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ホーム全日病ニュース(2023年)第1039回/2023年9月1日号未来の子どもたちに向けできることを考える 超高齢者救急、地域医療構想も議論

未来の子どもたちに向けできることを考える
超高齢者救急、地域医療構想も議論

未来の子どもたちに向けできることを考える
超高齢者救急、地域医療構想も議論

【第64回全日本病院学会 in 広島】大田泰正・学会長にきく

 第64回全日本病院学会in広島が10月14・15の両日、広島県広島市で開催される。大田泰正学会長に学会テーマに込める思いなどをきいた。学会企画については、それぞれの見どころを紹介していただいた(取材日は7月15日)。


大田泰正・学会長

未来を担う子どもたちが希望を持てる社会づくりが課題
──学会テーマである「未来の子どもたちへ~脱高齢ニッポン!~」に込めた思いをお話しください。

 高齢者の人口が多くなり、社会保障制度を含め、社会構造全体が高齢者に寄ってしまっているということを常々感じています。社会に影響を与える発言力も高齢者が持っていて、若い人たちの意見が反映されにくい社会になってしまっています。
 しかし、将来的な日本を考えても、社会構造を全世代型にして、社会資源が一定の年齢層に偏らないフェアな社会にすることが望ましいのだと思います。未来を担う子どもたちが希望をもって生きていける社会をつくるということが我々の課題です。
 ただ、このたび政府がまとめた「こども・子育て支援加速化プラン」の財源のように、具体的な施策では、非常に難しい問題に直面することになります。利害関係を先鋭化させ、世代間闘争にしてしまってはいけません。お互いを批判するのではなく、お互いに配慮し、分け与えることのできる日本人らしいスピリットで、今後の社会、社会保障を考えなければならないし、そうあってほしいと思っています。

──広島学会開催に至った経緯を教えてください。
 広島では、1973年の第12回日本病院管理学会を正岡旭学会長の下で、1986年の第28回全日本病院学会を河村虎太郎学会長の下で、開催しています。
 しかし、私の前任で広島代表の常任理事であった浜脇純一先生が、学術委員会に所属していたときには、学会のチャンスにめぐまれず、開催は叶いませんでした。その後、私が学術委員会に所属するようになり、3年目で常任理事になり、学術委員会委員長も拝命しました。心のどこかで浜脇先生の意志を継いで広島学会を開催したいという思いがありましたので、手挙げをすることになりました。
 2022年の開催で手挙げをしたのですが、新型コロナの感染拡大で、2020年の岡山大会が延期となったので、2023年の開催となった次第です。

──新型コロナの感染症法上の取扱いが2類相当から5類に変更されてから、初めての学会ということになりますね。
 いま、第9波が心配されており、秋に第10波が来る可能性もあります。感染対策上の懸念はありますが、これまでの新型コロナの経験がありますので、必要最小限の感染対策を実施しながら、「普通」にやりたいと思います。もちろん、政府から特別な指導、制限が要請される事態になれば、それに従って対応する考えです。

超高齢者の救急搬送とACP
二次救急の位置づけも議論

──現時点で明らかになっているプログラムのうち、主に学会企画について、それぞれご紹介をお願いします。

 特別講演3では、日本大学の林真理子理事長に、「古希を生きる」というテーマでご講演いただきます。私からは関心のある観点が2つあって、1つは教育者、もう1つは女性リーダーとしての立場から、医学部も含む伝統のある日本大学のトップにある人間が、若者や教育について、どのように考えているかを知りたいと思っています。
 特別講演4では、市立豊中病院の吉川秀樹総長(大阪大学名誉教授)に、「大切なものは目に見えない」というテーマでご講演いただきます。吉川総長は、大阪大学医学部で整形外科教授を経て、大阪大学医学部附属病院長になられた先生です。学歴、資格、地位、財産など「目に見えるもの」にとらわれずに、「目に見えない大切なもの」に着目した「幸せに生きる秘訣」をきくことができると思われます。
 次に、7つの学会企画の概要を順番に紹介していきます。
 学会企画1「Web3.0時代の病院─リアルvsデジタルを超えて」では、演者に、長英一郎・東日本税理士法人所長、服部信孝・順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科教授・医学部長、小林史明・自由民主党副幹事長・衆議院議員をお招きします。
 長所長は、病院という業態におけるAIを含めた医療DXの可能性を深く考えていて、病院への提言を行っています。最近は、チャットGPT に大変関心を持っているようです。脳神経センター大田記念病院の研究員で、私の妻である大田章子氏も、長所長の教えを受けていて、長所長とともに座長として参加することになっています。
 服部教授は、順天堂大学でIBM と協力し、メタバースを用いた医療サービス構築に向けての共同研究を行っています。メタバース空間で患者が来院前にバーチャルで病院を体験することや、治療の疑似体験を検証しているそうです。現時点での仮想空間の可能性や限界についてききたいと思っています。
 小林衆議院議員は、前デジタル副大臣(2021年10月~ 2022年8月)で、この間のデジタルの制度化にかかわっておられ、その経験について、お話をきくことができると思います。
 学会企画2「地域包括ケアにおける超高齢者の救急搬送とACP」の座長は、藤原恒太郎・興生総合病院理事長、演者は、中尾篤典・岡山大学学術研究院医歯薬学域救命救急・災害医学講座主任教授、仲井培雄・芳珠記念病院理事長、加藤節司・加藤病院理事長の3人です。
 現状で、救急医療体制は三次救急を中心に構築されています。三次救急をどうするかということに関心が向かいがちで、二次救急の位置づけの議論があまりなされてきませんでした。一方、超高齢者の救急が増え、それがすべて三次救急に行ってよいのかという問題があります。それに加えて、超高齢者の救急搬送は、多くの場合、ACP を意識して行われるべきであるということで、このテーマを設定しました。
 延命を希望しない超高齢者が、三次救急の集中治療室に救急搬送され、濃厚な治療を受けてしまうことと、ACPに沿った形で、二次救急で治療して経過をみるということのどちらが望ましいかは、言うまでもないと思います。しかし、実際の線引きは容易ではなく、現場では難しい判断を迫られる状況があります。最近、特に関心が集まっているテーマでもあり、活発な議論を期待しています。

地域医療構想と民間病院のあり方
行政官と有識者と病院代表で議論

 学会企画3「未来につなげる事業承継と地域活性化」の座長は、野村陽平・廿日市野村病院理事長、演者は、佐々木茂喜・オタフクホールディングス株式会社代表取締役社長、深川真・株式会社マリモホールディングス代表取締役社長、吉田正裕・宮島弥山大本山大聖院第77代目座主の3人です。
 円滑な事業承継は、我々にとっては、シンプルですが永遠のテーマです。業態はそれぞれ違いますが、事業承継ということで成功している事例について、広島県を代表する法人の代表に、語ってもらいます。
 学会企画4「すみいの部屋 ~ここでしか言えない話、聞けない話」の座長は、浜脇澄伊・浜脇整形外科病院理事長と私が務めます。演者は、猪口雄二・全日病会長、織田正道・全日病副会長、美原盤・全日病副会長、神野正博・全日病副会長、安藤高夫・全日病副会長、中村康彦全日病副会長と、全日病の正副会長が勢ぞろいします。
 何が語られるかということですが、おそらく、中小民間病院がこの先、どうなっていくのか、どうあるべきなのかということの道標になる話がきけると思います。また、全日病が何を目指し、病院団体としてどう組織化していくのかということもテーマになると期待しています。
 学会企画5「雑誌『病院』×全日病学会 コラボレーション企画「ヤングフォーラム・リターンズ‼」」の座長は、高橋泰・国際医療福祉大学教授、演者は、相澤克之・相澤病院副院長、神野正隆・恵寿総合病院理事長補佐、新村友季子・にいむら病院理事長の3人です。
 以前、私も参加したことがありますが、ヤングフォーラムという、若手の経営者をピックアップして、話をきくという企画がありました。最近は開催していなかったのですが、高橋教授に企画していただき、復活ということになりました。医学書院の『病院』という雑誌とコラボレーションする形での開催となっています。
 学会企画6「医療情報管理の要諦-COVID-19の失敗を繰り返さないために」の座長は、大毛宏喜・広島大学大学院医系科学研究科外科学感染症科教授、演者は、大毛教授と三原直樹・広島大学病院医療情報部システム医療学教授、市川衛・広島大学医学部客員准教授(医療の翻訳家)の3人です。
 新型コロナについては、企画を増やすよりも、むしろ、まとめる形でのシンポジウムにしたいと思っています。感染が収まったとは言えませんが、感染症法上の位置づけが変わり、一区切りついたので、先々に備える意味も含めて、広島大学の専門家に議論してもらいます。
 最後の学会企画7「地域医療構想と民間病院~集約と分散」は、全日病としては、外すわけにはいかないテーマであり、行政官、有識者、民間病院のそれぞれの代表に、議論してもらいます。座長は神野副会長にお願いすることになっています。
 行政官の立場では、この夏の人事で本省に戻られた木下栄作・医療技術評価推進室長に参加していただきます。広島県健康福祉局局長として出向時に、5病院を1病院に統合する事業を手掛けています。有識者の立場では、松田晋哉・産業医科大学公衆衛生学教室教授に参加していただきます。地域医療構想を推進するにあたってのさまざまなエビデンスを数字として確認することができると思います。
 民間病院の立場では、全日病愛知県支部長であり、日本医療法人協会副会長の太田圭洋・新生会第一病院理事長に参加していただきます。太田理事長は、副題にあるように、地域医療構想による過度な集約化に警鐘を鳴らし、地域医療においては、むしろ分散が必要な場合があると主張されています。

病院要職である管理業務と看護業務
前夜祭として親睦深める場設ける

──最後に学会に参加される方々へのメッセージをお願いします。

 やはり学会は現地参集がいいです。せっかく来ていただくのですから、我々としては知恵を絞っておもてなしをしたい。たくさんの企画を用意したので、ぜひ楽しんでいただきたいと思っています。
 広島学会のサイドイベントとしては、前日(10月13日)の夜に開催する学会長招宴とは別に、同じ時間帯で別の会場を用意し、マネジメント部会と看護部会の2つを準備しています。それぞれ外部の方からの講演会を行い、その後に懇親会を開催する予定です。
 管理業務と看護管理という、病院が生き残っていくために重要な職種の人材をどう養成するかは大きな課題です。この人たちが、どう考えるかで病院の方向性も変わるため、このような前夜祭特別企画を考えました。広島に早めに来ていただき、開会式の参加人数を増やしたいという狙いもあります。
 その代わりに、学会2日目(10月15日)の終了時間を早めます。閉会式も含め、15時までにはすべてのイベントを終える予定とし、遠方の方でも参加しやすい学会を目指しています。

 

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  • [1] AMATや一般病院の災害医療提供体制の役割を今後整理 消費税率 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/190901.pdf

    2019/09/01 ... 「DNARやACP等を踏まえた救急医 ... 社会医療法人祥和会 脳神経センター大田記念病院 ... 大田泰正氏が理事長に就任したのは. 2006年。

  • [2] 第 8章

    https://www.ajha.or.jp/about_us/60years/pdf/60years_08.pdf

    全日病のホームページでは、ACPを踏まえた手 ... 大田泰正( 公益社団法人全日本病院協会 常任理事、社会医療法人祥和会 脳神経センター大田記念. 病院 理事長).

  • [3] 2019.11.15 No.952

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/191115.pdf

    2019/11/15 ... は、実績要件の見直しやACPの実施. を入院料全体に広げることなどを求め ... 演 者:大田泰正(全日本病院協会. 外国人材受入事業 構成員).

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