野横断的対応が求められる課題や対象者別の制度の狭間にある課題が表面化しているとした。
 こうした課題に対応するための支援について、包摂的な「つながり・支え合い」の推進策として、◇様々な人が交差する「居場所づくり」◇重層的支援体制整備事業など「属性を問わない」支援◇アウトリーチによる「能動型」支援◇「住まい」から始まる支援◇デジタルの活用―を提案した。
 人々の意欲・能力が十分発揮できる「つながり・支え合い」の推進策では、労働者共同組合や社会福祉連携推進法人制度、デジタルを活用した地域社会への参画をあげた。白書は、「制度から人を見るのではなく、『その人の生活を支えるために何が必要か』という観点が大切」と訴えている。

コロナ対応の医療提供体制を整備
 第2部では、現下の政策課題への対応についてまとめている。第8章「健康で安全な生活の確保」では、感染症対策やがんなどの生活習慣病などの総合的かつ計画的な推進、医薬品・医療機器の安全対策の推進などに言及している。
 新型コロナについては、2022年から現在までの対応の経緯を解説した。
 保健・医療提供体制については、「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」に基づき整備した体制を稼働させることを基本としつつ、その中でもオミクロン株の特徴に対応する対策の強化・迅速化を図ってきた。
 2022年9月には「Withコロナに向けた政策の考え方」を決定し、高齢者施設等における医療支援の強化、健康フォローアップセンターの全都道府県での整備・体制強化等、高齢者等重症化リスクの高い方を守るための保健医療体制の強化・重点化を行った。あわせて、全国一律で感染症法に基づく医師の届出の対象を65歳以上の方等に限定することや療養期間の短縮等を行うことによる社会経済活動の両立を進めたと説明している。
 外来医療体制については、冬の新型コロナの感染拡大や季節性インフルエンザとの同時流行の可能性も踏まえ、2022年10月に、重症化リスクなどに応じた外来受診・療養の流れを示すとともに、発熱外来、電話・オンライン診療の体制強化や健康フォローアップセンターの拡充、相談体制の強化等による保健医療体制の強化・重点化を進めることとした。
 これを踏まえ、2022年12月に各都道府県において策定した「外来医療体制整備計画」の内容をとりまとめ、地域の実情に応じてさまざまな取り組みを組み合わせることにより、1日当たり診療可能人数はこれまでと比較して約13万人分が強化され、単純な積み上げとしては約90万人の診療能力が確保されたことを確認したと強調している。
 医療提供体制については、入院措置を原則とした行政の関与を前提とした限られた医療機関における特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な通常の対応への移行に向けて、必要な見直し等を行うこととしている。
 「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制及び公費支援の見直し等について」に基づき、医療機関における感染対策に関する見直しや、設備整備等の支援、応召義務の整理、感染対策や診療方針に関するわかりやすい啓発資材等の周知等を行い、対応する医療機関の維持・拡大を促すこととしている。

がん対策は受診率目標を引上げ
 がん対策推進については、2023年3月に第4期基本計画を策定し、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、すべての国民とがんの克服を目指す」ことを全体目標として掲げ、「がん予防」、「がん医療」および「がんとの共生」の3本の柱に沿った総合的ながん対策を推進することとしている。
 具体的には、第4期基本計画では、がん検診受診率の目標を50%から60%へと引き上げるとともに、新たな医療技術の速やかな医療実装や患者・市民参画の推進、デジタル化の推進等に取り組んでいくとしている。

医薬品は安全性を確保しつつ見直し
 医薬品・医療機器の安全対策の推進等については、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」が2022年5月に公布され、緊急時において、安全性の確認を前提に、医薬品等の有効性が推定されたときに、条件や期限付きの承認を与える緊急承認制度を整備するとともに、オンライン資格確認を基盤とした電子処方箋の仕組みを創設し、段階的に施行された。
 緊急承認制度は、2022年11月に新型コロナの治療薬に用いる初の国産経口薬について緊急承認を行い、医療現場で使用できるよう措置した。
 電子処方箋の仕組みについては、2023年1月より運用を開始し、対応施設の順次拡大を図っている。
 医薬品の販売制度については、情報通信技術の進歩やセルフケア・メディケーションの推進、新型コロナの影響によるオンラインでの社会活動の増加など、一般国民における医薬品をめぐる状況が大きく変化している。
 加えて、一般用医薬品の濫用等、安全性確保に関する課題も生じてきている状況に鑑み、医薬品のリスクを踏まえ、医薬品の安全かつ適正な使用を確保するとともに、国民の医薬品へのアクセスを向上させる観点から、医薬品販売制度についての必要な見直しなどについて、各分野の有識者による検討会を実施しているとした。
 そのほか、「国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現」では、地域における医療・介護の総合的な確保の推進や、安心で質の高い医療提供体制の構築、安定的で持続可能な医療保険制度の実現などについてまとめている。

 

全日病ニュース2023年9月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2022.3.1 No.1004

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2022/220301.pdf

    2022/03/01 ... コロナ禍で、日本の非正規雇用者の ... 新設◇ヤングケアラーの実態を踏まえ ... オミクロン株の特性を踏まえた医療体制の強化策. 岸田総理.

  • [2] 2022.2.1 No.1002

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2022/220201.pdf

    2022/02/01 ... 京都九条病院の松井道宣理事長は、. 現状のオミクロン株による感染拡大に. より、医療がひっ迫しつつある状況を. 訴えつつ、これまでの新型コロナ対応. の ...

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