おわりに:「病院のあり方に関する報告書」(2011年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

おわりに

 1998年「中小病院のあり方報告書」に始まった全日本病院協会の活動方針を示す本報告書は、その後も版を重ねて、「2011年版」を発刊する運びとなった。
 今回は、会長より「2025年の日本の姿を考えながら医療介護提供体制がどうあるべきかを考えて報告書作成を行うよう」指示があった。
 民主党政権が誕生して、マニフェストによれば、医療介護に関して真に国民や提供者の立場にたった改革がなされることが期待されたが、全くの幻想であったことが判明しつつある。
 経済が衰退しグロバリゼーションの波に飲まれ、しかも政治の混迷がつづき、日本の自立性にさえも疑問符が付けられつつある中にあって、2025年を見通すこと自体が大変困難な作業であった。
 2010年4月より約1年余り計22回の委員会を開催したが、今回は、医療圏/医療・介護提供体制/医療従事者/医療費/診療・介護報酬/医療の質/病院における情報化の意義と業務革新/産業としての医療/医療基本法の9つのテーマに絞り、2025年の医療介護のあり方を想定し検討した。
 将来を見通し会員に示すことが使命だけに、これまで以上の真剣な議論が行われた結果、委員間での意見衝突も少なくはなかった。そこで、出来るだけ現実に近い予測と理想的なあり方を描くという2つのシナリオで報告書をまとめることとした次第である。
 具体的には、これまでの報告書と同様に章ごとに担当者を決め、提出されたたたき台を全員で協議する手順を踏んだが、各委員レベルの希望的見解ではなく理論的に説明できる内容とするよう努力した。その上で、最終取りまとめに際して、語句の使い方や表現の統一化を図るため全日病総研での添削整理を委託した。
 「医療の質」と「病院における情報化の意義と業務革新」に関しては、これまでの報告書でも重要なテーマとして示してきたが、今後の病院の取り組みとして質の担保と ICTは必須のものとなるため、かなりの紙面をさいて最新の考え方と実践方法を記したものである。
 取りまとめ最終段階で大震災が発生し、原子力発電所の処理も含めて復興が長期化するという将来予測にも大きく影響しうる出来事が起こったため、大胆な提言は控え、これまで全日病が積み上げてきた医療提供体制に関する理論構築を基本とした比較的穏当な提言となった次第である。「医療基本法」や「産業としての医療」の記述が簡単となった理由でもある。この後、経済復興や直近政府から出されるはずの「社会保障と税の一体改革」の行方などを見極めつつ、今年度後半には更に踏み込んだ理想論としての提言を再度行う予定である。
 会員、関係者からの幅広い意見、提言を望むものである。

病院のあり方委員会
委員長  徳田 禎久