第2章 医療圏:「病院のあり方に関する報告書」(2011年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

第2章 医療圏

 2006年に実施された「医療制度改革」の際の、都道府県に作成義務が課せられた医療計画の見直し論議を振り返ると、ワーキンググループからは「疾病調査を基本とした医療提供体制の再構築」という本質的な提案がなされたが、厚生労働省は作業量の多さと時間的制約から4疾病5事業に的を絞った取り組みへと変容させ、しかも理想的な医療提供体制の構築に不可欠な医師の養成には否定的なままで計画を進めるという結果に終わった。
 地域医療崩壊が叫ばれる中で、ようやく厚生労働省も医師そのものの偏在に加え診療科別医師の偏在を問題視するようになったが、当面の医師不足の解消は不可能としても、その是正は行政の責務である。地方における急速な人口の減少を想定しつつしかも地勢的特徴等地域特性を踏まえた提供体制をいかに再構築するのかを議論しなければならない。
 現在は、基本的な医療提供体制の構築を二次医療圏毎に考えることが多いが、地勢的な理由もあり実際には人口1万人強程度の圏域や日常生活圏とは一致しない圏域もあることから、医療圏の設定では、将来ともに必ずしも過去に決められた人口30万人程度を想定した二次医療圏にはこだわるべきではない。基本的には、交通手段や商業圏の変化や住民の医療機関受療行動調査を踏まえて、その時点で最も理想的な範囲を検討する必要があるが、いかなる線引きが行われようと境界地域に位置する住民に影響が出ることから、行政区域に準ずることが現実的といえる。しかし、問題となる人口減少と高齢化の進展は、すべての圏域で一様に変化が起こるのではなく、大都市部の人口の減少は少なく、高齢者の転居も含め地方の過疎化に拍車がかかることが懸念されることから、今後は一定期間ごとに医療圏の見直しを考えることが必要である。
 医療提供に関しては、需要と供給は常に均衡すべきであり、今後は医療圏ごとに人口や疾病調査を行い、このような都市部と郡部の地域格差については、地域特性を踏まえた異なる医療提供体制の構築も考えるべきである。
 人口減少が少なく人口密度も高い大都市部においても、より一層の機能分化と連携による効率的な提供体制の構築が必要であるが、医療機関が多く日常診療は基本的に確保されている圏域なので、救命救急に関する域内取り決めを再検討すれば、患者の選択と施設間競争原理等により必要な提供体制が自然に確立すると考える。
 首都圏のベッドタウンのような衛星都市でも基本的には同様の考え方が成立するが、行政が自らの行政区分内に自己完結型の提供体制を構築しようとする傾向があり、日常生活圏と一致しないことも多い。医療提供者側から都道府県や市町村境界にとらわれない医療圏の設定を積極的に提案していく必要があろう。
 人口10万人程度の地方都市には二次医療圏の考え方が最もよく当てはまり、公的大病院ー民間中小病院ー診療所という医療連携が成立しやすいので、集約化/連携により効率的な機能分化を図るべきである。
 一方、人口密度が低く広域医療が必要な地域においては、救命救急に関しては、広域連携救急車出動体制の確立、ドクターヘリの導入等により、また日常の健康管理や慢性疾患管理に対しては、自動健康管理システム/疾病管理システムや医師・保健師定期巡回とICTを利用した遠隔診療の組み合わせ等も取り入れ、これまでにない新しい効率的な体制を構築すべきである。特に僻地では、財政出動を伴う行政の強い指導により二次医療圏ごとに公民の区別なく中核病院を充実させ周辺医療機関との連携体制を確立するとともに、周辺の医療過疎地域の診療所支援と受診を容易にする交通手段の確保を図るべきである。