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病院のあり方に関する報告書

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  • 2011年版

第8章 病院における情報化の意義と業務革新

1.情報とは何か

 データ(Data)とは、情報を表現したものであり、伝達、解釈、処理等に適するように形式化、符号化されたものをいう。

 記録とは、文字、画像(映像)、音、記号、あるいは、それらの複合により物理的に媒体に固定化したものである。媒体には、紙、布、木、金属、プラスティック、磁気媒体(テープ、ICチップ、ディスク)等がある。また、組織または個人が法律上の義務に従って、または業務上の取引において、証拠として作成し、受け取り、維持する情報である(ISO 15489)。

 情報(Information)とは、事実・事象・判断の記録をいう。特定の状況における評価、判断や行動に必要な知識である。情報とは流れである。内容(意味)、媒体、方向、対象、仕組み、目的を持つ。情報とは動的なものであり、情報自体が変化するとともに、物理的に同じ情報であっても、状況により受け手の意味や解釈が異なる。流れは、制御しなければ、途絶または氾濫する。すなわち、情報(信号)は減衰し、あるいは多くの雑音(ノイズ)が混入する。

 データベースとは、一定の目的と形式を持って、系統的に記録、集積された情報をいう。構造化され・系統的に蓄積され、検索可能なものである。公共および組織の財産である。データ(事実・現実)の二次利用の基礎となる。データベースでは、データを選択(selection)、射影(projection)、結合(join)することに意味がある。

 インテリジェンス(Intelligence)とは、分析・選択・統合化された情報をいう。評価、判断が加わる。

2.情報化とは

 情報化とは、標準化と情報共有による、高い質と効率性をもたらすための情報技術の活用をいう。情報化は情報システムによる情報活用と言い換えることができる。

 情報時代において、情報活用は組織運営の要である。ICT(Information Communication Technology)化を直訳すると、情報伝達技術化となるが、この場合、手段の目的化、すなわち、情報機器の導入が目的となり、情報機器に踊らされる、あるいは、使われることになる。ICT化を情報化と考え、情報技術の導入ではなく、情報伝達技術を用いて組織運営に情報を活用することを目的とすべきである。

3.情報化の意義

 情報システム開発・導入の真の目的は、情報技術を用いて情報を活用し、業務を効率化するとともに、業務の仕組を変え、組織運営を円滑にすることである。

 情報化には、融通の利かない機械にもわかるように、論理的に記述(文書化)する必要がある。情報システムの導入や開発において行うべき段取りは、現状の業務(As Is)を作業レベルまで洗い出し、望ましい、あるいは、あるべき業務(To Be)との相違を把握し、その相違を小さくするようにシステムを構築することである。したがって、一般論ではなく、自院の業務行程(フロー)を具体的かつ詳細に分析することが必要である。まず、現状の業務を洗い出し、文書化し、業務工程表を作成する。ついで、理解を容易にするために、業務行程図に落とし込む。手法は様々であるが、人にも理解でき、情報システム構築(コーディング)にも使える手法がUML(Unified Modeling Language)である。後述の厚生労働省の電子カルテの標準的モデル作成に関する事業でも用いられた。

 業務分析した結果も重要であるが、むしろ、組織内で分析する経過が重要であり、その結果として業務革新が実行(人間の頭も整理)される。しかし、実際には、情報機器の導入を目的と誤解し、現在の業務をそのまま電子化すればよいと考える病院も多い。システム開発の目的が不明確な病院もある。それぞれの組織の理念・目的・方針あるいは情報技術に対する考え方によって、情報システム導入の目的は多様であり、組織の状況に応じて定められるものである。

4.病院情報システム(HIS: Hospital Information System)の発展段階

 厚労省や日本医療情報学会は、診療記録の電子化を、第1段階の電子カルテと定義している。病院情報化の発展段階は、標準化と情報共有の状況に基づいて以下のように分けて考えることができる。

 

 第1段階 診療記録の電子化 個別の情報システムが独立して(stand alone)稼動

 第2段階 LAN(Local Area Network)等で連動して稼動

 第3段階 データの二次利用が可能

 第4段階 医療機関相互の情報共有(地域連携)

 第5段階 医療関係組織相互の情報共有(機関連携・機関ネットワーク)

 

 現在、多くの病院は第2段階にあり、第3または第4の段階を目標に検討・準備が進められている。第2段階においても、オーダー、部門業務、医事請求、記録、参照機能は当然なければならない。第3段階のデータの二次利用に関しては、その範囲や程度の差が大きい。経営管理への二次利用、診療データの二次利用を個別の努力で活用している事例もあるが、大部分の病院では不十分である。

 第4段階の医療機関相互の情報共有(地域連携)は、情報システムの相互利用の程度による。
 ⅰ 患者の基礎情報(氏名、住所、保険記号・番号、既往歴、アレルギー歴、家族歴等)
 ⅱ 検査データ、処方内容、検査画像、検査所見
 ⅲ 診療要約、看護要約
 ⅳ 診療記録、看護記録

 第5段階では、地域連携に加えて、団体、プロジェクト、グループ毎に、ネットワークを造り、データを収集・分析して、統計データ、ベンチマークに活用する広域連携が行われる。すでに、全日病では、具体的に診療アウトカム評価事業、DPC分析事業に活用している。IQIP事業では、一部のデータではあるが、国際的なベンチマーク(広域連携)を行っている。これらの事業を発展させて、2010年には、厚生労働省の補助金を得て医療の質評価公表等推進事業を実施した。統計データのみならず、一部ではあるが、個別の病院名が特定できる形で結果を公表した。

5.病院情報システムの今後の要件

 病院情報システムの今後の課題として以下がある。

①医療従事者の思考に合致して思考・作業を支援する

 近未来を考える場合の最重要事項は、医療従事者の思考経路に合致した情報システムの開発である。医療従事者の思考の流れ、業務の流れを阻害しないシステム構築が必要である。現状は、むしろ医療従事者が情報システムの制約に合わせているのが実情である。

②国家的プロジェクトに資するデータベース構築と利活用

 疾病、診療内容、受療行動等の統計、特に、患者単位で異なる医療サービスを受けた場合に連結可能な統計が必要である。研究・利用の公益性、セキュリティ、個人情報保護が担保されなければならない。

6.情報システム導入

 情報システムの開発・導入は、目的志向すなわち運用重視でなければならない。市販の情報システムで、現在の業務、および、今後実施したい業務が運用できれば導入する。業務の実態に合わなければ、運用に合うように開発あるいは改良しなければならない。しかし、独自の開発にはリスクが伴うので、十分な検討と周到な準備が必要である。情報システム構築には、これでよいということはなく、継続的な改善が必要である。社会制度、医療制度、医療の内容、人々の価値観の変化に柔軟に対応しなければならないからである。

7.情報化の効果

 電子カルテ等の病院情報システムの導入は、現段階では費用対効果が良いとは言えない。現状の電子化加算では経済的には合わない。しかし、業務の標準化と情報共有による、質向上、効率化、業務革新、将来構想のための基盤整備という観点からは、大きな貢献をしている。使い勝手が悪く、機能が不足している等、職員満足には到らないが、多職種が情報を共有するという観点からは有効である。すなわち、どこからでも、(付与された権限の範囲で)だれでも、入力あるいは参照することが可能となる。また、患者へのモニター画面や印刷による説明、待ち時間の短縮等、患者満足の点からは無くてはならないものである。使い勝手が悪いと言っていても、電子カルテを導入した病院で紙カルテに戻したという話は聞かない。元には戻れないのである。一度、導入した電子カルテシステムを、他の開発会社のシステムに変更することは容易ではないが、更新を機会に別の開発会社に変更する事例は少なくない。この場合に、相互運用性が担保されていないことが大きな問題である。これは、一病院だけではなく、国家的な損失であり、国家系プロジェクトとして解決しなければならない(後述)。

8.望ましい医療

 望ましい医療とは、①開示されてわかりやすい、②事実・データに基づいて納得できる、③(統計的に)有意で科学的な、④評価を受け信頼できる、⑤保証され安心できる医療である。これらのすべてに共通する鍵は“情報”である。情報(データ)を利用するためには、データを系統的に集積し、系統的に記録することが必要である。その前提条件として、データの内容や様式、集積および記録方法の標準化が必要である。

9.情報活用のための組織構築

 病院では、情報を活用し質を向上するために、組織革新の一つとして、以下の部署を設置している。その業務は固定的ではなく、プロジェクト毎に、職種・部署横断的なチームを作って柔軟に対応しなければならない。

 

① 企画情報推進室:組織横断的なプロジェクトや医療の質向上活動(MQI)、研究会事務局、非定型業務、職員への情報リテラシー教育・啓蒙活動を推進、情報システム構築・維持管理(ハード・ソフト・運用)。

② 医療情報管理室:医療情報の整備と有効活用のため、医事・会計・人事情報だけではなく、医療情報(診療記録等)を包括的に管理。

③ 質保証室:総合的質経営の基盤整備、内部顧客の支援、外部顧客の要求事項の把握と対応、情報の収集・利活用、質保証に関する包括的な業務を担当。

10.病院情報システム導入の問題

 情報化社会において、医療においても情報化が急速に進みつつある。病院情報システム構築は、質向上、安全確保、効率化に必須の事項である。

 病院情報システムは、部門システム、オーダリングシステム、電子カルテ等として、種々の医療用システムやアプリケーションが開発されている。残念ながら、問題なく日常業務を円滑に進めることができるシステムはないといっても過言ではない。開発側が顧客の要求を把握できず、製品(情報システム)が、顧客(医療者側:利用者)の要求を満たしていない。したがって、情報システムの不具合を医療者側の努力で業務のつじつまを合わせて運用しているのが実態である。

 独自のシステム開発は言うに及ばず、医事会計システムにおいても、システム導入当初から、問題なく運用できる事例を知らない。パッケージソフトであるにもかかわらず、情報システム導入時には、問題が発生するのは当たり前として済まされている。顧客の要望に応え、顧客の問題や課題を解決することが目的のはずだが、問題や課題を積み残したまま、新たな問題を引き起こすことが多い。

11.情報化の経営への貢献

 情報化の経営への貢献を判断する視点は、①業務の運用が楽になるか(効率化)、②医療の質向上に役立つか、③データを効率的、効果的に活用できるか、④継続的改善、業務革新に役立つか、④会議・教育・研修等に活用できるか、⑤収益増・支出削減に役立つか等である。その前提として、費用対効果がよいことが挙げられる。

 情報化は、費用対効果の点からは必ずしもすべての病院において貢献していると評価されてはいない。マン・マシン・インタフェイスやマン・アプリケーション・インタフェイスが未成熟で、使い勝手が悪い。それでも、無くてはならないものとなっている。

12.病院情報システム導入が円滑に行かない理由

 病院情報システム導入が円滑に行かない理由は下記の通りである。

①病院と開発側の認識および考え方の相違

 1) 病院の要望と開発側の設計思想の相違がその原因である。
 2) また、両者の立場による常識、慣習、用語等の相違によるものである。

②病院毎の、機能、規模、業務や考え方の相違による仕様変更(カスタマイズ)

 パッケージでも、そのままでは運用できず、大なり小なり、それぞれの病院の運用に合わせたカスタマイズが必要である。

③病院内の意思決定の不明確・遅延による、度重なる要望や仕様変更

 情報システムの顧客とは誰かの認識が問題である。顧客(利用者)には、現場作業担当者、情報システム担当者、病院管理者(病院長)、資金提供者(理事長、院長)、患者等々である。現場作業担当者といっても、業務毎に関与する職種、部署が異なるので、立場によって要求内容が異なる。病院が組織として、どの段階でどのような方法で、意思決定するかが明確でない場合が多い。

④病院側の情報システムに関する知識不足

 病院側が、基本要件を、漏れなく、明確に、開発担当者に示すことができない。

⑤医療の特性

1) 医療の特性として、業務が一律ではなく、患者の状態変化による変更(中止、追加、修正等)が常であり、非定型的な業務が極めて多いことである。
2) 多職種が多部署で、組織横断的に業務を行っている。しかも、業務を行う場所と時間が固定しておらず、常に移動する。
3) 医療制度、医療保険制度の頻回の変更への対応医療制度、医療保険制度の頻回の改訂に情報システムを対応させなければならない。

⑥開発側が医療の業務の流れや運用を熟知していない

 開発側が医療の業務の流れや運用を熟知していないために、情報技術を熟知しない医療側の要望をそのまま聞いて、システムを構築すると、機能の一部が漏れたり、機能はあるが運用に支障が出る場合が多い。

⑦開発効率

 個々の病院向けシステム開発や変更は、効率が悪く、対応が困難である。

13.基本要件検討プロジェクト発足

 情報システム導入の諸問題を解決することは、個々の病院の範囲を超えている。そこで、2002年6月、全日病の医療の質向上委員会に病院情報システムの基本要件検討プロジェクトチームを設置し、活動を開始した。

 委員構成は、①病院:病院経営者、病院実務担当者、システム担当者、②病院管理研究者、③開発会社:システム開発会社、工業界等である。

 本プロジェクトの意義は、情報システム利用者としての病院の団体が主体となり、利害関係者が一致協力して情報システムに関する問題を解決することにある。前述したように、病院情報システム導入が円滑に行かない理由は様々であり、利用者側、開発側双方に問題があり、また、双方に言い分がある。そこで、関係者が協力して、問題の本質を把握し、解決策を検討している。

 本プロジェクトを核として、2003年に厚生労働省科学研究費「電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究」(2年間)が発足した。

14.標準的電子カルテ開発計画とプロジェクト

 厚労省の電子カルテの標準的モデル作成に関する事業は、「保健医療分野における情報化に向けてのグランドデサイン」が基本であるⅹⅵ。「電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究」は、運用を基本とした研究である。研究の目的は、情報システムの導入をより効果的に進めるために、業務プロセスを可視化し活用する方法を研究し、病院で使用できる業務フローモデルのひな型を開発し、提供することである。また、調査により病院における情報システムの現状を把握することである。

 成果を、「電子カルテと業務革新―医療情報システム構築における業務フローモデルの活用―」として出版した。ついで、2005・2006年度の厚生労働科学研究で部門内の業務フローモデルを作成し、2009・2010年度厚生労働科学研究で手術室内の具体的な3手術術式に関する業務フローモデルを開発した(図 1、図 2)。また、情報システム導入指導者養成のe-Learningの仕組みを作った(経済産業省事業費)。更に、基本要件策定の手引きを作成した。

 

図1.手術部門業務プロセス概要図

 

図2.腹腔鏡下胆嚢摘出術プロセス概要図


ⅹⅵ 保健医療情報システム検討会:保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン最終提言 (http://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/s1226-1a.html

15.問題解決の方法

 情報システムの専門家である開発側も要求する利用者側も、自分が何を必要とし、何を要求し、どのように表現すればよいかが分からない。問題発生、紛争を防止するには、詳細な契約の締結よりも、相互の状況・要望・認識・考え方の理解が必要である。双方が、分かろう、分からせようという努力が必須である。これを顧客志向という。

16.病院における情報システム導入

①開発・導入に関する基本的考え方

 情報システム開発・導入に関する基本的考え方は、目的志向である。情報システムに使われるのではなく、情報システムを活用することである。情報システム構築には、これでよいということはなく、継続的な改善が必要である。社会制度、医療制度、人々の価値観の変化に対応しなければならない。既存の情報システムで、現在の業務、および、今後実施したい業務が運用できればそれを使用し、あるいは改良する。無い場合には、新たに共同開発する。

②共同開発

1) 情報システムを共同開発する場合には、多くの問題が発生する。その原因は様々であるが、稼働前に問題を洗い出して、対応する必要がある。情報システム開発・導入において、医療従事者がある程度苦労することはやむを得ないが、患者には迷惑をかけないことが基本原則である。

2) 種々の障害が発生して、開発が頓挫し、中途から、開発会社を変更し、開発範囲も縮小しなければならない場合がある。

17.情報システム導入の問題点と対策

① 情報化の意義を理解しないまま、システム導入を目的にする病院が多い。情報、情報化、情報技術に関する教材と教育研修プログラムの開発が必要である。

② 情報化のための院内体制を構築できない、あるいは不備がある。病院側に役立つシステム導入および開発の組織体制作りの手引きが必要である。

③ 情報化の意義や導入の目的を認識して開発しても、途中で目的からそれる。システム導入および開発の進捗管理の手引きが必要である。

④ 医事システムやオーダリングシステムから経営指標を分析するに止まる。必要なときに必要な様式のデータを得られる、運用が容易なデータベースの構築が必要である。

18.情報活用の問題点

 情報活用においては、①情報格差、②情報氾濫、③情報攪乱、④情報途絶・遮断、⑤情報漏えい、⑥情報操作等の問題がある。これらは、情報システムの脆弱性と、運用上のヒューマン・ファクターによる。いずれも解決が困難な課題である。

 情報収集においては、①住基ネットや社会保障番号、②目的外使用、④自由と制約のトレードオフ、⑤公益と個人の権利保護の関係等の問題がある。

 技術的には、①利用者の常識や思考経路に沿った仕様、②ユビキタスな利用、③柔軟なリレーショナル・データベース、④データの蓄積と利用、⑤相互運用性、⑥国家的プロジェクトの継続、⑦昭和100年問題等がある。

19.組織の再構築と情報システムの発展

 情報活用と質向上には組織の再構築が必要である。業務は固定的ではなく、プロジェクト毎に、職種・部署横断的に柔軟に対応しなければならない。また、標準化による部門間、職種間、病院間、地域内の情報共有が必要である。目的によって、情報システムを段階的に発展させなければならない。情報システムに求められる基本機能は、データの入力、蓄積、表示、参照等であり、データの二次利用が重要である。運用には、応答性、視認性、操作性等が重要である。

20.今後の課題

①マン・マシン・インタフェイスやマン・アプリケーション・インタフェイスを改良し、負荷を感じることなく利用可能とする。

 ・利用者の常識、思考経路に沿った、仕様にする。

 ・入出力機器入力:音声入力、手書き入力、キーボード、マウス、視線入力、生体認識装置、QRコード、バーコード出力:画面、音声、振動、印刷、投射

 ・画面レイアウト、画面遷移、操作性等。

 ・医療従事者のみならず、患者や家族も説明なしで利用できるようにする。

②いつでも、どこでも、だれでも、容易に利用できる。ユビキタスとする。

 医療者、受療者、保険者、国民がそれぞれの立場で、アクセス権限の範囲内において、セキュリティが担保され、いつでも、どこでも、必要な情報を利活用できるようにする。近年の簡易携帯装置(PDA)、スマートフォンの開発によりユビキタス社会に入り口に入ったといえる。実験段階ではあるが、生活環境の中で、健康に関する生態情報を収集し、分析することが可能である。また、これらも組み合わせて、遠隔診断、遠隔治療の一部が可能となる。

③柔軟なリレーショナル・データベース構築

 予め、詳細な設計を必要としない構造が望ましい。顧客要求は常に増大し変わる。業務は頻繁に変更される。したがって、必要なデータ項目は変わり続ける。最終段階までに時間がかかるようなら、中間データベースを構築して利活用する。

④データの蓄積と利用

 過去のデータを蓄積し、利活用可能とする。システムや機器は更新可能であるが、データは最重要の財産である。データの移行、連携を容易とする。レセプトデータの利用に関する検討が進み、一部で試行的に利用できるようになった。しかし、制約が厳しく、円滑な利活用を疎外している。国家的規模で収集したデータベースは国民の公共財であり、セキュリティを担保した上で、利活用しやすくすることが肝要である。蓄積することではなく、有効活用することがデータベース構築の目的である。

⑤相互運用性を推進する。

 ハード、ファームウェア、ソフトウェアいずれも、共通の基盤で構築され、相互運用性が担保されなければならない。国家的プロジェクトとして、早急に共通基盤構築を実現しなければ、効率化は図れない。国際競争に勝てないどころではなく、情報後進国になりつつある現実を直視しなければならない。

⑥国家的プロジェクトとして、以上を継続的に推進する。

 単年度予算の弊害や、担当者交代による研究の打ち切りが多い。継続することが必須である。医療情報システム、病院情報システムは極めて複雑かつ困難なものであり、有能な研究者、実務者の共同研究が必要である。産・官・学の協力が必要である。

21.2025年における情報活用

 2025年の社会状況を予測すると、人口構成をみると、高齢社会の様相が様変わりしているであろう。日本においては、人口が減少しているが、80歳代に突入した団塊の世代の多くが、組織の現役を引退した後も、余生ではなく、社会の現役として役割を果たしている。

 団塊世代以降の後期高齢者は情報弱者ではなく、社会的活躍が期待できる。前述の技術的課題と社会的課題を達成することにより、日常生活の中で情報機器を意識することなく ICTを活用して、生産性が向上し、社会及び個人への負荷が減少し、安全、安心、快適な社会生活が期待できる。また、日常生活の中で健康状態が把握でき、そのデータが蓄積され、健康の維持増進に活用できる。異常を認めた場合には、それらのデータを活用するとともに、診断・治療においても身体的、経済的、時間的な負荷を少なくできる。

 我が国が世界で初めて高齢社会の基本的課題を達成し、全世界のモデルとなっていよう。

参考文献

・飯田修平:病院における情報システムの導入・開発の問題点.病院経営、2005.12

・飯田修平:情報技術と医療の質向上 病院管理実践の視点から.医療と社会、10(4)、2001

・飯田修平、成松亮編著:電子カルテと業務革新―医療情報システム構築における業務フローモデルの活用―、211p、篠原出版新社、東京、2005

・飯田修平:医療における総合的質経営 練馬総合病院 組織革新への挑戦、179p、日科技連出版社、東京、2003

・飯田修平、田村誠、丸木一成編著:医療の質向上への革新―先進6病院の事例―、285p、日科技連出版社、東京、2005

・飯田修平:医療経営における情報活用 データベースとシンクタンクの重要性、病院経営新事情 200号、1999.11

・西垣通:続基礎情報学「生命的組織」のために、240p、エヌティティ出版、東京、2008